星だけが知っていた

賽殺し伝子さんパロシリーズの猫箱。

令和利吉さん&伝子さん生存ルート。
利吉さんが哀れかつ残念です。かっこいい利吉さんなどいない。
令和利吉さんに想いを寄せるモブ女子が清い交際をする場面が少し出ます。
人間関係? 室町時空とは違うのは本編で触れたよね。
温室育ちの花をどうぞ心ゆくまで楽しんでください。



 風呂を終え、パジャマに着替えた僕は、机の上の参考書をざっと見渡す。
 ……やりたい事、やるべき事はきっと山積みだ。
 僕が何のために生まれたかなんて、僕が何をすべきかなんて、きっと誰にもわからない。ひょっとしたら意味なんてどこにもないのかもしれない。
 けれど、何をしたいのか、何が出来るのかは少なくとも自分で選ぶ事ができる。
 ――僕は、自分の意思で選ぶのだ。
 幼い頃憧れた、母のような教師になると。
 それは別に大それた目標でもなくて、世界や誰かの人生を左右するようなものじゃなくて、本当にしょーもない目標だけど。多分、僕じゃなくても誰でも目指せるような、くだらない目標だけど。
 けれど、そんなささやかな目標を、僕は大切に抱えていきたいと思うのだ。

 ――母がくれたもの。
 僕が色んな人から学んだもの。
 それを胸にしながら、迷いながら、僕はきっと歩み続けていく。
 僕は、まだまだ迷いながらも、それでも僕自身の人生という旅路を歩いていく。
 僕にとって母の存在が重いのは、多分きっと仕方がない。親離れしたいと思うが、それはそれだ。だって、母の背中とオムライスは、僕にとっての世界のようなものだ。
 もし神様が、一人にひとつだけ、人生という世界を与えるのなら。
 僕に与えられてしまった世界は、きっとオムライスと母なのだ。
 誰から見てもくだらなくて、しょーもない世界。
 けれど、他に選び直しもできないんだから仕方ない。
 馬鹿馬鹿しい世界、上等じゃないか。
 それを味わい、これから好きにいろどっていくのはきっと僕自身だ。

 僕はきっと自分から幸せを遠ざけて、そして本心と真逆のことを言って母に意地の悪い言葉をぶつけたりもしたと思う。
 それは、僕のくだらない強がりによるものだ。強がって、母なんて嫌いだと言ってみせて。
 そんなものは、きっと弱さだと言って切り捨ててしまえるものだと思う。
 ……けれど、それでも。
 その弱さだって、僕を構成するひとつのピースで、大切なものなんだ、きっと。

 だから僕は、強がる事も含めて、ありのままの自分を受け入れようとそう思えた。
 まだまだ続く人生の旅路を、僕のスピードで歩んでいこうと。

――もし、その先に)
 僕は先程の母の話を思い出す。
(記憶を失った時の『僕』も、同じように精一杯生きていくなら。もし僕らが旅を終えたその先には、いつか彼が待っているのかもしれない)
 価値観だって、常識だって、何もかもが違う『僕』。
 双子のようで、けれど決して交わる事のない、平行線上の道のりを歩く、もうひとりの自分。
 僕が己の生を悔いなく生きたその先で、いつかその生を終えた時。『僕』が僕を待っているのかもしれない。そう考えると、このしょーもない人生も、けっこう楽しそうではないか。
――なら、せいぜい頑張ってみようかな。……なんてね」
 僕は誰に言うでもなくそう呟き、苦笑した。
 今日の僕ときたらいつになく感傷的で、小っ恥ずかしい。人に見られたらこれもまた黒歴史になりそうだ。
 ふと気まぐれにカーテンの隙間から外を眺めれば、そこには街明かりに溶け込むようにして微かな星が浮かんでいた。
 ……月も、太陽も、きっと僕の想いや決意を知らない。知らなくて良い。
 僕の想いはきっと気まぐれでか細くて、街明かりや雲に遮られればそれだけで届かなくなるような、そんな星の光に似た頼りないものだから。何かあればきっとまた迷ったりつまづいたりするに違いないから。
 ――けれど、それでいいんだ。
 僕は僕の選んだ未来へ向かって、何度でも迷いながら歩いていく。
 星空の微かな光が、そんな僕を知っていてくれればそれでいい。
 例え誰も知らなくても、きっとそれだけでいいのだ。