nuka_boshi
2025-04-24 15:30:16
28180文字
Public 利吉さんで賽殺しパロ
 

【RKRN】転生したら母親が伝子さんだった利吉さん その7【シリアス死ネタ】

遂に最終章です!!
冒頭から利吉さんが曇ります(ネタバレ)。
やったねあとはゴールするだけだよ!

前回の伝子さんに関しては割と罪滅ぼし編のレナ概念で書いてます。本作のメインヒロインは伝子さん。筆者は伝子さん過激派なので、汚いレナとか言ったら怒ります。
とはいえジェネリック伝子さんな上に、伝子さん視点だと実の息子ではない相手への対応なので原作伝子さんとは明らかに行動の内容が違いますね。

ちなみにエピローグ後にTipsを用意する予定なのですが、結構長い内容になりそうで戦慄してます。どうしてこうなった。
たぶん前回唐突に差し込まれたベルンの詩は誰が読んでいたか、Tipsでほんのりわかるかもしれません。……元ネタ履修勢じゃないと意味わからない可能性大だけど!!



エピローグ サイカイ


 この懐かしい室町の世で目を覚まして、早いもので数ヶ月。久しぶりの里帰りを終えた私は、土井半助の孤児院へ向かっていた。
 さあっと流れる風が、痛む傷口をやや乱暴に撫でながら、ありふれた景色の中を駆け抜けていく。木々の騒めきも、揺れる木漏れ日の煌めきも。――既に充分知っていた筈の『当たり前の景色』が、今更ながらに愛おしい。異界とも言える光景を見てきた私にとって、今この何でもない光景を、肌で感じ、耳にすることの鮮烈さは、きっと何にも変え難い輝きがあった。
 先に結論から言おう。久しぶりに帰郷した私は、母にこれでもかというほど徹底的にしごかれた。土砂崩れに巻き込まれた時の怪我より、後遺症の残る右脚よりも、今現在痛むのは母から負わされた傷の方であるという事実が、どれだけ私がコテンパンにやられたかをハッキリと示している。そりゃあれだけの醜態を晒したのだから当然だと思う一方で、一応怪我人なのだから少しは加減をしてくれと嘆く情け無い自分がいた。まあ、そんな弱音を聞いてくれるような人ではないのだが。――けれど、ボロ雑巾の様になって倒れ伏す私に、微笑みに涙を乗せて「おかえりなさい」と告げる母の声を聞いた瞬間、そんな不満はすぐに吹き飛んだ。父からは「あまりに単純すぎて見ていて不安になる」などと呆れられたが、あんな経験をしたのだから無理はないと思って欲しい。きっと、このヒリヒリを肌を刺激する痛みすらも、愛情の証だ。
 ――――令和という、私の知る人々と似て非なる人々が住む幻の世界の事は、結局の所本当に夢だったのだろうと思う。思い詰めすぎて頭がおかしくなってしまった私が見てしまった、架空の夢物語。だから、あれ以来夢の話は殆ど口にしていない。……けれど。だからと言って全てを無かったことにするつもりは毛頭なかった。夢は、夢。選ばなかった世界だから、あの世界は夢と消えた。だから、誰にも理解されないし、『なかった』ことに変わりはない。
 ――――それでも。あの世界で悩んだこと、苦しんだこと。そしてその末に学んだこと。それらは決して無へと還ったわけではないのだと思う。私が忘れない限り、私が私の人生を歩む限り、――信じる限り、きっと消えたりはしない。
 だから――忘れないようにしようと誓った。ずっと閉ざしていた瞳を開いたその時見えた光景の暖かさを。ひとりでは成し遂げられない事ばかりの私を支えてくれた、もういない世界の人々のことを。……お陰で、この現実の滝夜叉丸の名を聞くと何とも気まずい気分になって、つい目を逸らしてしまうようになってしまったのだけれど。そのせいで滝夜叉丸が死んだという噂が変な方向に加速しているらしいと聞いて、本当に申し訳なく思うけれど、もうそれは仕方がない。……すまない、滝夜叉丸。
「あっ、利吉さ〜ん!」
 能天気とも呼べる朗らかな声に呼び止められ、私はふと振り返る。そこに居たのは見覚えのある顔だ。……そういえば、こうして顔を合わせるのは久しぶりな気がする。思えば目覚めて以降、お互いバタバタしていて顔を合わせる機会が無かったし、あの夢の世界でも彼の姿は無かった。だから、彼の――小松田秀作の気の抜けた笑みを見るのは、本当に久しぶりのことだった。
「小松田くんじゃないか。父上の使いか何かかい?」
「はい。土井先生に荷物を届けるように言われててぇ……。それより利吉さん、お久しぶりですー! ……ぎにゃっ!?」
 駆け寄って来るのに夢中になっていたのか、小松田秀作は自分の足に足を絡めるという器用な転び方を披露ひろうする。――やれやれ、相変わらずだな。仮にも忍者を目指していて受け身すら取れないなんて、全くどうかしている。私は半ば呆れながら、彼の手から離れてそらを散歩する手荷物を捕まえた。
「相変わらずそそっかしいな君は」
「えへへ、すみませ〜ん」
 へにゃっと緩い笑みを浮かべる彼に、私は深くため息を吐く。
「もう少し気を付けてもらわないと。――――私もこの脚じゃ、もう助けてやれないかもしれないんだから」
 言わなくて良い言葉がポロリと口から飛び出した。これまで、後遺症の残る脚の怪我の事は、自ら話題にする事は殆ど無かった。相手に気を遣わせるだけだと分かっていたし、何より荒れていた頃は怪我の話は私にとって埋火うずめびのようなもので、触れられたくない、踏み入ってほしくない類の話題だったからだ。だから、自暴自棄になって全てを洗いざらいぶちまけてやろうとした時――つまり例の夢の件以外で、この話題を自ら口にした事は一度も無い。
 ……あの夢を思い出していたから、気が緩んでいたのだろうか。私はどう誤魔化したものかと口籠る。
「あっ……いやその……
「はい? 利吉さん、何か言いましたぁ?」
 満面の笑みと共に首を傾げられて、私は唇をきゅっと真一文字に引き締める。――聞こえてないんかい。イラっとしながら「なんでもない」と返すと、小松田秀作は「あーっ、荷物ありがとうございますーっ!」と暢気のんきに笑みを浮かべた。
 彼は昔からこういう男だ。天然で、どこまでも自由奔放。かと思えば妙にたくましくてまっすぐ。……こういう喩えはガラじゃないと分かってはいるが、 蒲幺草たんぽぽのようなヤツだなと思う。風が吹けばプワプワと飛んでいく、頼りない男。そのクセ一度根を下ろすと、風雨にさらされようが道行く人に踏まれようが、テコでも動かない頑固者。けれど花を咲かせ終えるとまたプワプワと飛んでいく。そんなヤツだから、……ハッキリ言って私は彼がどうにも苦手だ。大真面目に向き合えば向き合うほど、こちらの手をすり抜けプワプワとどこかへ飛んでいく。そのクセ変なところで真っ直ぐに私にぶつかってくるものだから、おざなりな対応もできない。せめてどちらかに偏ってくれればまだ対応のしようもあるのだが、兎にも角にも彼に関わると調子を外されてばかりなのだ。
 とはいえ、あの世界で姿が見えない事に気付いた時、どう生きているか知りたいと思った数少ない人物の一人でもある。苦手意識と同等程度には、友人としての好感もあるのではないかと思う。……多分、恐らく、きっと。
「あっ、そーだ利吉さん。聞きましたよ。土井先生の職場、手伝う事になったんですって?」
「あぁ、その件か」
「ちぇーっ。残念だなぁ、せっかく利吉さんと一緒に忍術学園で働けるかと思ったのにぃ」
 ぷぅっと唇を尖らせて不貞腐ふてくされる小松田秀作に、私はあははと笑う。――そう。両親と土井半助と共によく話し合った結果、私は暫くの間土井半助の孤児院を手伝う事に決めた。社会復帰の為だの奉仕活動だのといえば聞こえは良いが、実際の所はコネで雇われた家事手伝いのようなものである。
 当初、この選択について両親は(特に母は)難色を示した。いくらきり丸や土井半助が問題無いと言った所で、自らの子を捨てるような真似をしようとした事には変わりない。親の居ない子供達と接する間に、己の過ちに対する罪悪感がまた顔を出し、私を責め苛む事は当然あるだろう。それならばまだ、忍術学園で事務仕事をした方が精神衛生上マシと言えるだろう。私の選択は、茨に閉ざされた道を素手で掻き分けて進むようなものだ。決して平坦ではない道を自ら選ぶと決めた事に、皆が驚いたのは記憶に新しい。
 ――けれど。一度間違えてしまった私だからこそ、子供達に教えられることもある筈だと、私はそう主張した。あの夢の中で伝子さんが、そして滝夜叉丸が教えてくれたことを、今度は私が繋いでいきたい。あの夢の中で乱太郎としんべヱを通して学び直したことを、ちゃんと形にしていきたい。そう思ったからこそ、曲げなかった。
 難色を示す両親とは裏腹に、私の決意を後押ししたのが土井半助ときり丸だった。特に土井半助は、私の選択に何かしら思う所があったらしい。両親を説得できたのは、彼の助力によるところが大きいだろう。……本当に、独りでは出来ないことばかりだと痛感させられる。
 きり丸は相変わらず飄々ひょうひょうとしたもので、私の一件を知っても態度を変える事は全く無かった。寧ろ私が土井半助の孤児院を暫く手伝うと聞いて、「そのまま正式採用されてくださいよ、土井先生に経営任せてるとあっという間に傾きそうで心配なんで。無駄な出費させないように、しっかり締め上げといてくださいね」などと言い出して土井半助を困らせていたほどだ。……正直、少し無理をしているのではと思わなくもなかった。ただ、アルバイトを手伝いながら彼と直接話した限り、どうもそういう雰囲気でもない。寧ろ何かしらに安堵しているような、前向きな感情を持っているように見える。――とはいえ、この辺りの心の機微は、彼との関係が深い土井半助や乱太郎達でなければ分からないだろう。慎重に見守っていくつもりだ。
「せっかく利吉さんと一緒に仕事できると思ったのになぁー」
 私が己の選択を心の中で反芻して思いに浸っている間も、小松田はまだいじけていたらしい。私は苦笑し、少しだけ意地悪な事を聞いてみる。
「やけに残念そうじゃないか。私が君の後輩になって教えを受けないのが、そんなに不満かい?」
 何が意外だったのか、彼はきょとんと首を傾げる。
「ほへ? ……あー、そっかぁ! よく考えたら利吉さんが事務の仕事やったら、僕が利吉さんに仕事教える事になるのかぁ! それは考えてませんでした」
 へにゃっと柔らかに破顔する彼に、私は思わずズッコケる。
「今まで気付いてなかったんかいっ!」
 勢いのままにツッコミを入れた私に、小松田は「えへへ、だってぇ……」とバツが悪そうに後頭部を掻いた。
「一緒に仕事するなら、これから利吉さんから忍者のこと沢山教えてもらえるなーって思ったら、そっちで頭いっぱいになっちゃって」
 思いがけない言葉に、今度は私が己の言葉を失う。
「あれ? ――僕、何か変なこと言っちゃいました?」
……小松田くん。……私は、その……もうプロの忍者でもなんでもないんだが……
「はい? あー、確かに今は、そうですねぇ」
「私は、既に忍者である事を諦めた身だ。そんな私から学んだ所で忍者には――
 胸中をざわりと掻き乱す感情を抑え、私は辛うじて言葉を紡ぐ。しかし小松田は、目の前でまるで花開く草花のような満面の笑みを浮かべて笑った。
「またまた〜、何言ってるんですか。どうせ利吉さん、すぐに復帰して忍者再開するつもりでしょ? 僕にだってそのくらいは流石にわかりますよ」
――――え?」
 何を言っているのか分からず呆然と開口して立ち尽くす私に気付く事もなく、小松田は幼子に常識を教えるかのような口調で語り出す。
「だって、利吉さんって冷静っぽく見えて全然そんな事ないし、意外と子供っぽいし、優しい割にはすぐ怒るし。あととんでもなく負けず嫌いじゃないですか」
 誰のせいだ、誰の。内心でツッコミを入れるも、言葉にはならなかった。
「そんな利吉さんが、何よりも憧れてて何よりも大事にしてるのがきっと忍者ですよね? なら――、そのうち『負けてたまるか』って怒って、あっさり忍者に戻ってると思いますけど」
 あまりにも予想外の言葉だったので、私は暫し茫然としていた。――考えてすらいなかった。そもそもプロの忍者という道は、私にとって一度は諦めたもので、過去のもので。……再びやり直す為に、視野狭窄きょうさくに陥らない為にも棄てるべきものだと思っていた。『山田伝蔵の息子』の肩書きを取り払った後にその道を選ぶなんて、考えもしなかった。
…………私は」
「ほぇ?」
「私は、……一度は諦めようとした身だ。私には無理だと、やってられるかと、そう投げ出して、それでずっと逃げてきた」
「ふーん、そうだったんですかぁ」
 私が必死に振り絞った言葉に対し、彼は何の感慨も示さない。昨日の夕餉ゆうげの内容を聞くかのような、適当な相槌あいづちだ。
……私は、君が思ってるよりずっと弱くてみっともない男だった。きっと忍者としてやっていけるような人間ではないよ」
「へー、利吉さんでもそんな風に弱気になる時もあるんですねぇ」
…………幻滅、しないのか?」
 あまりに当たり前のように流すものだから、恐る恐るそう尋ねる。小松田はほんの少し意外そうに目を見開いたあと、楽しそうに笑った。
「まさか。利吉さんみたいなフリーの売れっ子忍者は僕の憧れですもん。憧れってそう簡単にポイ捨てできないじゃないですかぁ〜」
 その瞬間、私の胸に去来したのは――謂わば突風だった。
「だって僕も忍者目指してて、でも全然向いてなくて諦めようとした事ありましたけど、結局諦められませんでしたもん。憧れって、そういうものでしょ? 僕より負けず嫌いな利吉さんが、諦めるなんて無理に決まってるじゃないですか!」
 ――嗚呼。お前は馬鹿か、山田利吉。この男が 蒲幺草たんぽぽのよう? お前の目は節穴か。そんな――そんなありふれた野草のわけがないだろうに。
 きっとこの男は、風だ。とらえ所がなく、手を伸ばしても捕まらない。その癖、周囲を巻き込んで回りながら天へと昇る、旋風つむじかぜ。凪いだ空気を破り捨て、何もかもを巻き込んで、どこまでも飛んでいく。
「それに、忍者って諦めないド根性が一番大事なんでしょ? だったら、プロとしてずっと売れっ子忍者してた利吉さんは、僕よりずっと諦め悪いに決まってるじゃないですか!」
 ……なんとなく、私が何故この男を苦手としていたのか、今ようやく分かった気がした。彼は、どこまでも私とは違うからだ。京育ちで、ヘッポコ事務員で。見栄や虚勢なんて何もない癖にへっちゃらで能天気で。十を聞けば九忘れる、残念な男。けれど、きっと彼の覚えるたった一つは、取り溢してしまう九つよりも遥かに大切なことばかりなのだろう。当たり前に私の持たないものを手にしていて、当たり前に本当に大切な物だけを拾い続け、そのクセ無自覚に、私の作った凪いだ虚勢強がりを全て破りながら高く舞う。――必死に背を伸ばし、理想の忍者であろうとした私にとって、その虚像を引っぺがしてこちらを巻き込む彼は、まさに天敵という他ないだろう。
――――くっ、ははっ。あはは!」
 思わず、笑いが込み上げた。そりゃ苦手なわけだ。これまで受け入れたくなかった自分の弱さを、ずっと突きつけてきていた相手なのだから。多分私は無意識下で、この男に勝てないと思っていたのだろう。――己の弱さを受け入れられるようにならなければ、きっと気付けなかった。
「利吉さん?」
「あぁ、ごめんごめん。――そうだな、もしかしたら。……もしかしたらそういう選択もあるかもしれない、かな」
 私は不思議そうに首を傾げる小松田から数歩離れて先を歩き、そして振り返る。
「その辺りは、おいおい考える事にするよ。……今はやりたい事が多いからね」
 ――そう。今はまだ、選べない。このまま孤児院を手伝うのか、それとも他の職を探すのか。あの日、夢とはいえ伝子を殺し、世界ひとつを消してしまった事への罪悪感が消えたわけではない。――血生臭い忍者としての道を、もう一度割り切って進めるかと言われれば、自信もない。……けれど、それでも道はひとつじゃない。選ばなかった道の先にも、また道は続いていく。そして――小松田が言うように、私が本当に諦めないで強く望むのなら――もう一度、同じ道を歩む事もきっと出来る。今度は、『山田伝蔵の息子』ではなく、私自身として。私らしく、駆けていく未来もきっと在る。未来は空の向こうまで、ずっとずっと広がっている。自ら道を狭める必要は、何処にもないのだ。
 ――笑顔で居たいと、父や土井半助と同じ世界を見たいと思っていたあの幼い頃の自分に、戻っても良いのだ。きっと、独りでは届かない、迷い込んでしまう道も、――大切な人たちの手を借りて、或いは大切な人たちに手を貸して。そうやって、歩み続ければきっと。どんな道を選んでも、どんな未来を選んでも、夢見た景色に届く筈だと、今ならそう信じられた。だからこそ――、今度こそ、何を選ぶか大切に決めたいと思った。迷って悩んで苦しみ抜いて悩んで、真剣に選択して悩んで、そうして選び抜いた答えを、大切に使いたいと思った。
……えっと、よくわかんないですけど」
 よく分かっていない事を隠しもしない声音で、小松田は私を見る。
――忍者に戻ったら、きっと忍術学園の仕事に来てくださいね! 入門票へのサイン、待ってますからっ!」
 パッと笑顔を咲かせ彼は笑う。――もし、忍者として復帰する未来があるのなら。一番最初に選ぶ仕事を忍術学園関係の仕事にするのも悪くないなと私は思った。だって彼は、サインを求めにどこまでも追ってくるに違いないから。そうやって彼の差し出す入門票へサインを記し、そして父と向き合い、改めてやりたいと思える自分を始める。――それはきっと、今後どんな苦難に襲われても、自分を奮い立たせる大切な記憶として残る気がするから。
 だから、私は苦笑しながらとりあえず言うべき事を言った。
「その理屈だと、君、私が復帰するまでずっと事務員している事になるけど。忍者の夢は良いのかい?」
「へ? ――あぁっ、しまったぁっ!? い、今のナシ! 今のナシです!」
 あわあわと慌てふためく姿がおかしいやら微笑ましいやらで、私はまた声をあげて笑ってしまった。