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kanaco
2025-05-16 21:17:06
29148文字
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黒猫シリーズ まとめ【完】
龍兄貴と3少と黒猫・藍鈴に愛されて日々を過ごす信一くんのおはなし。いったん完結。
1P【黒猫】黒猫と出会った信一が狭間で兄貴と再会し、三少はハラハラする
2P【黒猫ちゃんと!洛信編】黒猫を師匠と呼ぶ洛軍が、信一に贈るキス
3P【黒猫ちゃんと!十二信編】黒猫を相棒と呼ぶ十二が、信一に贈るキス
4P【黒猫ちゃんと!四信編】黒猫に絡まれがちな四仔が、信一に贈るキス
5P【風と猫とお昼寝 】黒猫とスヤスヤ眠る三少を見てホッコリする洛軍さん
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【黒猫ちゃんと!十二信編】
「お前ら最近よく一緒にいるなぁ」
夜。自室のベッドで黒猫と戯れていた信一が声の方に目を向けると、窓枠に十二が座っていた。
信一と黒猫がジトッとしたお揃いの目をして(不法侵入者
…
)と呆れる。
「お前
…
ホント毎回どこから入ってくるんだよ。それにここを何階だと思ってるんだ」
信一が小言と言うと「え?今更?」と全く意にした風なく返してくる。
少年時代から半九龍城砦の住人である十二は、住人達と顔馴染みなのだから堂々と正面から入ってくればいいものの、わざわざ独自のルートを勝手に開拓し、どこからともなく砦に入りこむ。神出鬼没な男として有名だ。そうして例に漏れず信一の部屋についても勝手に転がり込んでくるのが常で、鍵など無意味。プライベートなんてあったもんじゃない!と喚いたのはとうの昔。今はもう諦め放置状態である。とはいえ、信一からすればそれらのルートなど全部割れているのだが。十二が知っていて信一が知らない通りなど、この九龍城砦にはない。その逆も然りだ。
十二は信一の隣に元気よく腰を下ろすと、信一の膝にちょこんと座っている黒猫に手を伸ばす。
「よぉ」とご挨拶がてらに顎の下辺りを撫でると、黒猫はゴロゴロと喉を鳴らしながら目を細め、長いシッポを垂直にピンと立てた。信一も一緒になって毛並みを梳かすように撫でるので、すっかりリラックスモードでご満悦だ。
「藍鈴って名前つけたんだ」
「ああ、この青い紐の鈴からな。首の鈴はお前がつけたの?」
「いや、最初からついてた」
「え、じゃぁ飼い猫じゃねぇか?」
「うーん、たぶん違う」
「へぇ?」
藍鈴は撫でてもらったことへの礼を述べるように十二の指さきをペロペロと舐めている。くすぐったくて十二がふんわりと笑う。それを見た信一が再び口を開いた。
「十二には懐いてるよなぁ、こいつ。洛軍には時々ツンツンとするんだよ。それによく分からねぇけど洛軍は”こいつ”のこと師匠って呼んでて」
「なんだそりゃ」
「だけど四仔にはやけに突撃していくんだよなぁ。突撃っていうか激突
…
。仲は悪くなさそうなんだけど
……
」
「四仔は小動物好きそうだしなぁ。大事には至らねぇだろ」
「でもお前には最初っからずっと友好的だよなぁ」
「虎はネコ科だからな」
「そういうもんか?」
これまで砦で見かけることはなかったのに、ある日に信一が高所から落下しながらも助けたというこの青い瞳を持つ黒猫は、その日から砦で頻繁に姿を現すようになった。信一にくっついたり日の当たる場所で寝ていることも多いが、時々訳知りのような顔つきで砦の住人たちを見つめながら、気ままに城砦をパトロールしていることも多い。
何か問題が起こりそうになると、洛軍や四仔、たまたま居合わせた十二に対し「お前らがなんとかしろ」とでも言うように姿を現して、そこへと誘導する
……
ような気がする。そういえばこの前、信一が熱を出したのを隠しながら仕事をしてたのを、「やめさせろ」と言わんばかりに洛軍がせっつかれた、というのを四仔から聞いた。
(変な猫だよなぁ~)
猫なのだが、どうもその挙動が猫っぽくないところがある。
ここ最近じゃ信一の一番の相棒と言ったところだ。
(まぁ、こちとら黒社会の相棒なんで、砦のこいつをフォローしてくれるのは助かるけど)
砦の相棒と黒社会の相棒。
交わらない場所でその隣を守っているのだから、そりゃお互いにシンパシー感じるというものだ。仲が良いのも当然かもしれない。
「藍鈴」
信一がそう名前を呼ぶと、黒猫は鈴を鳴らして体を上に伸ばした。前足を信一の胸に押し付けて小さな頭部を信一の顔へと寄せていく。そうしてキョトンとした青年の鼻に口をつけ、ペロリと舐めた。それを見た十二は「そういえば
……
」と思い出す。
「知ってるか?鼻へのキスは庇護欲の現れなんだってよ」
「庇護欲?」
「そ。そいつ、お前を守ってるつもりなんじゃねぇの?」
あと
……
猫のご挨拶らしいぞ。
「ご挨拶?お前らしくもないこと知ってんのな」
「この前、うちの若いのが熱心に本読んでたから、何かと思ってのぞいてみたらそう書いてあった」
「なんだその本」
「なんか
……
恋愛指南書みたいな?最近できた彼女にご執心で勉強に余念がないんだと。キスする場所で意味が違う~みたいな内容だったな」
「ふーん?ナンパに使えそ」
恋愛指南書には興味がなさそうに、しかし愛猫からの愛情表現については満更でもなさそうに、鼻の上をペロペロと舐められていた信一が、黒猫を腕の中に抱き上げてその鼻の近くにキスを落とす。
「ん~
……
。なんというか、お前ら仲が良すぎて妬けてくるな」
信一と藍鈴の戯れを見ていた十二が、片膝に頬杖をつきながら、一切の恥ずかしげもなさそうにサラリと言った。
それから、信一の前髪に左手をのばした。
龍捲風の死後、信一はパーマどころか髪を切ること自体を止めてしまった。肩に触れるか触れないかくらいまでは伸びた髪は、最近はゆるく結んで後ろに束ねている。その髪を美しくケアすることに、理髪師の修行を始めた洛軍がご執心だ。前髪だけは、信一も邪魔に思うのか洛軍が切っている。洛軍が初めて信一の前髪を切った時の斬新な仕上がりは、今思い出しても十二の腹を捩れさせる。九龍城砦中に響き渡るほどの悲鳴を上げた涙目の信一と、申し訳なさそうに震えて涙目の洛軍と、指をさしてゲラゲラと爆笑する涙目の自分。そこにプラスして洛軍にはいつも気を遣う四仔が、さすがに口を押さえて笑い震えていた姿は貴重だった。
(そろそろ伸びてきたな。切る頃合いか?)
そう思いながら信一の前髪をかき上げてやる。そうして露わになった額に口づけた。
「どういう意味があるんだ?これは」
なすがまま大人しくしている信一が、上目使いに聞く。
「友情から先へ育まれる愛」
「なるほど」
「ちなみにもう一つ意味がある」
ほぅ、という顔をする信一と目を合わせるとニカッと笑う。
「祝福」
「祝福ぅ?」
一呼吸、きょとんとした信一が無遠慮にケラケラと笑い始めた。
黒社会に身を置く自分たちに、神からの恵みを連想される「祝福」という言葉はあまりにもかけ離れているようで、その言葉を投げられただけで、可笑しさが込み上げる。
これだけ人を殺しておいて、神からの愛もなにもないのだ。
こっちは端から地獄行きが決まっているというのに。
信一の様子に対し、十二はさして気を悪くした風もなく、同じように可笑しそうに笑った。
「感謝しろよ。どこぞの知らない神さまよりも、この十二ちゃんからの祝福がよっぽど愛情深いだろ」
なんせ、地獄すら一緒に駆け巡ることを決めている間柄なのだから。
九龍城砦に、そして黒社会に入ってからずっと繋いだ手を離す気がない血濡れの2人には、幸福への祈りなぞ不釣り合いかもしれない。
それでも”こいつ”のためならば(幸せを祈る)なんていう人並み愛情も湧き出てくるというものだ。
地獄には仲間たちもたくさんいる。きっとあの龍捲風もいる。順当に人生を歩むならば、二人が地獄に足を踏み入れる頃には虎兄貴だってそちらにいるだろう。
いなかったら地獄でも天国でも二人で走り回って、兄貴たちを探しに行くだけだ。あの人たちの傍にいること、それが信一と十二の幸福だった。地獄であろうが、何であろうがこれもまた一つの幸せなのだ。
まぁ
…
これまで切り裂いてきた敵たちも、そこにはわんさかいるであろうが
……
。
「なるほど、悪くはないな」
信一がニヤリと笑って、お返しとばかりに元から露わになっている十二の額に口づける。
十二の笑った口が、ますます深くなる。
「で、結局何しにきたんだよ?お前は」
ご親切に、わざわざ人の幸福を祈りに来たわけではあるまい。
問うと十二が3枚の写真を取り出して、信一の膝にハラリと落とした。十二が信一に詰め寄ったために居場所が狭くなり、その膝から退散していた猫が「どれどれ」と覗き込む。黒猫が反応を示して、タシタシと前足で叩いた写真を信一が取り上げた。
「ああ、こいつ」
「知ってんの?」
「この前外に買い出しにいったんだけど、絡んできた奴だ。随分と品のない舐めた口をきいてくるから、あ、殺そ。とか思ったんだけど、荷物持ちに連れていたのが洛軍だったからさぁ」
「あ~、そりゃ揉め事にはしにくいわな」
「いや、俺が絡まれているのにキレた洛軍が一発でのしちゃったものだから、そのまま転がしておいた」
「ジーザス」
十二がおどけて両手を広げる。
なんて哀れな野郎だ、と十二は思った。あのド聖人・陳洛軍を怒らせるだなんて、よほど品のないヤツだったに違いない。いやでもあいつ、ここのところ信一のことになると、思いのほか喧嘩っ早いからなぁ、とも。
「で?こいつらが?」
「最近、九龍城砦のヤク周りで、妙な動きがある気がするってお前言ってただろ?廟街でもキナ臭い動きがあってよ。ちょっと炙り出しをかけてたんだが、どうもここら辺りからシッポがでそうでさ」
「ふぅん」
写真を見つめる信一の顎を人差し指でクイっと自分の方へ動かし、口と口が触れ合いそうなくらい顔を近づけて、目を覗き込む。
幼い頃から見慣れている信一の美しい瞳に、不穏な好奇心がクルクルと渦巻き始めているのを見て、十二はニっと笑った。
「久しぶりにデートしようぜ」
「え~、今からぁ?」
「いいじゃんか。なぁ、最近どっちも忙しかったし、俺たちすっかりご無沙汰じゃん」
「うーん、洛軍にも四仔にも内緒でイケナイことするの?」
「そ。俺も事務所をひっそり抜け出してきたしさ。今宵はおあつらえ向きに新月だ。そのうえ風も吹いていない。兄貴たちにもバレてない。つまり全員に秘密ってこと。2人っきりでドロドロになるまで思いっきり楽しいコトしよ」
十二が小首をかしげて、無邪気な表情の中に色っぽい瞳と掠れたような甘える声で誘う。すると同じように小首をかしげた信一が、薄っすらとした微笑みと共に、そんな風に向けられれば誰でも心を奪われてしまいそうな、色っぽい熱視線をワケありに返した。
「ヤる?」
「ヤッちゃう?」
虎の子供と龍の子供が体を寄せ合って、物騒な目をしながらケタケタと楽しそうに笑う。
二人の間に挟まれた黒猫が、一体何が起きるんです?という顔をして彼らをキョロキョロと見つめた。
しかし、やがて「勝手にしなさいよ」とでも言いたげに、その場に丸くなって眠る体勢に入ったのだった。
【キスの意味/額:友情から先へ育まれる愛/祝福】
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