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kanaco
2025-05-15 21:18:22
12505文字
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【四信】四信SS(単作)まとめ(フセッター時代)
1P【零れた涙】1度だけ抱いた四仔さんと、1度だけ抱かれた信一くん
2P【その切っ先を向けて】四仔の包容力を信じ切っている信一くんと、彼が思うより心砕いている四仔さん
3P【蜂蜜入りホットジンジャー】睡眠不足の信一くんと、相手がして欲しいことをしてくれる四仔さん
4P【鏡(R18)】四仔さんにも甘えたい日はあるし、満更ではない信一くん
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【その切っ先を向けて】
深夜。高熱を出したという砦の子供のため解熱剤を届けに行った四仔は、帰り道で馴染みの理髪店に明かりがついているのを見て不審に思った。
こんな時間に今は亡き龍捲風が愛した店に誰がいるというのか。そう思いつつも、検討はついている。
静かに理髪店の扉を開く。半分は予想通り、信一が鏡の前に立っていた。
しかしもう半分
…
彼が愛用ナイフの切っ先を自分の喉元に向け、鏡に映る自分を凝視している様子は、さすがの四仔でも予想ができなかった。
四仔が部屋に入ったことに気がついただろうに、信一は動揺したそぶりを見せず鏡を見つめ続けている。
右手に残った2本の指で器用にナイフ持ち、刃先は薄い皮を裂いたのだろう一筋赤く血が流れていた。
もともと端正な顔の男であるが、無気力な瞳のまま無表情でいると美貌が研ぎ澄まされていっそう冷たくも感じる。
(どうしたものか
…
)と少し迷った後、静かに信一の傍によると彼の手からナイフを奪った。
抵抗は一切なくナイフはするりと指から抜かれ、やっと信一がパチパチと瞬きをして口を開く。
「死のうと思っていたわけじゃないぜ?」と言うから「分かっている」と返事をする。
あの時。門を挟んだ向こう側から龍捲風は彼に「生きろ」と言った。信一にとって龍捲風の言葉は絶対だ。
だから信一が自ら喉を切り裂くことなど決してないのだ。
信一は喋りだす。
「なんか眠れなくなっちゃってさぁ」
「夜風に当たりながら一服しようかなと思って外に出たのだけど、この店に足が歩いて行っちゃって」
「すぐ部屋に戻るつもりだったんだけど。
…
たださぁ」
一瞬の間。
「なんか
……
。限りなく近くに行けるかと思ってさ」
信一はなお勝手に1人で喋り続けた。
「でもやっぱ無理だよな」
「ここに来たのがお前で良かったなぁ、四仔」
「こんな俺はあいつらには見せられないだろ?」
信一は龍捲風という守護者を失った九龍城砦にて、城砦福祉委員会の副会長と名乗ったままに会長代理として見事に仕事を捌いている。山積みの課題や馴れない対応に悪戦苦闘し疲れている様子はあるものの、必要な場面で適切に自分たち仲間を頼り、虎兄貴だけでなく秋兄貴からもバックアップを受けているらしく、砦の立て直しを立派に率いていた。信一はもともと九龍城砦の人々に育てられたようなところもある。彼らも協力を惜しまない。
陳洛軍が「信一は本当にすごい」と明るい瞳をして誇らしげに言っていたことがある。一足先に頭領として邁進する信一を見て、十二少が幼馴染を自慢げに見つめていたことも四仔は知っている。
無論、あの2人が楽観的なわけではない。陳洛軍は以前にも増して注意深く信一の体調を気にしているし、もっと傍にいるようになった。四仔には黒社会の方のことはよく分からないが「ここのところ十二少に随分気を使わせてしまっている」と信一がボヤいていたこともある。ただ信一はあの2人の前では多少意地を張るというか、恰好をつけたがる節がある。
一方、存外プライドの高い信一の“危うさ”を四仔は忘れたことがない。それを知ってか知らずか、信一自身がそのプライドを四仔には機能させず、陰差すような一面すら臆面のなく垂れ流すのだ。自分はその信頼が嬉しいのか、重荷なのか。両方であろう。思っているよりも四仔が心砕いていることも知らず、信一はいつも無邪気に自分の心を晒す。
信一の頬に手を添えて撫でると、そのままスルリと喉元へとすべらす。首に滴っていた血はすでに止まっている。元から浅い傷だ。でも手当をした方がいいだろう。明日、陳洛軍や十二少にどう言い訳するつもりなのかは知らないが。
「俺、やっぱりお前のこと好きだわ」
虚ろにすら思えた信一の瞳の中にトロリとした甘えが混じった。悟られぬようにホッとした四仔は、そのまま自分にしだれかかって胸に額を寄せてくる信一の髪をゆったりと撫でながら、呆れたような視線を彼に落し、やっと
「本当によく喋る男だな、お前は」
とだけ呟いた。
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