クピードーの記憶①

記憶喪失ハイノイ
ほにゃっと時空です。
ハイノイなんだけど、コノチャ♀の作文をひと通り読んで事前に設定を知っておく必要があります…
https://www.pixiv.net/novel/series/12007385


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 ノイマンの身元引受人はチャンドラである。
 オーブに亡命して来て、お互いに身寄りがない同士話し合って、何かあればお互いが面倒を見ようと決めて法的に手続きしてあった。
 早速、東アジア共和国の難民支援機構に、オーブへの連絡を依頼した。
 病室のベッドで上半身を起こして座り、サイドボードに置かれた卓上カレンダーを眺めるが、どう見てもC.E.89の十月である。
 ノイマンの記憶ではC.E.73の八月なので十六年が経過していることになる。
 回診にやって来た主治医に自分の感覚では一気に十六年経過していることを相談したが記憶の取り戻し方には色々あって、段階的に思い出していくパターンなのだろうと言われた。
 脳の損傷の具合もあるし、どのようにして記憶を取り戻していくかは医師にもはっきりとは言えない部分らしい。
 十六年経っていると言うことは、ノイマンは今四十二歳のはずで、チャンドラはひとつ歳下だから四十一歳。
 一人暮らしへの違和感があるということは、とうとうチャンドラと一緒に暮らしていたのかもしれない。
 オーブに来てうまく隠せるようになってはいたが、彼女の男性恐怖症は年々酷くなっていたようだし、ノイマン以外の男性にはとにかく拒否反応が酷かった。
 ふと気付く。チャンドラが死んでいたらどうしよう。自分は月の高級リゾート地があるコロニーの宇宙港で事件に巻き込まれた被害者だと聞いている。
 月の高級リゾートに一人で行くわけはないから、誰かと一緒だったはずで同行者はチャンドラだったのでは?
 だとしたら、自分がこのような大怪我を負う事態になっているのだから、同じくチャンドラも巻き込まれていたら、ともすると死んでいる可能性もある。
 ゾッとして身体が震えた。
 宇宙での死は一瞬だ。爆発に巻き込まれて消滅。もしくは真空に投げ出されて
 膝の上に置いたカレンダーを持つ手に力が籠った。もし、チャンドラが迎えに来てくれなかったら

「ノイマンさん!」
 担当の看護師が慌てた様子で病室に駆け込んできた。ノイマンを含め、四人部屋に居た患者の全員がただならぬ表情の看護師に視線を向ける。
 廊下を走って来たのだろう、看護師は少し息が上がっていて興奮しているようだった。
「ご家族と連絡が取れましたよ! もうこちらに向かっているそうです五時間以内に着くって」
「え流石に無理なのでは?」
 ノイマンは東アジア中国地方の広州の病院に居るので、オーブからの直行便があったとして最低でも八時間はかかると思う。勿論、都合の良い直行便などあるわけがないし諸々の手続きを踏まえても最短で二、三日はかかると見込んでいた。
 だが、ともかく家族と連絡がついたと聞いてチャンドラの無事に安堵したし、とうとうチャンドラと結婚でもしてたのかと少し気恥ずかしい気持ちになっていた。
 その後すぐ、病室を移動することになり慣れ親しんだ四人部屋の患者仲間に別れを告げて個室に入れられた。
 病室なのに、寝室の他にリビングとキッチン、トイレと別の広い風呂がついたどう見ても最高ランクの部屋である。
 何故部屋を移動することになったのか看護師に聞いたところ、保安上の理由だと言われた。意味がわからなかった。

 その日の夕方、綺麗だし広すぎて落ち着かない病室で、リビングスペースに設置された大きなソファに腰掛けてぼんやりとアークエンジェルの記事が載った雑誌をめくっていた。
 アークエンジェルはC.E.75に失われたと書かれていて物悲しい気持ちになっている。それでも、チャンドラが生きていると言うことはラミアスも健在のはずだし、インタビュー記事に添えられたカガリの写真を見るに少女らしさはなくなり美しい大人の女性に成長して立派にオーブの代表首長を務めているところを見て救われた。
 端末があれば、ネットのニュースなども読めるし情報収集も簡単なはずなのだが、昨日まで身元不明の難民でしかなかったノイマンには自分の端末を契約する権利も金もなかった。
 オーブに帰れば色々と情報が得られるだろうから失った十六年分の記憶も思い出していくだろう。
 努めて楽観的になろうとしたのはそうしなければ不安で落ち込んでしまいそうだからだ。
 人間はその気になればいくらでも落ち込める。すると生きるのが億劫になってくる。
 オーブに亡命して落ち着いた後、バジルール中尉のことで鬱になって、チャンドラには随分と世話をかけた。
 チャンドラがいつも一緒に居てくれて、色々と話しかけてくれた。チャンドラも文化の違う新しい土地での生活で大変な思いをしていて、愚痴を聞かされたとも言う。彼女のためにまた生きてみようかと思ったら元気になれたし、その為に楽観的に考えるということを覚えた。
 とにかく食って寝て、楽観的になれば良い。出来ればチャンドラに添い寝してもらえたら完璧なのだが。迎えに来てくれるのを楽しみにする。
 ノイマンは雑誌を閉じてテーブルに投げると、時計を見て時間を確認した。
 そろそろ食事の時間だ。入院生活で唯一の楽しみと言って良い。全て液状の流動食から普通の食事になった時は感動したものだ。
 グッと両腕をあげて背中を伸ばした。
 部屋の移動やらなんやらで今日のリハビリはキャンセルになって運動していないから身体が固まった気がする。
 ハァ。と息を吐いた時、何やら廊下が騒がしいことに気付く。
 バタバタと複数名の走る足音と「走らないでください!」という注意の声が遠くから聞こえて、近づいてくる。
 まさかと思って身構えていると、病室のドアはノックも無しに開けられた。
 スライドドアが勢いよく開け放たれ、転がり込むように入って来たのは金髪碧眼の背の高い男性である。
「アーニー!」
へっ?」
 突然部屋に侵入してきた男はノイマンを呼んだ。しかもごく親しい、それこそ家族が幼い頃に呼んでくれていた愛称で。チャンドラすら「ノイマン」と呼ぶし、今はそんな呼び方をする人物は居ないのに。
 青いシャツによれた白衣という謎のいでたちの金髪碧眼の長身の男性はノイマンより少し年上に見えた。恐ろしく顔が良いのだが、ノイマンが動揺のあまり出してしまった声を聞いて何故か突然その双眸からぶわりと涙を溢れさせた。
「アーニーよ、よかっ
 泣きながらふらふらと近付いてきたので、身の危険を感じて横に置いてあった杖に手を伸ばした。左脚が無いから俊敏には動けないのだが、一応、杖は攻撃にも使える。
「アーニー!」
 男は両手を広げて抱きつこうとしてくるので、ノイマンは仰け反って精一杯の距離を取り男に問いかけた。
「あんた、誰だよ!」
 瞬間、男はびしりと固まった。