nuka_boshi
2025-04-03 18:53:21
26903文字
Public 利吉さんで賽殺しパロ
 

【RKRN】転生したら母親が伝子さんだった利吉さん その5【シリアス死ネタ】

さて、漸くこのパロもメインディッシュと呼べるところまで来たのではないでしょうか。
個人的にはエピローグ含めてその8までで終わらせたい所ですが果たしてどうなるやら。

ネタバレですが今回も利吉さんがめちゃくちゃ曇ってます、というかここからはクライマックスまで曇ります。大丈夫、エピローグのイメージソングは『そらのむこう』なので。

ついでに今回は瞬間最大風速イケメン滝夜叉丸回です。滝夜叉丸のことほぼ知らない段階でこれやるの決めてた過去の私の本気をご覧下さい。……と言いたいところですが、予想外の事が起きて爆笑しながら書いてたのでいまいちシリアスやれてる自信がありません、すみません。

ちなみに前回の利吉さんの名付け理由ですが、アレ実は初期想定になかったのですが、伝子さんの性格考えるとあの場でビンタに繋げるの無理だなと途中で気付き、10分で慌ててでっち上げました。つまり苦し紛れの大ウソ、土壇場の勢いによるセリフです。……一応漢字の意味に関しては調べ直したから多分矛盾してないと思うんですが、あそこだけ浮いてしまってたらすみません。

五章 神のサイコロの目


 ――どうしたら、良いのだろう。
 私はカケラを見つけた。……見つけて、しまった。それがどれほど残酷な事か、知りもせず。
 ――そう。かつて忍者として生きた私には、山田伝子を抹殺する方法など、いくらでもある。目的を遂行するために必要な知識を、私はとうに持っている。それこそ無限の手段があるのだ。山田伝子は戦う力もない、平和な世界の一般人。『カケラが確実に山田伝子であると判明さえすれば、たった千秒もあれば排除可能な程度の障害でしかない』と私が考える程度、……その程度の相手だ。
――けれど。それがなんだというのだ……!)
 あの暖かな手。私が幸せになれる道を探すべく、力を貸すと微笑んでくれた人。――ずっと苦しみの中で足掻いてきた私に手を差し伸べたあの人を、私は本当に殺せるのか? 今度はあの人の優しさを、踏みにじるのか?
 …………他に道は無いのか。あの人を――殺すしかないのか?
――――――ッッ!!」
 絶叫したくなる衝動をグッと抑え、私は自室の壁にもたれかかる。――既に陽は高く昇り、伝子は外へと出た後だ。思えばあの後どうやって私を心配する彼女に仕事へ向かうよう説得したかさえ曖昧あいまいだ。――茫然としたまま、絶望に打ちのめされていた今の私に、まともな思考を持てなどと言われても、土台無理がある。
 ――無理。そう、無理だ。……あの時の私は、何も知らなかったからこそ彼女を殺せるなどと息巻いた。嗚呼、何と愚か。何と滑稽。――――実際には真実に触れた瞬間、こんなにも呆気なく崩れる程度の覚悟しか無かったクセに。
 『私』にとっては、この世界は偽物の、夢の中の世界。白昼夢のようなもので、『私』は探し物の途中だから。彼らに付き合う義理などないから。――そう言い訳をして、目を背けて。……そんな私を見つけ、『山田利吉』ではなく『私』を想い、偽りなく手を伸ばしてくれた人を…………殺せるなどとは思えない。
 ……それにもう、認めよう。認めるしかない。『山田利吉』が部屋の押し入れに隠すように詰め込んでいた荷物の中身。壊れかけてもそのまま取っておいてあった玩具だとか、擦り切れている幼児用のもう履けない運動靴だとか、使い道のないぼろぼろの勉強ノートだとか、伝子と幼い『利吉』の明らかに紙がれてしまっている写真とか、捨ててしまえば良いはずの菓子の空箱だとか。きっとあれらは、『山田利吉』にとっての、母との大切な想い出だ。――この世界の『山田利吉』は、たとえ親子として会話する機会が少なくとも、当たり前に母親を愛し、それを気恥ずかしさやプライドから必死に隠し、けれど捨てる事も出来ずに押し入れの奥へ大事にしまっていたのだろう。……私は、ただでさえ私が奪ってしまったこの身体の持ち主の『山田利吉』の人生を踏みにじっているようなものだ。だというのに、元の世界へ帰るにはその上で更に彼の想いを踏みにじり、自分に赦しを与えてくれた人を殺さねばならないのだ。
 ――ならば。彼らの為にも今の世界にとどまることを選ぶべきなのか? 室町の世の事を思い出の中に片付けて、かつての世の大切な人に向き合う事を諦めて、全てを過去として割り切って、或いは私の生きた人生そのものを白昼夢と割り切って? 『山田伝蔵の息子』としての私を捨てて、違和感の中で一生を終えるのか?
 ……それこそ不可能だ。本当の両親に、土井半助、そして大切な我が子。あの世界にしかいない、あの世界でしか、もう会えない人々が…………他にも大勢居る。忍者として学び、生き抜き、そして挫折したあの世界。――元の世界には、この世界とは違う輝きがあった。例え私が挫折し醜態をさらし、逃げ出した場所であったとしても。いくさと血にまみれた、いつ誰が命を落とすかもわからない世界だとしても。血と汗と後悔で汚れてしまった、苦しい場所だったとしても。……あの世界で私が見てきた輝きを、大切な人々との記憶を、まやかしになど出来ない。――忘れたくなどない、永遠に。
――――どうしたら、いいんだ………ッ!」
 俯き、顔を伏せようとした私は、ふと部屋の片隅に置いてあった本の山に気付いた。
 ……あぁ、そういえば、滝夜叉丸から教わった本や、伝子が借りてきた本を市立図書館へ返さなければならないのだったか。どうせ白昼夢の事と割り切っていたから、すっかり忘れていた。
 ……もし、このままこの世界に残る事になるならば。その可能性がある以上は放置するわけにもいかないだろう。それに、全てが分かった今となっては私には必要ない書物なのだ。
 ……何も考えたくなど無かった。だからひとまず、図書館へこれらの本を返しに行こう。
 私は適当な手提げ鞄に数冊の本を詰め込んだ。ずっしりと重い鞄よりも、この胸にのし掛かる選択の重みの方が、遥かに私の足をにぶくさせていた。
 玄関の扉を開くと、眩い日光が私を照らす。
 ――まるで、この身の犯した罪をさらし、際立たせているようだ。勿論これは錯覚だ。ただ明るいだけの陽射しに己の罪を責めたれられているかのように感じるだなんて、どうかしている。……けれど。

 ――罪な筈がないでしょう。ずっと誰かのために頑張って、傷付いて苦しんでそれでも尚誰かの幸せを願える貴方に、罪なんかある筈がない。

 昨日山田伝子が言った言葉が蘇る。

 ――今の貴方には、沢山の選択肢があるの。……貴方が室町の世界に帰らなきゃいけないっていうなら、私もできる限り協力するから。だから、貴方自身を大事にして、そして貴方自身が幸せになれる道を探しましょう?

 ――罪などない。――だから山田利吉を、私自身を、大事にして……その上で幸せになれる、そんな道を……探す。

 ……そんなものが、どこにあるというのだろう。あと二度、太陽が昇るまでの間しか猶予ゆうよが残されていないのに。
 我が身可愛さで逃げて逃げて、逃げ延びて、そうして辿り着いた世界で私はそれでも今も尚、かつての世界を選びたがっている。――あちらの方が、居心地が良いから。違和感がないから。そんな程度の理由で、山田伝子の命を奪うことを考えている。――この世界で永遠に違和感と戦い続ける事への恐怖で、楽な道を選ぼうとしている。それは、まぎれもなく罪ではないのか。
 ……いい加減認めろよ、山田利吉。そうやって逃げ続け、言い訳を重ねたまま大切な人たちに顔向け出来ると思っているのか? ――伝子がいくら赦してくれたからと言って、こんな曖昧な理由で元の世界を選んだ所で、……その先に居場所はあるのか?
 ――――簡単だ。居場所なんて、あるわけがない。きっと両親も、土井半助も、私の大切な人々は皆私を許して受け入れてくれるだろう。仕方なかったとなぐさめてくれるだろう。……けれども。彼らからの赦しを得ればその瞬間、私はきっと、あの時私を救おうとしてくれた山田伝子を思い出し、耐えられなくなるに違いない。――結局、向き合える筈がないのだ。
 延々と考えている内に、私はいつの間にか図書館に辿り着いていた。ガラス製の自動扉にうっすら映った私の顔は、うつろった瞳をしていた。……明け方に伝子に叩かれた頬が、痛くなどないはずなのに仄かな熱を帯びているような気がした。――優しくて暖かな、泣きたくなるような幸せな熱を。