かいえ
2025-02-28 19:00:00
11190文字
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【竜武】「プレゼントは、オ・レ♡」作戦

2022年10月20日開催ワンデイ竜武ドロライ企画で書いたお話に2,900文字加筆し誤字脱字を修正したもの
11,186文字
蘭が弟の恋人である武道を可愛がりつつ、竜胆との仲を取り持ったり応援したりする話
竜胆の為に色々作戦を考える蘭が尊いのです

「竜胆は少し遅くなるって」
 知り合いのクラブでDJ代理をしているだろう弟を想って答えてやる。何も自分の誕生日に代理を頼まれる事も無いのにと不憫に思ってしまうのは、竜胆がこの日をめちゃくちゃ楽しみにしていたのを知っているからだ。
 俺なら絶対断るのに、竜胆は義理堅いところがあるので断らないのだ。俺の弟はすごいと思う。盛大に絶賛してやりたい。
「ああそうなんですね
 自宅玄関先で俺の真正面に立っている花垣が、目に見えてがっかりするから、俺は不覚にもきゅんとしてしまった。竜胆に直ぐに会えなくて項垂れるなんて、なんていじらしいのだろうと思うしかない。花垣が犬ならばきっと、その耳は垂れしょんぼりとしていたであろう。ともかく、花垣の態度から竜胆への気持ちを確認でき、俺は安心してしまった。
「上がれよ」と声を掛ければ、花垣はぎくしゃくした動きで靴を脱いだ。花垣は竜胆には慣れているが、兄の俺の事は怖がっているのか苦手意識を持っているみたいで、話しかけると大抵動作不良を起こす。弟の恋人だと思って、すごく親切に且つ優しく接してやっているのに、どうしてこんな壊れかけたロボットみたいになるのか不思議で仕方がない。
「その辺座ってろ~」
 未だ絶賛びくついている花垣をリビングのソファに座らせると、俺はパーティーの準備の続きをする為にキッチンに戻った。
普段、俺がキッチンに立つことはあまりないのだけれど、愛する弟の誕生日は例外だ。毎年、竜胆の為に何か手料理を振る舞う事にしている。そう云う訳で、今年はバースデーケーキを作る事にした。
 キッチンの作業台に置かれた白いターンテーブルの上には、ふっくら焼き上がった完璧なきつね色のスポンジが鎮座している。真ん中の断面にはキルシュ酒で風味を付けたシロップを塗り込み済みだ。後はスポンジに生クリームを均等に塗り、千疋屋で購入した大粒の苺をスポンジの間と表面に飾りつけ生クリームでデコレーションすれば完成だった。
 あまりにも完璧な途中経過に、俺は鼻歌を歌いながら洗って乾かした苺のヘタを果物ナイフで切り取っていた。すると「あの」と背後から花垣に声を掛けられた。振り返らず「んー?」と返事をすると、花垣は「今日ってなんかのお祝いですか?」と、びっくりするような質問をするから、もう少しで俺の指が切り落とされてスプラッタになるところだった。
「マジで言ってる?」
 そう言って、一旦作業を止めて振り返る事にした。
「ええ?」
 花垣はマジで何も分かっていない様子で戸惑っていた。
「まさかだけど、今日が竜胆の誕生日なの、知らないとか言う?」
「ええええええ!?」
 俺の言葉に花垣が驚いて絶叫しているけど、俺の方が驚いてるっつーの。竜胆が花垣に何も言わずにうちに招いたのを俺は初めて知った。
「あの俺、今からプレゼント買いに行ってきます!」
 花垣の素直な反応を見て、ああ、そうかと思う。こうやって気を遣わせたく無かった訳なのだなと。
竜胆の気持ちは理解したが、花垣が竜胆に何か渡したいという気持ちも分かってしまう。
「じゃあ、俺もついて行ってやる」
「ひ、ひとりで行けますよ?」
 子供じゃないのでと小さな声が続くが、俺はガン無視して「一緒に行こうな」とにっこり笑った。
 花垣は顔を蒼ざめ黙り込んだが、俺の目力には勝てなかったようで、最終的にぶんぶんと頷いて了承した。やっぱり俺が怖いらしい。でも、俺は気にせず財布とスマホだけを持って玄関に向かい、花垣が俺の後ろを遠慮気味に着いてくるのを目の端で確認した。飼いたての犬みたいで保護欲が沸いてしまう姿だった。一緒にエレベーターに乗って階下に降る。花垣は俺と至近距離で二人きりという状況に緊張して無言のままだ。そういえば、竜胆と付き合って初めての誕生日になるのかと気づいた俺は、マンションを出たところからスマホで動画を撮ることにした。タイトルは「初めてのプレゼント選び」かな。
 スマホを花垣に向けて動画をオンにするとピンという機械音が響いた。
「どこ行く?」
 試しに聞いてみる。竜胆が欲しがる物をこの目の前の貧乏そうな中学生に購入出来るとは思えなかったからだ。
「えっとドンキ?」
 花垣の答えに、俺は思わず吹き出してしまった。せっかくの動画がブレブレだ。
「変ですか? あれ、どうして動画なんて撮ってるンですか?」
「おもしろいから♡」と答えると「なんですかソレ」と、花垣はちょっと頬を膨らました。多分、この場面は竜胆が後から見て悶絶するところだと思うと、思わずふふふと笑ってしまった。
「じゃあ、ドンキな」
 ひとりで行けるとか言いながら店の場所が分かっていない様子の花垣に、ドンキへの行き方を指示しながら、花垣の少し後ろを歩いた。ヒヨコみたいな黄色い頭がひょこひょこ歩く姿が画面に映っていて、それだけで愛らしく思えてしまうから不思議だ。タイトルは「初めてのおつかい」に変更になるかもしれない。
 そのヒヨコは目的のドンキに入っていくと、目をキラキラさせながら店内を見回していた。どんだけドンキ好きなんだよと笑ってしまう。それに、この店で竜胆の為にどんなプレゼントを購入する気なのだろうと、わくわくしてきてしまう自分がいた。きっと花垣だから期待を裏切らないくらいダサいものを選ぶんだろうなと、ニヤニヤするのを止められない。
 花垣は一階の酒とつまみコーナーを通り過ぎ、階段を使って二階に上がった。そのフロアは、化粧品や雑貨や電化製品が所狭し並んでいた。花垣は迷いなくまっすぐ雑貨コーナーに向かって行った。
 ファンシーなキャラクターやアニメキャラクター、おまけ付きのお菓子、キーホルダーなどが満載の一角で花垣は足を止めた。そんな場所で花垣が手に取ったのは、何故かシャウティングチキン三十三センチだったから、また笑いが止められなくなった。
 蝶ネクタイをして毛を毟られた黄色のにわとりが、目を見開きダッチワイフみたいに大きく縦長に口を開けている、お腹の部分を押すと絞殺した時に出るような変な鳴き声を出すおもちゃだ。皮膚は正に鳥肌仕様というかイボカエルのようにぶつぶつして気持ち悪さが半端なく、トサカと嘴と蝶ネクタイと脚と趾の爪の部分が赤色になっているから不気味な感じしかない。とても恋人の誕生日にあげるものには到底見えない代物だ。
 無言になった俺に不安になったのか「これじゃあダメですか?」と、花垣が心配そうに尋ねてくる。花垣が冗談じゃなく本気で言っているのが、本当に堪らなくて、俺は込み上げる笑いを必死で抑え込んでいた。一生懸命竜胆の為に選んでいる行為を笑う事など出来ないからだ。
「じゃあ、これはどうっスか?」
 微妙な俺の反応に、花垣が次に俺に見せたのはシャウティングチキン四十センチで、サイズしか大きくなっていないというのが、もう駄目だった。花垣は俺の弟にこの変なおもちゃしかプレゼントする気が無いのだ。こんなにおかしいことがあっただろうかというくらい、俺はヒーヒー言うまで笑ってしまった。画像はしばらく俺の靴先か床しか映っていないかもしれない。
「おにいさん、ちゃんと真剣に見てくれてますか?」
 笑っている俺にムッとして花垣が言ってくる。おまえこそ、そのセリフ丸々返してやるよと言ってやりたい。でも、そのおもちゃを貰った竜胆がどんな顔をするのか見てみたくて「いいんじゃない?」と、返事をしてやった。
 すると花垣は表情をぱぁっと明るくして「やっぱりこれですよね! 竜胆君喜んでくれるかな?」とはにかんで笑ったから、俺はまたきゅんとしてしまった。
 良かったな、竜胆。
 恋人の笑顔、めちゃくちゃ可愛く撮れてるぞ。きっと、これ永久保存版になるな。
 俺がきゅんとさせられたんだから、竜胆が見たらきゅんきゅんになるに違いなかった。
 花垣はレジでラッピングをお願いして、マジックテープの財布から940円をおつりなく小銭できっちり出した。俺は初めて見るマジックテープの財布から目が離せず、その中身にも興味を持ってしまった。そっと花垣の背後から財布の中を見てみると、札入れに千円札が一枚しか入ってないのが確認できた。財布に千円札を一枚しか入れずに六本木に来るのすげぇと、俺が思わず変な感動をしてしまったのは言うまでもない。
 けれども、直ぐに、いや、そうじゃないかもしれないと思い直した。もしかするとクレジットカードを持っているのかもしれないと思い至ったのだ。花垣が親から家族カードを渡されている可能性は捨てきれなかった。それくらい所持金が千円というのは、俺にとって心もとない金額なのだ。ちなみに、幼少の頃から俺の財布の中が五万円以下になった事は無い。
 そう云う訳で、俺は花垣の財布のカード入れの部分を再び背後から覗き込んで見てみたのだけれど、どこかのショップのスタンプカードしか入ってなくて、また変なツボに入って笑いを堪えるのが大変だった。
 当初は、予定していなかった竜胆の誕生日プレゼントを買う金は持ち合わせていないだろうと思って、親切心から花垣に着いてきただけだった。けれども、俺の想像の遥か斜め上を花垣は行き、自前でプレゼント代を支払えてしまったのが本当に笑える。でも、全財産の半分を竜胆の為に使ったのは愛ゆえなのは違いなく、健気でカワイイから、今度なんか買ってやろうと思った。
「おにいさん、黙り込んでどうかしたっスか?」
 想いに耽る俺に異変を感じたのか、花垣が俺を振り返ってそう言った。
そういえば、花垣は俺の事をずっと「おにいさん」と呼んでいる。竜胆が「竜胆君」なら俺は「蘭君」だろう? と、思った。
「蘭でいいよ」
「へ?」
「蘭って呼んで」
「あ蘭君?」
 やっぱり花垣の蘭君呼び最高だった。不安気で遠慮気味になった疑問形なのも、庇護欲がそそられてグッとくるものがあるし。
「買いたいものあった!」
 またしてもぴんと閃いた俺は、一旦撮影を止めて店の前に花垣を待たせて店舗に逆戻りした。急いで会計を済ませてラッピングして貰ったものを、俺を待っていた花垣に手渡した。竜胆と花垣への俺からのちょっとしたプレゼントだ。
「これ、なんですか?」
「二人っきりになったら竜胆に渡せ♡」
「え?」
「秘密のおまけだよ」
「あざっス!」
 花垣はにこにこして、自分の持っていた袋にそれを入れた。
 帰宅した後はパーティー準備の続きを始めた。
 まずは作りかけのバースデーケーキを完成させなくてはいけなかった。予定外の買い物に出かけた分だけ時間が押していた。
 俺は冷蔵庫にしまっておいた生クリーム入りのボウルを取り出し、台に載せて状態を確認した。分離もしておらず問題が無いようなので、使い捨てタイプのビニール製絞り袋にシリコン製のスパチュラで生クリームを移し替えた。すると、俺の横に立ち手元を覗き込んでいた花垣が「おお!」と歓声を上げ「蘭君、すげぇ! パティシエみたい!」と、大したこともしていないのに褒め讃えてくる。
 一緒にドンキへ買い物に行っただけで、花垣が俺に懐いたみたいで、目が合うと「何か手伝える事があるっスか?」と、小首を傾げながら聞いてきた。
 それにしても、さっきまであんなに俺の事を怖がっていたのに、いきなりこの距離間はおかしいだろう? と、呆れながら、俺は又素晴らしい考えを閃いてしまった。今夜の俺は絶好調かもしれない。
「じゃあ、風呂入ってきて」
「え?」
 俺のお手伝いをする気満々だった花垣は、拍子抜けしたような声を出す。
「うちのしきたりで、パーティーの前は客に風呂に入って貰うんだ」
「そうなんですね庶民には伺い知れない世界ですね。分かりました。あでも、俺着替えとか何も持ってないですよ?」
 ちょろいから、花垣は簡単に俺の言う事を信じてしまう。
「大丈夫。着替えは用意するから」
「すみません」
「気にすんなー」
 花垣が風呂に入ったのを見届けてから、俺は竜胆の部屋に行きクローゼットを開けた。花垣は小さいから、竜胆の服でもかなりぶかぶかだろうと思いつつ、何か適当なものはないかと物色する。スウェットの上下を見つけたが、大きすぎるのが一目で分かった。だったら上着だけでイイんじゃね? と閃き、すぐに良い考えだと思った。そして、上着だけだったらこれだろと、襟のある前ボタンの白い長袖シャツを手に取ったのだった。