紫輝
2025-05-05 10:05:05
5939文字
Public リとヌと御仔の話
 

日刊うちの仔可愛い

リとヌと御仔の話の~2500字くらいまでの短編のまとめです。全然全く日刊ではない。思いついたら増えます(最終更新:10/18)


#02

「君に大切な話がある」
 この重要事項を、一刻も早く彼に共有しなくては――その思いを胸に帰宅し、迎えたリオセスリ殿に切り出すと、彼はその瞳を細めて僅かに背筋を伸ばす。
「わかった。場所は変えなくても?」
「ああ。むしろここでなければ」
 暗に息子に聞かせて良い話かを慮るリオセスリ殿にそう答えると、不思議そうな表情が返る。それでも聞く姿勢は崩さない彼はやはり聡明だ。つがいの有能なるが嬉しくて思わず緩みそうになる表情――この私がこのような感覚を覚えるとは思わなかった――を取り繕い、先に彼がしたように、今は木製のブロックを積み上げて遊んでいる息子へと視線を送る。
「レヴィ」
「あい」
「お前がいつも、明るい時に過ごしている場所はどこだっただろうか」
 こてりと傾ぐ首。うんと、とこぼれる声。ああ、今日もうちの仔は可愛い。容易く緩んでしまった顔で答えを待っていると、ぱあと笑ったレヴィは元気にその愛らしい声を響かせる。
「めるるもにゃ!」
………は?」
 傍らから放たれたそのたった一文字には、普段の彼が滅多に覗かせることのない動揺と驚愕がこれでもかというほど乗っていた。見開かれていた氷色の瞳が閉じ、深く呼吸する音が聞こえて。
 ふわ、とどこからともなく凛流の監視者が現れる。レンズに似た機構の側方に付いているランプは青色に点灯していた。
 氷色を覗かせたリオセスリ殿がにこりと笑んで。
「レヴィ、ごめんな。ちょっとよく聞こえなかった。こっちに来て、もう一回教えてくれ。明るい時はとうさまとどこにいるんだい?」
 大きな手でレヴィを招き首を傾げる。大好きな『パパ』の招きにぱたぱたとこちらへ寄ってきたレヴィは、勢い余ってリオセスリ殿の胸に突撃してから(可愛らしい)ぼくはね、とその口を開く。
「あかるいときはね、とうさまとめるるもにゃにいるの!」
「100億点満点…………
 可愛い、最高、天才、と脈絡のない呻きを発しながらレヴィを抱きしめる、この仔に関連した事柄でなければ見ることのできないリオセスリ殿の感極まりぶりにふふんと笑った。
「大切な話だっただろう?」
「めちゃくちゃ大切な話だった迅速な共有に感謝するよ、ヌヴィレットさん」
「今日突然言い出したものだから、私も些か驚いてしまってな。書類を一枚駄目にしてしまった」
 じわりと洋墨の滲んだ書類に普段ならばため息の一つでもつくところだったが今回は事情が事情だった。先のリオセスリ殿の如く一頻りその衝撃と愛らしさを噛み締め、口角を上げながら文面を打ち直す私の様はさぞ滑稽だったろうが、「とうさまうれしそうだね」とレヴィが笑っていたのでそれほど見苦しい顔は晒していなかったのだろう。恐らく。希望的観測ではあるが。
「書類一枚で済んでよかったな」
「全くだ」
 束でいってもおかしくなかった、顔を見合わせて肩を振るわせ、『天才』の息子の頭を撫でた。