澄香
2025-01-26 20:41:05
10964文字
Public ロマサガ2
 

ロマサガ2】ある少年の話

弊バレンヌ帝国最後の皇帝の即位までと、その仲間たちの話。
その最初の一幕。


ある少年期の終わり


 ――俺があの日下した判断は、今でも鮮明に思い出せる。

 女吸血鬼がアンデッドを統括していた事、多少の傷を押してでも仕留めると判断した事。
 ……間違っては、いなかったはずだ。
 少なくとも、二人を無事に帰すために、という範囲では。

 曖昧な事でうじうじと悩んでいた、それが、そもそもの間違いだったんだ。

 何時だってコウメイの言葉に嘘は無かった。
「はい、ボクが彼らを連れ出しました」
 責を負う、その言葉に嘘は無かった。
 だけど、そこまで腹を決めていたなんて思って無かった。
 アイツだって、こんなことになるなど思っていなかったはずだ。
「それは、お前が全責任を負う、と言う事でいいのか、コウメイ?」
「はい」
 ハクゲンさんの声が重い。体も重い。頭も痛い。視界は回る。それでも、横になるわけにはいかなかった。
 どうしても、一つ、一つだけ、否定しなければいけない事があったから。
……シアルフィを、前に立たせたのも?」
 サジの手を振り払って、前に立った。
「違います」
 ふらつくな、ぐらつくな。
「俺が、自分の判断で前に立ちました」
 元はと言えば自分の弱さのせいだというのに、何もかも負わせるなんて御免だった。
「この中で前に立てたのは、俺だけです」
 のうのうと寝ているなど、御免だった。

「どちらにせよ、息子は年長として、責を負う事になる。命を預かる立場を志すなら、ね?」
 ……なめられた。最後のたった一音で、そう感じた。僅かな苛立ちを、飲み込む。
「だったら、コウメイは間違ってない」
 剣を、鞘ごと向けた。
「どういう、つもりかな?」
「証明できます……!」
 父さんに肩を掴まれた。手を振り上げるのが見えた。
 当たり前だ。今度は腕をへし折ると言ってるようなものだったのだから。
 力で証明すると言った手前、大人しく叩かれる気はなかった。
 飛んできた平手を掴んだ瞬間、父さんの顔を見て気付いた。気付いてしまった。

 この場の全員、俺は力で捩じ伏せられる。

 単純な腕力もそうだし、術は撃たせなければいい。
 力で何もかも捻じ伏せる……ちらつかせるだけで、大概の要求は通せる。
 気付いてしまった。
 けれど、それは、バケモノと、何が違う?
 ああ、駄目だ、まだ駄目だ。考えるな。
 少なくとも、力で証明すると示した今は。
「なるほど。君の力に価値を見出した息子は正しい、と言う事かな?」
「え……
 違う、そんなモノに、いや……
 緊張の糸が切れた。
「息子が正しいと思うなら、その覚悟に応えなさい」
 鞘付きの剣を押されて、押し返せず、後ろのコウメイに受け止められる。
 駄目だ。まだ駄目だ。血の足りない頭を、なんとか……
「ね、ボクが見込んだ男でしょう?」
…………
 馬鹿野郎と言おうとして、声が出なかった。

 コウメイの足の甲を踏もうとして、振り上げた足を下ろした記憶が無いから、そこが限界だったんだと思う。

 結局、あの後俺とコウメイはしばらく外出禁止。互いに当分接触禁止。
 サジタリウスを見かけたのは、それが解けた後、俺が武官候補として城に入った時。
 謁見の間に続く階段を、静かに登って行くローブ姿の背中を見かけた。
 クラックスさんに師事したんだろうとか、そもそも、アバロンに来た経緯はなんだったか、とか。
 多分……そんなだろう。

 靄としか言語化できないそれは、俺達が勝手に子供扱いしていただけだったと……

 あんな有様を、見せなければ、なんて……

 それでも時間は過ぎていく。

 その後の時間も、充実はしていた。

 歴戦の戦士たちの指導はありがたい物だったし、他に知っている顔もいた。
 パーシアスなんかは傭兵隊長の直弟子だし、そのうち追い抜かれてもいいかとさえ思っていたが……
「お前は槍の方が合ってるんじゃないか?」
「それは、お前を、剣でぶっ倒してから!!」
 そうなったらそうなったでコウメイに合わせる顔が無いので手を抜く気も更々ないが。

 ただ、この調子じゃ無理そうだな、とか、人を値踏みする癖が付つつある自分が嫌になる。
 あの日なりたくないと思った自分が、後ろにぴったりくっついて来ている気がする。

 ……パーシーらの相手をさせられる事が増えたのは、それを見透かされたからか。
 ユリシーズさんの事なので、ただ面白そうだから、と言うのも否定はできないが。
「どうしたパーシー、ついこないだまでシア兄シア兄ついて回ってたじゃねーか」
 実際今も楽しそうにヤジを飛ばしている。
「うるせー!! そりゃ昔の話だろーが!!」
 大人達を見ていると、二年はあっという間だし、二歳差なんて本当に些事なんだろうなとは思う。

「そりゃ昔は頼れる兄貴だったさ!!」
 お?
「それがこんっなスカした奴になってみろ! 一発ぶん殴らねーと気が済まねーわ!!」
 え、スカし……え?
 いや、そんなつもりは、決して……
 え……
 いや、そう見られても、しかたない、か?
 パーシアスと目が合う。いやよく考えたらここまで真正面からぶちまけられたのはむしろ僥倖か?
「いや、その、シア兄、悪……
 ……お?
「あ、そーゆー顔出来んなら問題ねーな。ルイー、槍の稽古頼むわー」
「はーい」
 あれ?
 そのままルイと槍の稽古を始めてしまった。
「一本取られたな、シアルフィ」
「スカした……
「いやここ二年のお前確かにスカしてたわ」
 ……スカしたくてスカしてる奴なんているんだろうか。

「所でユリシーズ隊長、俺の相手なんですが……
「嫌だね。明日からまた遠征だ。お前相手じゃ骨休めにならん」
「だったらいっそお連れ下さい」
「あの突撃癖を直したらな」

 互いの道を邁進していたと言えば聞こえはいいが、三人それぞれ、疎遠になったとも言う。