桜霞
2022-10-01 16:50:50
23091文字
Public 【twst夢】フライパンは無敵
 

事実は小説よりも奇なり

#twst #twst夢 #not監督生 #女監督生 #オリ女主 2020/06/09にpixivに投稿したものの再掲です。







 スカラビア寮から十キロ離れたオアシスでは、盛大なパーティが行われた。真冬とは思えぬ夏のような暑さを誇るので、寮生たちはオアシスに飛び込んで行ったり、誰かを突き落として自分も突き落とされたり、はっちゃけたフロイドに引きずり込まれたりしてこれでもかと楽しんでいた。
 今回リンはユウの伝手で顔を出しているエースやデュースと似たような扱いなので、ちょこちょこ給仕を手伝うくらいで、そこまで一緒になってはっちゃけたり、騒いだりはしなかった。
「リンさん、昨日は大丈夫だったか?」
 ヤシの木の陰で涼んでいるリンに、カリムはわざわざ声をかけに来てくれた。
 
 ───昨晩も、リンがスカラビアに顔を出すのを待っていて、しつこいくらいに無事を確認したのに。
 
 リンは頬が緩むのを堪え切れなかった。
「私は大丈夫だ。フロイドも居たし」
「そっか、良かった。今度、ちゃんとお礼するからな」
 カリムとユウが大きな怪我も小さな掠り傷も無く無事だったのは、しっかりと確認済みだ。ユウは恐ろしい思いをしたようだったが、それでも、それを乗り越えられたことは確かな手応えとして感じているようだった。
 リンとしては、それで調子に乗らないように、静かに見守るだけである。
 
 ───今現在も、調子に乗っている気はしないでもないが。
 
 フロイドと一緒になってエースやデュースにぎゃあぎゃあ言っているユウを見やって、リンは少しだけ遠い目になった。
 昨晩、リンの言葉を遮って、「カリム先輩を助けます」と言って折れなかったのはユウだ。こればっかりはだめだというリンの言葉を、ユウは嫌ですと跳ね返した。
 
 ───リンさんは、カリム先輩のこと、助けますよね。私とリンさんは二人ぼっちで支え合ってるのに、肝心な時に私は何もさせてもらえない。
 
……
 四人は何やら揉めているらしかった。喧騒がここまで届いてくる。
 彼らもまだ十六歳、とリンは自分で自分に言い直した。
 ふと、カリムがじっとこちらを見ているのに気付いて、リンはいつものように微笑んだ。
「気にしなさんな、私としても譲れなかったから」
「、え?」
 意外そうに、カリムが瞬いた。
 どうやら、何かしら言われるらしいと身構えていたようである。リンはカリムの頭をぐしゃぐしゃと掻き回した。
「うわ、」
「人生の先達として、後輩を守るのは当然ってこと! 若い芽は決して摘ませやしないわよ」
 あんたにはこれからも仕事があるしね、と静かに言うと、カリムはきゅむりと唇を引き結んだ。
「しっかりね」
……おう!」
 カリムはこれから、ジャミルのことや、一族同士の主従関係について、実家の父と話すことになっていた。
「リンさあん!! バレー分かりますか!? 審判やってください!!」
「よし来た!!」
「ビーチバレーか? オレもやる!!」
 カリムが身軽に砂を蹴って、リンに手を差し伸べた。リンは少しだけ面食らったが、すぐにそれを受け入れた。
 どうやら四人はチーム分けで揉めていたらしい。グリムが居るので三対二になるので、エースとデュースがハンデを貰おうといちゃもんをつけたらしかった。
「じゃあオレこっちのチームな!」
「え、ジャミル先輩、バレー出来るんスか!?」
「分かんねえ! でもなんとなく分かる! やってみようぜ!」
「いやどっちだよ!!」
「カニちゃん達が負けたら罰ゲームね♡」
「はぁ!?」
「マジ!?」
「はっはっは! そうならないよう頑張ろうぜ!」
 それはもう陽気に、カリムが笑う。リンは「私のジャッジは厳しいぞォ」と意地悪く笑って見せた。
 気付けばなんやかんやとギャラリーが集まって、これを好機と見たのかアズールが賭場の胴元のような真似を始めた。流石アズールがめついですね、とジェイドがにこやかに煽っている。
「小エビちゃん、頑張ろうねえ」
「はい!!」
「負けるか!!」
「行くぞ!!」
 生徒のひとりが手渡してくれた笛を、リンが鋭く吹き鳴らす。即席のネットを挟んだビーチバレーが始まった。
 何ポイントかやり取りをして、そう言えばこの世界にもバレーはあるんだなとリンは改めて気が付いた。
 白熱した試合は、調子に乗ったフロイドが「ローリングサンダーッ!!」と叫びながらボールを繋いだはいいものの、そのままごろごろと転がってユウを轢き倒したため、途中からチームヤバイ双子プラスグリム対ハーツラビュルの一年プラススカラビア寮長という不思議な図になった。
「デカい割には拾うのがべらぼうに上手いわね、双子の見るからにヤバイ方」
「体育のときにバレーをやった時は何故かリベロをしたそうですよ」
「百九十あるのに!?」
 アズールの言葉にリンが素っ頓狂な声を上げているその横で、カリムが楽しそうにクロスアタックを決めていた。
 勝敗は結局なあなあになったので、最後は皆で仲良くデザートのアイスを頂いた。
 その輪の中には、ジャミルもいた。なんだかんだ事情を知った寮生たちに、ジャミルは受け入れられていた。
 
 ───馬鹿な奴等。
 
 騙されてたにも関わらず、特に罵倒を浴びせたり、許してやると恩着せがましく言うこともない。
 ただ、こっちに来て馬鹿騒ぎしようぜ、遊ぼうぜと誘うだけ。
 それは、ジャミルが副寮長として培ってきた仕事の実績故なのだが、ジャミルがそれに気付くのはもう少し先のことだった。
 
 オアシスの傍は賑やかで、穏やかだった。呆れ返るほどに。
 
 
 ───違和感
 
 
 (……いや、)
 
 
 ふと、胸底に、それが凝る。
 
 
 ───穏やかに、過ぎる。
 
 
 気付いた瞬間、それは確信となって、ジャミルへ静かに襲い掛かった。