?話✧猫械




翌朝。

「は?なぜ猫がここにいるんだ

ベッドの主であるその人間は、自分のベッドのありとあらゆる隙間にのびきって寝ている謎の猫たちに困惑していた。慎重に一番近くにいた茶トラの猫、グラ猫のうなじをつかんで持ち上げる。数秒前まで寝ていたグラ猫もさすがに目が覚めたようでぱっと目を開けた。

『なっ!!はは!すこし寝床を借りていたぞ!!』

突然目の前に現れたその人間に驚きながらも、うにゃにゃ、と猫なりに挨拶をする。しかしその人間に伝わるわけもない。

『グラ猫ちゃん!?』

仲間が捕まえられたことに気付き他の猫たちも一斉に起き上がった。威嚇する猫やまだ寝ている猫、はたまた朝日を見ている猫にその人間は不審さを感じた。

かってに侵入されたのはこちらなんだがやけに癖の強い猫たちだな

すると部屋の扉がノックされ開かれる。そしてまた別の人間が現れた。

「ラート、珍しく騒がしいがってなんだその猫!?」

「はぁグラ、ノックをしても返事をする前に開けたら意味がないと何度言えばわかるんだ。」

「それよりもこの猫たちの説明をしてくれないか!」

やけにグラ猫に似たその人間に猫たちは目を見合わせる。よく見てみればこのベッドの持ち主もどこかラート猫に似ていた。

グラ、と呼ばれたその人間はラートと呼ばれた人間からグラ猫を受け取り抱き上げる。

「朝起きたらベッドの上にいたんだ。朝日を浴びるために開けていた窓から入ってきたのだろうが

「なるほど。やけに人になれているが迷子の飼い猫か?」

なんだか俺に似ているなとグラディエーターはグラ猫をまじまじと観察した。

「グラ殿、ランニングに行かないとって猫!?こ、ここペット不可の家じゃ!?ナーデル殿にまたおこられますよ!?」

すると次は白浪猫に似た人間が現れた。その後ろからまた黒髪の人間が現れる。

「为什么!?なんで猫!?」

「シラナミに、ファンリンまで

黒髪の二人は興味深そうに猫を見つめる。そして彼らもやけに自分に似た猫を抱き上げた。先ほどまで威嚇をしていた樊凌猫も自分と同じ傷があるその人間に首をかしげていた。

この流れなら

ラートがちいさくつぶやく。

「猫?黒猫もいますね。魔女の使いです。いきなり現れたなんて怪し

「こらこらフィリップさん、猫たちが怖がっちゃいますよ。飼い猫かもしれないのに」

想像通りの展開にラートはため息をついた。そして彼らにも一匹ずつ猫を渡す。

フィリップと呼ばれた人間とフィリップ猫は互いに互いのことを疑っているのかじっと見つめあっていた。

ルフレ猫は抱き上げられ、毛並みが乱れたのが嫌だったのかすぐにその人間の腕から降りてしまう。

気持ちはわかりますけど愛想わるいなぁ

「猫?」

「猫がいるのか?」

フィリップの声に呼び寄せられたのかさらに二人も部屋に入ってくる。彼らもまた各々に似た猫を抱き上げた。

「この猫はほかの猫に比べておとなしいな」

「えこっちの猫は持ち上げられても寝てますよ

俺の部屋じゃなくていいだろもう。俺は静かに太陽が見たいのだが。」

そう言って心底迷惑そうな顔をするラート。七人は自分に似た猫とともにリビングへと足早に移動した。

「はぁ迷惑な

にゃ。』

ラートが朝日を浴びようと窓に近づくとそこにまだ先客がいたことに気付く。どうしようかと思ったがこの猫はずっとおとなしく太陽を見つめていた。太陽が好きな仲間ならやけになって部屋からたたき出す必要もないだろう。

邪魔はするなよ」

そうとだけ言って一匹と一人は思う存分朝日を浴びた。

一方リビングのほかのメンバーたち。

「この猫たちどうしようか

「飼う、としても全部は無理ですし

「いや、一匹もだめですよ!?」

各々自分に似た猫を眺めながらどうするかを話し合う。

『人間たちは俺たちのことを話し合っているようだな?』

『ボクたちもどないしよっかぁ』

猫たちも顔を見合わせていた。

「早くしないと学校始まっちゃいます?」

フィリップが時計を見て話す。時計はすでに7時を指しており、準備の時間を入れると悩み続ける時間ももう限られている。

学校に連れて行くのはいけないだろうか。」

カラベラフィルムは少し楽しそうにつぶやいた。シアノも流石にそれはと言いつつも強く否定はしない。

「学校に猫をか!はは!たしかに楽しそうだな!!」

グラディエーターもその意見に賛同する。

「楽しいとかの問題じゃない気がしますけどまぁ飼い主がいるなら学校のほうが見つけやすそうですね。」

家に置いてくには心配ですし帰ってきたら家がボロボロになってそうです。」

なら、連れて行くんですか?」

連れていく、という話にまとまりだし、白浪は首をひねる。とはいえやはり家に置いていくとそれこそナーデルに怒られてしまいそうだ。

「うぅぅん

『人間たち、なにか悩んでるようですね?』

『あぁ、だがなんだか楽しそうな話をしている気がするぞ!』

するとその時樊凌が自分の部屋から学生鞄を持ってきた。

「これで猫たちが入ったら連れてく、ってことでええんちゃう?」

「このまま話しても決まらなさそうですし全員分持ってきて入るかを

シアノがそう言い切るよりも先にグラ猫は樊凌のカバンに目を輝かせて入っていた。それに続いて樊凌猫も鞄に入る。ぎちぎちになった満員のカバンを白浪猫はのぞき込んでいた。

「想像以上にノり気みたいですね。」

『にゃ!』

こうして彼らはともに学校に行くことになった。


ここは平械高等学校。一学年3クラスの、少し小規模な高校だ。

『ここは学校、ですかね?』

『おお!おおきな建物だな!これが学校ってやつか‼』

バッグの隙間から、猫たちは学校の景色を眺めている。グラ猫は、今にもバッグから顔をすべて出してしまいそうな勢いだ。

「グラ殿!猫が!」

「ん?おっと、危ない危ない。まだ我慢していてくれ」

そう言ってグラディエーターは、大きく開いた鞄の扉を半分ほど閉めた。

『?なんだ、これは潜入捜査なのか?仕方ない、それなら俺も隠れてやろう!』

ひとまず隠れたグラ猫に、白浪は安堵の息をつくた。

「ねぇ、あの人、三年のラートさんじゃない?」

「あ、ほんとだえ?てかさ、バッグから猫出てない?」

「え!そうだよね!?あぁ見えてぬいぐるみとか持ってくるタイプなのかな?」

ふいに女子生徒たちの話声が聞こえ、ルフレはぎょっとした。噂のラートの方を見れば、空を見上げながら歩いているせいで、鞄から猫が顔を出しているのに気づいていない。

ルフレは、速足で彼の背後へと移動した。

「ちょっと、ラートさん。猫が顔出してますよ」

「ん?あぁこいつも太陽が見たいんだろう。」

そうとだけラートは返す。

……いや!だめですよ!ほら、ファスナー閉め

ルフレが鞄を閉めようとするが、ラート猫は意地でも閉めさせないというようにファスナーのスライダーをくわえる。スライダーがなければ、ファスナーを閉めることはできない。





無言のまま見つめあう一匹と一人。

『ラート猫さん、閉めないとばれちゃいますよ』

ルフレ猫は鞄の中からラート猫に語りかける。しかし、ラート猫は一切聞いておらず、ずっとスライダーをくわえたままだ。

ルフレもルフレ猫も説得をあきらめ、せめて背後の視線の壁になることにした。

グラ猫、樊凌猫、ラート猫は二階の三年生の教室に来ていた。

教室に着くなり、グラ猫と樊凌猫は鞄から飛び出す。

「うわっ!お前ら、なんで猫連れてきてんだよ!」

突然飛び出して、教壇に上る二匹にクラスメイトは困惑した。

「はは!すまない!朝、家に迷い込んでいてな!」

「家に置いとくわけにもいかんし、飼い主探しも兼ねて連れてきたんよ」

グラディエーターと樊凌は笑いながら答える。教卓の上から教室を見渡すグラ猫と樊凌猫の周りには、いつの間にか女子生徒が集まっていた。

『ん!?なんだいきなり!』

『ちょ、ちょっと!めっちゃ触ってくるやん、この人間たち!』

大勢の女子生徒にわしゃわしゃと撫でられる二匹。そんな二匹を横目に、ラート猫は窓際のラートの席から外を眺めていた。

ラートも連れてきてるのかよ

クラスメイトがぼやく。グラ猫と樊凌猫を女子に占領された男子たちは、わずかな希望を胸にラート猫に手を伸ばした。

『シャーっ!!!!』

「っ!!?」

日光浴の邪魔をされると察したラート猫は、男子生徒に威嚇をする。男子たちは驚き、とっさに手を引いた。

「お、おいラート!飼い猫ならしつけくらい

「うるさい。そもそも飼い猫じゃない。」

男子生徒たちには視線すら向けず、ラートは答える。彼らは(どう見てもお前の影響を受けてるだろ)という言葉を飲み込んだ。

場所は変わり、三階の二年生の教室。フィリップ猫、カラ猫、ルフレ猫はこの階にいた。

この教室でも、三年の教室同様、女子生徒が猫たちに群がっている。しかし、フィリップ猫もルフレ猫も、彼女らにこれでもかというほど威嚇をし、嫌悪感を示していた。

『あなたたち、いきなりなんですか!魔女ですか!?』

『毛並みが崩れるのでほんとにやめてほしいですねこれだから無神経な人間は

『シャーっ!!』と掃除用具上から威嚇する二匹に、女子生徒たちは甲高い声を上げる。その声を聞いて、さらに二匹は毛を逆立てた。

まぁ、確かにせっかく整えたセットを崩されるのは不快ですね。」

とルフレがうなずきながらつぶやく。フィリップがふと視線を移せば、カラベラフィルムの周りには人だかりができていた。

「カラベラくんの猫はおとなしいね!」

「なにこの帽子、かわい~」

と順番に頭を撫でられている。カラ猫も、人間に撫でられるのはまんざらでもないようだ。

そしてまたフィリップは、フィリップ猫とルフレ猫に視線を戻す。

『フーフー

一匹は先ほどと変わらず威嚇をしており、もう一匹は必死に毛づくろいをしていた。

(この差はなんなんだ)

そうフィリップは心の中でつぶやいた。

また場面は変わり、四階の一年生教室。白浪猫、シア猫はこの階にいた。

「白浪くん、その猫ちゃん、なになに!?」

「猫飼ってたの!?」

「えっ!?い、いや、この猫は!」

女子生徒に囲まれ、じろじろと見られた白浪。彼は鞄ごと、白浪猫を抱きかかえていた。

『ぇ、ぇ、な、なんですか貴殿ら!!』

白浪猫も同様にたじろぐが、人間たちには「うにゃうにゃ」という鳴き声しか伝わらず、女子生徒はさらに「かわいい~」と顔を近づける。

うぅ、とキャパオーバーになった白浪は、一番後ろの角席に座っていたシアノの後ろに隠れた。

窓と自分の椅子の狭い隙間に逃げ込んできた白浪に、シアノは困惑の声を上げる。

「えっ、なんですかいきなり」

シアノは膝の上で眠っているシア猫を撫でながら彼らに目を向けた。すると、白浪を追いかけるように女子たちが集まってくる。その様子に(なるほど)と大方の事情を理解した。

「えぇ、シアノくんも猫連れてきてるの~!?」

「ほんとだ!!膝の上で寝てる~!」

彼女たちは、いかにもそのふわふわの毛並みに触れたいというようにシアノとシア猫を交互に見つめる。

。起きてしまうので。というか、その態度、自分勝手だと思わないんですか?」

冷たく言い放ち、彼は寝顔も見せてやるかというように背を向けてしまった。あまりにもな塩対応に、女子生徒たちは腹を立て、悪態をつきながら散っていった。

「はぁありがとうございます

『にゃぁ

安堵のため息をつく白浪と白浪猫。

女子生徒がいなくなったのもつかの間、一連のやり取りを見ていた男子たちが、二人と二匹の周りに集まってくる。

「いやぁ~シアノ!よく言ってくれた!」

「やっぱ男同士がいいよな。雄かわかんねぇけど。」

そう言いながら、彼らは白浪猫に手を伸ばした。男同士なら大丈夫なようで、白浪猫は少し警戒をしながらもおとなしく撫でられる。

いつしか、白浪猫を撫でたい男子の列ができていた。

その時、ひとりの男子生徒がシア猫を撫でようとシアノの肩をたたく。

「なぁシアノ!お前の猫も

「は?」

しかし、先ほどの女子たちよりも冷たいその対応に、彼はそれ以上なにも言えずに去っていった。

それからなんとか教師にばれないよう朝礼を終えた彼ら。一限目は三年生は体育、二年生は理科、一年生は美術と全員が移動教室だった。

『なんだ、着替え始めたぞ?』
『さっきの女子たちもおらんくなったし
早く太陽を

鞄から顔を出し、三匹は着替えだした男子生徒たちを見守っていた。すると突然、鞄が持ち上げられた。

『おっ、やっと移動か!!』

そう楽しそうに鞄の外を眺めるグラ猫。しばらく揺られていれば体育館に到着した。

「体育館まで連れてきたのはいいが、どうするんだ?」

ラートはグラディエーターに耳打ちをする。すると彼は問題ない、と言うようにぐっと親指を立てた。
ラートは怪しみながらもひとまず彼に任せることにした。
そしてチャイムが鳴り、準備運動を始める。体育教師は体育館後方の三つのカバンに違和感を抱きつつもスルーしていた。

そのころの猫たちは、鞄の中から外を見渡していた。

『?人間たちおらんくなったな?出てええんやろうか?』
『だめだとしても、管理を怠った人間の落ち度だ。』

そう言ってラート猫はファスナーを開け、カバンから飛び出る二匹も彼に続いて鞄を出た。そのままラート猫は窓際に移動し、日光浴を再開する。

『うーん、俺は何をしようか

グラ猫が首を傾げたとき、突然足元に白い何かが飛んできた。グラ猫はとっさに飛び上がり、それを避ける。ちょい、ちょい、とそれに触れてみるが、特に危険性はないようだ。

『?なんだこれはにしてはかたいな?』

「对不起、シャトルが飛んでしまったわ」
『シャトル、というのか。何に使うんだ?』

にゃぁにゃぁと話しかけてきたグラ猫に、樊凌は首を傾げる。

「ん?キミも遊びたいん?」

『にゃ!』

その元気のいい返事に、樊凌はにこりと笑った。

『なんだ!どうやるんだ!』

グラ猫がそわそわしていると、樊凌が変な棒を振る。すると、シュンッ!と風を切る音とともに、先ほどのシャトルが飛んだ。

『!!!』

グラ猫は本能的にか、脊髄反射でそのシャトルを追いかけ、口でキャッチした。

「おぉ!」

『!!なんだ今のはやいのは!!もう一回だ!!』

グラ猫は楽し気にキャッチしたシャトルを樊凌へと運ぶ。そしてまた樊凌はシャトルを打ち、グラ猫はキャッチする。その速度は徐々に上がり、多くのクラスメイトがその様子に見入っていた。

さすがにこれじゃ、先生に

とラートが心配し、体育教師のほうを見た。

心配なかったようだ

そこにもまた観客が集まっており、グラディエーターと体育教師がタイマンで本気のバトミントン勝負をしていた。負けず嫌いの教師は背後の違和感に一切気づくことなく試合に集中している。

はぁだれもかれも困ったものだ。」

そう言った彼はラケットを置き、日光浴という名のさぼりを始めた。

『うーん、小白はどこにおるんやろ』

そのころ、樊凌猫は学校の廊下を歩いていた。とことこと歩いていれば、突然背後からどたどたと走る音が聞こえてくる。

『ん?』

耳を音の方向に向ける。すると、突然中年の男性教師がたゆんたゆんと全身を揺らしながら廊下の角から現れた。

『!!??』

「あっ!!ま、まて!!!!おとなしく捕まりなさい!!!」

樊凌猫は急いで廊下を走り出す。

『な、なんなんあいつ!!??どっか隠れんと!!』

走りながら廊下を見渡していくと、一つ扉が開いている教室を見つけた。樊凌猫はいそいでその教室に駆け込んだ。

『哥哥!!???』

『小白!!』

そこは一年生たちが授業を受ける美術室だった。樊凌猫は机の上から話しかけてきた白浪猫に目を向ける。そしてふりふりとおしりを振り、大ジャンプの構えをした。

『哥哥!そのまま飛んでしまうと絵の具が!』

そんな白浪猫の注意を聞く前に、樊凌猫は一気に勢いよく跳んでしまった

そして白浪猫の心配通りのことが起こる。

『!!??な、なんこれなんこれ!!!!肉球にめっちゃくっついてくる!!!!』

樊凌猫は、新聞紙の上に塗られた鮮やかな絵の具に足を取られて驚いた。絵の具は指先にべったりとくっつき、肉球にどんどん絡まっていく。それをどうにかしようと、バタバタと足を動かしながら机の上を走り回った。

「キャー!!!!」

走るたびに、どんどん絵の具が広がり、机の上はもちろん、画用紙や周囲のものにまで飛び散っていく。樊凌猫はその勢いのまま、机の上を猛スピードで走り回ったが、脚を止めると足元に塗料がくっついて滑る。

『うわっ!なんかすごいことになってる!!』

樊凌猫はそのままさらにジャンプして、机から机へと移る。彼の尾が絵の具の容器にあたり、真っ青な絵の具が一斉にこぼれ落ちた。

「わっっ!!!???何だ何だ!!??誰か捕まえろ!!」

その絵の具は床に広がり、あたり一面が鮮やかな色に染まっていく。樊凌猫は大興奮で机の上を駆け巡り、ついにはまわりにあった画用紙や筆を引っかけて次々とひっくり返してしまった。

『哥哥!!止まって、止まってください!!!!』

『え!!??と、とまったらええの!!??』

机の下から聞こえた白浪猫の必死の声に樊凌猫は振り返るが、まったく止まらない。

ビシャーンッ!!!

樊凌猫はそのまま止まることができず、机にあった筆洗にぶつけた。筆洗が倒れて、真っ黒な水が勢いよく床に飛び散る。がしゃん!と筆洗が転がる音が響いた。

その瞬間、筆洗の中の水が全てシアノの膝の上にかかってしまう。

「っ!!?」
『に”ゃっっ!?』


シアノの膝上で寝ていたシア猫は真っ黒になりながら驚き、視界が真っ暗になった。シア猫はパニックになり、シアノの膝から飛び降りる。

さらに不幸なことは続く

『ふに”ゃっ!!!!???』
「あっ!?」

シアノが立ち上がろうとしたその瞬間、思わず白浪猫の尾を踏んでしまった。白浪猫はビクッと身をよじり、さらにあちこちが混乱してきた。

教室の中は荒れ果て、三匹は訳がわからないまま走り回り、絵の具や筆洗、そのほかの道具を蹴り倒し物をひっくり返しながらあちこちを走り抜けた。絵の具まみれになった教室は、もう手のつけようがない状態。
そのまま3匹は困惑状態のまま教室を飛び出した。

隣の教室がやけに騒がしいことに気が付いたフィリップ猫、ルフレ猫、カラ猫は教室から顔を出した。

『?やけに隣が騒がしいですね?』

その瞬間、三匹の目の前を真っ黒な毛玉が通りすぎた。

『!!??えっ!!??』
『な、なんだ今のは?』

それに樊凌猫と白浪猫も続いた。

『え?いったい何が起きてるんですか?』
ひとまず追いかけるか

そう言って、六匹は廊下を走り出した。

しばらく走っていると、正面の角から回り込んできたのは先ほどの教師だった。

『あっ!シ、シア猫が誰かにぶつかってしまいます!』
『!?シア猫ちゃん!!!前!!』
『!?』

「うわっ!!??」

長い毛で視界が遮られていたシア猫は、そのまま人間に衝突してしまった。彼は思いっきりしりもちをつく。衝突したことでかすかに視界が明るくなったシアノは、彼の服に全身をこすりつける。

『っ、やっと前が見えた
『シア猫、大丈夫ですか?』

シア猫に追いついた猫たちは心配そうに問いかける。シア猫は気づけばほとんどの猫たちが集まっていることに驚き、目を見開いた。

白浪猫と樊凌猫もシア猫の後ろを走るうちに冷静さを取り戻していたようだ。

「え?猫?」

「さっき廊下を走っていたのってこいつら?」

しかし、安心していたのもつかの間、一時間目が終わっており、廊下には自分たちを見に来た生徒たちで埋め尽くされていた。

すると突然、数名の教師がこちらに走り寄ってきた。

「平田先生!!こっち!こっちいます!!」

「見つけた!!っというか平川先生大丈夫ですか!?」

生徒の足音にまぎれて警戒するのが遅れてしまった。彼らの手には捕獲用の網が握られている。

『まずい、グラ猫さんたちと合流して一旦逃げましょう!』

ルフレ猫の言葉に猫たちがうなずき、樊凌猫の道案内で体育館へ全速力で走り出す。しかし、生徒たちが邪魔で走りづらい。

『まったく!!邪魔ですね!!』

しびれを切らしたフィリップ猫は、わざと人々にぶつかりながら進んだ。人だかりの中を走り抜け、足元に激突した猫に足が引っかけられると、次々に足元が崩れて人々が転倒する。そのドミノのような連鎖によって、廊下は阿鼻叫喚の地獄と化した。


「!いましたよ!」

「人が多くて進めそうにないな回っていこう。」

教師たちに加え、いつの間にか例の人間たちも追いかけてきていた。彼らは二時間目の開始のチャイムが鳴ったにもかかわらず追いかけてくる。

「お前たちが連れてきたのか!?」

「もぉぉ!!またあなたたち!?もういいから教室に戻りなさい!!!」

いつの間にか、猫を追う五人、その五人を追う教師という形になってしまっていた。

体育館を目指していたが、行く先々に人間が立っており、逃げたり捕まえようとする網をかわしているうちに、どんどん体育館から遠ざかってしまう。

そのまま数十分間追いかけっこをしていると、聞き覚えのある足音が近づいてきた。

『お前たち!!』

『!グラ猫殿!ラート猫殿!』

運よく、二匹が目の前から現れた。しかし、彼らの後ろにはまたもや別の追っ手がいる。

「哥哥!グラ殿!ラート殿!!」

「シラナミ!このまま挟み撃ちにするぞ!!」

『このままじゃ挟み撃ちになるで!?』

『はは!俺とラート猫に任せておけ!!』

グラ猫とラート猫は目を合わせ、うなずく。あと少しで挟み撃ちされると思った瞬間、二匹は瞬時に方向を変え、ほかの猫たちと同じ方向へと走り出した。

「なっ!!!??」

「!!??」

突然の方向転換に対応が追いつかなかった人間たちは、正面から激突し、止まった人間に後ろの人間が激突しとまたしても大混乱が起きた。

そのまま猫たちは追っ手を巻き込み、学校の外へと飛び出す。

誰も追ってきていないことに気づいた猫たちは、校門の前でごろんと横になった。

『はぁ何とか逃げ切りましたね
『ふぅ十分、この学校の平和は壊せたでしょう
『はは!俺はまだまだ遊び足りないけどな!!』
『グラ猫さん、遊びじゃないんですよ

数分ほど休憩をしていると、またもや人間たちの足音が近づいてきた。

「あ!いましたよ!!」

鋭い声が響くと同時に、人間たちは一斉に駆け出した。その勢いに驚き、猫たちもいそいで立ち上がる。

『っはは!せやったら最後のおにごっこやな!!』
『12時間太陽の位置からして、あとちょうど1時間ほどだな。』
『それじゃあ、1時間逃げ切る勝負だ!!』

こうして、町全体を巻き込んだ追いかけっこが始まった。

まずは魚屋の魚を1匹ずつ咥え、店主の叫びを背に受けながら路地裏へと駆け抜ける。

グラ猫を先導に公園へと逃げ込んだ。そして遊具の間に身を隠しそれぞれの魚を頬張った。

新鮮な魚を味わい満足した頃、人間たちの足音が次第に近づいてくることに気がつく。

『休憩は終わりやなほな、行こか!』

用具から飛び出し、公園の塗装中のベンチを軽やかに踏み台にしていく。足跡がくっきりと残ったベンチを見て、作業員が呆然とする。人間達は目を逸らしながら彼らを追いかけた。

次はまだ固まっていないコンクリートの上を素早く横切り、その後ろに猫の足跡が不規則な模様を描く。

「っ!?」

追いかける人間たちも気づいたときにはコンクリートに足を踏み込んでしまっており、急いで足を出す。作業員に怒鳴られながらも猫達を追いかけた。しかし、コンクリートに足を取られていたその隙に猫たちはさらに先へと進んでいた。

そんなことを繰り返しているうちに、いつの間にか猫たちの後ろには人間たちが列を成し、まるで祭りの行列のようになっていた。

「泥棒猫共〜!!!」
「俺の給料どうしてくれんだ!!!」
「猫の足跡は供給あるけど、人間の足跡に供給はねぇんだよ!!!!!」

しかし、猫も人間も体力には限界が来ていた。特に体力が少ないフィリップ猫が、段々と失速し始める。

『フィリップ猫、大丈夫か!?』

グラ猫が気にかけるが、フィリップ猫の足取りは重く、息も荒い。

「っ!!っはぁ、っはぁ!やっと、つかまえた!!」

その瞬間、人間の手がフィリップ猫の背中を掴んだ。

『フィリップ猫殿!』
『フィリップ猫!』

仲間たちの驚きと悲鳴が響く。だが、その一瞬の動揺が致命的だった。足を止めた隙を狙い、次々と猫たちが捕まっていく。

町中を駆け回った壮大な鬼ごっこの幕が、静かに閉じようとしていた。

『っ!離してや!!』

「っはぁ、はぁ!もう悪さはさせんで!」
大人しい猫だと思っていたが油断は禁物だったな

そして、猫たちの周りを人間たちが取り囲む。彼らの顔には怒りの色が濃く、どうしてやろうかと言いたげな表情を浮かべていた。長時間の追いかけっこで疲弊しながらも、猫たちを捕らえた達成感と、彼らの悪行への怒りが混ざり合った雰囲気が漂う。

「あなたたちは有罪です。観念しなさい。」

そうキッパリと言い切ったフィリップ。
しかし、次の瞬間

ッカプっ!』

「っいった!!!??」

突然、フィリップ猫はフィリップの鼻を思い切り噛んだ。鋭い歯が突き刺さり、フィリップは痛みで目をぎゅっと閉じる。

「お、お前っ!」

人間たちが驚きざわめく。しかし、彼が痛みで目を閉じた瞬間

……えっ?」

目の前から、猫たちの姿がスッと消えていた。

「ど、どこへ行った!?」

慌てて周囲を見回す人間たち。だが、どこにも猫たちの姿はない。

ほかの猫たちも同時に、パッと一緒に消えてしまったらしい。

まるで幻のように、彼らは跡形もなく姿を消した。

ただ、フィリップの鼻の痛みだけが、猫たちが確かにそこにいた証拠として残っている。

突然姿を消した猫たち。困惑しつつも、「もう安心だ」と街の人々は胸をなでおろした。

数時間後には、町の喧騒はすっかり収まり、まるで最初から何事もなかったかのように平和が戻っていた。

「はぁやっぱり平和が一番ですね。」

白浪は自販機で買ったお茶を飲みながらしみじみとつぶやく。今回ばかりは他の人間たちも同意のようだ。
その時——

あ、授業

誰かがぽつりとつぶやいた。

一瞬の静寂が流れ、次の瞬間

「「「あ!!」」」

全員が驚愕と共に声を上げる。時計を見ると、すでに授業が始まっている時間だ。

「どうしよう、絶対怒られる!」
「走るしかないだろ!!」

あたふたと一斉に駆け出す彼ら。誰かが転びそうになりながらも、必死で校舎を目指す。

彼らはまだ知らない。

学校に戻ったが最後、この騒動による大量の請求書が、彼らを待ち受けていることを。

そして——

家主であり、寮母のような存在であるナーデルにも、すべての連絡がいっていることを。