ふみかぜ@壁打ち
2025-05-10 20:38:32
11809文字
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【ドラロナ+ヒナ】よきバカップルの横でよく菓子食うレディ/親しき仲にも気取らせず【web再録】

1/26のイベントで頒布したドラロナ本のweb再録です!/ヒナちゃんが事後のドラロナに遭遇したり、野郎どもが隠れてイチャついたりする話
/他の話も公開済です(ドロ前提ヒナ+ド→https://privatter.me/page/67505c862d642
ドロ前提ヒナ+ロ→https://privatter.me/page/66b8cfe1290fe)


【親しき仲にも気取らせず】
「邪魔するぞ。……うん? いないのか」
 今日も今日とて床からロナルド吸血鬼退治事務所へ侵入した吸血鬼対策課のヒナイチはリビングを覗き込み、その静かさに首を傾げた。
 見回りの途中に様子を見に来たが、ドラルクもロナルドも不在なのだろうか。しかし、夜の二〇時を過ぎた室内は照明で明るく、空調の稼働音も聞こえる。つい先程まで誰かいた、または今もいるような雰囲気があった。
 緊急の依頼を請けてロナルドが慌てて飛び出していったのかもしれないが、電気も消す暇もないくらい急を要する状況だったのか。それなら、ヒナイチたち吸対にも通報の一つや二つある筈だが、そういった連絡は来ていない。
 アホ毛でハテナマークを描きながらダイニングキッチンへ移動したヒナイチはテーブルの上にあるものに気付き、ぱあっと目を輝かせた。こぶし二つ分の大きさをした透明な包みでラッピングされている、本日のお楽しみ。それを手に取った彼女は、自身の腹に収まるために作り出されたものをじっと眺めた。包装を解いたら最後、あっという間に食べ切ってしまうと分かっているので、今この瞬間だけは目で楽しむのである。
「これは……オレンジのクッキーか。美味しそうだ」
 薄い輪切りのオレンジが一枚一枚乗せられたクッキーの自然な鮮やかさが食欲をそそる。包みに貼られたシールに『ヒナイチ君』と書かれているのを見て、彼女は擽ったげに笑った。
「ふふ、今日もありがたくいただくぞ」
 今すぐ口に放り込みたい衝動をぐっと堪えて、ヒナイチはクッキーの包みを隊服のポケットに入れる。一気に食べ尽くすのも大好きだが、今日は見回り中に少しずつ楽しみたい気分だった。
 パトロール中にドラルクを見かけたら、感想を伝えるとしよう。楽しみをまた一つ得た彼女は颯爽と事務所を後にし、賑やかな夜の町へ再び繰り出すのだった。
 玄関に置かれたままの靴とか、干されたばかりのまな板とか、コンロの上で回る換気扇とか、ピンとくる手がかりは数あれど。そういったものを気にしないからこその傑物、クッキーモンスターなのである。

 ドアが閉じる音が聞こえてから、一分後のこと。
……行ったか?」
「うむ、そのようだな」
 キッチンのカウンターの陰から顔を覗かせたドラルクとロナルドは、クッキーモンスターが立ち去った先を窺っていた。彼女が戻ってくる様子がないことを確認して安堵の息を吐いた彼らは、床に這いつくばっていた身をそろそろと起こす。
「ったく、ヒヤヒヤしたぜ」
「偶々クッキーを先に包んでおいたお陰で気を逸らせたか。我ながらファインプレー、流石私」
 したり顔で自画自賛する吸血鬼ドラルクの顎を目がけ、ロナルドが肘打ちをぶちかまして殺す。
「ざっけんなクソ砂、そもそもオメーが変なことすっから隠れる羽目になったんだろうが!」
「ハァ? 変とは失敬な、恋人として純然たる触れ合いの一環だろう。ロナルド君だってドアが開くまではノリノリだったようだがね?」
「んぎっ……!」
 痛いところを突かれたロナルドが、歯噛みして後ずさりする。冷蔵庫のある行き止まりまで来てしまった退治人へ、痩せぎすで青白い吸血鬼の手が伸ばされた。
 彼らがキッチンで何をやっていたか。何故、咄嗟に身を隠したのか。
 頬を紅潮させたロナルドの、普段より開いたジャージの襟元に首筋へ薄らと付けられた虫刺されのような鬱血跡、ドラルクの熱情の宿った赤い目が答えを如実に示していた。要は、製菓後の片付けを一段落したところで、場所を移すこともなくイチャついていたのである。
「だ、だからってさっきのはその、やり過ぎだろ!」
「ふーむ……具体的にどの辺が?」
「なっ……テメェ、分かって言ってんだろ」
「いやいや、純粋な確認だとも。こういう意思確認は大事だろう?」
 建前と本心を半々にしたドラルクが言う。敢えて彼の口から言わせて反応を楽しみたいというのもあり、こと恋愛方面においては特に情緒不安定になる恋人のセーフラインは細かく把握しておきたいという心遣いもあった。
 ドラルクの視線を受けたロナルドは迷うように拳を開閉させ、やがて暴力の解決は保留したのか手を背中に回して言葉を返した。
「だから、例えば」
「うむ」
「く、首に吸い付いたりとか、えっちなチューしてきたりとかだよ!」
「なるほどなるほど」
 納得したように頷いてみせたドラルクがロナルドの頬へ掌を添える。爪が赤く塗られた親指で唇の端に触れると、初心な若者の肩がびくりと跳ねた。
「触るだけなら、いい?」
「さ、さわるだけって」
「手を繋ぐとか、舌を入れないキスをするとか」
「っ……
「駄目かい?」
 優しく、甘えるような柔らかい声音でドラルクが囁く。それを聞いたロナルドは一瞬きつく目を閉じ、躊躇いがちにぼそぼそと「それくらいなら、いい」と答えた。
「ジョンが帰ってくるまでだからなテメェ」
「言われるまでも」
 血色のいい人間の顔へ唇を寄せて、額、目尻、頬、鼻先、そして口へ重ねるだけのキスを落とす。片手を繋いで身体を密着させるとロナルドの鼓動が衣服ごしに聞こえてくるようで、ドラルクは充足感のままに笑みを深めた。
 自分たちの関係は決して隠さなければならないものではないが。やはり、惚けた青い目で己を見る恋人の顔ばかりは、大事に懐に仕舞っておきたいのである。