かいえ
2025-03-01 09:17:16
13392文字
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【竜武】「クリスマスは意外性で♡」作戦   

「プレゼントは、オ・レ♡」作戦(https://privatter.me/page/67c174ad33a5f)の続編
前作に引き続き、竜胆の為に蘭が全力でお兄ちゃんを遂行する話   
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「で、どこのショップに行きたいんだよ? こんなところまで来たんなら、ある程度目星をつけてから来たんだろ?」
昼食を終え、ファッションブランドが入っている六本木ヒルズの別棟へ移動する途中、俺は武道がどんなプランを考えて来たのかワクワクしながら聞いてみた。
「ええ。下調べはして来ましたよ! モチーノっていうブランドはどうですかね?」
 すごく頑張ったという得意気な顔で武道が答えた。思わずよしよししたくなってしまう可愛らしさだ。けれども、武道の言うブランド名は聞いたことが無かった。
「モチーノ? なにそれ、和菓子屋か何かかよ?」
「違うっスよ! すげぇお洒落なファッションブランドですよ!」
「聞いたことねぇけど。もう一回言ってみろよ」
「だから、モチーノですって」
 もう一度聞いてみても「モチーノ」というブランドは聞き覚えが無かったし、実際、そのブランドがあるかどうかも分からかった。もしかすると、どこかのブランドのパクリ系ではないかと思い始めた時、武道はズボンのポケットに手を突っ込み何やら取り出そうとしていた。
「ほら、これですよ。このお財布はどうかなって」
 武道はそう言って折りたたんだ雑誌の頁を開いて俺に見せてきた。
 俺は目にしたものに絶句した。
 そこには黒い二つ折り財布の画像があり、側面に白色で「MOSCHINO」というアルファベットの表記があった。武道は「モスキーノ」を「モチーノ」と読み間違えをしていたのだ。それを理解した時、俺はドンキで武道がシャウティングチキン40センチの首を掴んで見せて来た時と同様の、いや、それ以上の衝撃を受けて笑いのツボに入ってしまった。そう云う訳で、俺はヒルズの真ん中で腹を抱えて笑い転げたのだった。
「蘭君、そんなに笑うなんてひどいっスよ。そんなにセンスがなかったですかね?」
「センスじゃなくて、オマエ、ブランド名読み間違えてんだよ。これはな『モチーノ』じゃなくて『モスキーノ』って読むんだよダメだ。まだ笑えるし
「そうだったんですか?」
 武道はそう言って小さな悲鳴を上げると、顔を羞恥で赤く染め上げた。そうだよ。なんて恥ずかしい読み間違えをするんだ。これは絶対黒歴史になるに違いなかった。けれども、恥ずかしそうにそわそわしている武道を見ると、そんな姿もクセになる可愛らしさで、もう何でも買ってあげたいという、今までにない気持ちになってしまった。
 ひとしきり笑って、何とか平常心を保てるようになった俺は、武道を竜胆のお気に入りの店に連れて行った。Gから始まるイタリアの高級ファッションブランドだ。
 店に入ると、すぐに店員が近付いてきたから、武道はビビッたみたいで、俺の背中に隠れてしまった。人見知りの犬かよと突っ込みたくなったが、そのまま店員と会話して、新作を出して貰う事にした。店員が在庫を取りにバックヤードに行ってしまっても、武道は俺の背中に隠れたまま店内を珍しいそうに見渡していた。
「なんで隠れてんの?」
「いやなんかすげぇアウェー感があってですね。どこかに隠れたくなるというか既に隠れてるんですけどね」
 武道は自分に自分でツッコミを入れた。そういえば、こいつに服でも買ってやろうと思いついた。この店で買えば、竜胆とお揃いになるのだ。同じデザインの色違い身に着けた二人が並んだ姿を妄想し、これって双子コーデじゃんとときめく。マジ、カワイイ! カワイイが並べば何倍もカワイイじゃん! と、想像だけで俺のテンションが爆上がりした。
「なぁ、隠れられそうな場所に連れて行ってやるよ」
「そんなところがあるんですか?」
「あるある。こっちにおいで」
 俺は自分の背中に両手を回し、武道の背中を捕まえてから歩き出した。武道はおずおずとだけれど、俺に従いゆっくり歩を進めた。店の奥のフィッティングルームに入れて、重厚なカーテンを閉じてやる。中は人が数人入れるだけのスペースがあり、座る為の背もたれのある椅子も置かれているから、武道はそこに座らせておこうと決めた。
「勝手に入って大丈夫なんですか?」
「へーき。武道はその椅子に座って待ってろよ」
 武道を試着室に隠した俺はバックヤードから戻って来た店員の持っていた服を吟味した。あまり大人っぽいものや、着る場所を選ぶようなデザインはパスして、日常で着られそうな服を選んでやる事にした。沢山ある候補の中から、三色展開のフード付きのスウェットシャツが目に留まり、このデザインであれば武道でも着こなせるだろうと考えてそれに決めた。武道のどうしようもないダサい普段着を脳内に浮かべて、どうせならボトムスもあった方が良いかと、ダークブルーのリンスドデニムのストレートレッグパンツを合わせた。グレーにもライトキャメルにも合うのを確認してボトムスはそれに決める。当たり前だけど、店員は竜胆のサイズで持って来ていたので、それぞれ一番小さいサイズを持って来くるように頼んだ。
「武道、これに着替えて」
 先程選んだ上下の服を手渡すと、武道はぽかんとした表情を浮かべた。
「へ? 俺が着るの?」
「竜胆へのプレゼントがどんな感じか、武道自身が着てみた方が良く分かって手っ取り早いだろ? プレゼントしたのに、上下で色が合わなかったりしたら悲惨じゃん?」
「そういうものなんですね俺、あんまり上下を一緒に買った事が無いので分かんないッスそういうのコーディネイトっていうんですよね?」
 なる程と、俺は心の中で恐ろしく納得していた。そんな服の選び方をしているから、いつも服装にまとまりが無いのだと理解した。しかし、武道の場合は、まとまり以前にセンスの無さが問題なのだろうけど。
 武道は試着する事を不思議がっていたが、俺に言いくるめられて、結局は服を身に着ける事にしたらしい。閉じたカーテンの向こうで、ごそごそと服を脱ぐような音がしていた。しばらくしてから、武道が顔だけ出して「蘭君」と、俺を小声で呼んだ。店員が視界に入ると武道が緊張して可哀想だと思い事前に遠ざけておいたのだけれど、まだ怖いらしく怯えた表情を浮かべている。カーテンの隙間から顔を出している武道は、まるで木のうろから顔を出す子リスのようだ。
「この服なんですけど
「んー? どーしたー? サイズが合わねぇの?」
 俺の見立ては完璧だから、服のサイズを違えるなんて事がある訳が無かった。今までだって、付き合った女の服のサイズどころか、下着のサイズですら間違えた事が無いのだから、サイズがぴったりである自信しか無い。でも、こういうショップの服に慣れていない武道には、念の為聞いてやった。
「サイズはぴったりなんですけどなんか、金額がおかしいんですよ。0が多すぎっつーか。印刷ミスですかね? このパーカーが16万もすると思います? それとも、ぼったくりですか?」
 パーカーじゃなくてフーデッドスウェットシャツだけどと思ったが、この場合、細かい指摘をするのは止めておいた方が良さそうだった。それより、武道が服の値段に気がついてしまったという事実が意外過ぎて困ってしまった。ずぼらな武道が、見にくい場所についている値札に気がつくなんて俺は思ってもみなかったのだ。次回からは試着する前に外しておいて貰おうと心に決めた。
 けれども、今考えるべきはそれでは無かった。どうやって誤魔化すか考えなければ、俺の見たい竜胆と武道の双子コーデは実現しないのだから。印刷ミスじゃなくて16万の服で合っていると言えば、武道はパニックになるかもしれない。これからも着せ替え人形になって貰わなくては、俺の楽しみが奪われてしまうのだから、ここは16万円では無いという説明で乗り切るしかなかった。
「それ、円表記じゃないから。この店はベトナムドン表記なんだ。だから、下二桁の0を消せば、日本円の値段になるし」と言ってみた。桁を減らす事しか考えていない言い訳だった。でも、もしかしたら、武道なら騙されてくれるかもしれないと一縷の望みに掛けた。普通はこんな説明で騙される訳が無いのだけれど。
「そうなんですね。六本木って外国人多いですもんね。でも、ベトナムドンなんて初めて聞きました。じゃあ、これ1600円なんスか? すげぇ安いんですね。それだったら、俺でも楽勝で買えますよ!」
 しかし、武道はやっぱり武道だった。俺の適当で訳の分からない説明を素直に受け入れたのだ。
「だろ? この店って外見高級そうだけど、結構リーズナブルなんだよな」
「本当ですね。六本木ヒルズのショップで買い物なんてした事無かったから知らなかったです。ユニクロより安いなんてびっくりしました!」
 自分でそう説明しておいて、そんな訳あるかと突っ込みたくなったが「良かったな、知れて」と、にっこり笑いかけてやるに留まった。更に「ハイ!」と小学生みたいな元気の良い返事をするから苦笑するしかない。
 こうして何とかピンチは乗り切ったものの、こんなに騙されやすくて、この先、何もなく生きていけるのだろうかと武道の事が心配になった。イタリア発祥のブランドがユーロじゃなくて、ベトナムドンで売られているなんて信じるなんて、頭の中がお花畑じゃねぇかと呆れてしまう。けれども、なんの警戒心も無く俺の選んだ服を素直に身に着けている武道は、カワイイから仕方がないかと思う自分もいた。武道がずっとこのままなら、将来はマンションに監禁した方が良いかもしれない。こんな能天気なバカを野放しにするのは、オオカミの群れの中に雛鳥を放つようなものだ。本当は即日監禁した方が心の平穏なのだろうけど、まだ義務教育中なので一応配慮してやる事にして、学校を卒業したら監禁した方が良いと、竜胆に助言してやろうと心に決めた。その場合は家が手狭になるから、大きい家に引っ越しても良いかもとか考えて、楽しくなってきている自分がいた。
「なぁ、服見せてみ?」
 武道は相変わらずカーテンから顔しか出していなかった。
「えー。なんか恥ずかしいからイヤです」
「いいじゃん。どんな感じか見せろよ。俺のチョイスが合ってるか確認させろよ」
「えー? 笑いません?」
「笑わねぇって」
「蘭君、すぐに笑うじゃないっスか。さっきだってあんなに笑ったし」
「だって、あれは反則だろ? 俺のせいじゃねぇよ。オマエが笑わせてきたんだろ?」
「笑わせるつもりなんてなかったです。ちょっと読み間違えただけです」
 あれがちょっとの読み間違えか? と「モチーノ」という傑作すぎる言葉を思い出して、また噴き出しそうになって焦った。ここで笑い転げてしまっては、試着した姿を見せて貰えなくなると、俺は必死で笑いを堪えるしかない。そういえば、武道といる時はいつもこんな風に笑いを堪えている気がしてきた。お笑い番組を見ても笑わないこの俺がと、不思議な気持ちにさせられた。
「なぁ、マジで見せろって。これじゃあショッピングに俺がわざわざ付き合ってやっている意味ないじゃん」
「確かにそうですよね。じゃあ、変でも笑わないで下さいよ?」
「笑わねぇって言ってんだろ?」
 散々念を押した武道は、ようやく試着室のカーテンを開けた。ライトキャメル色のフード付きのスェットシャツは、想像より武道に良く似合っていた。それに合わせた濃いブルーのボトムスも、足のラインがまっすぐに出て、それだけで随分垢抜けて見えた。
「いいじゃん」
 本当にそう思った。
 ちゃんとした服を着せれば、こんなにも印象が変わるのだと驚いた。つまり素材がそんなに悪いものでは無い事が良く分かるというものだった。さすが、竜胆が選んだ人間なだけあると、俺は竜胆の審美眼の素晴らしさに嬉しくなった。それにしても、武道はセンスが無いだけで、恐ろしく損をしていると思うしかない。
「マジっスか?」
「ああ、マジでイイ。竜胆が惚れ直すレベル」
「やった! っていうか、俺の服じゃなくて、竜胆君にプレゼントするものを買いに来たんですけど」
 武道は俺の言葉に無邪気に喜んだものの、当初の目的を思い出してハッと我に返った。思い出せただけで偉いぞと、俺は目を細めて武道を見た。
「イイじゃん別に。似合ってるから買ってやるし」
「いやいやいや。ダメっス! お昼も奢って貰ったのに
「じゃあ、こうしようぜ。武道が竜胆の分を買って、俺が武道の分を買えば良くねぇ?」
 武道は俺の提案に「?」という表情を浮かべたが「そういえばそうかもですけど?」と、簡単に丸め込まれようとしていた。こんなに純真無垢だと段々俺なんかでも罪悪感を覚えてしまうのだけれど、どのみち、武道には竜胆の分すら支払えないのだからと、このまま騙してしまおうと自分の中で折り合いをつけた。それに、武道が着替えている間に会計してしまえば、本当に支払った額を武道に気がつかれずに済むだろう。
 こうして、武道のクリスマスの買い物は無事に終わった。
 竜胆へのプレゼントをショップでラッピングして貰い、ショッパーを肩に掛けて歩く武道はとても誇らしそうで幸せそうだった。竜胆へのプレゼントを買えた事が、武道にとってそこまで嬉しい事なのだという事が伝わってきて、竜胆への愛の深さに俺の心もほんわりと癒されてしまった。
 喉も乾いたからお茶でもしようかと武道の方を見た俺は、武道の表情が先ほどとは打って変わって暗くなっている事に気がついてしまった。さっきまでの幸せオーラはどこにいった!? と、俺は戸惑う。
「武道、どしたー?」
「蘭君、俺って性的魅力が無いですか?」
 幸福感に浸りまくっていた俺の耳に届いたのは、唐突で耳を疑うような武道の言葉だった。
「誰に言われた?」
 どんな状況でなら性的魅力どうこうという話題が出るのかと考えて、一気に頭に血が上るのを感じた。竜胆の恋人を貶された事への怒りなのか、竜胆以外の人間とそんな話題をする状況に身を置いた武道への怒りなのか、何もかも交じり合って分からなくなる。
「そうじゃないです。誰に言われたとか、そんなんじゃないです」
「じゃあ何なの?」
「竜胆君があの日以来、全然その気になってくれなくて」
「ハァ?」
「俺に性的魅力が無いからなのかなって
「どういうこと? あれからって、もしかして竜胆の誕生日からとか言う?」
 竜胆の誕生日なんて一ヶ月以上前だった。あれから毎週のように泊まりに来ていたのに、何もないとはどういう事だと訝しむ。
「そうなんですあの後から一回もしてないんです俺とするの、あんまり良くなかったのかな?」
「んなわけないだろ?」
 竜胆は間違いなく喜んでいた。武道と一線を越えた後の竜胆がしばらく我が世の春といった様子で浮かれていたのは、この目で確認済みなのだ。
「でもいつもキス止まりなんっス!」
「マジか
キスだけってなにやってんだと呆れてしまう。俺が気を遣って、武道が泊まりに来る日は外泊してやっていたというのに、どうしてそんな風になっているのか理解に苦しむ。そういえば、武道に手を出す事を頑なに我慢していたっけ。本命には奥手になるのだとあの時も意外に思ったのだけれど。一線を超えて尚、慎重になるタイプだったとは、驚きを通り過ぎて唖然としてしまう。道理で武道の色気が増さない筈だと変に納得をしてしまった。ここは、兄として二人の為に一肌脱いでやるしかないのかもしれない。
「分かった。だったら俺に任せとけー。絶対竜胆をその気にさせてやる。だからオマエも気張れよ?」
「ハイ! 頑張ります!」
 武道は今度も元気良く返事をした。