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桜霞
2022-06-13 13:38:31
48828文字
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【twst夢】フライパンは無敵
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【フライパンは無敵】②監督生はおれが守らねば(フライパンを構えながら)
#twst #twst夢 #not監督生 #女監督生 #オリ女主
2020/04/21にpixivに投稿したものの再掲です。
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どうせこの日は皆疲れて料理どころではないだろう、とリンは予めビーフシチューを作り置きしていた。タッパーに入れていたそれを鍋に移し、火にかけて、食器によそう。その間にユウは一通りシャワールームを掃除した。
ちなみに、ユウが取り落とした本日大活躍のフライパンは、ゴーストが回収してくれていた。リンはまったくの無傷であることに思わず「うわあ」とおっかなびっくりフライパンを受け取った。
「いやー、それにしても、王、多過ぎ問題!」
ビーフシチューを食べながら、リンが呆れたように声を張り上げる。本当にそうですね、とユウは頷いた。
リドルは王ではないが寮長であるが故にハートの女王たらんとしている。今回対決することになったレオナは一国の王子である。そしてレオナが目の敵にしているマレウス・ドラコニアも妖精族の王子様らしい。リンはちらりと覗き見たVIPの名簿リストの長さを思い出していた。あのリストと相当するだけのお坊ちゃんがこの学校に通っていることになる。どうやらナイトレイブンカレッジは名門であると同時に貴族も受け入れているらしかった。
「しっかし、レオナ先輩も複雑な心境だろうねえ。あんなに懐いてくれてる可愛い子が自分から王位継承権奪ったやつだっていうのは」
「さすがリンさん、察しがいいですね」
「レオナのやつ、実力や努力じゃどうにもならないことが世の中には溢れてるとか何とか言って暴れてたんだゾ」
「ふうん」
「それに、自分は第二王子で、ずっと誰にも認められず、未来も無いって
……
」
でも、とユウは一度口の中をすっきりさせてから言い募った。
「なんか、それなら、もっと別の道探せばいいじゃんとか、将来は王さまじゃなくてもいいじゃんとか、認められたくて、お兄さんを越えたいだけじゃん、なんで努力しないのって、思っちゃうんですけど、でも
……
言えなくて」
「
……
なんで?」
瞬くリンに、ユウは考え考え、言葉を紡いだ。
「なんか
……
きっと、私がいま言った言葉なんか、とっくの昔に、レオナ先輩は、自分で自分にぶつけてて
……
、だってそうでもなかったら、オーバーブロットするまで追い詰められることなんか、無いです、きっと、
……
」
「
…………
」
よく、分からないですけど、という言葉を最後に、ユウは口を噤んだ。
しばらくは、食器同士がぶつかり合う音や、咀嚼音だけがその場に木霊する。
リンは、どこかの若い呪術師の、不平等な現実のみが、平等に与えられているという言葉を思い出した。
元の世界で読んだ漫画の台詞か何かだった気がする。その通りだ、とリンは思った。
不平等で、理不尽で、他者はいつだって自分勝手で、何事も、自分を翻弄する。ひとも、自然も、この世のすべてのありとあらゆるものが。
ひとはそれを運命と呼んだ。宿命と名付けた。超常の存在から定められたものと解釈した。───だって、そうでなければ、耐えられない。
誰かの、自分ではない何かのせいにしなければ、生きていくことこそが辛くなるからだ。これは自分の選択の責任ではない、自分が背負って立つべきものではないと放り投げなければ、歩くことすら苦しいからだ。
リンはそうやって、いろいろなものを放り投げて生きてきた。逃げてきたとも言う。リンが潰れないように、死なないようにするには、そうするしかなかったからだ。リンは星の輝きを手にできる一握の存在ほど、強くは無かった。
同時に、それは、足掻くことを諦めて、死んだようにして生きることに近付く行為でもあるということを、過去に何度も痛感している。
リンが何と言ったものか迷っているうちに、ユウはちらりとリンへと視線を遣った後、そろそろと言葉を並べ始めた。
「
……
あのひとに、何か言ってあげたいってわけじゃないんです。慰めは要らない、とまでは、直接、言ってはいなかったですけど
……
受け止める準備もしてもらえていないひとに、投げつけるのは違う気がして」
ユウの言葉に、リンは心底から感嘆した。
「ユウは偉いねえ」
「えらい
……
? はぁ
……
、
……
でも、どうしたらいいか分かりません。何もしないのも
……
なんか、嫌で」
リンは、ユウの眉間に寄った皺を見て、微笑んだ。
ユウは、ユウなりに、レオナを慮っているのだ。
「
…………
人を変えられるのは人だけだからね」
リンの言葉に、ユウが顔を上げる。
その顔はどこか不満げだった。
「万物流転、有為転変は世の習い。焦らなくても、レオナ先輩だって、そのうち変わるよ」
「
……
そうですかね。全然、懲りてませんでしたよ」
「ありゃあ性根があぁだもの、変わらないわよ」
「えぇ
……
さっきは変わるって言ったのに」
「ふふ」
「
……
」
ユウが目を据わらせる。リンはごめんごめんと手を振った。
「だって、ねぇ。さっきユウも言ったでしょ。受け止める準備をしてないって」
「それは、慰めとか
……
」
「そうじゃなくてね。レオナ自身が、『俺は何がやりてえんだろうな』って、自分のしたいことを考えなきゃ始まらないよ」
「、」
あ、とユウが目を丸くする。ね、とリンは丁寧に言葉を連ねた。
「これはレオナ自身の問題だからね。今は周りにして欲しいことしか見えてなくて、
……
きっと、どれだけ頑張っても、正しく評価されたことがないんだろうね」
自分で自分に未来が無いと見切りをつけて吐き捨てるようになってしまうまでに、レオナがどれだけの言葉を投げかけられてきたのか、リンには想像もつかなかった。
自分のしたいことと、周りにしてほしいことは、似ているようで全く違うのだ。レオナは、それが噛み合ったことが、数えるほどにも無いのだろう。
「レオナ先輩は認めて欲しいのかもしれないけど、もうほとんど諦めてる。でも次を見据えていないのは、誰よりレオナ先輩本人だ。そりゃそうさ、自分のやってきたことに対する対価
……
この場合は評価の仕方かな? それが不釣り合いだもの。変わろうにも変われないよ」
レオナを正しく評価すべき立場のひとが、レオナの望む形で、客観的に正しい評価を渡し、レオナが納得しなければ、次への道は見えて来ない。見えてくるはずがない。
何せレオナは、第二王子であるということ、故郷の王族であるということを、未だ投げ捨ててはいないのだから。
はーっ、と話を聞いていたグリムがたまりかねたように声を発した。ちょうど、夕飯をすべて完食したらしかった。
「好きなことをして、全部自分で決めて生きりゃあいいし、欲しいものは奪えばいいのに、ニンゲンってのは面倒臭いんだゾ!」
「グリム
……
、そんなのただの獣じゃん」
ユウが呆れたように返す。グリムは心底不思議そうにきょとんと首を傾げた。
「でもあいつは獣人なんだゾ? 何か問題あるのか?」
「あるよ! 皆が皆、そんな生き方できるわけじゃないし、それこそ不公平だし
……
」
「なんで公平じゃなきゃいけなんだゾ?」
「だって、
……
そんなの
……
、
……
グリムだって自分が不公平なことされたら怒る癖に!」
「ふな゛っ!? で、でも、確かに
……
得してる奴を見ると狡いって思っちまうんだゾ
……
でも欲しいから力尽くで奪うんだゾ!」
「その連鎖が戦争を生むんだ」
リンが静かに切り込んだ。ユウは言葉を失い、グリムは「せんそう?」と首を傾げた。
「ユウさんや」
「、はい」
「私は今の話を聞いて安心しました。ユウならきっと大丈夫だわ」
「え?」
瞬いたユウは、グリムと顔を見合わせた。
リンは鷹揚に頷いた。
ユウならばきっと大丈夫。この子はきっと、リンが思っている以上にきちんと物事を考えて、様々なことを捉えようとしていて、そして何が最適解か、できるだけ正確に選ぼうとしている。
だから、リンが言えることは、きっとこれだけしか無いのだ。
「ユウなら大丈夫。ユウなら、自分が納得して、自信を持てる答えを、ちゃんと探して、選んで、見つけることができる。その結果に何が待ち受けていようとも───だから、私は、ずっとユウの味方だよ」
その言葉は、ユウにとって、もう少しで、すとんと嵌りそうな言葉だった。
グリムが横で、オレ様は!? と喚いている。リンは「もうちょっと賢くなったらな」とおどけて返していた。
「
……
リンさん」
「ん?」
「今の言葉の意味、まだちょっとよく分かんないけど、
……
だから私、忘れないようにしますね」
ユウの言葉に、リンは文字通り目を丸くした。けれども、リンは、その直後、今までユウが見てきた中で、一番嬉しそうに微笑んだ。
「やっぱり、ユウならきっと、大丈夫だな」
「
……
はい」
ユウは、笑顔で、頷いた。
グリムは一人だけ、不満そうにぶうたれていた。
To Be Continued...?
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