nuka_boshi
2025-03-04 18:21:38
20434文字
Public 利吉さんで賽殺しパロ
 

【RKRN】転生したら母親が伝子さんだった利吉さん その1【シリアス死ネタ】

映画『ドクタケ忍者隊最強の軍師』を見た結果、なんか利吉さん数年後にえらい事になりそうって感じてめちゃくちゃ罪の意識を感じるハメになったので、初見視聴時の感覚を頼りにお魚流利吉さん数年後ifでまさかのひぐらしのなく頃に賽殺し編パロをしようとしたやつ

一応つどい設定になるのかな?感を反映させてる感あるけど、割とその辺りは緩い独自解釈。映画見るまでほぼ忍たま知識ゼロなので多分色々とアップデートできてないです。

曇らせ&死ネタ。お魚にしてはだいぶ手加減してるけど基準がおかしいだけなので曇らせネタが苦手な人はご注意を。

推しが山田伝子なのだけど推しを美化しすぎてて描ける気がしないので『じゃあ忍者関係なしの一般人ガワだけ伝子さんならかっこよくかけなくても自分の中で解釈違い起きないから書ける!』という理由で架空の伝子さんが出ます。本編のお魚が好きになった宇宙一カッコいい伝子さんは出ませんので、ジェネリック伝子さんをお楽しみください。

ネタバレ 利吉さんが曇ります



 山田伝子が、どうやっているのか鉄の箱を走らせる。この時代では牛車ぎっしゃや馬車などの類がなく、車といえばこの自動車が一般的らしい。私にはどうにも理解が及ばない絡繰からくりの類を悠々ゆうゆうと動かしながら、山田伝子は穏やかに語りかけてくる。
「そうよね、家に行けば――自分の部屋を見たら、何か思い出せるかもしれないものね」
 伝子はそう言うが、私にはそれが間違いなく不可能だということはわかっていた。青空に背を伸ばしてそびえ立つ電信柱も、石のようなもので覆い尽くされ平たく塗られた道も、たまに道を走る奇妙な二輪の絡繰からくりを乗り回す人々も、今の私にはどれも見た事のないものだからだ。揺れも何もなく猛スピードで走る車も、私にとっては違和感しかなく気持ちが悪い。もし私が『山田利吉』の記憶を思い出せるならば、それほどの違和感と戦わず済むハズだ。今の私にとって、安心できる要素などどこにもない。それこそ太陽が西に沈むくらいのわずかな事くらいしか安心出来ないのだ。
 とはいえ、初日のようなヘマはもう出来ない。なるべく徐々に記憶を思い出したフリをして、見よう見まねで無理矢理にこの世界の常識に合わせた行動をして、「自分の部屋を見てみたい、住んでいた場所を見れば何か思い出せるかもしれない」と医者をなんとか言いくるめ、暫く定期的に病院へ通う事を約束し、半ば無理矢理にもぎ取った退院だ。不審なことをすれば、またあの病室へ戻されるかもしれない。少しでも情報が必要な今、しくじることは許されなかった。初日に精神安定剤と称して医師に出された見たことのない数種の薬は、どうやら大幅に気力や思考力を奪う類のものだったらしい。おかげで頭の回転がやや緩慢かんまんになっている今、ボロが出ないように振る舞うのは非常に難しい事だった。重くなった頭と、時折来る睡魔すいま。薬というより毒を飲まされているようだった。……まぁ、おかしな事を口走る危険人物は、薬や何かで無理やり抑えつけようという魂胆なのだろう。その手には乗るものか。
 幸いにも、強い薬はこちらの思考力を奪ってくるものの、その分この奇妙な世界への違和感や恐怖を和らげてもくれた。――とはいえ、このようなものに頼っていては、私が私ではなくなってしまう。私が私ではなくなるということは、死ぬのと同義だ。今や何もかもが信じられず、かつて私が居た場所の手かがりは私の記憶にしかない。つまり、私をむしばむ強烈な違和感と恐怖は、私が私であり続けるためには決して手放してはならないものだ。だから、医師から処方された薬の数々は、頃合いを見て全て処分するつもりだ。……医術にたずさわる者が聞いたら、目を吊り上げて怒りそうな話だが。
「利吉、今日の夕飯はオムライスにするわよ。ほら、利吉、好きだったわよね?」
 伝子の言葉に私は何も返せず口籠る。おむらいす、なる物をそもそも聞いた事がないからだ。伝子は私のその反応を見て、しまったとばかりに顔を歪めた。失言に気付いたらしい。
「ごめんなさい、利吉は覚えてないのよね。でも、ほら、食べたら思い出せるかもしれないじゃない?」
 そうですね、と適当に相槌を打ちながら、私はこっそり心の中で舌打ちをする。食事などどうでもいい、偽物の家族ごっこに興じる時間があるなら、その分を情報収集にてたかった。
 やがて車は石で作られた建物の中に紛れるように建っている小さな木造建築の前で停まった。どうやらここが『山田利吉』の家らしい。
「利吉、着いたわよ。具合は大丈夫? 歩ける?」
……全然平気ですよ。もうどこも痛くないですから、そう大袈裟にしないでください、伝子さん」
 私は可能な限り穏やかに笑って見せる。……とても嫌な話だが、私はこの奇妙な世界が何なのか、私の身に何が起こったのかまだ何ひとつ掴めずにいる。……つまり、……元の世界に帰る手掛かりという探し物の形も、それどころか存在するかどうかすらわからない探索に、……数年を費やす覚悟さえ必要になるかもしれない。一日二日でどうにかなる保証は無いのだ。だから、山田伝子に不信感を持たれる事は、なんとしても避けねばならない。息子がおかしくなったと彼女がわめき立てれば、より一層身動きが取れなくなるのだから。手掛かりを見つけ出すまでは、この茶番じみた家族ごっこを続けなければならない。
 とはいえ父そっくりのこの人を『母』などと呼ぶのはあまりにも抵抗があったし、そのように呼んで正気を保てる自信もなかった。幸いにも『山田利吉』は一時的な記憶喪失ということになっている。記憶を失ってしまったが故の反応、ということで許される範囲だろう。
 山田伝子はどこか物言いたげな顔をしたが、しかし何も言わずに微笑み、玄関の鍵を開ける。……きっと、私の父であれば、山田伝蔵ならば、もっとはっきりと言いたい事を言ってくるに違いない。私と口論になるのもいとわず、不器用な言葉を投げかけてくる筈だ。……だからきっとこれは、私が孤立し心を病んでいる事を前提とした、ある種の憐れみからの行動であり、それを受け取る事は私をよりみじめな気持ちにさせるもののように感じて……はっきり言って、今すぐ振り払ってしまいたいものでしかなかった。足を引っ張られるのも大概イライラするものだが、それは引っ張られるだけの優秀さがある証だ。憐れみはその逆。相手より下にいるものと思われ、見下されているのと同じだ。確かに今の私は褒められた人生を送っていないし、この世界でも『心を病んだ哀れな異常者』でしかないのだろう。しかし、何も知らない人間に、してや見た目だけは父にそっくりなこの女性に憐れまれるわれなど、どこにもないはずだ。
「利吉の部屋は二階でね、隣には……
 なにくれと世話を焼こうとする伝子の言葉を笑顔で聞き流しながら、私は廊下を歩いていく。木造の外観を見た時は、多少でも慣れ親しんだ建物に近い場所に住めるのかという安堵があったが、今やそれは完全に裏切られていた。床や壁があまりにも平らで、違和感しかないのだ。外側だけ似せた張りぼてを出されたようで、これならまだ病院のような石造りの建物の方が幾分かマシだった。
「利吉の部屋はここよ。ここが電気のスイッチで、着替えはその引き出しに……
「ありがとうございます、あとは自分で確認しますから」
 耐えきれず、私は笑顔で遮った。山田伝子の少し傷付いたような顔を見て、私は咄嗟に付け加える。
「その……もしかすると見られて恥ずかしいものもあるかもしれませんから」
 思春期の男にはよくある話だろう。『山田利吉』がどうだったのかは知らないが、少なくともこの言葉は一定の説得力があったらしい。
「そう? ……じゃあ、お母さんは下で仕事してるわね。何かあったら呼んでちょうだい」
 パタパタと足音が遠ざかるのを待って、私は深くため息を吐いた。違和感が布として首に巻きつき、徐々に締めつけるかのように、こちらを絶えずむしばんでくる。……耐えろ、山田利吉。漸く巡ってきたチャンスなんだ。少しでも多くの手がかりを探す為、まずはここがどこなのか、私の本来居るべき場所がどこなのかはっきりさせなければ。
……もしもし。お久し……です、山伝子と申ます。…………教授は……ますか……
 階下から微かに山田伝子の声が聞こえ、私は僅かに身体を硬直させる。……どうやら、来客でもあったのか、他人と話をしているらしい。落ち込んでいる場合ではなかった。漸く手にした僅かな時間を、無意味に食い潰すわけにはいかないのだ。
 私はキッと顔をあげると、まずは『山田利吉』の勉強机へと向かった。
 手掛かりとすべきは、教本きょうほんの類。最初の日、乱太郎としんべヱたちが『摂津』を昔の地名だと話していた。荒唐無稽こうとうむけいな話だが、もしかするとここが私のいた世界の未来という可能性もある。ならば、まずはこの世界で語り継がれている歴史から当たるべきだ。とはいえ、初日とその翌日で、どこまで記憶があるかを確認するべくあれやこれやと質問を投げかけてくる医師に、北小路亭きたのこうじてい、或いは花の御所の名を挙げてみたが全く伝わらなかった所を見るに、私の元いた場所とこの世界が全く別の魔鏡である可能性の方が高いとは思うが。……まあいい。可能性を潰すのもまた大事な事だ。
 日本史と書かれた数冊の教本のうち、幾つかのページめくり、最終的に分厚い朱色の本を手に取った。他はテスト用の穴埋め問題だったり、絵や写真の資料が主だったりで、殆ど役に立たなさそうだったからだ。
 目次を見て気になる項目を見つけたが、私は最初から順に字を辿っていく。私の知る本とはじ方も紙すらも違うそれを、慎重に、しかし可能な限り素早く。記紀の内容は殆どっていないものの、随所ずいしょに私の知る歴史が顔を出す。
……平安。しんべヱらが言っていた時代だが、これも私の知る昔の時代の話と概ね一致することが分かる。……鎌倉。幕府という言葉がさも重要そうに政務まつりごとを行う組織として書かれているが、いくさの陣中で将軍が居る場の意味合いではなかったかとか、私の記憶とは細部が違うため疑問が浮かぶ点が多々あるものの、これも大まかな出来事だけならば私の知る通りだ。……室町。最初に一番目を惹いた単語が顔を出す。……足利高氏、三管領さんかんれい、奉公衆、日明貿易、赤松満祐あかまつみつすけ。少しずつ、確実に私の知る世界の話に近付いていく。足利義政、細川勝元、山名持豊宗全。応仁記にも登場する人物の名がるに至って、私は殆ど確信に近いものを感じていた。惣、永楽通宝、日明貿易、闘茶、正風連歌。私の知る言葉ばかりが並んでいく。更に数ページほどめくったところで、私はパタリと書を閉じた。……そこから先は、私の知らない話だ。つまりこの書を信じるのであれば、私は室町と呼ばれる時代の終わりから来たということになる。昨日病院で教わったこよみに照らし合わせるなら、実に五百年もの時を越えてしまったことになるわけだ。
「はは……そんな馬鹿な……
 浦島子じゃあるまいし、こちらは亀を助けた覚えも無ければ、常世の国へ行った覚えも 玉櫛笥たまぐしげを開いた覚えもないのだぞ。それともなんだ、あの時雷鳴に存在ごと全てを掻き消してはもらえないものかと願ったのを、神か天狗が聞き入れたとでも言うのか。それこそ馬鹿げている。
 しかし、五百年もの月日が経てば、街並みも文化も何もかも変わってもおかしくはない。細部が誤って伝えられる可能性を考えれば、ここに書かれているのは概ね私の知る通りの歴史だった。――それは、つまり。本当に五百年後の世界にいる可能性もあるわけで。
 ギリと歯噛みしつつ、私は他にも何かしら手掛かりがないかと机を漁る。しかし、『山田利吉』の部屋にある膨大な量の本に、室町に関する本はさほど多くはなく、あっても殆ど役に立たなさそうな内容ばかりだ。
 ……落ち着け、山田利吉。発想の転換だ。私の元居た世界は分かった。ならば、次はどうしてこのようなことが起きたのか、或いはどうすれば帰れるのかを探すんだ。実際に説明し難い現象が起きている今、荒唐無稽こうとうむけい御伽草子おとぎぞうしの類すらも漁らねばなるまい。もしかしたら、私以外にも前例があるかもしれないのだから。
 そう考えて部屋のすみの本棚をもう一度軽く見回すと、気になるものを見つけた。本棚の一番下にちょこんと鎮座していた一冊の本。恐らくは取り止めもない娯楽小説か何かだろう。最近読んだ形跡のないそれは、題名に「転生」「異世界」という文字が入っていたのだ。
 転生といえば輪廻転生のことだろうか。しかし宗教学の本という雰囲気でもなさそうだ。藁にも縋る思いでそれに目を通した私は、しかしすぐにページを閉じた。殆ど役にも立たない、子供の夢想に近い内容で目も当てられなかったからだ。
 人生を失敗していた男が、トラックに轢かれて死亡して、気がついたらそこは楽しい摩訶不思議な異界。主人公はそこで『前世を思い出し』、右も左もわからないその世界で前世の知識を活かして不思議な力で活躍し、困難をあっさり解決したり女子に持てはやされたり、とにかくチヤホヤされて過ごすのだ。
 ――馬鹿馬鹿しい。生きる場所が変わった程度の事で大成功できる人間などいるわけないだろう。餌を強請ねだヨダレを垂らす意地汚い犬猫の類のように、何もせずただ大口を開けているだけで人生が変わるとでも? こんなものは幼稚なやり直し願望の産物だ。……心にゆとりがあり、これを娯楽として楽しめる人間ならばともかく、今の私にとっては耐え難い内容だった。――――何よりも耐え難いのは、自分がこの本のように『転生』した可能性がある事だ。もし元の世界の私が既に死んでいて、帰るすべはとうに失われていて、ずっとこのまま生きていかねばならないなら。物語の主人公のようにキッパリと過去を捨て、心を入れ替えて生きていけるなどとは到底思えなかった。
 ……もう沢山だ。異界探訪など、誰か他の者にさせてやってくれ。だから、だから神でも仏でもあやかしでも、この際天魔の類だろうと構わない。どうか故郷に、私の知る元の世界に帰らせてくれ――
 放心状態で座り込んでいた所為か、私は足音や人の気配に気付かなかったらしい。
「利吉、入るわよー」
 山田伝子の声に、私は必死に表情を取りつくろう。心を病んだと思われたら終わりだ。『私は何も思い出せなかった、ただ何か懐かしい気がする。』――その演技だけ出来ればいい。
「はい、伝子さん」
 できる限り平静を装い、彼女を招き入れる。相手は過剰なほどにこちらを心配している状態だ、拒否すればその分一層まとわりつかれかねない。なるべく穏便に、適当に相手をしてしまおう。
「あらやだ、電気くらい点けないと目が悪くなるわよ。……それで、どう? 何か思い出せそう?」
「それが……まだ何も思い出せなくて。でも、何か懐かしい気もするんです」
 予想通りの問いに、私は予め用意した内容を返す。たったそれだけの嘘で、伝子はほんの少し、ほっとしたように表情を綻ばせた。
「そう……でも急いで全部思い出す必要はないわ。無理はしないでちょうだいね。……あら?」
 伝子の視線が僅かに逸れ、私は咄嗟に「しまった」と心の中で舌打ちをした。先ほどの娯楽小説を、棚に戻すのを忘れていた。
「その本……確か利吉が小さい頃に買った本よね? 懐かしいわぁ。何かの機会にアニメを見て、一冊だけで良いからって貴方が誕生日のプレゼントに強請ねだってきたの。利吉ったら漫画もあるのに本当に小説で良いの?って聞いたけど、小説がいいんですって言って聞かなくて。国語辞典片手にうんうん悩みながら読んでたわよねェ」
「や、やめてくださいっ! そんなんじゃありません!」
 思わず怒鳴りつけてしまって、私は慌てて付け足す。
「全然覚えてませんが、すごく恥ずかしいことだということだけは分かりましたから」
 自分の失態のせいで他人の恥ずかしい過去を聞いてしまったような、妙な居た堪れなさに、私は頬がむず痒くなるのを感じる。だいたい、当の『山田利吉』だって、母親にこんな話をされるのは嫌だろうに。
 しかし伝子はふふっと嬉しそうに笑った。
「安心したわ。やっぱり貴方、利吉なのね」
――え?」
……実を言うとね、お母さんちょっと不安だったの。このままお母さんの知ってる利吉はもうどこにも居なくなっちゃって、帰って来ないんじゃないかって。今の利吉は、私の息子じゃなくて全然別の人なんじゃないかしらって。――でも安心したわ。何も覚えてなくてもその本を手に取る所も、そうやってすぐ照れてムキになるところも、全部変わってないもの。何も覚えてなくても、ちゃんと私の息子の利吉だって、よ〜く分かったわ」
 ――違う。私は貴方の息子じゃないし、貴方の知る『山田利吉』とは全くの別人だ。『山田利吉』がこの本を欲しがったのだってきっとただの気まぐれで、私がこの本を手に取ったのとは全く違う理由のはずだ。照れてムキになっているように見えたのだって偶然の産物で、それを息子だと愚直に信じている貴方は、ただ滑稽なだけだ。そう言ってやりたくて堪らなかった。だというのに山田伝子は、私の心根など知るよしもなくこう言うのだ。
――そういえばまだ言えてなかったわね。おかえりなさい、利吉」
 涙ぐみながら穏やかに微笑む彼女から、私は目を逸らす。……本当に、どこまでも愚かな人だ。少なくとも、私の知る父は、山田伝蔵はこのような弱く愚かな人間ではない。母上だってそうだ。私の両親は、私の嘘を信じてみっともなく涙ぐむような、愚かな人物では断じてない。だから、目の前にいるこの女は、きっとどこまでいっても愚かな他人でしかなく、私にとって取るに足らない存在だ。
 出来の悪いまがい物を見せられているようで、大切なものを土足で踏みにじられているようで、この人と話しているとどうしようもなくイライラさせられる。
……それだけを言いに来たわけじゃないでしょう。用件はなんですか」
 自分で思った以上に冷たい声が出てしまう。……落ち着け。相手を騙せているなら、それはこちらにとって好都合ではないか。冷静沈着を気取る私にも、人並みに焦り動揺したり困惑するだけの心があったらしい。……大丈夫だ、私はただ元の世界へ帰る為に、この愚かな人を利用するだけだ。使えるものはなんでも使う、それが忍者だろう。心に刃を忍ばせろ。
 私の葛藤かっとうになどまるで気付かず、伝子はのんびりと答える。
「あら、忘れるところだったわぁ。そろそろ夕飯を作ろうと思ったんだけどね、ケチャップが足りないのよ。買い出しに行くから、着いてきてちょうだい」
……別に私はここで一人で待っていますが……
「駄目よ、事故に遭ったばかりの貴方を一人になんてしておけないわ。ほら、支度して」
 腰に手を当てて大袈裟に怒って見せる伝子の姿に、私は内心で舌打ちをする。嗚呼、親の存在が邪魔臭い……! 折角の貴重な調査時間を邪魔してくる目の前の人物が、いっそ今すぐ殺してやりたいほどに憎らしかった。