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ふみかぜ@壁打ち
2024-08-11 23:51:13
6475文字
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【本編ドラロナ前提】素直になれないミルクプリン【webオンリー展示再録】
ロナ受けWEBオンリー『赤い退治人をねらい撃ち!4』展示小説の再録です(クロスフォリオでも引き続き公開中)
本編ドロ前提のヒナ+ロナでヒナちゃんがロくんのお菓子作りを手助けする話。ヒナちゃんがツッコミ寄りでロくんが弟成分強めです。
最後の方にドラロナのぬるい会話があります。できてるかもしれないし、できてないかもしれない。
それは、ヒナイチがドラルク外出中の事務所で作り置きのクッキーを頂いていた時のこと。
「頼むヒナイチ、こんなのお前にしか頼めねぇ」
彼女へ手を合わせたロナルドは、頭を下げて切実な声でこう言ったのである。
「お
……
俺の、お菓子作りを手伝ってくれ
……
!」
◇
香ばしさがたまらないアーモンドクッキーを食べながらロナルドの話を聞くに、ジョンのためにスイーツを手作りしたいらしい。
「テレビとかで超簡単! って紹介してるレシピを試してみたりしたんだけど
……
ヨクワカランモノになっちゃって、ジョンに有罪判定されちまったんだ」
「そ、そうなのか
……
」
ドラルクに抱えられたジョンが虚無の表情で紙を広げて「有罪」の二文字を突きつけ、ロナルドが号泣する姿が目に浮かぶようだ。
手伝うにしても、自分にどうこうできるものだろうか。逃げるように視線がテーブルの上へ向き、雑誌の見出しの文字に瞬きし
――
とりあえず話を聞くかと目線を戻す。
「しかし、どうして私に?」
「ヒナイチは普通に料理できっだろ。ドラ公ともクッキーとかマフィンとか、色々作ってるじゃん」
「ま、まぁ自炊はやれなくもないが、お菓子作りは食べてばかりでそんなに自信は
……
それこそ、ドラルクに教えて貰った方が早いのでは」
「俺がクソ砂に頼んだところで、あいつがマトモに教えると思うか? 煽られたり殺したりする内に結局ドラ公一人で何やかんや仕上げて、俺の料理スキルは何一つ上がらずに終わりだ」
「うーん、否定できないな」
ホワイトデーでみんな一緒に作る時ならともかく、平時にロナルドが料理に挑戦することをドラルクはあまり歓迎しない。自分のテリトリーを荒らされるくらいならば先に作っておき、ロナルドに食べさせ大人しくさせるという手をよく使っているように見える。
「俺だって分かってんだよ、ドラ公に作らせた方が美味いに決まってるって」
けど、と彼は俯きながら恥ずかしげに言葉を続ける。
「俺もなんか、作りたいなって
……
ジョンのために」
「ロナルド
……
」
残念ながら、ヒナイチから見てもロナルドの料理スキルは並みにあるとは思えない。ドラルクと同居をするまで、一体どうやって生活していたのか心配になるくらいだ。
ただ、それでも誰かのために料理をしたいという気持ちは理解できる。思い返せば、自分も彼らのためにクッキーを焼いたことがあった。ドラルクに遠く及ばない腕だが、それでも友情や感謝の気持ちを伝えたいと思ったのだ。
「
――
よし」
クッキーの最後一枚を口に入れたところで、ヒナイチは決意を固める。不安そうにこちらを見ている年上の青年に向かって、力強い頷きを返した。
「分かったぞロナルド。私でよければ手伝わせてくれ!」
「本当か?! ありがとう、恩に着るぜヒナイチ!」
ここは弟分の頼みを聞いてやろうじゃないか。
◇
なるべくドラルクらにバレないようにというロナルドの希望により、ヒナイチが非番となる五日後の日中にお菓子作りを決行することになった。
「来たぞ、ロナルド」
十四時半を少し過ぎた頃。昨日借りておいたエコバッグを肩に掛け、ヒナイチが事務所の居住スペースへ入る。
ドラルクとジョンが中で眠っている棺桶の横を抜き足、差し足で素早く通り抜けた先のダイニングキッチンでは、ジャージ姿にエプロンを装着し、ヘアバンドで前髪を押し上げたロナルドが、緊張の面持ちのまま直立不動の姿勢でスタンバイしていた。
「すまない、待たせたか」
「いや、俺も少し前に準備したところだぜ。
……
悪いな、材料の買い出しまでさせちまって。本当についてかなくてよかったのか?」
「そんなこと気にするな、材料費を出してくれれば十分だ。それに
……
」
「それに?」
「いや何でもない。ほら、いいから早く始めようロナルド。日が暮れるまでに完成させるぞ!」
「? わかった」
しばしば精神年齢が極端に落ちる目の前の男をスーパーへ連れて行ったら何を買いたがるか分かったものではないから同行させなかった
――
とは、自分の方が意識の面では年長だと信じてやまないヒナイチは、大人らしく場を拗れさせかねない言葉を慎むのだった。
「それで、お前が作りたいのはミルクプリンだったな」
「そうだな。レシピは渡した通りだ」
「うむ」
ヒナイチは前もってロナルドから受け取っていたカラー印刷された紙、生活情報誌のページの切り抜きを取り出し、見やすいように冷蔵庫へマグネットで貼りつける。そこには『超簡単! 自然な甘さが魅力のミルクプリン』というタイトルのレシピが載っていた。使う材料は牛乳、砂糖、粉ゼラチンとシンプルで、作り方も鍋で牛乳を温めながら砂糖を溶かし、お湯で戻したゼラチンを加えて冷やすだけ。ヒナイチが一時帰宅した寮で試作した時は問題なかったし、ロナルドも手順と分量を守りさえすれば大丈夫だろう。
手を洗って鍋やボウル、ミルクプリンを入れるガラスの容器といった調理器具を並べ、拳をぐっと握ったヒナイチは改めて気合いを入れた。この製菓が成功するかどうかは己にかかっている。ジョンたちのため、ロナルドの心意気に応えるため、しっかりやり遂げなければ。
「よし、始めるぞロナルド! 私はゼラチンの準備をするから、お前は牛乳を温めておいてくれ」
「分かった! じゃあ鍋に牛乳を、」
と、開封したパックから鍋へ直接注ごうとする男の腕を、ヒナイチは目にも留まらぬ速さで掴み、牛乳を奪い取る。
「わっ、おい何だよ急に、」
「ロナルド」
「
……
な、なんすか」
歳の離れた実兄や声量のデカい部下におやつを盗み食いされた時の如く、緑の眼を据わらせてロナルドを見上げるヒナイチ。気圧されたロナルドが思わず敬語で返したのに対し、彼女はドスの利いた声で続けた。
「牛乳は、計量カップを使って入れろ。砂糖もだ。計りで必要な量を確認してから加えるんだ」
「えっ、でも動画とかではドボドボって入れたりするし」
「いいから、計れ」
「ドラ公とかマスターとかもオリーブオイルを上からサーって注いだりしてるし」
尚も食い下がる男のジャージの首元を左手で絞め、眉を吊り上げた吸血鬼対策課の副隊長が再度告げる。
「は、か、れ」
「
…………
はい」
スイーツの命運を背負ったクッキーモンスターの迫力に、気圧された吸血鬼退治人は両手を挙げて頷くのだった。
◇
バタン、と冷蔵庫の扉が力強く閉じられる。
「よーし、後は冷やすだけ
……
だよなヒナイチ?」
「
……
ああ。一時間も冷やせば、ちゃんと固まる筈だぞ」
「そっか。楽しみだな!」
「うん
……
」
冷蔵庫を眺めながらロナルドが嬉しそうに笑う。その姿を横目で見ながら、ヒナイチはシンクの縁に体重を預け、一仕事終えた後の疲労感と余韻に浸っていた。
――
今回の製菓を通して、ドラルクがロナルドに料理をさせようとしない理由がよーく分かった。
ロナルドは何でか、レシピ通りの料理ができない。分量はヒナイチが必死に言い聞かせたことで計ってくれたが、他にも色々な事をしでかそうとしてくれた。「もっと火ぃ強くした方がよくね?」と牛乳を温めている火を中火から強火に変えようとしたところを、ヒナイチがアームロックで止めたこともあった。砂糖とゼラチンを溶かし切った後、氷水の入ったボウルで鍋ごと冷やしている間に「やっぱり何かアレンジした方が」と棚からターメリックや黒胡椒やハバネロペッパー等のスパイスを何も考えずに持ってきて、その中にあったセロリシードのラベルに奇声を上げながら自滅したこともあった。(当然ながら、ロナルドが持ってきたスパイスの使用は全て却下している)
スイーツ絡みで心身にブーストがかかっているヒナイチですら軌道修正に苦労したのだ、ロナルドを力ずくで制止することのできないドラルクが彼に調理をさせないのにも頷ける。
でも、まぁ。
「本当に助かったぜ、ヒナイチ。ありがとな!」
「
……
気にするな! 私も楽しかったぞ、ロナルド」
実の兄妹とお菓子に関する記憶は苦い敗北と屈辱ばかりだったヒナイチにとって、姉弟のような二人で製菓をするのは本当に楽しい体験だった。ドラルクの料理に居合わせ手伝いと味見をしてきた経験で、ロナルドを助けることができたのを純粋に嬉しく思う。
時刻は午後の十六時半。あと一時間と少し、ドラルクとジョンが起きてくる時間にはミルクプリンもすっかり食べ頃となっているに違いない。
「やべ、緊張してきた
……
ジョン、喜んでくれるかなぁ」
「ロナルド
……
大丈夫だ、自信を持て!」
少し不安げな表情を浮かべてそわそわしているロナルドを鼓舞するように、広い成年男性の背中を軽く叩く。味は良く言えば安定した、悪く言えばありきたりなものになるだろうが、心をこめて作ったお菓子だ。
「色々あったが
……
お前の何かしたいという気持ち、私には十分に伝わったぞ。ドラルクもジョンも、きっと喜んで食べてくれるさ」
「ヒナイチ
………………
ん?!」
励ましの言葉に顔を綻ばせかけたロナルドだが、数秒の間を置いた後、驚愕の表情を浮かべてビクンと直立に飛び上がった。水槽の魚みたいに口をぱくぱくさせる彼の姿に、してやったりの気分になったヒナイチは笑う。
「ど、どどどどーしてそこでクソ砂が出てくんだよ!」
「ふふん、相変わらず素直じゃないなロナルドは! 私にまで隠すことないだろう?」
「だ、だから何のことだよ!」
「照れるな照れるな。分かってるから」
ほんのり顔を赤くした彼の肩を、ぽんぽんと叩いた。
ミルクプリンのレシピが載っていた雑誌。先日彼の頼みを受けた時、切り抜かれた元のページに「吸血鬼も人間も一緒に美味しく楽しめる! 簡単手作りスイーツ特集」という見出しが書かれていたのを、彼女はちゃんと記憶していた。ロナルドが牛乳をメインに使い、なるべく固形物の入らないものを選んだこと、胃腸の弱すぎる吸血鬼が口にするのを想定しなかったとは考えにくい。
六〇〇ミリリットルもの牛乳を使って作った合計八個のミルクプリン。ジョンがたくさん食べることを考慮した数だとしても、その中の一つをロナルドの最も近くで暮らす吸血鬼へ渡すことは何らおかしなことじゃない筈。
「友達に手作りをあげるのはちょっと緊張するのは分かるぞ。私もこの前、サンズに友クッキーを無事渡せるか不安だった。凄くドキドキしたんだ」
「それは自分で食べちゃうかもってドキドキでは?」
「ンンッ、だがちゃんと渡せたんだ! だからロナルドも心配することも隠すこともない。いつもドラルクを殺す時のように、堂々とぶつかっていけ!」
「お、おぅ
……
ともだち、か
……
友達なら、普通に渡しても、いいんだよな
……
」
額に手を当てて俯き深く息を吐いた後、ロナルドは何処かすっきりしたような表情でヒナイチへ向き直る。
「ありがとなヒナイチ、励ましてくれて。ま、まぁジョンのついでだけど? あいつにも正面から渡してみるぜ」
「ああ、健闘を祈ってるぞ!」
親指を立てて頷いた彼女は、非番中の出来事を報告書に記すことを決めた。監視中の吸血鬼と退治人が仲良くすることはいい思い出、もとい重要な記録となるに違いない。
食べ頃になったミルクプリンの感想も、ドラルクたちの反応も、しっかり書いて残しておかなければ。
◇
――
さて。キッチンで洗い物を済ませたあと一度床下の別荘へ帰宅し、ドラルクたちが起きてくる頃合いで事務所へ再訪してみれば。
「チクショー俺はもうダメだーーー!」
「ヌー
……
!」
「ちんっ?!」
リビングの扉を開けた先のダイニングキッチンには床に突っ伏すロナルド、おろおろと泣いているジョン、そして塵山と化したまま震えているドラルクの姿があった。
「ど、どうしたんだみんな!」
「ゔぅ
……
聞いてくれヒナイチ」
よろよろと立ち上がったロナルドが、目元を擦りながら涙声で答える。
「ドラ公の野郎、ミルクプリンを一口食べた途端に黙って死にやがった
……
!」
「ちん?! そんなバカな
……
!」
まさかの事態にヒナイチも混乱する。よもや、ゼラチンで固めただけの柔いお菓子にも負ける胃なのかドラルク。
……
それとも。嫌な予感がしたヒナイチは半眼で静かに弟分を見遣った。
「材料に吸血鬼の毒になるものは使っていない筈
……
なぁ、ロナルド」
「な、何だよ」
見上げて先にある青年の目が泳ぐ。これは、明らかに。
「お前、私が外した後に何かしたんじゃないか?」
「そっそそそんなわけスミマセンしました!」
真顔で戦闘の構えを取ったヒナイチに観念し、とうとうロナルドが己の非を認めた。挙げた両手の内、左の掌には絆創膏が貼られており、結構な無茶をしたらしい。
「怪我までして
……
一体何をやったんだ」
「えーと、その、ちょっと
……
少し、ち、」
「ちん?」
首を傾げるヒナイチの視界の端で、急にざらざらと塵が波形を描くように激しく上下する。相変わらず黙っているドラルクを一瞥したロナルドは軽く咳払いをして、微妙に上擦った声で言葉を続けた。
「ちょーっとアレンジでイチゴジャム的なものを、な? 固まりきる直前に入れたら
……
ドラ公がこうなった」
「ちん
……
」
呆れてものが言えなくなるとはこのことか。口に馴染み過ぎた稚児を無意識に呟いたヒナイチは、がっくりと肩を落として溜め息を吐く。
「ロナルド、お前は本当にどうして
……
レシピ通りのままで良かった筈だろう?!」
「ウエーンすみませんでしたぁ!」
「他の奴は無事なんだろうな? 私が食べる分は?!」
――
不幸中の幸いというべきか。犠牲となったのは一個のみで、他の七個は手つかずのまま無事の状態で冷蔵庫に収まっていた。中途半端なロナルドの小心が今回は働いて、被害を最小限に抑えたのだろう。
多めに作っていたお陰で、事務所メンバー全員が改めてミルクプリンを食べることができた。再生して別の一個を恐る恐る口に入れたドラルクもその後は死ぬことなく器を空にし、すっかり上機嫌の様子で「ロナルド君がお世話になったね、ヒナイチ君。どうもありがとう」と笑っていた。その後「保護者面かよ」と言いながら肘打ちを喰らわせたロナルドに殺されたが大して気にした様子もなく調子外れの鼻歌を歌っていたので、本当に嬉しかったのだろう。
それから、ドラルクはチョコチップたっぷりのクッキーを焼いてくれた。とても美味しかった。
色々あったが今日も充実した良い一日だったと、お土産に貰った最後の一枚を口に入れながらヒナイチは振り返るのである。
◆
クッキーの詰まった袋を持ったクッキーモンスターが巣へ帰った後のロナルド吸血鬼退治事務所。
「あー、ロナルド君。色々言いたいことはあるのだがね」
「っ」
「まず果物ナイフを自傷に使うな。ジョンがびっくりするだろうが」
「ヌー」
「う、それは悪かった、よ」
「それから最近は吸血鬼向けの料理を出すにも色々制度が必要になってるから、そういうアレンジをしたいなら私に一言相談しろ。同意なしに喰わせると最悪しょっ引かれるからな吸血鬼退治人」
「うぐぅ
……
わ、分かった
……
」
「そして、私が死んでから言葉も出なかった理由、」
「いやそれは分かってる、悪ぃ、ちょっとした悪戯心っていうか魔が差したっていうか
……
とにかくもうしねぇ」
「ファーやっぱり誤解しとるわバカ造が。単に不味かっただけならすぐ顔を出して心の限り罵倒してやったわ!」
「あぁん? つまり言葉も出ないくらい不味かったんだろ言わせんなよクソ砂」
「アホ、完全に逆だ逆! 人間でもよく言うだろう
……
『死ぬほど美味い』って!」
だからもうちょっと味見、とふやけた絆創膏を剥がそうとした吸血鬼の脳天を、顔を真っ赤にした退治人の手刀が炸裂し、アルマジロの泣き声が響いたのだった。
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