?話✧猫械




突然、連れてこられた大広間を見渡す。それは、自分たちが決して自由に見ることのできなかった『視界』だった。まず何より、『自分たち』が置かれている状況を理解することが追いつかず、用意された椅子に座っている。

ここには、八匹――と言って構わないのだろうか? 八匹が集められていた。どの顔も初めて見る顔ばかりだ。

一番端に座っているのは、フード付きのマントを着た毛並みの良い茶トラ猫。彼は、右や左、はたまた上から下まで部屋の中を楽しげに観察している。

「みゃう!みゃみゃう!」

その左隣に並んで座っているのは、赤い首輪をつけたどことなく眠たげな黒猫。

「にゃぁう……

眠たそうな彼の隣には、ムスッとした顔の猫が座っている。細身ながら、なかなかにいい体をしていそうだ。彼の視線は、ガラスの外の日向に向けられていた。

……みゃう

そんな彼の隣で、やたらとあちこちに視線を動かして警戒している猫が座っていた。特に目の前にいる、湿った大きな帽子をかぶった猫をどうやら警戒しているようだ。

……シャッー!」

「にゃっ……

突然、威嚇され、大きな帽子をかぶった猫は少し戸惑ったようだった。

その隣には、前髪にあたる毛が鋭い刃物のようにきっちり切りそろえられた美猫が、この現状を把握しきれずブツブツと鳴いている。

「っにゃっ、みゃっ、みゃ……

その隣には、やたらと姿勢よく軍帽をかぶったハチワレ猫が座っている。彼の姿勢の良さは、今にも立ち上がって敬礼しそうなほどだ。猫というより、犬のようにも見えてくる。

「っみゃ!うみゃっ!!」

そして、最後の椅子に丸まって寝ていたのは、白い毛並みの猫。

「っみゃぁ……

八匹は、互いにまだ警戒し合っている様子だ。そして、ここまで連れてきた当人、あの女性の姿は見当たらない。

彼らは、何を聞いても答えてくれなかったあの女性に突然ここに集まれと言われ、集まっている状況だ。

八匹が各々ゆったり過ごしていると、大広間の扉が開き、例の女性が入室してきた。

猫たちは、彼女を興味深そうにじっと見つめる。

彼女はそのまま一番奥の席に座った。

「皆さんお集まりですね。」

そう言うと、彼女は微笑んだ。

「私はナーデル。皆様をお呼びしたのは、少しお願いがあるのです。」

ナーデル、と名乗った彼女の言葉に猫たちは首をかしげる。

「お願い、というのは皆様には平和を壊して欲しいのです。」

「っにゃ!?」

「とは言っても簡単なこと。猫というのは本来腕の立つハンターなのです。それなのにもかかわらず、可愛い可愛いと愛でられ、本来の恐ろしさを忘れられている。そのため、皆様には猫の恐ろしさを人間達に思い知らせて欲しいのです。」

そう語ったナーデルは、具体的な説明を始めた。

猫が人類への洗脳を強化し、その結果が顕著に現れた令和の時代。その時代にタイムスリップし、猫の恐ろしさを思い知らせてやろうというのだ。

「うにゃっ!にゃっ!!」

と猫達はもっと詳しい話を聞こうとするが、ナーデルには伝わっていないようでそのまま立ち上がってしまう。猫達は困ったような顔をしながら仕方なく彼女について行くしかないと顔を見合わせた。

そしてナーデルは、大広間から出て、階段を登り、初めに目を開けたコンクリートの部屋の前で止まった。

ナーデルはそのまま扉の鍵を開け、中から猫たちを呼ぶ。

何も分からないまま、猫は中へと入っていった。

「ここに時辰儀、というものを置いておきます。みなさんで手を置けば過去に行けます。また12時間が経てば強制的に今の時代に帰還しますので。」

そうと言って、彼女は部屋から出て、扉を閉める。

その部屋は、夜目が効く猫たちですら真っ暗で何も見えなかった。ここで何かができるわけでもなく、彼女の言っていた通りに地面に置かれた時辰儀に手を乗せる。

最後の1匹が手を乗せた時、ふっと体が軽くなる感覚がした。