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澄香
2025-01-26 20:41:05
10964文字
Public
ロマサガ2
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ロマサガ2】ある少年の話
弊バレンヌ帝国最後の皇帝の即位までと、その仲間たちの話。
その最初の一幕。
1
2
3
4
ある遺児の話
時間を少し巻き戻す。これはまた別の少年の話。
その子には、二人の兄がいた。
上は武に、下は術に秀で、母や周りが言うには、皇帝陛下の覚えもめでたかったという。
けれど二人はある日、あっけなく命を落とした。
ルドンの宝石鉱山を擁する町、ティファールへ出向した父を迎えに行った先で。
その時自分と母は質の悪い風邪に罹っていて、ソーモンに寄るはずだった二人はアバロンからそのまま。
魔物はただの獣では無い。時に、知性を有する個体が組織立った襲撃を企てる。
父は最初の犠牲者だった。兄二人は、そこに残された人々を守るため戦い、結果多くを救ったと言う。
規模を考えれば、三人で「済んだ」事は、誇るべきだと、兄らは、立派に戦ったと。
しかし、夫と自慢の息子二人を一度に失った悲しみは、ただの風邪を死病に変えた。
ソーモンにいた頃の記憶といえば、一人無言の帰宅を果たした兄の葬儀。
そして、自分に隠れて泣く母の姿と、兄の思い出話をする大人達。
彼らの顔も朧なうちに、アバロンに宮廷魔術師として仕える叔父に引き取られた。
そのアバロンで、二人の兄が出来た。
些細なイジワルから助けてもらった、そんな切っ掛けで。
上は賢く、けれどユーモアは忘れず。下は優しく、けれど誰より強かった。
亡くなった兄らと逆。それでよかった。目の前にいる確かな二人が、その子にとっての「兄」だった。
自分に弓と風使いの才があると知った時は嬉しかった。
自分には、二人に出来ない事が出来るのが嬉しかった。
二人はきっと強くなって、戦場に立つ、その時は、自分もそこに並び立つと決めていたから。
最近は何となく子供扱いが鼻につくけど、かまうもんか。
そんな事言ってたら追い越せるぞと言うぐらいには頑張って修行してるつもり。
今宵の兄らの悪巧み、知った時はチャンスと思った。
宛がわれた部屋の隅にあった弓と矢筒を背負って、夜の街へと繰り出した二人を追う。
背は小さい。腕っぷしも人並み。その分、こっそり後を付けるのは得意。
細かな風は気配を隠し、強い風は小さな体を持ち上げる。
二人はとても強いから、魔物の死骸でも追いかければすぐ追いつけると思っていた。
だけどびっくりするぐらい何も残って無いものだから、段々と不安になってきた。
ところどころ焦げた草があるから、多分コウメイが術を使った跡。
風は冷たく、澄んでいる。少し焦げ臭い跡を辿れば、追いつけるかもしれない。
けれど、軽く吸い込んだ夜風に混じって来たのは、甘い匂い。
……
甘い?
――
それを疑問に思うより先に、ふわりと、気が遠のく。
――
ふわり、ふわり
……
。
「サジタリウス!!」
次の記憶は突き刺さるように叫ばれた自分の名。
目の前に浮かぶ、紫の衣を纏った人では無い女。
戦わなければ、なのに、体が動かない。強烈な緊張を意識するより早く「下の兄」が視界を横切る。
渇いた何かが砕ける音。背後を駆け抜ける熱風。
「コウメイ、サジを連れてけ!」
月色の髪が振り返らないと気付いた時、そこに顔も知らぬ「兄」を見てしまった。
抗ってしまった。視界を覆った「上の兄」の腕に、抗ってしまった。声も出せなかったくせに。
視界の端に映っては焼き払われる髑髏と屍人。
屍肉と煤の匂いより先に、声ならぬ咆哮を聞く。
「
―――――――――――――――――
ッ!!」
紫の魔物に肉薄する姿が見えた。近づけまいと骨と屍人が群がるのが見えた。
月と炎に照らされた姿が、赤黒く染まっていくのが見えた。
……
僕のせい?
いなければ二人は逃げられた? 大人しくしてれば抱えて逃げれた?
罪悪感に揺らぐ思考を、飛び交う炎の光が更に掻きまわす。
次に思い出せる断片は、嘘のような静寂。血の匂い。煤の匂い。
「シアルフィ!」
野っ原に投げ出された時は、助かったという実感が染み入るばかりだった。
コウメイに手を引かれて立ち上がったまでは覚えている。
下の兄
……
シアルフィが彼に支えられてやっと立っていたのは覚えている。
二人で、彼を支えたのまでは覚えている。じっとりとした、血の感触を覚えている。
だけど、どうやってアバロンまで帰ったかは覚えていない。
歩いて帰ったのか、さすがに異常事態に気付いた誰かが来たのかも。
どちらにせよ三人を待っていたのは、当然のことながら「叱られる方がマシ」な空気だった。
城門近くの詰め所。いるのは「兄ら」の父と、自分の叔父。
その後ろにいたシアの妹が、兄の惨状に震えている。
それはそうだろう。真夜中に抜け出して、一人が治療済みとはいえ血みどろで帰って来たのだから。
そのシアは本来早々に寝かせるべきだったのに、なぜ並んで座っていたのだろうか。
ただ、彼の腕を離すまいとした理由は、はっきりと覚えている。
自分達を遠巻きに見ている大人たちの中に「いるはずがない」と思っていた人がいたから。
この人を、連れて行かれたくなかったから。
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