澄香
2025-01-26 20:41:05
10964文字
Public ロマサガ2
 

ロマサガ2】ある少年の話

弊バレンヌ帝国最後の皇帝の即位までと、その仲間たちの話。
その最初の一幕。


帝大と愉快な隣人達


 コウメイと再会したのは、大学に入ってすぐ。
 成績は当然の如く常にトップで、案の定、俺が入った頃には大学院生になってた。
 トンチキな髪型と妙な眼鏡をしてても一目で分かった自分はさすがに褒めてもバチは当たらんだろう。
 アイツの髪質で両サイド上に尖らせて固めるなんてできたのか……

「何するにしても相方君じゃ無いと張り合いが無いんですよねえ」
「その言い方だとお前の奇行全般俺のせいになるんだが?」
「え~迷惑でしたぁ?」
「嫌なら腕づくと言う手段があったが?」
 格好が変わった所で、というよりも、最初からその格好見越した振る舞いしてたか?
 そのぐらい以前と変わらなかった相手に、ここ数年分喋り通した気がする。

「所で君、随分声低くなりましたね」
……皆そう言うんだがそんなにか?」

 他愛のない近況報告、他愛のない世間話。
「で、そっちはどうです?」
……まだ、井の中の気がする」
「じゃあ、空の高さは?」
「ハンニバル爺さんが訓練所の壁をぶち抜いてた」
「君じゃなくて?」
……。さすがに無理だろ」
「え……今一瞬できそうって迷った? えー……
「振っておきながら本気で引くな」

 何も考えずに言葉を垂れ流せるのは本当に久しぶりだ。
「君は変わって無いようで何より」
「誰か変わったヤツでもいたのか?」
「サジタリウス君」
「!?」
 驚いた。
 自分の中で、その名前が小さな傷になっていたことに。

「あれ、会ってない?」
……無い」
 術もある程度学んでいるんだが、本当に会わない。多分……
「そうですか、会ってない……ふーん」
 あ、なんかマズい。この低い「ふーん」はマズい奴だ。
 よくわからんがこのままコウメイに思案の時間を与えるとサジに災難がかかるのは分かった。
「そ、そもそも何があった?」
 藪蛇になるかもしれんがこっちの方がまだマシか。
「んー……僕が大学通ってる間に親父殿に戦術習ってたみたいでねー」
「直には?」
「文字通り寸暇を惜しんでたようで、うちで寝落ちた所を、こう」
 今、どう解釈しても捕縛のジェスチャーをしたな。
 つまり顔を合わせようとはしなかったわけで……
「本人の意思は、尊重していいんじゃないか?」
「あ~~~~君、変なとこ真面目なの変わりませんねえ~~~~」
 ……これ、俺に標的が移ったか?
「意思を尊重するなら会わせない選択は無いんでーすよ~~~」
 まあいいか。

 頬をつつかれながら聞き出した話としては以下の通り。
 コウメイの見立てでは前線で戦う術士としての修練を積んでいるらしいこと。
 文字通り寸暇を惜しみ過ぎて叔父のクラックスさんが頭を痛めていること。
 おそらく、弓の修練も変わらず積んでいるのだろう。
 そして……
「今頃あの子フォーファー付いてますよ~。あー、縛ってでも会わせるんだった!」
 もうアバロンを離れていること。
「お前が後手に回ったか」
「情報が圧倒的足りませーん。あーやだやだ、皆遠くに行っちゃうー」
 帝大始まって以来の神童が駄々をこね始めた。誰より遠くに行きそうなのお前じゃないのか?

 ……でも、実際そうなるんだろう。
 国政に関わるだろうコウメイと、前線に立つだろう俺では、学ぶべきも違う。
 時間を作ろうとはしてみたが、そういうのは、やはりアイツの方が上手い。

 所で、帝国大学には士官候補生も通っている。
 ここの本文にはもとるが、それなりに腕には立つ連中が集まると、だ……
「まだまだいけるぞ?」
「くそっ……体力お化けか!」
 レクリエーション感覚で手合わせを始める連中が出て来る。
 俺は二度三度参加したら出禁になった。出禁どころか何でか俺への挑戦権を賭け始めた。
「勝手にトロフィーにされるのは業腹ものなんですが」
「そりゃまあ、秒で終わらせちゃレクリエーションも何も無いからねえ」
 結局待機だけさせられて時間切れになることもザラ。
 適当な本を借りて読みふけっていたら、ハーバート教授からはその状態で皆の状態を把握して見ろと言われる。
 若かりし日には前線で剣を振るっていた人に目を掛けられるのは、悪い気はしないが。

「で、君は彼らをどう見るね?」
「スネイルは勝ち上がる気がありませんね。自分がどれだけ攻撃を捌けるか試してる」
 本音を言えば出るだけで試合時間が延びるので素直に長所を伸ばすのに専念しててほしい。
 何だったら個別にタイムアタック枠でも設けるべき。俺だって参加したい。
「ロナルドは実戦なら急所を狙う動きですが、力任せに押し切るのも十分出来るかと」
 当然スネイルもそれを解っているのでこの二人が当たると時間だけが過ぎて行くことになる。
 この二人のタッグを相手にすることになったらどう落とすか、考えるのは面白そうだ。
「ほうほう」
 教授の反応は悪くない……のか? 試験より余程緊張するんだが。
「出来れば立ち位置を変えていただければもっと観察できるんですが?」
「捨て目でどれだけ把握できるか見てるんだけどね。振り向いたら全滅とか嫌だろう?」
「それは、まあ……
 逃げろと言って逃げなかった事例が実際あるしな……

 次の言葉を考えるより先に、模擬剣が打ちあがるのが見えた。
「ロナルド君に、先ほどの話はしたかね?」
「はい」

 それはそうと、このレクリエーションの利点は何も気晴らしだけではない。
 国民に広く学問をと言う理念の元、一般開放されている場所もそこそこ多い。
 なので普段訓練所に顔を出さないタイプの人間も乱入してくる。
「ロナルド、今日こそは貴方に膝を付かせてみせましてよ!!」
「サファイアさんも懲りないですねえ……
「お黙り!!」
「彼女は足を生かして霍乱しつつ術で大火力叩きこむ感じですね」
 術士としての彼女を知らないから何とも言えないが。
「ロナルドを下したら次は貴方の番でしてよシアルフィ!!」
 どちらにせよあの攻撃性は何とかした方がいいと思いつつ本に目を下ろす。

 その直後、彼女の素っ頓狂な悲鳴とそれなりの質量が芝生に投げ出される音がした。
 動きをすっかり覚えていたらしいロナルドに一本背負いを決められたようだ。
「覚えてなさーい!!」
 そのまま感想戦でもすればいいのに逃げ去るのは直した方がいいと思う。
 ここでパーシアスあたりが乱入しなければ俺も一戦ぐらいできるかと、思っていた。

「はいはーい! 乱入まだイイっすかー?」
 何か、居た。
 来た、ではなく。本当に唐突に、そこに居た。
 ケープ姿の少女。ただ、履いている靴と、袖から覗く篭手がヤウダの様式だから、もう少し年上かもしれない。
 拒む理由も無いのですぐに次の試合が開始され……
「得物は?」
「このコ・ブ・シ♪」
……手加減はせんぞ」
 ロナルドが言葉にしたのは迷ったからだと、そう思った時には決着がついていた。

 芝生に転がってるロナルドは多分何が起こったかもわかっていない。
 なるほど、懐どころか真横に立たれた瞬間姿勢を崩されて転がされる、と。
 ……投げ方次第で腕とか首とか折れるんじゃなかろうかと気付いて少しぞっとした。
 こんなところに在野の強者か。舞台か詩の中の話かと思っていたが……

「さ、て、とっ! トロフィーはあたしが貰っちゃっていいよねー、シアルフィ君?」
「おや、熱烈なファンだったみたいだねえ?」
……揶揄わないでください」
「あっれぇー、ひょっとしてぇ、自分の評判とか無頓着なタイプー?」
 頓着もなにもない。
 俺はそういう道に行くのだろうから。

 自分に戦以上の価値を見出せない人間は、結局戦場から出られないと思っている。
 力を頼みにするような人間は、いつか別の力に下されると思っている。
 その考えは、あの月夜からずっと残っている。

 別に、兵を志す皆を否定してるわけじゃない。
 むしろ、そんな志なんて自分にあるのだろうか。

「そんなに言うなら、精々楽しませてもらおうか」
「そう来なくっちゃ!」

 だというのに……戦うこと自体は好きというのはさすがに救いようが無いと思っているだけだ。