nuka_boshi
2025-04-09 22:50:13
32255文字
Public 利吉さんで賽殺しパロ
 

【RKRN】転生したら母親が伝子さんだった利吉さん その6【シリアス死ネタ】

ようやくこの物語も大トロです。今回も利吉さんが曇ります(ネタバレ)。
大丈夫だと思いますが一応®️15Gくらいのつもりで読んだ方がいいかもです。
前回の最後のページでようやく主人公らしいメンタルを手に入れてくれた利吉さん。……物語の折り返し地点はとっくに過ぎてるんですが主人公ログインするの遅過ぎませんかねぇ……??(頭抱え)
主人公らしからぬ、ぐだぐだジメジメ悩んでばっかで大変な主人公ですが、ちゃんと彼には幸せになってほしいと思ってます。お魚、嘘つかない。

余談ですが前回の瞬間最大風速滝夜叉丸、直前の嘘エミュとの温度差が酷いなって読み返して初めて気づきました。いやだってウソついてるときの滝夜叉丸ってお魚の中ではどこに出しても恥ずかしい立派なカス野郎なので……(目逸らし
でもそんな滝夜叉丸が弱いとこ隠そうとあくせくしてるのが好きです。いつか彼を主人公にした話書きたい。多分利吉さんよりはメンタル強いので手加減殆ど無しで書ける気がするので。



 ――遠くで誰かの声が聴こえる。誰かの。いや、きっと伝子さんだろう。父には、伝蔵にはもうきっと二度と会えないから。
 それは遠い昔に何処かで聴いたような、暖かく、いつまでも聴いていたくなる優しい声。ひどく素朴で、そっと真綿で包み込むような柔らかな子守唄だ。いや、子守唄と呼ぶにはあまりにも素朴すぎる鼻歌だ。心に、いや全身に締め付けられるような哀愁あいしゅうと愛おしさを感じ、私はその歌声を手繰たぐろうとする。しかし歌声は私の手をすると抜け、どんどん遠くへ消えていく。
 するりと逃げていく歌声を手繰たぐりながら、私はぼんやりとしたまま、嗚呼前にも似たような事があったな、とにぶい思考を働かせた。
 ――これはきっと、夢だ。悪い悪い夢の、その先に見た夢。
 私は結局、元の世界には帰れなかった。けれど――、それでもきっと。挑んだ分だけ、悩んだ分だけ幸せになれるはずだから。そう信じたいから。――だから。例え二度と帰れなくたって、努力の果てに選んだ世界は、きっと何よりも尊い世界に違いない。
 挑むことに、戦う事に価値があるのだ。結果など、所詮その後の副産物おまけにすぎない。例えここが袋小路の終焉しゅうえんの先だったとしても、それを素晴らしいものにできるかは私自身の決意と努力が決める事だ。世界の誰もが私を不幸だと嘲笑あざわらおうと、構うものか。私は幸せなんだ。幸せに、なれるんだ。

 ――だから、ここから始めよう。

 目が覚めたら、太陽がまた昇り、山田利吉の素晴らしい日々が始まるのだ。
 まずは伝子さんに謝ろう。いっぱいいっぱい謝って、傷付けたことを謝って、そしてそこから今後どうしていくか話し合おう。
 乱太郎やしんべヱは、きっと大泣きするだろうな。何せ伝子さんを傷つけてしまったのだから。けれど、そんな二人を精一杯宥めて、彼らとまたやり直す為、忍術学園を開くのだ。乱太郎達のことだ、きっとその内たくさんの子供達を連れてくる事になるに違いない。賑やかで、破天荒で、胃が痛くなるほど振り回される日々が始まるのだ。勿論最初は上手くいかなくて、互いに失敗ばかりで頭を抱える事になるだろうけど。
 滝夜叉丸にも、ちゃんと謝らなくては。――けれど、滝夜叉丸はきっと、私の選択を分かってくれるだろうとも思う。だから、約束通りに二人で室町の頃の話題に花を咲かせよう。――勿論私は忍術学園生ではないから、共通の話題は少ないかもしれない。けれど、私だけが知っているあの頃の話、滝夜叉丸だけが知っているあの頃の話を互いに語り合えれば、それでいい。もしどちらかが忘れてしまっても、また教えあえるように。大切な思い出を、忘れたくない日々を、語り明かそう。
 ……病院にも行って、多分とんでもなく叱られるのだろうな。精神の病だとかなんとか言われて、気力を奪うような重い薬を出されて。少しずつ元の世界の記憶を忘れてしまうのかもしれない。――けれど、きっと大切な事だけは手放さない。最も輝ける思い出を、私は絶対に手放さないよう永遠に大事に抱え続けるのだ。
 そうしてそうして、家では沢山の愛情に包まれる。伝子さんが待っていて、二人で料理を作ったりして。――そうやって、少しずつ新しい日常を作っていくのだ。
 それはまさに理想の世界。和氏かしへきのように、傷ひとつない、十五の城と引き換えにするほどの価値を持つ――いいやそれ以上の価値を持つ、尊い世界。
 ――嗚呼、この世界はなんて美しいのだろう。

 だから――私は悔いなど無い。幸せになってやるのだ。だって私は最後まで戦った。勝てなくとも、山田利吉は戦い抜いた。――戦いの果てに掴んだ未来なら、例え勝てなくともそれはきっと最善だ。誰にもけがせやしない、尊いものだ。
 ……ただ、それでもひとつ。たったひとつだけ、心残りがあるとしたら。
 …………父上に、母上に。お兄ちゃんに、息子に。……もう一度だけ。せめてもう一度だけ、会いたかった、な……

 込み上げる想いは、それでも涙になることはなかった。だって、涙はもう流しきった後だから。

 だから、……山田利吉は、もう眠りについて良いのだ。『私』は、『山田伝蔵の息子』は、もう……眠ってしまうべきだ。

 おやすみ、……みんな。
 おやすみ、…………『私』。

 目が覚めたら、きっと。
 目が覚めたなら、……きっと。

 私はそれだけを願い、意識をそっと手放した。優しい充足じゅうそく感と微睡まどろみに包まれて、穏やかな気持ちで眠りについた。
 また、明日。目が覚めたら。
 そう願いながら。
 ――そして次に目が覚めた時、世界は何もかもが変わっていた。――――変わって、しまっていた。