桜霞
2022-10-01 16:50:50
23091文字
Public 【twst夢】フライパンは無敵
 

事実は小説よりも奇なり

#twst #twst夢 #not監督生 #女監督生 #オリ女主 2020/06/09にpixivに投稿したものの再掲です。


 
 
 
 
 無数の電話が鳴り響く事務室で、リンはひとり、パソコンに向かってもくもくと作業を続けていた。コール音が唐突にけたたましくなりだしたかと思えば、『お電話、ありがとうございます。こちら、ナイトレイブンカレッジ自部局でございます。ただいまホリデー期間中のため、お電話による受付時間が変則的になっております』という口上が流れ、大抵途中でがちゃっと切れる。
 その合間を縫うようにして、リンのスマホが着信を告げた。リンは通知に表示された相手の名前を見ると、すぐさま手を止めてスマホを耳に当てた。
「はい、もしもし」
『リンさん、ユウです。今、大丈夫ですか?』
「おん、大丈夫よ。ごめんね、BGMが喧しいけど気にしないで」
 コール音は鳴り止まない。その理由を知っているユウは、『あ、はい』と短く了承した。
『あの、実は、ジャミル先輩なんですけど。あれからすぐに目を覚まして、少しカリム先輩とお話された後、やっぱりくたくただったので、お部屋に移動して、今はもうぐっすり眠っています』
「あぁ、はいはい、了解。目が覚めたらなんか食べさせなきゃね。食堂からかっぱらってくわ」
『あ、それはフロイド先輩がやってくださるみたいです。夕ご飯のついでに……リンさんも、ご飯、どうされますか?』
「あー……
 リンは体を伸ばして壁に掛けてある時計を見ようとした。しかし、部屋の中は既に真っ暗だったので、短針や長針がどこを指しているのかも判別が難しい。どうやら陽が沈んだのにも気付かずに作業に没頭していたようである。
 リンは今更ながらに疲労を感じて、目元を指で押し揉んだ。
「うーん……どうしようかな……
 本当はこんな作業、すぐにでもほっぽって皆の所に戻りたいのだが、そうも行くまい。アズールが投稿した『某有名魔法士養成学校の闇実況』動画によって、ナイトレイブンカレッジはプチ炎上中だった。
 投稿先は某動画投稿サイトである。決して大手ではなく、しかしリンの世界でいう掲示板など、批評批判アンチ荒らしが比較的湧きやすい場所らしいそこにアップロードされた動画は、削除されこそすれ、その威力はまだ保持されていた。
 こうしてじゃんじゃか鳴り響いているコール音も、ほとんど悪質クレーマーに類されるものだろう。対応時間外ということもあって、リンは一本も手に取らなかったが、大量のメールなどは受信した傍から整理していた。一度に大量の情報量を受信したらサーバーがパンクするのは目に見えている。この作業は翌日の負担を減らすために必要な下ごしらえだった。
 作業効率を考えれば、リンはしばらくの間、自分のデスクから離れたくなかった。一食程度抜いたところで、大した負担にもならない。
『食べないのはだめですよ。リンさん、いつも私にそう言ってるじゃないですか』
……ごもっともでござい」
 どう誤魔化そうかと考えた矢先のこれである。リンは苦笑しつつも項垂れた。ぽこぽこ増えて行く未読メールを見ていると、どうにでもなあれ! という気分になってくる。
「んじゃあねえ、ウーバーユウちゃんにご飯のデリバリーお頼みしても宜しいかしらね」
『はい! 頼まれました! お任せください!』
 なんともまあ明るいお返事に、リンはその場の凝った空気が一息にぱあっと浄化されたのを感じた。有難いことこの上ない。リンは片手でユウが居るだろうスカラビア、もとい鏡舎の方を拝んだ。
…………ことか?』
「ん?」
『あっはい、そうですよ』
『じゃあ、…………って……から…………………………
『え?』
 がさ、という音を最後に、通話口の向こうが沈黙する。おや、とリンはスマホを見やった。ほどなくして、『リンさん』という声が響く。
「ほい、なんぞ?」
『その、カリム先輩が、頼みたいことがあるそうなんですけど』
「ほ?」
『すみません、電話、変わりますね』
「おんおん」
 もしもし、と聞こえてきた声は、意外にも落ち着いていた。先程までこどものように泣きじゃくっていたとは思えないほどに、その声音には冷静さが含まれていた。
『オレだ、カリムなんだけど』
「はい。あ、そう、学園長には電話繋がらなかったわ」
『あ、そうなのか。じゃあオレ達の実家には……
「BGM聞こえる? もう学園の電話使って連絡する云々以前の問題だったわ。人手も足りないし、諦めた。また明日だな」
『そっ、か……
 カリムは何度かそうか、と呟いた。
『でも、仕掛けてくるなら今夜だと思うんだよな』
「ん?」
 仕掛ける、とは。リンは何度か目を瞬かせた。
『たぶん、バイパー家の人間たちが来ると思う』
「え? なんで?」
『ジャミルがオレを裏切ったから』
……
 リンはうっかり言葉を失った。まさかそんなことある? と思ってしまったのを口にしていたようで、『たぶん、あるぞ』とある程度の確信を持ってカリムがそう言った時は瞬きも忘れて目を見開いた。
『アズールがネットに上げたんだろう? そういうの、たぶん見てるからな。今夜あたり、ジャミルの所に来ると思うぜ』
 まるでなんてことはない伝達事項のような軽さで、カリムはそう言った。その内容と軽い口調が生み出す落差に、リンはどう言葉を選んだものか、咄嗟に判断し損ねた。天狗の面を着けた元水柱が傍に居たら判断が遅いと頬を張られていただろう。
『でも、オレが追い返す。ただ、オレだけじゃ、ちょっとだけ不安だから、ふたりに、少しだけ力を貸してほしいんだ。頼む!』
 声が移動する。どうやら頭を下げたらしい。
 
 ───危険すぎる。即却下しなければいけない案件なのでは?
 
 そうだ、その通りだ。リンは己の声に首肯した。
 リンだけならまだしも、カリムはふたりにと言った。当然、リンの他にもう一人と言えば、それはユウを指しているだろう。
 
 ───私はともかく、ユウを関わらせるべきではない
 
 即座に判断したリンはしかし、ユウの素早い言葉に先を越されてしまった。