ゑ/圓堂
2025-03-26 23:33:49
8464文字
Public 月詠サーバー(満月本丸)
 

【刀剣乱舞】笹さに♂Twitterログ01【笹貫×創作男審神者】

pixivから移植
Twitterに文庫ページメーカーで上げた小話まとめ笹みち編。2023年に上げたものをまとめました。
笹貫刀帳NOデー記念小話『本日は寄り道日和につき』
真夏にかき氷を食べていちゃつくだけの小話『フローズンタッチ・サマーデイ』
眼鏡珈琲ネクタイの日小話『パラレルハネムーン』
おのさんへ差し上げたうちよそ小話『めぐるえにしのみちしるべ』
の四本立てです。
『めぐるえにしのみちしるべ』はおのさんが以前、うちの笹みちとおのさんちの創作審神者ヨロヅくんを描いてくださった時に思い付いて書いたものです。
サムネはおのさんにコピ本にしてお渡しした際の表紙です。その節は本当にありがとうございました!一生の宝物です!

【本日は寄り道日和につき】

歌仙兼定はその日、実に機嫌が良かった。
元より喜怒哀楽の分かりやすい質だという事は知っていたが、こうも分かりやすいものか――肩を並べて歩く笹貫はこみ上げる笑みを言葉に乗せた。

「歌仙、楽しそうだね」
「そうかな。まぁ今日はとても良い品々が手に入ったからね。今の喜びもここで一首詠みたいほどだ。貴殿は、どこか寄りたいところはないのかい?」

歌仙兼定は浮足立った様子を見られていた事と、買い出しの荷物の大半を笹貫が持っていること――笹貫が品定めをする歌仙兼定のために、気を利かせて自主的に持ったものではあるが――に気付き、些か取り繕うような口調で早口に捲し立てた。これは少々人見知りの気がある歌仙兼定の癖であると、浅からぬ付き合いの中で笹貫は承知していた。
二人は今日、今代の主に頼まれて買い出しに行ったついでに、主の計らいによってそれぞれ私物を購入する事を許されていた。本丸の初期刀兼近侍であり、雅と風流をこよなく愛する歌仙兼定は、喜び勇んで茶道具や和歌用の筆や短冊などを見繕いに店を回った。笹貫は今のところそれに付き合っているだけである。すらりと伸びた背丈はそれでいて強健さがあり、主の依頼の品々を両手に抱えながらも、その足取りは歌仙兼定に負けず劣らず軽やかだ。

「気にしなくていいよ。オレは歌仙見てるだけで十分楽しいし?」
「僕は見世物じゃない!」
「ハハ、そう怒んないでよ。んー、どうしよっかなぁ」

笹貫は漠然とした足取りで、繁華街の店先におざなりな視線を向ける。笹貫が歌仙兼定に言った事は限りなく本音に近い。そして行きたいところがない、というよりは、どこに行けばいいのか分からない――それが彼の心境である。
彼らの居る本丸は少々特殊な位置付けにある。『訳あって元々顕現した本丸に居られなくなった刀剣男士達を引き取る』という役割を担っているのだ。初期刀兼近侍の歌仙兼定をはじめ、主の手によって顕現された刀剣男士達も居るが、それ以上に行き場を失って今の本丸へとやってきた刀剣男士達の方が多い。かくいう笹貫もそのうちの一振りである。
今となってはその問題も落ち着き、やっと本来の刀剣男士としての務めを全う出来るようになったが、顕現して間もないうちから幾つかの本丸をたらい回しにされたためか、笹貫には未だに足りぬところがある。感情の機敏とでも言おうか、自身の内に湧きおこる欲求に対して少々鈍感なのである。

「君、波乗りが好きだろう?専門の道具なんかあったりしないのか?」
「うーん、まだ時期じゃないかなぁ。って言ってもオレも刀の頃にしかした事ないから、何が要るのかよく分かってないんだけどさ」
「折角人の身を得たんだから色々やってみるといい。波に乗るのも、僕はなかなかに風流なんじゃないかと思っているよ。あ、実際に波に乗るのは遠慮しておくがね」

歌仙兼定の饒舌すぎる台詞に耳を傾けながらも、笹貫の瞳は立ち並ぶ店の景色を滑るばかりであった。波乗りは嫌いではないが、元はと言えば自身の逸話から生まれたいわば『本能』のようなものであり、これを趣味と呼ぶのは、今の笹貫にはまだ躊躇いがある。
しかし、と笹貫は考える。色々なものを見て、感じてきなさいと送り出してくれた主の顔を思い出し、胸の奥の方がじりじりと刺激されるのを感じた。
きっと、手ぶらで帰るのは良くない。あの人が悲しい顔をするような気がする。
根拠のない確信が芽生えた笹貫の眼に、とある店が留まった。

万年筆か」
「あの人が使ってるヤツ」

店に入り、視界に真っ先に入った商品に指先で触れる。
笹貫の感情の内側にある本能が、珍しく彼の瞳に光を点す。

「あの人に似合うかも」
「僕も同感さ。貴殿もなかなか雅を嗜む素質があるんじゃないか?」
「そ?歌仙のお墨付きってんなら間違いないか」

じゃあこれ、と言って笹貫が万年筆を取り上げると、折角だからと歌仙兼定がインクを見繕い始めた。色選びについて長々と講釈を垂れた歌仙兼定であったが、結局は笹貫が直感で決めたものを万年筆と共に購入して店を後にした。

「きっと主も喜ぶだろう」
「歌仙とあの人、趣味合うもんな」
「じゃなくて、だ」

本丸への帰路を肩を並べて歩く笹貫に、荷物を抱えながらも歌仙兼定はびしりと人差し指を突き付けた。

「確かに僕の趣味は主とも合うし、こういった買い物の仕方は僕の十八番だ。だがね、今回最も重要なことは、貴殿が主に贈りたいと思ったことが大事なんだ」
「そ、っかな」
貴殿は、主と恋仲なんだろう。他の皆がどうあれ、近侍である僕の目はごまかせないぞ。いや、別に責めている訳じゃない。寧ろ、大いに祝福しているよ。主にとって好い相手が出来たというのは近侍としても喜ばしい事だ。で、だよ。その恋仲であるところの貴殿が、主にはこれが似合うと思って選んだものだろう?好きな相手にそういった贈り物をされる事は、嬉しい事だと僕は思うがね」

一体どこで息継ぎをしているのかという程につらつらとそう語った歌仙兼定は、最後に妙に自信ありげな顔を笹貫の方へと向けた。笹貫は束の間、鳩が豆鉄砲を食ったような表情で歌仙兼定を見つめていたが、やがて目元を綻ばせた。

「ありがと」
「礼には及ばないさ。これもまた近侍の務めの一つと僕は思っているからね」
歌仙がいてくれて良かった、ホント」
「な、なんだ急に。妙な事を言うんじゃない」

笹貫の素直な言葉に目を白黒させながら狼狽える歌仙兼定を見て、笹貫はやっと心の底から笑い声を上げた。