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かいえ
2025-01-27 00:06:40
9724文字
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【マイ武】そのアイドルは恋をする ①
トップアイドル「東京卍會」リーダーのマイキーと、研究生の花垣武道のラブコメ
他のメンバーとは頻繁にご飯を食べたりしているのに、マイキーとは何故か行かない武道に、マイキーがぶち切れて主にドラケンが振り回されるお話
タケミチ愛されのアイドルパロ
9,722文字
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「そういえばさぁ、タケミっちって、いつもめちゃくちゃ腹空かせてね?」
メンバー全員が同時に入れる浴槽を完備した豪華なシャワールームの手前。、ロッカー前のベンチに座っていた一虎が徐にそう言った。ウェイトトレーニングを終えたばかりの一虎は、シャワーを浴びようとシューズの紐を解いているところだ。
「しっ! オマエこんなところで、その話をするなって! マイキーに聞かれたらどうするんだよ!」
一虎の横で髪を拭いていた三ツ谷がぎょっとして一虎を窘めるが、当の一虎は「いいじゃん、マイキーいないし」としれッと答えてくる。
「確かに、小せぇくせに良く食べるな」と、シャワールームから出て来たばかりの場地まで会話に参加してきたので、三ツ谷は一瞬思考を巡らせるも、確かに一虎の言う通り今この場にマイキーは居ないし、そもそも今日はマイキーとドラケンで武道をランチに連れて行っていて、もうマイキーが仲間外れのような状態ではなくなるからいいかと、会話を止めさせることを放棄した。武道がめちゃくちゃ食べると思っているのは、一虎や場地だけではなくて、三ツ谷も常々思っていた事なので、タケミっちの食欲については、確かに興味があったのだ。
「だよな、この間、牛丼特盛二杯食べたし」と一虎。
「それな。特盛二杯食べるよな。オレは怖くてあんなに炭水化物なんて取れねぇけど
…
一杯で白米が三百二十グラムとかありえねーって」
筋肉の質にこだわったウェイトトレーニングをする場地は、ペヤングは食べる癖に白米は敬遠する。白米よりペヤングの方がアウトじゃないかと三ツ谷は思うのだが、思い 込みが激しいタイプの場地には敢えて何も言わなかった。それに、場地の肉体は三ツ谷から見ても完璧で、太くも細くも無くしなやかに鍛え上げられていたから、それで特に問題が無いのだ。
「オレの時は特盛三杯食べたけど」と、三ツ谷も会話に参加した。
「三杯?」
一虎と場地が同時に声を出す。三百二十グラム×三杯という数式が三ツ谷の頭の中に浮かんだ。そうか、武道はほぼ一キログラムの白米を一度に食べていたのかと、今更ながら、その異常な食欲に三ツ谷は驚いた。場地のペヤングより、健康に良くないのではないかと三ツ谷は思ったのだ。米を一キログラムなんて、いくら何でも一度で食べる量ではない。食べる姿が可愛くて、ついついお代わりを許していた自分を反省した。
「おい、三途。オマエの時はどうなんだよ?」
鏡の前でピンク色に染めた長い髪を梳いていた三途が、一虎の言葉にびくっと肩を震わせ「
…
一杯」と呟くような声で答えた。
口を開けば悪い言葉しか出ない三途は、テレビやライブでは、無口なクールビューティーキャラで売っていたが、普段は片隅にいるのが好きな無口でコミュ症の陰キャラになっている事が多かった。三途も武道と同じマイキー信者なのだが、コミュ症で陰キャな三途と、人懐っこい犬ころのような武道とでは、二人の相性が悪いと思われていたのだ。しかし、実際は一緒に外食していて、しかも三途が奢っていたという事実に、メンバー一同驚愕したのである。
「あいつ、結構食べる量にムラがあるんだな
…
」
一虎が不思議そうに呟く。
「あのさ
…
タケミっちはマイキーとは飯を食いに行った事無かっただろ?」
というのも今日までの話だが、今日のランチの話はドラケンから聞かされていた三ツ谷だけが知っているだけで、他のメンバーには内緒だった。もし、何か想定外の事が起こり、マイキーが武道と外食が出来なかった場合の保険をドラケンが掛けたのだった。武道と外食作戦が失敗した事をメンバーが揶揄ったら、東京卍會存亡の危機になるとドラケンが危惧しての事だ。
「ああ、そうだったな」
それが発覚した時の一騒動を思い出して場地が苦笑する。マイキーは子供っぽいが、あの時は更に子供っぽかった。お世話係のドラケンも、騒動に巻き込まれて災難だったと場地は哀れんだ。
「その理由が、マイキーを目の前にしたら、ご飯が喉を通らないからなんだって」と、三ツ谷がメンバーに教えると「なんだそれ」と、それまで笑っていた一虎が気に入らないと表情を固くする。
「ほら、タケミっちはマイキーに憧れてこの業界に入ったのは一虎も知ってんだろ? マイキーはタケミっちの最推しなのも」
三ツ谷がフォローしても「まぁ
…
そうだけど。なんかムカツク。タケミっちのクセに」と、一虎の機嫌は直らない。
「もしかして、タケミっちの食事量は、一緒に飯に行った相手で変わるんじゃねぇ?」と場地。
「どういう意味だよ?」と一虎。
「あいつ、金がねぇから常に腹空かしてるだろ? で、先輩に奢って貰える時は、備蓄するのかよってくらい食うんだよ。オレの予想だと、アイツは奢って貰える時しか、まともな飯は食ってねぇと思うんだ。で、このメンバーの中で、タケミっちが甘えに行く相手は誰だと思う?」
場地の言葉に、一虎と三途が三ツ谷を見た。
「え? オレ?」
三人の視線を受けて、三ツ谷はたじろいだ
「三ツ谷、タケミっちの事、めちゃくちゃ可愛がってるだろ?」
鈍くさい武道を三ツ谷が母親のように世話しているのは、場地の言う通り周知の事実だった。外れている服のボタンははめてやっていたし、食事の後は口の周りの汚れも拭いてやっている時もあった。歳の離れた姉妹が二人いる三ツ谷にとって、武道の立ち位置は、そこと同じなのかもしれない。
「だって、アイツ見ていると世話したくなるんだよね。だから、否定はしないけどさ
…
だったら、オレよりドラケンの方が可愛がってる気がするけど?」
三ツ谷の言う通り、ドラケンは弟を可愛がるみたいに武道を可愛がっていた。多分、三ツ谷以上におせっかいなドラケンは、失敗だらけの武道を放っておけないのだろう。
「ケンチンが誰を可愛がってるって?」
ドアが開いてマイキーが入って来たから、そこにいた全員はサッと表情を変えた。登場の仕方が心臓に悪すぎだった。そのマイキーの後ろには、もちろんドラケンがいて、渋い顔をしている。
「さっき、回転寿司にタケミっちを連れて行ったんだよね。普通の寿司屋は余計に緊張すると思ってさ。オレなりに気を使ったんだけど。で、タケミっち、三枚しか食べなかったんだ。すげぇ小食だと思ってドキドキした。しかも、小リスみたいに両手で寿司掴んでさ、小さい口でちょこちょこ食べるから可愛くてさ
…
そんな姿を見られて最高に幸せだと思ってたんだよね
…
今の今までは
…
ね。で、ケンチンはタケミっちと牛丼屋に行った時は、特盛を何杯食わせてんの?」
マイキーの言葉に、どこから聞いていたんだと三ツ谷は気が遠くなった。シャワールームの扉の前で、自分たちの話を盗み聞きしていたに違いないと三ツ谷は確信していた。
「え?」
背後のドラケンを振り返ったマイキーの表情は、マイキーの背中しか見られない三ツ谷達には見えなかった。然しながら、きっとアイドルらしからぬ表情を浮かべているだろう事は容易に想像できた。怒りのオーラがマイキーの背中から立ち上っていたのだ。
「すげぇ気になるから言って?」
ごめん! と、三ツ谷がマイキーの背後で両手を合わせているのを見て、ドラケンは苦虫を潰したような表情を浮かべるしかなかった。ドラケンはちゃんと仕事を早くこなしたマイキーの為に、相当頑張って今日の三人でランチ計画を遂行したのだ。猛烈に恥ずかしがる武道を逃がさないように細心の注意を払い店まで連れて行き、ようやくマイキーの機嫌を取れたと思ったのに、一時間も持たずにマイキーがへそを曲げようとしているのだ。もうため息しか出そうも無かった。
「ケンチン?」
ずいっとマイキーの圧が強まって、波風を立てたくなかったドラケンも観念するしかないと腹を括った。どうせ言っても言わなくても、マイキーの機嫌が良くなることは無いのだと開き直った。
「三杯
…
だったかな?」
それでも、はっきり言いたくないと思うドラケンは、自分は弱いと内心嘆いていた。
「特盛が三杯ね
…
で?」
ドラケンが答えてもマイキーの問いかけは終わらなかった。
「で?」とドラケン。
「他にもサイドメニューとかあったんだろ?」
鋭いマイキーの追及に、ドラケンは渋々「
…
味噌汁と生卵
…
」と白状した。
「と?」
今日のマイキーの追及はなかなか厳しく、ドラケンには少しの逃げ道も残されていないようだった。
「と
…
牛皿特盛! それで全部だ!」
「嘘! 特盛三杯に味噌汁と生卵に牛皿特盛とか、ウケるんだけど! どんだけ食べるんだよ、タケミっちのやつ!」
空気を読まない一虎がゲラゲラ笑う中、ドラケンはこの世の終わりのような顔をして立ち尽くしていた。
「へぇー。じゃあ、この中では一番ケンチンがタケミっちから好かれてるってことだよな。俺なんて特盛ですらなくて、寿司皿三枚だし
…
しかも一番安い百二十円皿だったし
…
」
フッと自虐的に笑ったマイキーの瞳は、漆黒の闇のように真っ暗だった。その場の空気は絶対零度まで下がり、頑張って三人で食事に行けるように根回ししたドラケンの苦労は、凍って粉砕されてしまった。
「ねぇ、聞いて聞いて! 今タケミっちと牛丼屋行って来たんだけど、特盛四杯も食べたんだよ! 凄くない?」
そう言いながら、バタンとドアを開けて入って来た八戒は、一虎とは別の空気の読まなさを発揮していて、ドラケンも三ツ谷も救いようのない気持ちで立ち尽くすしかなかった。タイミングも悪過ぎて絶望的である。
マイキーの背後から何か得体のしれぬ黒い何かが溢れ出していて、この後のテレビの収録はどうなるのだろうかと、ドラケンの胃はきりきりと痛んだ
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