nuka_boshi
2025-04-03 18:53:21
26903文字
Public 利吉さんで賽殺しパロ
 

【RKRN】転生したら母親が伝子さんだった利吉さん その5【シリアス死ネタ】

さて、漸くこのパロもメインディッシュと呼べるところまで来たのではないでしょうか。
個人的にはエピローグ含めてその8までで終わらせたい所ですが果たしてどうなるやら。

ネタバレですが今回も利吉さんがめちゃくちゃ曇ってます、というかここからはクライマックスまで曇ります。大丈夫、エピローグのイメージソングは『そらのむこう』なので。

ついでに今回は瞬間最大風速イケメン滝夜叉丸回です。滝夜叉丸のことほぼ知らない段階でこれやるの決めてた過去の私の本気をご覧下さい。……と言いたいところですが、予想外の事が起きて爆笑しながら書いてたのでいまいちシリアスやれてる自信がありません、すみません。

ちなみに前回の利吉さんの名付け理由ですが、アレ実は初期想定になかったのですが、伝子さんの性格考えるとあの場でビンタに繋げるの無理だなと途中で気付き、10分で慌ててでっち上げました。つまり苦し紛れの大ウソ、土壇場の勢いによるセリフです。……一応漢字の意味に関しては調べ直したから多分矛盾してないと思うんですが、あそこだけ浮いてしまってたらすみません。



 本の返却手続きを事務的に済ませ、私は帰路に着く。じわりと汗ばむ額を拭いながら、私は公園のベンチに腰掛けた。
 ……この汗は、暑さから来るものなのか、それとも精神的な摩耗によるものなのか。それすらももう分からなかった。
 いつまでそうしていたのかは分からない。ただ私は、じっとりと肌を覆う汗を罪悪感に苛まれながら、微かにひぐらしの鳴き声を聞いた。
 ……夕暮れが迫っている。そろそろ伝子が心配し始める頃かもしれない。これ以上心配をかけるまいと立ち上がりかけたその時だ。
「利吉さ〜ん!!」
「やっと見つけたぁ〜っ!」
 息を切らせて駆け寄ってきたのは、乱太郎としんべヱだった。
……君たち…………どうしたんだい?」
 瞬間、脳裏に図書館の自動ドアに映った自分の眼が浮かぶ。……私はちゃんと、取り繕えているだろうか。少しでも穏やかに笑えているだろうか。
 私の不安など無視して、二人は顔を見合わせると、深くお辞儀をし声を揃えて言った。
「「利吉さん、僕らの為に忍術学園を作ってくださいっ!」」
…………え?」
 ――何故、今更その名前が彼らの口から出てくる? それに、言葉の意味もよくわからない。困惑する私の前で、乱太郎が代表して言葉を紡ぐ。
「えっと、学園って言っても、そんな立派な建物とかは使えないと思うんですけど……忍者のことを知ってる利吉さんが僕らの先生になってくれたら、先生と生徒が居るなら、たとえどんな場所でも、それは学校ですよね? 利吉さんの知ってる忍術のこととか忍者のこととかを、教えてくれる場所を作って欲しいんです。えっと、僕はその……色々忙しいからあんまり参加できないかもしれないけど……、うちのクラスの庄左衛門とか、三治郎とか、仲の良い友達はいっぱいいるので! みんなを誘ったら、学校らしくなるんじゃないかなって。……あ、もちろん利吉さんさえ良ければ、ですけど」
「よーするに、利吉さんが先生になって、ニンジャのこと色々ボクたちに教えて欲しいなって! 利吉さんなら、ボクたちの知らないニンジャの話、いっぱい知ってるんでしょ? だからちょうどいいなって思って!」
 ……何故。彼らの口から、そんな話が出てくるのだろう。この平和な世界に住む彼らと共に過ごすなら、私はかつての世の忘れられない記憶を全て夢として永遠に忘れなければならないはずなのに。困惑する私を見て、乱太郎は少し申し訳なさそうな表情を見せる。
……あの、利吉さん。ごめんなさい。実は僕たち、今日、山田先生から聞いたんです。今日も利吉さんに会いに行こうと思ったら、今の利吉さんは全然違う昔の時代の記憶を持ってて、そこに帰りたがっているんだって言われて」
 ……そうか。きっとお節介な彼女の事だ。私が未だ悩んでいるのを見て、今はそっとしておくべきだと考えたのだろう。そして、私への見舞いに行こうと張り切る乱太郎達に「今はそっとしておいてあげて」とでも言って事情を伝えたのだろう。――確かに私は、誰にも言うなとは言わなかった。だから、素直な子供達がきちんと納得するよう説明せねばと思い、私の記憶の話をしたというなら、それは複雑ではあるが納得のいく話ではある。
 しかし、それなら尚更わからない。前世の記憶を持たない彼らにとって、私の話など頭がおかしくなった男のイカれた妄想にしか聞こえなかった筈だ。関わるまいと思うならまだわかる。……だが、この結果に繋がる理由がわからない。
「僕たちは詳しいことわかんないけど、きっとすごーく素敵な場所なんですよね、利吉さんの居た世界って。みんなが優しくて、頑張ってて、そんな姿に勇気をもらっちゃったりなんかして。利吉さんは、そこに帰りたいんですよね。……だから、それ聞いて僕、しんべヱと相談したんです。利吉さんが元の世界に帰る為に、僕たちはどうやって手伝えば良いかなって」
「うん。っていっても、進路がバラバラになったお友達を呼び戻すのはボクたちには無理だから、やれるとしたらこれしかないかなーって」
 ……乱太郎としんべヱの認識は、やはり少しズレているようだ。しかし認識が違っても、こうして伸ばしてくれている手が、その優しさが本物なのは痛いほどよくわかる。あまりにも純粋な、……痛いほど無垢な優しさ。
 絶句する私の前で、ふとしんべヱが言いにくそうに口を開いた。
……えっとね、元の世界に帰りたい、楽しかったあの頃に帰りたいって思うのって、誰にでもあると思う。ボクも、前に似たような事あったから、利吉さんの気持ちすごく良く分かるの。って言っても、利吉さんからしたらしょーもない話なんだけど。でも、だからこそボク思うんだけど……元の世界へ帰ることって、誰もがみんな望むけど、でもそれってゼッタイニデキナイコトだと思うんだ!」
――――え?」
 ぎょっとして私は目を見開く。しんべヱは、元の世界の話など全く知らない。だというのにその言葉はあまりにも――核心を突いている気がした。そして、それがあまりにも私にとって認めたくない、目を背けていた内容のような気がして――私は一瞬、その言葉の意味を理解するのを躊躇ってしまった。
 ――ゼッタイニデキナイコト。絶対に、……できない事。
 躊躇う私を置き去りに、しんべヱは笑顔で話す。
「えっとね。ボク、前にね、パパとカメ子が作ってくれたボクへの誕生日ケーキを、ひっくり返して台無しにしちゃったことあるんだ。あの時はボクもカメ子もみんなわんわん泣いて、大変だったの。それでボク、潰れたケーキをどうしても諦められなくて拾おうとしたんだけどね、パパに言われたんだ。潰れちゃったケーキはもう仕方ないから、諦めなきゃダメだって。一度落としちゃったものは、もう戻らないんだよって」
…………
「でもね! ケーキはひとつじゃないんだよ。だからね、パパが新しい材料を買ってくれて、ボクとカメ子でみんなで新しいケーキを作ったの! 潰れちゃったケーキはもう戻ってこないけど、カメ子が最初にボクを祝おうとして頑張って作ってくれたケーキは食べれなくなっちゃったけど、それに負けないくらいの想いが籠った、本当に美味しいケーキを新しく作ったんだ。うぅ、あの時のケーキの美味しさといったらもう〜!」
「もう、しんべヱったら食べ物の話ばっかりなんだから」
 半分呆れた様子で乱太郎にたしなめられ、しんべヱはえへへと照れくさそうに笑う。
「つまりね、元の世界が恋しいなら、それに負けないくらいの幸せな世界を、みんなで作れば良いと思うの! でも、それは潰れちゃったケーキを見てる間は絶対にできないでしょ? だから、ボクたちで利吉さんにとっての美味しいケーキを作る、お手伝いがしたいなって」
「そうそう! 新しいケーキは、利吉さんの本当に食べたかったケーキとは全然違うかもしれないし、前のとは同じにならないけど……でも、みんなで頑張って作れば、前のと限りなく近いものができるじゃないですか。ううん、もしかしたら前のケーキよりももっと素敵で、想いの籠った美味しくて凄く立派なケーキになるかもしれない。それが一番、利吉さんが帰りたい世界に近付ける方法だと思うんです!」
 って、僕までケーキの話になっちゃったけど、と乱太郎は苦笑する。私はその話を茫然と聞いていた。
「それで……忍術学園を?」
「はい。前に利吉さんは、忍者としての記憶の話してたでしょう? だったら、利吉さんの思い描く忍術学園を、本当に作っちゃったらどうかなって思って。そこで利吉さんが先生をやってくれるなら、教師になりたいって夢も、昔に戻りたいって夢も、どっちも叶うでしょ?」
 乱太郎の眩しい笑みに、私は困惑する。
 ……かつての室町の記憶を捨てずに、この暖かな世界で、お遊びとしてでも忍術学園を開いて、そして私の知る世界に限りなく近い場所を新しく作る。当然、本当の両親や我が子はここには居ない。土井半助もいない。でも、伝子さんがいる。乱太郎やしんべヱがいる。いや、もしかしたら彼らがいう通り、もっとたくさんの子どもたちに囲まれて、私の知る元の世界の輝きを永遠に忘れずに、やり直せるかもしれない。――『山田伝蔵の息子』としてではない新しい自分として、この世界を生きていけるかもしれない。或いは、元の世界にいた時よりはるかに充実した心踊る日々を、過ごせるのかもしれない。それはなんて甘美で魅力的な誘惑なのだろうか。
 心がぐちゃぐちゃに掻き乱されるのを感じ、私は堪えきれず顔を覆った。……すがりたかった。その優しさに甘えて、手を取りたかった。彼らは無垢な優しさで、私に居場所を与えてくれている。選択肢を与えてくれている。元の世界に帰らなくても、元の世界の記憶を夢として忘れずとも、違和感を和らげ、この世界で幸せにやり直せる道を用意してくれている。あとは、私がその手を取りさえすれば――その優しい未来は、必ず叶うのだ。きっと幸せに、なれてしまうのだ。
……何も、知らなかったなら…………
 もし私が何も知らなかったなら。或いはこの身体の持ち主の山田利吉がこの申し出を受けたなら。それはどれだけ嬉しいと思った事だろう。感涙さえしてしまったかもしれない。けれど私は……、帰る方法を知ってしまった今の私は。
 ――それは、元の世界に戻ることが困難だと突きつけられ、諦めたい私が楽な方へ逃げようとしているだけではないかという不安がどうしても拭えない。……だから、素直にその手を取ることが何よりも恐ろしかった。
…………ありがとう。君たちの気持ちは嬉しいよ。けれど、少しだけ心の整理をする時間をくれないかい?」
「えっ? ……どうして?」
 不思議そうに首を傾げる二人にどう説明すべきかと思案した時、私はひとつの事実を思い出した。
 ――そうだ。滝夜叉丸。
 ……彼は言っていたじゃないか。平滝夜叉丸はもう、元の世界へは二度と戻れないと。
 私がもし元の世界へ帰れば、室町の世の記憶を持つ彼はまた独りになってしまう。――よくよく考えれば、狂人と蔑まれ、壊れた家庭に放り込まれ、よく知る人と似ているが全く違う人々に囲まれて、違和感と戦い続けている彼が、辛くない訳がないじゃないか。
 ……ここまで滝夜叉丸はずっと、私の手助けをしてくれていた。今思えば、彼は私が真実を知れば絶望するに違いないと思ったからこそ、カケラの正体を口にするのを避けていたのだろう。彼は、私の想いを分かった上でずっと尊重し続けてくれていた。――だから、彼に相談するべきだ。…………そしてもし、彼が私にこの世界に残って欲しいと言うのなら、独りで生きる事に人知れず葛藤しているならば。……その時は、この世界に残るべきだ。私には、彼に返しきれない恩がある。だから――彼の意見を、彼が本当はどちらを選びたいかを聞かなくてはならない。私だけが勝手に幸せになるわけにはいかない。私の選択には、きっと彼の意見が必要だ。
 …………滝夜叉丸を、探そう。初めて彼と出会った日に会ったあのスーパーマーケット。あそこが学生としてこの世界を生きる彼がよく使う道ならば、もしかしたら彼に会えるかもしれない。私は努めて笑顔で、答える。
……どうしても話をしなければならない人が居るんだ。……だから、もし。その人と話をして、そしてその上で私が君たちと忍術学園を開きたいと思ったら。――その時は私を、今の山田利吉を、どうか受け入れてやってくれないかな?」
 私の言葉に二人は即座に「もちろんです!」「待ってますから!」と満面の笑みを浮かべた。
 私は二人の相手もそこそこに、公園を出て足早に目的地へ向かう。カナカナというひぐらしの鳴き声が、私の足を支え動かしていた。
 ……本当に会えるかどうかは分からない。徒労に終わるかもしれない。けれど。……今はどうしても、彼と話がしたかった。彼の意見を、私はどちらの世界を選ぶべきなのかを滝夜叉丸自身の口から聞かせて欲しかった。