ゑ/圓堂
2025-03-27 00:30:20
6967文字
Public 月詠サーバー(満月本丸)
 

【刀剣乱舞】笹さに♂Twitterログ02【笹貫×創作男審神者】

Twitterに文庫ページメーカーで上げた小話まとめ笹みち編。2024年に上げたものをまとめました。
姫鶴福島笹貫刀帳NOデー記念小話『秘密よりも甘い明日のために』
3/22みちさん誕生日小話『TIPSY LIPS』
センチメンタルお月見小話『BLUESY MOON』
ポッキープリッツの日小話『満月本丸、11月11日の昼下がり。』
の四本立てです。
『秘密よりも甘い明日のために』だけみちさん不在で刀剣男士のみのお話となってます。

【秘密よりも甘い明日のために】

「ささ、ちょい来て」
「ん?」

厨にて流し台の掃除に精を出していた背後から姫鶴一文字の呼ぶ声が聞こえ、笹貫は手を止めて振り向いた。姫鶴一文字は開けた冷蔵庫の扉の影から顔を半分覗かせて、笹貫を小さく手招きしている。いつも連れたって一緒にいる五虎退と謙信景光の姿は、今は見当たらない。この状況が何を意味しているか、それを笹貫は瞬時に悟った。

「何、いいもんある?」
「過去最上級かも、なんちて」

すぐさま濡れた手を拭きつつ笹貫が姫鶴一文字と並んで冷蔵庫を覗き込む。大人数の食卓を支えるための大型業務冷蔵庫の、その奥深くに人目を避けるように金属製のトレイが並んでいる。この本丸の主や厨番長とも呼べる刀剣男士らの趣味である、料理やお菓子作りに日頃から慣れ親しんでいる二振りには、そのトレイが何を意味しているか手に取るように判るのだ。
申し訳程度に周囲の確認をしてから、笹貫はそろりとトレイを手前に引き出した。果たしてそこには、上品なベルベットを纏ったような甘味が所狭しと並んでいた。彼らが刀剣であった頃には存在していなかったものであるが、今はそれが何かを知っている。

「バレンタイン、今年はトリュフね」
「去年は生チョコ、だったっけか。何か違うの?」
「んー、似てっけど、俺はこっちのが好き。やったぜ」

姫鶴一文字の解答にならない説明にも、笹貫はもう慣れたものである。そもそも、明確な答えなど求めていない。どうせ美味しいのだ。


しかし、笹貫は流石に即座につまみ食いする気にはなれなかった。これを仕込んだのはきっと主である。しかも、恐らく一人きりで。近侍の歌仙兼定は専ら和菓子専門であるし、初鍛刀の男士として初日から本丸の厨を仕切る燭台切光忠であれば、つまみ食い防止のための策が何かしら講じられている筈なのである。こんなにも無防備に、記念日用の菓子を堂々と並べるのは彼くらいのものなのだ。
笹貫は、去年の今頃のことを瞳の裏側に思い浮かべる。その時はバレンタインデーなどというイベントの存在も知らず、冷蔵庫にそのようなものが眠っていることも知らなかったため、当日に渡されて初めてそれを知ることとなった。しかも、これは本丸の誰にも打ち明けていないことであるが、主は自らと特別な関係にある笹貫にだけ、皆の分とは別に作ったチョコレートを用意してくれていたのである。それは現世で購入した、まるで宝石のような美しいチョコレートであった。それもそれで美味しかったし幸福ではあったのだが、笹貫はやはり愛おしい主の作るものの方が好いと思った。素直にそれを彼に伝えた時の彼の顔を思い出すと、今ここでフライングしてしまうのはとても良くない。そう笹貫は感じた。


「おや、これは犯行現場目撃ってやつ、かな」

笹貫が辞するまでもなく、二振りのつまみ食いは失敗に終わった。

「うあ、福ちゃん」
「待ってよふっくん、まだ未遂だから」

厨の守護神・燭台切光忠の兄を自称する福島光忠の姿に、二振りは焦りを隠せなかった。笹貫よりも新参であるが、あの燭台切光忠の縁者とあっては到底逆らえぬ。この本丸では、食事を作るものの立場が何よりも高いのだ。

「はは、解ってるよ。大丈夫。光忠が戻ってくるといけないから、早く元通りにしまっときな」

福島光忠は人の好い笑みを浮かべ、くだけた調子で二振りの肩をぽんぽんと叩いた。まだ本丸に来て一年も経っていないが、気安い性格ですっかり皆と打ち解けている。

「あ、もし良かったらなんだけどさ。今、実休と主と温室作ってるから手伝ってくれるとありがたいな」
「おけ。主のこと手伝ったら何かおやつくれそうだし、そっちのが賢そう」
「だね。オレここの掃除終わったら行くから」

福島光忠は些か大袈裟なほどに喜んで礼を述べ、姫鶴一文字を伴って厨を後にした。



笹貫は再び一振りきりとなり、冷蔵庫のトリュフを元の場所へと戻して流し台へと向き合った。そしてちらりと壁に貼られたカレンダーを見遣る。二月十四日は明日だ。この後に待ち受ける楽しみに思いを馳せながら、笹貫はやや巻き気味に掃除を再開した。
主の書斎で覚えた、でたらめのジャズのメロディーを口ずさみながら。