河童の皿箱
2025-04-02 09:09:12
10835文字
Public 旧作
 

御巫舞踊部類分

セアミンとフゥリのお話


 小さい頃から、踊るのは大好きだった。時間のある限り、何度も何度も踊り続けた。
 いつか、オオヒメ様に見てもらえるように、と。


 休憩の合間に、客人が舞い踊る姿を見る。指先まで細やかにその躍動を伝播させ、しなやかなすり足運びには伝統が垣間見える。あの舞は、表現をするための土台、基礎練習。彼女は、この里を訪れてもなお、それを欠かさなかった。
 彼女の名前はセアミン。薔薇模様の羽織に、紫の着物、抹茶のような緑の帯とだけ言えば古風だけれど、彼女の着物はとても丈が短くて、その分、透明な素材が足を覆っている。高下駄のような厚底の靴にはこれでもかと鮮やかな鱗文様。こういうのってなんていうんだろう、ハイカラ? 考えても答えは出なさそうだから、一旦置いておこう。
 そんな彼女は、能楽師なのだという。頭に付けた真っ二つのおかめの面から、まるで幻術の様にお面が現れたときは、本当にびっくりした。
 彼女と初めて出会ったのは3日前。それからは時折、私のところへ現れるようになった。彼女はこの里で、御巫それぞれで考えた舞を見に来たのだ、と。

 御巫それぞれで、考えた舞。彼女は、それを見に来た。

 はずなのに、彼女は他の御巫の前には姿を見せず、なぜか私の前にばかり姿を現す。私が踊っている間御珠の大人たちに囲まれている時は、どこかからひっそりと見ているらしい。なのになぜか誰にも見つからないし、私も彼女がどこにいるのかわからない。実は幽霊なんじゃないの? そんなふうにも思ってしまう。

「ねぇ、セアミン。どうしていつも私の所ばかりに来るの? 御巫は他にもたくさんいるし、いろんな流派もあるのに」

 しばらく舞って満足したのか、隣に座って、そっと水を差しだしてくれた彼女にそう問いかける。だって、ここに居ても彼女の目的は果たされないから。

……

 でも、彼女はこういう時、首をかしげるばかりで何も言わない。水を受け取って、一口飲めば、喉がひんやりと潤う。
 彼女はきっと、私の舞を気に入ってくれているか、御珠で一番だと思ってくれているからここに来てくれている。真意はわからずとも、そう思っていたい。

 さあ、もう一回練習だ。もっと、もっと完璧に踊らないと。

 代々より受け継ぐ、大切な舞を。