kanaco
2025-05-16 21:17:06
29148文字
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黒猫シリーズ まとめ【完】

龍兄貴と3少と黒猫・藍鈴に愛されて日々を過ごす信一くんのおはなし。いったん完結。
1P【黒猫】黒猫と出会った信一が狭間で兄貴と再会し、三少はハラハラする
2P【黒猫ちゃんと!洛信編】黒猫を師匠と呼ぶ洛軍が、信一に贈るキス
3P【黒猫ちゃんと!十二信編】黒猫を相棒と呼ぶ十二が、信一に贈るキス
4P【黒猫ちゃんと!四信編】黒猫に絡まれがちな四仔が、信一に贈るキス
5P【風と猫とお昼寝 】黒猫とスヤスヤ眠る三少を見てホッコリする洛軍さん



【黒猫ちゃんと!四信編】

「みゃー!!」

 元気な鳴き声とチャリンという鈴の音。診療所の扉を開けようとした四仔の頭……、否、四仔の顔面に何かが降ってきた。四仔の目や口回り、そして頭に触れれるのはモフモフとした毛玉だ。マスクの上からでもそれが柔らかくて温かい生き物だという感触を理解できる。ついでに、落ちないようにマスクに爪を立てているということも。

………………………
………………………

 しばしの静止と沈黙が流れた後、四仔は自分の頭部に未だ乗っているというよりは張り付いている生き物を引きはがした。筋肉を掴んでしまわないように注意しながらその首根っこを掴んで優しく持ち上げると、いともたやすく爪を離してくれる。体重の負荷がかからないようにすぐに脇とお腹の方に手を回して抱き正して目を落とせば、案の定、見知った猫がニンマリと笑うような得意げな表情をしていた。

「またお前か、藍鈴」

 全身がまっ黒の毛で覆われているまだ若い成猫。精悍な顔つきをした美猫で、澄み渡るような美しい青い瞳を持ち、首元に青いリボンをしている。リボンの前側には小さいも音が鳴る鈴。九龍城砦に住みついている猫のうちの1匹だ。他の野良猫たちと同じように飼い主が決まっているわけではないが、この猫はまた事情が違う。最近は信一に引っ付いて回っていることが多くてほぼ飼い猫状態になっている奇特な猫。藍鈴、と名付けたのも信一だ。

 先日、信一がこの猫を助けるのをしくじって高所から落下して頭を打ち、半日ほど意識が戻らないという事件が発生した。それまでの無茶な仕事ぶりに懸念を抱いていた四仔がいよいよ小言を言おうとしていた頃合いであり、ちょうど信一から明らかに避けられていた時期でもある。つまり怒られるだろうという自覚が本人にあった、ということだろうから、起きるべくして起きた事故だったように四仔は思う。

 砦中に緊張と不安が走り、肝を冷やし続ける3人の男がこの診療所で彼を見守る中、当の信一本人は付き物が落ちたようにスッキリとした目覚めを迎えた。詳しくは聞いていないが夢の中で龍兄貴に会ったと言っていた。まったく、あの人の信一に対する献身ぶりには頭が下がる思いだ。

 考え事をして動かない四仔に痺れを切らしたのか、抱いていた猫が暴れて手を離れた。軽やかに着地して診療所の扉を開けろと急かす。四仔が開けると黒猫は我先にと中に飛び込んでいく。猫が診療所に用事があるわけでも無かろうに……と思いながら四仔も中に入った。

 藍鈴は診療所の畳に上がり込みちょこんと座って四仔を見上げる。たくさんのアダルトビデオに囲まれている姿はさすがに美しい猫に不釣り合いだった。

「なんだ」
「みゃぁ」
…………………
「なぁん」

 知っているぞ、というような顔をされて四仔は「どこまでもカンの良いヤツだな、お前は」と悪態をつきながら机の中をゴソゴソと漁る。この前に医療薬品を仕入れる際についでに頼んでいおいた猫用フリーズドライのオヤツ袋を出す。猫の元に寄ろうとすると向こうから元気よく近寄ってくるので、視線を合わせてやろうとしゃがみ込むと、藍鈴の駆ける勢いは止まらずにその小さな全身を使ってタックルをかましてきた。

「うぉっ」

 痛いわけではないがその弾丸のような勢いに気圧されて尻もちをついた四仔は、小さな額をそのままグリグリと頭突き続ける猫に呆れた目線を向けた。

………本当に、もう少し素直になれないのか、お前は

 そんな風に、まるで怒らせてでも良いからわざと気を引こうと激しくしなくても、俺はお前にオヤツをやるし、抱いてやるし、撫でてやっているだろう。

「そんなところ、飼い主に似るんじゃない」

 攻撃を仕掛けているようで、どう考えても自分に激しくマーキングをしている黒猫に、

「ほら」

 袋からオヤツを取り出して与えると、猫がキラキラとした瞳で嬉しそうな甘え声で鳴く。

 話を元に戻せば、その信一落下事件の後からこの猫は信一の傍に寄り添うようになった。もちろんいつも一緒にいるわけではない。共に過ごすという意味では一日のうちでそんなに一緒にいないが、ともかく信一に”気を使っている”という意味だ。砦の中で自由気ままに過ごしているようで、問題事があれば先にキャッチをして信一の部下たちや洛軍を呼び寄せる。そしてもう一つの特徴として、信一の体調にとても敏感であった。

「四仔センセー、薬ちょーだーい」

 バァンと勢いよく扉が開き、まるでガラが悪く、具合が悪そうに見えない輩が部屋に入ってきた。

(そら来た)と四仔は思う。

 件の信一である。

……お前何やってんの?」

 診療所の床にしゃがみ込んで自分の愛猫にドライフルーツを与えている四仔に驚いたような声を出した信一の問いは無視して、

……お前も藍鈴ももう少し静かに診療所に入ってこれないのか」

 と文句を言うと、

「はぁ?」

 と、不満そうな信一が器用に片眉をひそめた。

 お互いにイラッとした顔で視線をバチつかせる。
 
「にゃぁん」

 オヤツを食べ終わった猫の声で信一の視線がそれた。四仔は気を取り直し、随分と今日は機嫌が悪いなと信一を観察する。

「それでどうしたんだ」
「頭いてーの。薬ちょうだい」
……先週渡さなかったか?」
「それが無くなったから貰いに来たんだって」
…………

 最近、たまに頭痛がすることがあるから鎮痛剤が欲しい。と言われて先週に15錠ほど渡したはずだった。それから一週間も経っていない。

「消費スピードが早すぎる」
「痛みを我慢するなって言ったのお前じゃん」
「限度ってもんがあるだろう」

 そんなに頭痛が続くのであれば原因を探らなければ楽にはならない。薬は効きが悪くなり、ますます強い薬を出すことになる。

 お前の言うことをちゃんと聞いたのになんで小言を言われるんだ!と言いたげに、大の大人がむくれ顔をして診療所のベッドに勝手に横向きで寝転がる。

 それを見た黒猫が「にゃぁぁん、なぁああお」と激しく鳴き始めた。激しく鳴くので一瞬ギョッとした四仔だがすぐに合点がいって溜息をつく。自分でベッドに飛び乗るほどの身体能力を持ち合わせているだろうに、自分に信一のところまで運べ、と言っているのだ。素直に猫を抱き上げると信一の顔の横に降ろしてやる。満足したような猫は信一の指の先を慰めるように舐める。

「こいつさぁ」と信一が口を開く。

「洛軍には先輩風ふかすんだよな」
「まぁ、合ってるんじゃないのか」
「十二とは長年のツレみたいな顔しているのに」
「まぁ、あれもネコ科みたいなものだからな。類友というやつだろう」
「それ十二も言ってたなぁ。そういうものかね?」

 言葉を切ってちょっと考える。

「でも、あれだよな」

 信一は舐められていない方の手で黒猫の頭を優しくなでる。

「四仔には一番甘えてるよな」

(なるほど、それは分かっているのか)と、四仔は思った。

 そして、その猫、お前のトレースだぞ、と声に出しかかって飲み込む。

 信一が「ん~」と呻きながら黒猫の体を引き寄せて、その柔らかい毛並みに顔をうずめる。その温もりが気持ち良いらしくそのまま動かなくなった。

(こいつ、本当にけっこう具合が悪いんじゃないか……

 様子を見て四仔は今日何度目かの溜息をつくと一度診療所の扉まで行って鍵を閉めた。そうしてベッドに赴くとスペースのある信一の足の方に腰かけ、信一の首まで腕を伸ばして手を添えた。熱はなさそうだった。1ヵ月以上前に強く頭を打った時、念には念を入れて病院で頭部の検査をさせて問題はなかったから、脳部が関与している可能性は少ないだろうと四仔は判断する。ストレスや精神的緊張、疲れは今もなお続いているのだろう。それに加え、最近は雨も多い。気候の変化に疲れている体が対応しきれていないのかもしれなかった。

 四仔はベッドに上がる。ギシリという音と気配で四仔が自分にのし上がってきたことは分かったであろうに、信一は反応しない。ただ猫の体に顔をうずめ続け唸っている。四仔は首に当てていた手をそのまま撫でるように耳へと滑らせた。やわやわと耳を触ってやると、呻き声が止まる。次に龍捲風の死後からのばしっぱなしになっている髪を束ねるゴムを外して頭を撫でてやる。信一は満更ではなさそうな様子であるが、相変わらず体勢を変えず顔も猫に押しつけたままだ。

…………

 頑固な……面倒くさい。と思っていると、成すがままの猫がチラリと四仔を見た。目と目が合うと、小さく「みゃぁん」と鳴いた藍鈴がまるで勝ち誇ったような表情を見せたので四仔は(ムムっ)とする。そして自分の顔を覆うマスクを脱いでポイッとベッドの上に投げ捨てると、おもむろに信一のシャツを下から捲り上げた。そして露わになった背中に口づけ手マークが残るほどに吸い上げる。

「ひゃあっ」

 色気のない悲鳴を上げた信一がたまらずに体を翻す。
 何でもないような顔をした四仔と、顔を真っ赤にした信一がやっと顔を見合わせる。
 頭痛のためか恥ずかしいのか潤んだ信一の瞳が、素顔になっている四仔の表情を観察するように見る。

「え………妬いた?」

 そうして、ムードもへったくれもない素っ頓狂な声を上げる。

「妬いたの?お前が!?」
………………………

 どこまでもカンのいい奴だ。そんなところもそっくりだ、このブルーの瞳のお前の飼い猫と。

 その五月蠅い口を黙らせるように塞いでやると今度は素直に受け入れる。唇を離すと、やっと信一が弱音を吐き始めた。

「殴られたり蹴られたりしたケガは我慢できるのに、頭痛とか腹痛とかそういうのの方が辛い
「打撲を甘く見るんじゃない」
「そりゃそうなんだけどぉ」

 痛いのは慣れてるはずなんだけどなぁ~とぼやく。そんなものに慣れるな、とは思うもののこの男の現状を考えるとそんなことは言ってはいられないだろう。

「酷い頭痛なら無理せずちゃんと薬を飲め。酷いまでに至らない軽めの頭痛やし始めなら、まずここに来い」

 なんとかしてやるから。

 目をパチクリさせた信一が、嬉しそうな顔ででへへっと笑う。頭痛は少し和らいだだろうか、表情は明るかった。その笑顔の隣で黒猫がみゃうみゃうと鳴き始める。

「はいはい、お前も一緒にな」

 耳をペタンとさせて四仔に撫でられた黒猫が「当然」というようにまた一鳴きした。


【キスの意味/背中:愛情の確認】