nuka_boshi
2025-04-09 22:50:13
32255文字
Public 利吉さんで賽殺しパロ
 

【RKRN】転生したら母親が伝子さんだった利吉さん その6【シリアス死ネタ】

ようやくこの物語も大トロです。今回も利吉さんが曇ります(ネタバレ)。
大丈夫だと思いますが一応®️15Gくらいのつもりで読んだ方がいいかもです。
前回の最後のページでようやく主人公らしいメンタルを手に入れてくれた利吉さん。……物語の折り返し地点はとっくに過ぎてるんですが主人公ログインするの遅過ぎませんかねぇ……??(頭抱え)
主人公らしからぬ、ぐだぐだジメジメ悩んでばっかで大変な主人公ですが、ちゃんと彼には幸せになってほしいと思ってます。お魚、嘘つかない。

余談ですが前回の瞬間最大風速滝夜叉丸、直前の嘘エミュとの温度差が酷いなって読み返して初めて気づきました。いやだってウソついてるときの滝夜叉丸ってお魚の中ではどこに出しても恥ずかしい立派なカス野郎なので……(目逸らし
でもそんな滝夜叉丸が弱いとこ隠そうとあくせくしてるのが好きです。いつか彼を主人公にした話書きたい。多分利吉さんよりはメンタル強いので手加減殆ど無しで書ける気がするので。

六章 月無き夜の選択


 日が昇りきる前に、私は乱太郎たちと別れ家路へ着いた。乱太郎たちは名残惜しそうにしていたが、丁度乱太郎には午後から用事があったらしい。渋々といった様子で、「また今度」と何度も手を振っていた。……今の私にはその言葉に返せる言葉の持ち合わせがないという当たり前の事実が、胸をちくりと刺激する。
 ――また今度、だなんて。私の選択によっては永遠に来ないものだというのに、この子たちは知るよしもないのだ。「気を付けて帰るんだよ」とだけどうにか応え、そして二人の背が見えなくなってから「さよなら」と、静かに告げる。……いずれ選ぶ未来がどんなものだったとしても受け入れられるように。悔いることのないように。誰にも届かぬものであっても、たとえ自己満足であっても、どうしても言っておきたかったのだ。
 ――だから、家に帰った時。扉を開けた途端鼻を突いたバターの香りに、私は胸が締め付けられるような想いを味わった。
 山田伝子が鼻歌混じりに作っていた料理は、明らかに私の知るものだったから。
 ――オムライス。『山田利吉』の好物で、伝子にとっては親子の絆を示すもの。私がこの世界にきて、初めて彼女にご馳走された手料理。
「あら、お帰りなさい、利吉。思ったより早かったのね」
 ――ああ、オムライスは二度目に作ったものの方が美味しい、だったか。そのこだわりの為、少しでも美味しい料理を食べてもらおうと早めに昼食を作り始めたのだろう。
……実は午後から少し行きたい場所があったので」
 胸に込み上げてくる想いをそっと押し込めながら、私はただそれだけを返す。
 ――ああ、違うのに。こんな風に素っ気なくしたいわけではないのに。
 私の心中など知るよしもない伝子は、ふんふんと鼻歌を歌っている。私は暫しの間何も言えず、ただそれを聴いていた。その歌に、あまりにも聞き覚えがあったから。
 この世界で目覚める直前。私はこの歌を確かに聴いた。――遠い昔に何処かで聴いたような、暖かく、いつまでも聴いていたくなる優しい声。ひどく素朴で、そっと真綿で包み込むような柔らかな子守唄。ずっと前から知っている、誰のものかもわからないこの歌を、私は確かに聴いたのだ。
 ……ならば、この歌は伝子の歌だった? この身体の持ち主である『山田利吉』の記憶が、私にそれを思い起こさせた?
 ――――違う。もし元の身体の持ち主と記憶を共有できるなら、日常生活だって他のことだって、もっと思い出せて良いはずだ。だからきっと、私がこの歌を聴いたのはもっと前。室町の、元の世界で幼い頃に聴いたもののはずで。
 あっ、と合点がいった。
 聞き覚えがあるのは当たり前だ。だってこの歌は、室町かつての世界に残してきた本当の父――山田伝蔵の子守唄なのだから。
 仕事で忙しい父上が、時折こうして歌ってくれた。覚えていて当然の、寧ろ何故忘れていたのかと自分自身をただしたくなるような話だ。……当たり前すぎて、きっと見落としていた。もしくは、私がどうしようもないくらい頑なに目を背けていたから、思い至らなかった。――――ただそれだけの、話。
 かつて、滝夜叉丸は言った。想いに触れようとするならば、そこに想いが――愛がなければ絶対に見えない、と。ならば、私が今になって気付いたその全ては、愛があればこそ見える世界。――元居た世界とは全く違う、この残酷なまでに優しい世界で、私はようやく見つけることができた。私が今まで逃げ続けていた場所にあった、強い絆と温もりを。
 …………だから。私は覚悟を決める。
 もう、逃げ出さない為に。全てを拾う為に。そして――――どちらの世界を選ぶか、決める為に。
 手探りでも、もう見落とさない。拾える全てを、この目に焼き付ける。
 それがどれほどこの胸を鋭くえぐる内容だろうと、もう目を背けたりはしない。…………その覚悟を。
「利吉、そろそろお昼できるから手を洗ってらっしゃい」
――はい。……ところで、伝子さん。ひとつ、お願いがあるんですが……
 私がその内容を告げると、伝子は驚き目を見開いた。困惑する伝子に、私は「聞いてくれないなら私も食べませんからね、オムライス」とすまし顔で告げ、手洗い場に向かう。――意地が悪いと思われただろうか? けれど、これだけは譲れない。
 私が伝子に頼んだのは、極めて単純なことだ。――最初に作った分のオムライスと、二度目に作ったオムライス。それを、半分ずつに分けてほしい。……ただそれだけ。あまりに単純すぎて、伝子が戸惑うのも無理はない。仮に何の為と聞かれても、くだらない自己満足だとしか答えられない。――――けれど。この身体の持ち主だった『山田利吉』の本当の想いが何処にあったのか、今の私には分かると思えたから。何より、――私自身がそうしたいと思ったから。私にだけでなく、目の前の彼女自身にも、美味しいオムライスを食べてほしいと思ったから。同じものを、同じ様に食べたいと思えたから。だから、これだけは譲れないのだ。
(きっと…………君もそうしたいと思っていたんだろう? なあ、『山田利吉』――
 効率がどうとか、冷めてしまっては美味しくないとかはきっと言い訳で。伝子が『おいしい』と自信をもって言えるものを、彼女自身にも食べてほしかった。二人で同じものを同じように分かち合いたかった。きっとそれだけ。……たったそれだけ。ただそれだけの言葉が、見栄だとかプライドだとかに邪魔されて言えないままだったのだろう。だから、別々に食べるかまとめて作った方が、などと言い訳を並べて。――その裏で、本音を言えないもどかしさを感じていたのだろう。
――――だから、他でもない私が伝えるんだ)
 この身体の持ち主だった『山田利吉』が本当にやりたかったことを、彼の代わりに私が言おう。見栄だとかプライドだとかを捨て、ありのままの自分で伝えられるようになった今の私にしか、できないことだから。それが、『山田利吉』の身体を奪ってしまった私が、『山田利吉』にしてやれる唯一の事だから。――なにより、私自身が、そうしてみたいと思えたから。
 私の想いがどこまで通じたかはわからない。わからないが、手を洗い終えた私を待っていたのは、半分ずつに切り分けられたオムライスと――それを赤くいろどるケチャップの絵柄だった。
――! これは――――
 私は小さく息を呑む。そこに描かれていた絵は、あまりに不器用でいびつだった。きっと、『山田利吉』のためには描いた事がない、馴れない絵なのだろう。ところどころ失敗気味で、初日のハートマークや私の名前とは出来栄えが雲泥の差だった。……手裏剣なんて、そう難しい絵柄でもないだろうに。
 四方手裏剣、八方手裏剣、棒手裏剣。もしかしたら、種類を調べて描いたのかもしれない。かつて、室町の世で忍者をしていた私の為に。『山田利吉』ではなく、他でもない『私』の為に。
「あぁ、これね。今日は手裏剣にしてみたんだけど……練習する時間がなくて上手く描けなくてね。利吉はこういうの嫌がるかしらって思ったんだけど……嫌ならスプーンでつぶしちゃっても、」
…………嫌じゃ、ないです……
 本当に、とんでもない人だと思う。こちらの精一杯の決意を軽々と越えて、当たり前の顔をしてこんな風に愛情を向けてくるのだから。いったいどれだけの人間が、こんな風に振舞えるのだろう。……それとも、私が目をつむっていたから気付かなかっただけで、親というのは皆そういうものなのだろうか。…………元の世界に残してきた本当の両親も、これほどの愛情をくれていたのだろうか。
 気付けば目から熱いものが溢れだしていた。――――大粒の涙に、私の心を搔き乱すありとあらゆる想いが凝縮されて、流れていく。戸惑う伝子を制し、私は笑みを作って答えた。
……ごめんなさい。……ありがとう、ございます。…………伝子さん」
 ごめんなさい。『山田利吉』を奪ってしまって、ごめんなさい。あの日、『山田利吉』への想いを踏みにじるようにオムライスの絵を台無しにしてしまって、ごめんない。――そして、ありがとう。こんなにも心を閉ざして逃げていた私に、真剣に向き合ってくれて。私を、こんなどうしようもない愚か者を――許すと言ってくれて、本当にありがとう。
 私は、きっと貴女が思うほど立派な人間にはなれない。――けれど。少しでも近付きたいから。近付けたらと、そう思うから。他の誰でもない、貴女のおかげで、そう思えるようになれたから。
 ――――だから、今だけは。今だけはどうか、このまま涙を流させてほしい。いずれ来る『その時』に、涙で決意がにぶらぬように。……『その時』に、既に涙が枯れている事を願うために。
……おいしい、ですね」
 泣きながら頬張ったオムライスは、私の涙で塩辛くて味なんてロクにわからなくて。そもそも半分は冷めてて。――――けれど。今まで食べたどの料理より、暖かくて美味しかった。何故、なんて。多分そんなものは口にするだけ野暮としか言いようがない。だって、そうだろう? どんな言葉でいろどってみせたところで、これほどの想いを前にしたら、きっと安っぽくて不釣り合いだ。
 私の様子を見て、彼女は穏やかに微笑むと、自分の手元にある方のオムライスに向けて板状の絡繰からくりを傾けた。カシャ、という妙な音が響く。
――あぁ、ごめんなさいね。せっかく利吉が半分分けてくれたんだもの。どうしても残しておきたくて記念に、ね」
 利吉まで写らないように気を付けたから大丈夫よと苦笑すると、彼女は自らの分のオムライスを口に運んだ。
「本当に、美味しいわね」
……えぇ、美味しいです」
 私と伝子は、何度も何度も美味しい美味しいと繰り返した。……きっと、彼女は何も知らない。私が何を思っているのかなんて、知る由もない。――けれどきっと、私たちはこの時間が限られたものだということを、……誰に言われずとも、察しているような気がした。だから、残り僅かな、限られた時間を大切にする為。互いに同じ言葉を繰り返している。――そんな予感がした。