ふみかぜ@壁打ち
2024-12-04 22:43:34
5886文字
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【ドラロナ前提ヒナ+ド】表裏一体のマーブル模様

本編ドラロナ前提のヒナ+ド短編
ロくん不在の事務所で机に何か仕掛けようとするドをヒナちゃんが咎めたり買収されたりする話
この話のドロはョンに「どちらからでもいいからはよ告るヌ」と思われている感じです

 ヒナイチ副隊長、本日の監視任務の記憶。
「ドラルク、今日も監視を」
「さーて何処に仕込んでやろうかねぇジョン? 引き出しに一つ隠し入れておくだけでは物足りないし、色々仕込みたいところだな」
……何してるんだ」
 床下からロナルド吸血鬼退治事務所へ顔を出してみれば、吸血鬼ドラルクがロナルドの事務机の前に立ち、使い魔のジョンへよからぬ企みを語っていた。その手にはロナルドが恐怖のあまり幼児返りする例の野菜の模型があり、何をしようとしているかは火を見るより明らかだ。
「ドラルク、またロナルドに嫌がらせか?」
「おやいらっしゃいヒナイチ君」
「そういうことは良くないと何度も」
「クッキーはいつもの棚にあるよ」
「いただこう!」
 靴を脱いでリビングに上がり、本日のクッキーを確保。ココア生地とプレーン生地が混ざり合わさったマーブル柄が食欲をそそる。
 さっそく一枚、また一枚と次々口へ運ぶ。
 うん、おいしい! ココアとほろ苦さとバターの素朴な風味が相まって手が止まらなくなる旨さ!
――で、お前は何を企んでいるんだドラルク」
「くっ、五分と持たなかったか」
 クッキーの欠片一つ残さず完食して綺麗になった皿ごと事務所スペースに戻り、ヒナイチは改めてドラルクの監視に臨んだ。何かよからぬことをするなら止めさせて、ご飯かスイーツかクッキーを作って貰おう。
「まぁ待ちたまえヒナイチ君。これはただの嫌がらせではないぞ」
「そうなのか? じゃあそのセロリの模型は」
「これはー……そう! 要するにハズレだ」
「ハズレ?」
 うむ、と胸に手を当てて仰々しく頷いたドラルクが論理(屁理屈ともいう)を展開し始める。
「私は今、オータムで絶賛カンヅメ中の彼をおちょく……労うためのサプライズを考え中でね。当たれば狂喜乱舞、外せば七転八倒の仕込みをこの机にしてやろうと」
「なるほど。……いや七転八倒はやりすぎだろう! おいドラルク、あいつが幼児返りする様を見せられる私たちの身にも、」
「ところでお嬢さん、こちらはロナ造が床下にペンギンのぬいぐるみを並べてクッキーモンスターを出待ちしていた時の写真ですがね」
――――ほどほどにしておけよ」
「へっへっへっ、流石ヒナイチさんは話が分かりやすねぇ。クッキーは何味がお望みで?」
「ピスタチオ味がいいな」
 三下ムーブでゴマをするドラルクにリクエストを伝え、ヒナイチは眼前の光景を静観する構えを取った。年甲斐もなくはしゃいで悪ガキみたいなことをする弟分には、心を鬼にして灸を据えねばなるまい。こちらを見上げたジョンから生温かい視線が送られているように感じるのは、多分気のせい。
「それで結局、何処に何を入れるつもりなんだ?」
「ふむ、そうだな……
 今まさに仕掛けを施されようとしている机の引き出しは上部に取り付けられた広くて底の浅いものが一つ。サイドに程々の深さのものが上段と中段に二つずつ、下段に手を入れたら肘まで入りそうな深さのものが一つある。少し前に見た時と何となくデザインが変わっているように感じるのは、時々事務所が爆発しているからだろう。
「広い方には若造のアホ面写真をばらまいておいたから、セロリは奇をてらわずこっちの一番下に入れよう」
 街角で配っていそうなバザーやお祭りのビラやポケットティッシュ、デフォルメされた大仏のキーホルダーで混然としている引き出しの中を適当に掻き分けたドラルクが、開けたらすぐ目に付く位置へセロリの模型を設置した。
「まーったく、相変わらず後先考えずに詰め込みおって。これでは半田君から借りたセロリフォンデュセット改良版が入らんではないか」
「半田……
 この前、署で仕事合間に何か工作をしていた部下の姿が思い出されて遠い目をする。本当、仕事はキッチリこなすのでヒナイチから何も言えないのが困る。フォンデュ……チョコなら大歓迎なのだが。
「おっ、一段目と二段目はそこそこ空いてるな。よーし、一段目もハズレ枠にしよう。何を入れようかジョン?」
「ヌー……
 前足を口元に当てて暫し思案していたジョンが、ぐっと声を潜めて早口で答える。
ヌッヌヌヌヌ三日前にヌッヌヌヌッヌイ買ってたおっぱいヌーヌイ
「わぁおシンプルにえぐい。よし、後で持ってこよう」
「ちん? すまないジョン、よく聞こえなかった。三日前に買ってた、いっぱい……エーアイ?」
「ヌッ、ヌーヌ、ヌンヌニュ~?」
「露骨に誤魔化した⁈ くっ、一体何を企んでいる」
「うーん、ヒナイチ君にはまだ早いことかな。食べ物絡みではないから安心しなさい。ねージョン」
「ヌー、ヌヌヌヌヌヌ」
「うぐぐ」
 あからさまに伏せられて歯噛みする。たとえ可愛くても、主が主なら使い魔も使い魔ということか。今更ながら彼らにGOサインを出したことを後悔し始めたヒナイチだが、ピスタチオクッキーを食べたいあまりに、待ったをかけることがどうしてもできない。
「さて、もう少し何か入れたいが……ヒナイチ君だったらどうする?」
「え、私か?」
 止めるどころか、ドラルクの企みに加担するように誘導されてしまう。
「セロリより前のジャブになるような、軽く腰を抜かして悲鳴を上げるようなもの。思い当たるものがあれば言ってみたまえ」
「そ、そんな急に振られても。うーん、腰を抜かすくらい恐いものか」
「うむ」
「ペ、ペン、頭にペがつく鳥のグッズとか、か?」
「特攻範囲が狭過ぎる。ロナルド君は普通に癒やされそうだが……まぁいいか。いっそペンギンのすし詰めを作ってしまおう」
「ちん⁈」
 いつから用意していたのかドラルクがさっと取り出したペンギンのぬいぐるみに、ヒナイチが恐怖の悲鳴を上げる。あの白目のない黒々とした目と鋭いくちばし、水中を弾丸のように奔るために最適化されたフォルムの何と恐ろしいことか。
「そうだ、ヒナイチ君も一緒にペンギン詰めをしようではないか! ほーらほら遠慮せず、」
「ヂッ、ちーーーん!!」
「ヌー……!」
 調子に乗ったドラルクが差し出す銀灰色の仔ペンギンに、限界に達したヒナイチが宙返りのキックを繰り出す。悪い吸血鬼は見事に塵の山と化し、落下したぬいぐるみを受け止めたアルマジロは涙するのだった。

「終わったぞ、ヒナイチ君」
「本当か? 本当なんだな?」
「ホントホント。引き出しもしっかり閉めたから」
「そ、そうか」
 ペンギンのぬいぐるみが引き出しに詰められている様を見ないよう目隠ししていた腕を、ヒナイチは恐る恐る外す。果たしてドラルクの言葉は本当で、恐怖の根源たる鳥類は姿も形もなくなっており、彼女は安堵の溜め息を吐いた。……暫く、あの机には触らない方がよさそうだ。
「さぁ、二段目にいよいよ当たりを入れていくぞ諸君」
「当たりか……何を入れるんだドラルク? クッキー? それともマフィンか?」
「ヌーヌヌ、ヌンヌーヌ」
 自分の回答も、ジョンが挙げたドーナツやパンケーキもいい線いっていたと思うのだが、ドラルクはきっぱりと首を横に振る。
「手作り品は保たんし、ロナルド君が帰ってくる前に消失する恐れがある」
「うっ」
 心当たりがありすぎてちょっぴり胸が痛い。
「すまない……ドラルクが作ったスイーツが美味しすぎるばかりに……
「さり気ない開き直りっぷりとお褒めの言葉をありがとう。ヒナイチ君、最近ますます本部長殿に近づいているな」
「ちんっ⁈」
「ま、ロナ造はチョロいので何を入れても有り難がりそうなところがあるが、ただ喜ばせるだけではつまらないので……こんなものを作ってみた!」
 ショックを受けて固まっているヒナイチをそのままに、ドラルクが懐から折りたたまれた用紙を取り出す。細長い紙をつづら折りにしたそれは折り目に切り取り線が引かれ、切り取る一枚ごとに彼の筆跡で何かが書かれていた。
「これは……クーポンか?」
「そうとも! 以前よりマシだが、ロナルド君はどうにも休日に何かしたり誰かにプライベートな頼みをしたりするのがド下手だからな。この高貴で紳士でスーパーハンサムな吸血鬼ドラルクが特別に付き合ってやろうという訳だ。見たまえ、それぞれ中身も変えているぞ?」
「へぇ、どれどれ……
 机の上に広げられたクーポンを覗き込んだヒナイチは、何となくその内容を読み上げていく。
「『料理リクエスト確定受付券』、『ネットフィリップス優先権』、『クソ映画鑑賞会参加券(おやつ付き)』、『クソゲーマルチプレイ参加券(ジョン吸い付き)』、『何でも聞いてやらんこともない券』……ふ、ふふっ」
「うん?」
 自然と笑ってしまったヒナイチは、彼女の反応に軽く首を傾げたドラルクを見上げ、心に浮かんだ言葉をそのまま口にした。
「ドラルク、お前……本当にロナルドのことが好きだな」
「は、」
 直後、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔で身体を強張らせ、ドラルクが静かに死ぬ。一秒、塵山の状態で沈黙してから復活した吸血鬼は、何故かとても焦っている様子だった。血色が悪く青白い顔は、珍しいことに薄らと赤みが差している。
「大丈夫か?」
「うむ……いや、ちょっと待ってくれ。ヒナイチ君、今、とんでもないことを言わなかったかね?」
「とんでもないこと、ではないと思うが……ドラルクが、ロナルドのことを好きなんだな、と」
「アヴァーーーーー⁈」
 今度は大きな声を上げたドラルクの顔半分が塵と化した。どうにか耐えて全身が死ぬことは免れた吸血鬼は、再生後の顔に取り繕ったような笑みを貼りつけて、早口で言葉を捲し立て始める。
「なるほど君の見立ては当たらずとも遠からずというか、ロナルド君のことが好きか嫌いかでいったら嫌いの反対に振り切れるし、何なら棺桶に入れても痛くないといっても過言ではないし、時にはストレートに好きだと言ってやるのもやぶさかではないが……え、待って。十秒だけ待って欲しい」
「分かった」
「ありがとう」
 きっかり十秒間ジョンの腹を吸ったドラルクは、まるで何かの脅威を感じているかのような真剣な表情でヒナイチへ向き直った。
「あー、ヒナイチ君?」
「何だ?」
「そのー、私がロナルド君を好きなことって、もしかしてとても分かりやすかったりする?」
「ああ」
 頷くと、ドラルクの口元がぴくりと引きつった。
「そ、そうか。それってどれくらい……例えば、君のとこの隊長さんも気づいていたりするのかね」
「ヒヨシ隊長?」
 どうしてヒヨシの名前が挙がったのか不思議に思いつつ、ヒナイチは素直に思ったままを答える。
「隊長も含めて、吸対やギルドの皆は分かっているんじゃないか?」
「ファーーー⁈」
「そ、そんなに驚かなくても」
 意外と彼ら自身より、一歩置いたところにいる自分の方が見えていることがあるのかも。とりわけ、彼らはお互いのこととなると素直になれないことが多いから。
「いつもバカみたいな喧嘩をしてばかりだが、ドラルクとロナルドがいいコンビで掛け替えのない友達だということは知って、」
「セーーーフッ!」
「ちんっ?」
 ヒナイチが言っている途中、身を小刻みに震わせていたドラルクが突如叫びながらガッツポーズをする。先程とは打って変わり、肩の荷が降りたかのような晴れやかな笑みを浮かべた彼はジョンを頭に乗せて胸を張った。
「いや失敬。私としたことが、少々言葉を取り違えていたようだ。つまりヒナイチ君が言いたかったのは私がコンビとして友人として、ロナルド君を好いていると。……うむ、そういうことにしておこう! 実際そういった側面もあるからね」
「側面?」
 ヒナイチが内心首を捻っている傍ら。ドラルクが畳んだクーポンを二段目の引き出しへ入れてそっと仕舞ったかと思うと、ばさりとマントを翻しリビングに続くドアへ歩き出す。
「よーし仕上げは後にして休憩がてらクッキーを焼こう。ヒナイチ君、一緒にティータイムでも如何かな?」
「ヌヌヌヌヌ?」
 ジョンと一緒に強引に話題逸らしをするドラルクの姿は、冷静に考えれば怪しいものであった。
 しかし――クッキー。そのフレーズで彼女の中にあった僅かな引っかかりはあっという間に霧散していく。
「いただこう!」
 ロナルドがオータムから異空間を通って戻ってくる前にドラルクが焼いた、ピスタチオのクッキーはサックサクでとても美味しかった。
 存分に味わってお持ち帰り用も包んで貰い、意気揚々とパトロールへ出発したヒナイチ。帰宅した退治人と迎えた吸血鬼が、その後どのようなバカ騒ぎを繰り広げたのか。焼きたてのクッキーを頬張りながら颯爽と夜道を歩く彼女は、未だ知る由がない。

 三日後、吸血鬼対策課のヒヨシ隊長のデスクにて。
「隊長! 今週の監視レポートです」
「おう、ご苦労さんヒナイチ。どれどれ」
 ヒナイチ副隊長からレポートの書類を受け取ったヒヨシは、内容に目を通しながら曖昧な笑みを浮かべる。
「今回も食いもんのことばっかじゃにゃあ……んん?」
 何枚か用紙を捲ったところで彼は手を止め、文章を睨むように目を細めた。
「なぁヒナイチ。この日なんじゃが」
「はい?」
 彼が指さした部分を、ヒナイチも覗き込んで確認する。ちょうど三日前に書いたレポートは、確かドラルクが自分にピスタチオクッキーを焼いてくれた時のものだ。
「この日もクッキーが美味しかったです」
「はぁ、良かったな。まぁそれは置いといて」
 軽く咳払いをした後、ヒヨシは淡々と言葉を続ける。
「ここ、『ドラルクはロナルドがとても好きだ』というのは……どういう意味じゃ?」
「意味、ですか」
 質問の真意を理解する前に、彼女は素直に答えた。
「多分、ドラルクがロナルドのことを好きだと言っていたのが印象に残っていたから書いたのだと思う」
「ほう……ドラルクは他に何か言っていたか?」
「うーん、そんなに覚えていないが、何か棺桶に入れたいとか言っていた、ような」
…………なるほどにゃあ」
 がたん、とヒヨシが大きな音を鳴らしながら席を立つ。衝撃で机へ落ちたヒゲを真顔で付け直した彼は、次の瞬間には爽やかな笑みを浮かべていた。
「ヒナイチ、すまんが急用ができた。ちょーっとこの場を預かって貰えんか?」
「ちん?」

 同時刻、ロナルド吸血鬼退治事務所のキッチンで唐揚げを作っている吸血鬼が、己のくしゃみで死んでいたとか。