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nuka_boshi
2025-04-03 18:53:21
26903文字
Public
利吉さんで賽殺しパロ
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【RKRN】転生したら母親が伝子さんだった利吉さん その5【シリアス死ネタ】
さて、漸くこのパロもメインディッシュと呼べるところまで来たのではないでしょうか。
個人的にはエピローグ含めてその8までで終わらせたい所ですが果たしてどうなるやら。
ネタバレですが今回も利吉さんがめちゃくちゃ曇ってます、というかここからはクライマックスまで曇ります。大丈夫、エピローグのイメージソングは『そらのむこう』なので。
ついでに今回は瞬間最大風速イケメン滝夜叉丸回です。滝夜叉丸のことほぼ知らない段階でこれやるの決めてた過去の私の本気をご覧下さい。……と言いたいところですが、予想外の事が起きて爆笑しながら書いてたのでいまいちシリアスやれてる自信がありません、すみません。
ちなみに前回の利吉さんの名付け理由ですが、アレ実は初期想定になかったのですが、伝子さんの性格考えるとあの場でビンタに繋げるの無理だなと途中で気付き、10分で慌ててでっち上げました。つまり苦し紛れの大ウソ、土壇場の勢いによるセリフです。……一応漢字の意味に関しては調べ直したから多分矛盾してないと思うんですが、あそこだけ浮いてしまってたらすみません。
1
2
3
4
5
――
もうすぐ、深夜二時。伝子がぐっすりと眠っている事を確認した私は、改めて家を抜け出す。昨夜のことがあって殆ど寝ていなかった為か、彼女の眠りは深いようだった。良かった、と本気で思う。夕食の時も、今も
……
叶わないと分かっているのに、これ以上彼女の優しさを踏み躙りたくないと、そう願わずにはいられない自分がいるから。
五色米の読み間違いでない事を祈りながら私は足早に歩く。昨夜と同じ公園へ。
――――
良かった、居た。滝夜叉丸は、今夜もまた、星空を眺めるようにして待っていた。気配に気付いたのか、視線をこちらへゆっくりと寄越す。
「
……
夕刻に会った時の様子で、察しは付きました。
――
辿り着いてしまわれたのですね。
……
貴方の壊すべきカケラに」
その言葉に。私は静かに頷くしか出来なかった。握りしめた
拳
こぶし
が、微かに震える。
「
――
ならば今度こそ、嘘偽りない貴方の本心をお聞かせください、利吉さん。
――――
それでも貴方は、室町の世を選べますか? 帰ることを望みますか?」
今度こそ、という言葉に私は息を呑む。
「私は以前こう問いました。『元の時代に帰りたいと思っているのですか? それとも、帰らなければならないと思っているのですか?』と。
……
そしてあの夜、貴方は嘘を吐いた。帰りたいのではなく、帰らねばならないと思っていたのに、それを偽った。
――
貴方が何故帰らねばならないと思い詰めているのか、私は知らない。しかし、本当の望みとは裏腹の事を願ったまま、本心を履き違えたままではきっと
――
後悔する結末しか得られないのは確かです」
「
…………
どう、して。どうしてあれが嘘だと、」
「お言葉ですが、利吉さん。私はこれでも嘘のエキスパートのようなものです。
――
私は元来、弱い人間だ。
……
天才でもなんでもない、たいして取り柄もない、人より何倍も努力しなくては何も満足に成し遂げられない、弱くてちっぽけな人間だった。ないない尽くしの、それでいてプライドだけは無駄にある、ろくでなしですよ。だからこそずっと、嘘を吐くしかなかった。『美しい自分』『なんでもできる天才』
――
そのような虚像で自らを騙さなければ簡単に折れてしまうから。
……
室町の世で忍術学園に入学して以来ずっと、私はそうして生きてきた。そしてこの世界でもまだ、こうして嘘を吐き続けている。合計十五年以上もの歳月を、見栄を張り嘘を吐く事に費やしてきたんです。
――
その私が、わからないはずがないでしょう。それも、私と同じ、他人に弱みを見せたくないが故の嘘だと言うならば尚の事」
彼の静かな声に、私は目を伏せる。
――
つまり彼は、最初からずっと分かっていたわけだ。私が必死に目を背けてきたことも、失敗を取り繕おうと『山田伝蔵の息子』の肩書きに縋っていたことも、
……
ずっと本心を告げていなかったことも。そして今更ながらに気付く。彼が私と二人で会う時。彼はずっと、私の知るあの騒がしい
自惚
うぬぼ
れ屋の平滝夜叉丸の口調ではなく、静かで穏やかな口調で喋り続けてきた。私はそれを、この世界で長い時間を過ごしたが故のものだと思ったが
――
そうではないのだ。だって、彼は最初に密会をした夜に言っていたではないか。『今夜は見栄の張り合いは無しです。互いに腹を割って話をしようではありませんか』と。
――
彼は、ずっと飾らずに本音でこちらに向き合おうとしていた。弱い自分を隠すための
鎧
よろい
を敢えて脱ぎ、ずっと私が本音で話すのを待っていた。
――
私はずっと、嘘を吐き続けていたというのに。
「
…………
すまない」
「謝罪は不要です。三木ヱ門とて言っていたでしょう。誰にだって隠したい弱みくらいあるものです。そもそも貴方は忍術学園生ですらなく、私との接点も薄い。そう簡単に心を許せる相手でも無かったでしょうから」
キッパリと言い切った滝夜叉丸は、「それで」と力強い口調で話題を変えた。
「
――
どうなさるおつもりですか? 何があったかは知りませんが、恐らく貴方のカケラは山田伝子その人だったのでしょう?
……
貴方は、結局の所どうしたいのです?」
その言葉に私は唇を噛み締める。それは、私が今最も聞かれたくなかった質問だからだ。
「昨夜も言った通り、室町の世の私達は既に死んだようなものです。今の貴方はかろうじて引き返す最後の
猶予
ゆうよ
を与えられているようなもの。そして、たとえ引き返さずとも
――
室町の世に戻らずそのまま死んだ事としてこの世界で生きても、貴方を責める者は誰も居ない。死は誰にでも平等に、突然訪れるものです。だから、貴方が考えていたであろう、帰るべき義務などどこにもない。あの世界の全てを夢として手放すというなら、それも尊重されるべきまた一つの選択です。当然、この世界をあくまでも白昼夢として割り切り、元の世界に戻るのも一つの選択。
……
そして、選択を放棄し、消極的にこの世界に
留
とど
まることもまた一つの選択ではあるでしょう。貴方には今、様々な道が示されている。だからこそ、聞かせてください。
――
貴方は、どうしたいのですか?」
「
…………
わからない」
私の言葉は、どうやら滝夜叉丸にとって予想通りだったらしい。彼は少し目を細めた程度で、驚きもしなかった。
「
……
伝子さんにも言われたよ。
――
『貴方が室町の世界に帰らなきゃいけないっていうなら、私もできる限り協力するから。だから、貴方自身を大事にして、そして貴方自身が幸せになれる道を探しましょう?』ってね。己の命が鍵だなんて知る由もないのに、ただ自分の息子の頭がおかしくなっただけど思っているに違いないのに
……
、それでもあの人は、私が幸せになれるよう、私の望みを最大限叶えようというらしい」
自嘲気味にそう告げると、滝夜叉丸は初めて動揺したのか、微かに目を見開いた。
――
滝夜叉丸にとっては、きっと信じられない事だろう。この世界の彼の母は、自分の子を返せと狂ってしまったというのだから。
「
――
それに、乱太郎としんべヱも。私に忍術学園を開いてくれと言ってきたよ」
「
――――
忍術学園を、ですか?」
驚いた顔をした滝夜叉丸に、私は苦笑する。
「この身体の持ち主の『山田利吉』は教師を目指していたらしいから、子供達を集めて私の知る忍術を教える学校を開いてほしいという話らしい。
……
元の世界に戻れなくても、室町の事を忘れずに、限りなく元の世界に近づける幸せな場所を作れるように。そして本来の『山田利吉』が目指していた教師になれるように。彼らなりに真剣に考えた結果らしい。ごっこ遊びの延長のようなものだろうが、
――
罪深い私には眩し過ぎるくらいだよ」
「利吉さん
……
」
「それを聞いて、どうしたいのかだなんて分からなくなってしまった。
――
どうしたらいいのかなんて、尚更だ。
……
私には
……
どちらも選び難いものだから」
これは流石の滝夜叉丸も、想定外だったらしい。呆然と立ち尽くしている。
――
だから私は、言わなければならないことを、告げるべき言葉をそのまま口にした。
「
……
だから、滝夜叉丸。
――
君が決めてくれ」
「
…………………
は?」
「今更かもしれないが、君はずっと私の意志を尊重し、支え続けてくれた。私が八つ当たりで酷い傷付け方をしても、尚。だから、今度は私の番だ。君には返しきれない恩がある。
――
それに、私だけが勝手に幸せになるわけにはいかない。君は、どうしたい? 君が
嘗
かつ
ての世界の記憶を持つ誰かからの支えを必要としているなら、微力ながら私がその助けになる。元の世界に戻って、君の想いを伝えて欲しい相手がいるなら私が代わりに伝える。だから
――
君の選択を」
聞かせてくれ、と続けようとした所で、私の頬は勢いよく殴りつけられていた。ハッと目を見開くと、そこには激情の焔をその瞳に宿した滝夜叉丸が、
拳
こぶし
を奮った体勢で立っている。
「
――――
けるな」
「え?」
「
巫山戯
フザケ
るなッ! 一体誰がそのような事を頼んだ!?」
怒りに血走った目でこちらを睨んだまま、滝夜叉丸は私の胸ぐらを勢いよく掴む。
「貴方はここに来て、まだ逃げるおつもりかッ!?」
「たき、」
「
――
ただ逃げるのであればそれもまた貴方の選択の一つ。私が口出しをするものではないでしょう。
――
ですがッ! 何故そこで私を言い訳にしようとするのです!? 甘ったれるのもいい加減にしていただきたいッ!!」
甘え、と断言され、予想外の怒りをぶつけられ、私は困惑する。
「言い訳じゃない! 実際君には返しきれないほどの恩が
――
」
「それが言い訳だと言っているのです!」
反論を強い口調で
捩
ね
じ伏せ、そのままの勢いで私の身体ごと地面に向けて突き飛ばす。驚き、反応が遅れた私は
無様
ブザマ
にも横倒しになって転がった。
「何を
――――
ッ!」
突然の暴挙に、流石に怒鳴り返そうとした私の眼前に立ちはだかった滝夜叉丸は、激情を
孕
はら
んだ目でこちらを見下ろして
――
いや、見
下
くだ
していた。
「私は既に告げたはずです。
――
例え誰も覚えて居なくとも、私は私の生き方に誇りを持っている。私を期待の星としてくれた、
嘗
かつ
ての世の人々の想いを、輝かしき日々を覚えている。
――
だから私はスーパースター忍者であり続けると。例えそれで狂人と蔑まれようと、私の信じる期待の星として生きた記憶を、棄てる事はできないと。
――
その事をもうお忘れかっ!?」
彼の瞳は、ギラギラと燃えていた。憤怒の炎が、まるで自身を焼き焦がし輝く星のようにチラつく。
「
――
確かに、私は選ぶ機会すら取りあげられた。元の世に帰る
術
すべ
を失い、理解者を得られず、心を許し本音を語れる者は誰もいない。
――
ですが、貴方からの憐れみなど結構ッ! 平滝夜叉丸はそのようなものに押し潰される生半可な覚悟で、この記憶にしがみついたりなどしない! 私が今こうしてこの場に居るのは紛れもなく自分の意志だ!
――
私を、平滝夜叉丸を、私を期待の星と呼ぶ者の想いを、見くびらないでいただきたいッ!!」
苛烈なほどの鋭い視線に、私は圧倒されて息を呑む。ここにきて漸く気付いた。私がどれほど見当違いな事を言ったのか。
――
彼の覚悟が、どれほど重いものなのか。
「私は、喩えどれほどの地獄を歩もうと、誰にも理解されずとも、室町の記憶と共にこの世界を生きると決めたのです! 一つの家庭を壊してでも、この世界の友の心を踏み
躪
にじ
ることになっても、それでも私は! この罪なき世界で、独りこの記憶と共に罪を背負って生きると誓ったッ!
嘗
かつ
て私を期待の星だと言ってくれた人に顔向け出来るように、私が
嘗
かつ
て憧れた人のように、私が
嘗
かつ
て良きライバルとして競い合った者たちに誇れるように! この命尽きるまで、戦い抜くと誓ったッ!」
――――
彼は。彼は、私の安い同情など、最初から必要としていなかった。己の選択を誇り、その為に胸を張って生きる為。私の思うよりずっと重い覚悟と共に生き抜いてきたのだと。
……
そう思い知らされた。
「憐れみなど不要、傷の舐め合いなど真っ平だ! この私の生き様を、誇りを、覚悟を、
――
そのような見当違いな同情と安っぽい保身で
穢
けが
さないでいただきたいッ!」
……
もしも、命が世界ひとつと同じ重さをしているなら、彼の決意はきっと世界よりもずっと重いに違いない。
――
彼はきっと、室町という異質な記憶をずっと背負うと決め、罪の意識も友への後ろめたさも届かぬ世界への郷愁も、その全てを独りで背負い、引きずっていくと決めたのだろう。その証拠に、彼は言っていたじゃないか。「私は期待の星としてその記憶と共に生きると決めた日に、この罪を背負うと決めました。だから
――
貴方が何と言おうとも、この罪を正当化することはできません。私自身がそれを許さない」と。
……
彼は、最初から全て覚悟の上で選んだのだろう。この世界で、たとえ
無辜
むこ
の人々想いを踏み
躪
るび
ることになろうとも、独りきりで戦う事になろうとも、どれほどの地獄になろうとも、決して記憶を手放すまいと。
茫然と目を見開く私の前で、滝夜叉丸はフーッと深く息を吐き出し、「失礼、冷静さを欠きました」と謝罪する。身を起こしかけたままの体勢で動けずにいる私の前に片膝をついて、彼は静かに右手を差し出した。
「
……
利吉さん。私は
嘗
かつ
て、この世界がどういった世界なのか、ずっと調べてきました。
――
そして、それ故にこの日が訪れる事も予想していました。
……
だからこそ、私はずっと答えを伏せてきた。
――
貴方が悔いなき道を行く為には、本当の意味で選んでいただかなくてはならないから。安易な覚悟で世界を選び、その選択への責任から逃避するような事は、絶対にさせるわけにはいかないと思ったから。貴方は私の同胞であり、異なる二つの世界に
足跡
そくせき
を残した身として、責任ある選択をするべきだと思ったから」
静かな瞳の奥に怒りを抑え込みながら、彼は続ける。
「
――
私が助言するのは簡単です。ですが、貴方は私にその選択を委ねようとしている。
――
私がどちらかの世界を選ぶべきだと言えば、それを安易に選択し、その為に払うべき代償の全てを私に転嫁するつもりで。それがどれほど卑劣な行いか、考える事を放棄して。そんなものは貴方の人生とは言えないし、そのような生き方に価値などない。
――
だから貴方は、選ばなくてはならない。
……
自分の手で、自分の意志で、自分の未来を」
……
心のどこかで、見くびっていたのかもしれない。滝夜叉丸という少年は、私より年下で、若くして死んでしまった未熟な忍者だと。
――
そんな筈がなかった。彼は己を『弱い人間だ』と言ったがとんでもない。彼はあまりにも強かった。
――
だからこそ、私は気付けば彼に問いかけていた。問わずにはいられなかった。
「
……
どうして君は、そこまで強く在れるんだ?」
滝夜叉丸が目を見開く。
「
――
私は、自分で思っていたよりずっと、愚かで弱い人間だった。突然それを突きつけられ、唖然とするしかなかった。
――
けれど、君は似た状況で、それでも自ら選んで、私以上の地獄をずっと歩んできた。
……
どうすれば、私も君のように強くなれる? 君はどうして、そんなに強くなれたんだ?」
私の問いに、滝夜叉丸は静かに瞳を閉じた。
――
諦めとも決意とも取れるその動作を、私は
縋
すが
るように見つめる。ここへ来て今なお彼に相談するのは筋違いだという事はわかっている。けれど、私には。どうしていいかわからない今の私には、彼を頼る他なかった。
「
――
利吉さん。その答えは既に告げた筈ですよ。
……
私は強いわけではない。『美しい自分』『なんでもできる天才』
――
そのような虚像で自らを騙さなければ簡単に折れてしまうから、弱い自分を認めてしまえば、折れてしまうから。
――――
強くあらねば、折れるか発狂でもしてしまうかしかないとわかっているから立っているだけに過ぎません。
――
私は決して強くなどない、どこまでも愚かな弱者だ。けれども、そんな私が強いというのなら
――
貴方が私と同じ強さを求めると言うのならば。
――
それは、自分で苦しみを乗り越え、自分の意志で何かを選んだその先にしか無いと断言できます」
穏やかに、けれども強い意志を持って。滝夜叉丸はそう言い切った。
「
忍
しのび
の本分は戦う事ではなく逃げる事です。それは忍術学園の一年生でさえ当たり前に学ぶこと。けれども私はそうは思わない。
――
確かに忍者は武力で戦うものではないでしょう。しかし、眼前の敵を討ち倒す事など、所詮は戦いの中の余談に過ぎない。真の意味での戦いとは、己の意志で選ぶ事。何も知らずとも、何を選べば良いか分からずとも、己の意志で最善を選び、未来を切り
拓
ひら
く事こそが本当の戦い。
――
忍者
しのび
で無くとも、人として誇りを持って生きるならば。貴方は貴方自身の意志で懸命に悩み、苦しみを乗り越え、そして選ぶべきです。
……
そうして苦しみを乗り越えたなら、きっと貴方は愚かな弱者などではなくなっている。
――
神でさえ
穢
けが
せない、何よりも尊い光を手に入れている。私はそう、信じます」
私は差し出された滝夜叉丸の手を取ろうと震える手を動かしながら
……
、それでも問わずにはいられなかった。
「
――
それは、山田伝子を殺して元の世界へ帰れと。
嘗
かつ
ての世界へ帰るべきということかい?」
滝夜叉丸は、静かに首を振った。
「室町の世を生きた身としての、個人的な見解を述べるならば。
――
貴方はここに
留
とど
まるべきです。貴方は既に生を
全
まっと
うした。それが悔いあるものであれど、人としての
理
ことわり
を曲げるならば相応の覚悟が必要です。
……
何より、貴方を心から想う人がこの世界には大勢居ます。その手をどうか
無碍
むげ
になどしないでほしい」
私がその言葉に何かを返すより先に、「しかし」と滝夜叉丸が続ける。
「令和の世を生きる私としては、元の世界に帰って欲しいと心から願います。私にはその選択肢はそもそもなかった。貴方は選ぶ事ができる。そして以前伝えた通り、貴方が元の世に帰ってくださるなら、この滝夜叉丸が生まれ変わっても尚期待の星で居続けようとしていることを少なくとも貴方だけは知ってくださる。それは私にとって、どれほど幸福なことでしょう」
異なる二つの答えは、どちらもきっと滝夜叉丸の本心だ。だから私は、彼の言葉に
縋
すが
れない。
――――
自分で選ぶしかない。それが痛いほどによく分かった。滝夜叉丸は尚も続ける。
「けれど逃げるように元の世界を選ぶなら、それはきっと貴方自身を、貴方の誇りと魂を傷付ける事になる。
――
貴方の大切な人の想いを踏み
躪
にじ
る事になる。だから、この先は貴方が自ら選ぶべきです」
未だその手を取る事を躊躇する私に、滝夜叉丸は静かに言った。
「
――――
だから、立ちなさい。山田利吉」
唐突に、そう呼ばれて私はどきりと心の臓が動くのを感じた。
――
普段と違う呼び方。たった六文字、いや漢字に直せば四文字しかない音の中に、彼が込めた想いを感じ取ったから。
――
彼が、私を『山田伝蔵の息子』でも『室町の同胞』でもない、何者でもない一人の人間として立たせようとしていることに気付いたから。
「
――
立ちなさい、己の意志で。
――
断ちなさい、己の弱さを。
――
立て! そして戦え!」
その言葉に、私は涙が溢れるのを感じながらも、滝夜叉丸の手を取った。
「
…………
分かった
……
。精一杯、悩むよ
……
。最後まで、私はきっと悩む。私自身の答えを出せるように
……
君のように、誇れる自分で在りたいと、そう思うから
……
」
滝夜叉丸は穏やかな瞳で私を立ち上がらせる。
「
……
明日は日曜日です。いえ、暦の上では既に今日ですが
――
それは些細な事でしょう。貴方にとって、残された最後の日。
――
私塾の予定がありますが、風邪ということにして休むとしましょう。ちょうど母が入院したばかりですから、私の家が空いています。午後からならば、三木ヱ門たちの邪魔も入らず、じっくりと話す事ができます。
――
もし貴方が選択する上で、この世界の人々についてもっと知りたいならば、午後一時半、市立図書館の前で待ちます。私の知る限りの、この世界の人々の話を聞かせましょう。私の話を聞くか聞かないかは、貴方の自由です。だから
――
残された時間をどうか貴方の選択の為、大切に使ってください。
……
そしてどうか、もうこれ以上逃げる事だけはしないでください」
熱い涙がとめどなく流れる。滝夜叉丸はそれをただ見守りながら、静かに告げた。
「きっと誰にも正解など分からない。だからこそ、悔いなき選択を貴方自身が行うべきです。
――
貴方がどの選択をしようとも、私は戦い抜いた先に貴方が選んだ選択を讃えましょう。だからどうか、最後まで戦い抜いてください」
「あぁ
……
、分かった
……
」
みっともなく泣きながら、私はふと思った。
夜、こうして会うたびに滝夜叉丸が星空を見上げていた理由。それはきっと。
……
期待の星を自称する彼が、己の選択を見つめ直す為、己を
戒
いまし
め戦い続ける事を誓う為だったのではないか。
……
私だって、これ以上逃げる訳には行かない。戦わなければならない。
――
この愚かな身であれど、全力を
賭
と
して。
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