nuka_boshi
2025-03-04 18:21:38
20434文字
Public 利吉さんで賽殺しパロ
 

【RKRN】転生したら母親が伝子さんだった利吉さん その1【シリアス死ネタ】

映画『ドクタケ忍者隊最強の軍師』を見た結果、なんか利吉さん数年後にえらい事になりそうって感じてめちゃくちゃ罪の意識を感じるハメになったので、初見視聴時の感覚を頼りにお魚流利吉さん数年後ifでまさかのひぐらしのなく頃に賽殺し編パロをしようとしたやつ

一応つどい設定になるのかな?感を反映させてる感あるけど、割とその辺りは緩い独自解釈。映画見るまでほぼ忍たま知識ゼロなので多分色々とアップデートできてないです。

曇らせ&死ネタ。お魚にしてはだいぶ手加減してるけど基準がおかしいだけなので曇らせネタが苦手な人はご注意を。

推しが山田伝子なのだけど推しを美化しすぎてて描ける気がしないので『じゃあ忍者関係なしの一般人ガワだけ伝子さんならかっこよくかけなくても自分の中で解釈違い起きないから書ける!』という理由で架空の伝子さんが出ます。本編のお魚が好きになった宇宙一カッコいい伝子さんは出ませんので、ジェネリック伝子さんをお楽しみください。

ネタバレ 利吉さんが曇ります



 手早く身支度を済ませ、前日の夜にまとめた手荷物を持った私は、不気味なほどに明瞭に映る鏡を見る。そこにはまだ年若い――かつての自分にそっくりな男の姿が映っていた。
 この奇妙な世界で目が覚めて三日目の午後。私、山田利吉は、焦る心を抑えるだけの理性をなんとか取り戻せていた。
 この奇妙な現象が何なのかは分からない。こよみも、常識も、文化も、何もかもが異なる世界で、少しずつ違和感のある見知った人々に囲まれて、違和感がぬぐえるはずもない。未だに恐怖と困惑は私の身体にまとわりついている。だが、怯えているだけでは何も始まらない。少なくとも『元』プロ忍である以上、なんとしてでも情報を得なければならない。この奇妙な世界は何なのか、抜け出し元の世界に帰る方法はあるのか。調べるべきことは山積みだ。
 そう考えれば、初日にみっともなく取り乱してしまったのは大きな失態だったと思う。あの後、『山田利吉』は『事故で心を病んでおかしくなった』として入院の措置が下されたからだ。狭く白い病室の一角で、またいつ気が狂うのではないかと監視されながらでは、情報収集など当然出来るはずもなかった。……とはいえ、私の身に起きた事を知ってなお「あの状況で取り乱すなんて情けない」などと嘲笑する者がいるなら、その人物の方こそよっぽど頭がどうかしていると思う。人の心があるならば、そのような理不尽な事を言えない筈だ。
 話がれたが、丸一日の措置入院は、何も悪い事ばかりでは無かった。この世界の『山田利吉』やその周囲の人物のことを知るきっかけになったからだ。
 この世界の『山田利吉』は現在十九歳。親子関係は若干いびつなものの、表向きそれで歪むようなこともなく、生真面目かつ向上心豊かな立派な好青年、と周囲からは専ら評判だったらしい。だった 、、、と過去形なのは、私の失態も多少は含まれるが、半年ほど前に『山田利吉』が大学受験に失敗したことに起因するものだ。それが『山田利吉』にとってどういった類のものか、私には正確には分からない。伝え聞く話から推測するならば、忍術学園に入学するつもりが断られた、といった類のものだろうか。金銭的な問題ではなく学力面の問題だったらしい為、自尊心を傷付けるものであった可能性は高いだろう。『山田利吉』は悩んだ。一年を勉学にて、充分に準備期間を設けて改めて受験を受け直すか、それとも目標を諦めて別の大学へと進むか。悩んだ末に、『母に胸を張れる立派な教師になれるように、改めて学び直す』と宣言、浪人生として現在勉学に励んでいるらしい。ただし、山田伝子がしんべヱと乱太郎に聞いた話によれば、この選択に関して本人は最近になって相当に悩んでいたようだ。
 最初のうちは良かった。『いずれ母のように教師になりたいからね、生徒に色々なことを教えられるように少しでも沢山のことを学ばないと』と、笑顔で語っていたらしい。しかし周りの同級生に、『山田利吉』と同じ選択をした者は一人も居なかった。同年代の人物は皆、彼と違って各々充実した学校生活を送り、課題に追われ、或いはアルバイトに恋にと歩みを進めていく。段々と噛み合わなくなる会話、取り残される焦り。最近ではそれらにすっかり参っていたようで、一人でいる時はかげった表情を見せることもあったと言う。それでも乱太郎やしんべヱに心配をかけまいと、彼らに気付くといつも笑って見せ、『たまには息抜きも必要だからね』などと言って彼らの遊びに付き合ってやる事も多かったとか。当然、二人からはこの上なく慕われていたらしい。
 勿論、これらはあくまでも乱太郎としんべヱ、そして伝子の主観によって語られたものだ。実際の『山田利吉』がどういう人物で何を考えていたのかは今となっては分からないし、恐らく永遠に分かる日は来ないだろう。
 ただこれらの話が全て事実だとするならば『山田利吉』は相当の好青年だったことは間違いないようだ。一人で心労を抱え込まざるを得ないほど真面目な好青年だったからこそ、無理が祟って精神を病んだに違いない、ということで処理された。私の記憶と皆の記憶の齟齬そごも、心的要因による一時的な記憶の混乱と健忘症、というそれらしい理由付けが為された。
 さて、こうなってくると当然の疑問が湧いてくる。悩みを打ち明けられる交友関係がなかったにせよ、せめて親には相談できないのか。
 その答えは、『山田利吉』の家庭事情にあった。『利吉』の父親は、彼が産まれた直後に他界しており、伝子は一人息子を女手ひとつで育てねばならなかった。教職員としての仕事の傍ら、育児にも追われる事になった伝子は、数年前に他界した自分の両親に息子を預ける事も多かったらしく、『利吉』と接する時間をロクに作れなかったようだ。多忙な母の背を見て育った『利吉』は、せめて母の負担を少しでも減らそうと、家事を負担したりしていたらしいと聞くので、決して親子仲が悪かったわけではないようだ。恐らく『山田利吉』は彼なりに母を尊敬していたのだろう。ただ、悩み事を共有したり世間話をしたりできるような間柄では無かった。……それだけだ。
 そんな有様だから、この世界について何も分からない私が『山田利吉』に取って代わってしまった事で、山田伝子はすっかり傷心し――今や必要以上に私に構おうとしていた。哀れにも心を壊した息子を見て、今更になって息子の事を理解出来なかったと悔んでいるようなのだ。正直な話、これは私にとって迷惑な話でしか無かった。ただでさえ自分の父親の女装姿とそっくりな赤の他人という事で忌避きひ感と嫌悪感があるというのに、その人物が事あるごとに私に話しかけてくるのだ。所詮、いくら心を砕いて話しかけられた所で相手は赤の他人だ。私にとって、伝子は今や自分の目的を遂行する上での障害でしかなかった。
 もう一つ、私にとって面倒だったのは福富しんべヱだ。かつての『山田利吉』が事故に遭ったのは、彼が道路に落とした菓子袋か何かを拾おうと飛び出したのを庇う為、だったらしい。私が目覚めるまで、『山田利吉』は丸二日間昏睡状態にあり、その原因が分からずにいたらしい。このまま目覚めない可能性もあると医者に言われ、それが自分を庇った為だと知って、それで自責の念を抱かずにいられる筈もない。当然ながら、足繁あししげく『山田利吉』の見舞いに来ていたらしい。泣きべそをかきながら誰よりも『山田利吉』の目覚めを待っていた彼にとって、私という異質な変化は相当のショックを与えたらしい。なんとかしなければ、と妙な使命感に燃える彼は、暇さえあれば私の元に来てべったりとまとわりつき、この世界の一般常識や自分の知る『山田利吉』とその周りの人物について教えてくれた。……そこまでは良い。問題は、彼の話はこの世界の常識からもどこかズレているらしく、周囲から度々訂正が入る事だ。一般常識そのものすら分からない今の私にとって、彼の話はどこまで信用できるものか分からず、できる事ならばある程度の状況把握が済むまでそっとしておいてほしいところだった。
 猪名寺乱太郎の語る話も似たようなものではあった。が、乱太郎に関してはしんべヱと比べれば私の元へ来る頻度が低く、接触が少なくすみそうだったのは幸いだった。
 どうやらこの世界には、オリンピックというスポーツの祭典があるらしい。足が早い乱太郎は、この世界ではまだ幼いながらにオリンピック選手候補となれるのではと大人からの期待を一身に浴びる、わば麒麟児きりんじなのだそうだ。また、画家としての才能にも長けている為、スポーツと芸術の両方面から期待を寄せられており、稀代の天才少年としてマスメディアに捕まりがちらしい。初日に私に会いに来た時も、そうしたマスコミを振り切り、時間を捻出ねんしゅつして会いに来ていたようだ。今私と迂闊に接触しようものなら、マスコミ関係者によって「天才少年の憧れの人、悲劇の狂乱」などと面白おかしく書き立てられかねないので、周囲に迷惑がかかりかねない、と涙を呑んで普段通りの日常生活を送っているらしい。「だからボクが乱太郎の分まで利吉さんに色々教えます!」と燃えるしんべヱが厄介ではあるが、余裕のない時に二人を同時に相手しなくて済むのは正直助かるところだ。……いや、この二人の場合、一人増えたところで心労は大して変わらない気もするが。
 乱太郎としんべヱの話で信用して良いのは、恐らく人間関係の話くらいだろう。乱太郎達が知る限り、忍術学園は存在せず、そこに居た学生や教員の一部のことを全く知らないようだった。きり丸達以外にも、大川平次渦正学園長や山村喜三太に皆本金吾、それに小松田秀作といった、乱太郎達の知っていておかしくないだろう人物の話が全く出てこないのだ。目覚めた時の失態を「記憶がなかった上に妙な夢を見て寝ぼけて錯乱した」という体で誤魔化した以上、踏み込んだ話は聞けないままでいるが、おそらくこの世界では接点がない、或いはそもそも彼らは存在しないという事なのだろう。
 ……正直、この事に関しては考えるだけで気が滅入る。この世界には居ない人物の一人である土井半助は、かつて抜け忍として追われていた所を父にかくまわれ、私と家族のように過ごした大切な人だ。忍者としてはあまりにも優しすぎる、しかし私にとって極めて重要な人物。ここ数年顔を合わせることができていなかったが、年の離れた兄として慕っていた相手であり、私が最も信頼する相手と言っても過言ではない。私が自らの子を手放そうと決めた時、真っ先に浮かんだのが土井半助を頼る事だった。私には決して幸せを与えられない我が子も、彼ならばきっと愛情を注いで接してくれるに違いないと思ったのだ。その、土井半助が……居ない…………
 ――やめよう。これ以上考えた所で、虚しくなるだけだ。朝、目覚めたら何もかもが元通りになる事に期待し、しかしそれは叶わなかった。だから今は、一刻も早くこの奇妙な世界について調べて、なんとかして元の世界に帰らなくては。
 私が改めて決意を固めたその時、病室の扉がガチャリと開いた。
「利吉、遅くなってごめんなさいね。退院の準備は出来た?」
「はい、大丈夫です伝子さん」
 私は表向きは笑顔に見えるよう、表情を取り繕う。伝子はそれに少し寂しそうに微笑んだ。
「伝子さん、じゃなくてお母さん、でしょう? ……まあ、良いわ。これからゆっくり思い出していけばいいんだから」
 山田伝子の言葉に曖昧あいまいに笑いながら、私は内心で悪態を吐く。……冗談じゃない、何がゆっくり思い出せ、だ。私は一刻も早く、元の世界に帰るのだ。ここは私のいるべき場所じゃない。こんな悪夢のような世界で長い時を過ごすなんて、絶対にごめんだ……
 私は心を凍て付かせて、病室を後にする。しかしこの胸を刺す苦しみとどうしようもない寂しさは、凍らせた心にずっと爪を立てていた。