ゑ/圓堂
2023-08-16 20:34:27
4796文字
Public 管理NO3250本丸
 

【刀剣乱舞】さにごぜTwitterログ01【創作男審神者×一文字則宗】

2021年~2022年にかけてTwitterに上げたさにごぜの超SSのまとめです。ピクブラに上げていたのですがいつ復旧するか謎なのでこっちにも置いときます。
男士ごはんタグ参加小話『あじわふ』
則宗実装一周年小話『新たな幕開けに、どうか今は祝福を』
初めて刀ステ見てカッとなって書いた小話『誰が為に』
煙草ネタが書きたかっただけの小話『メロウフレイヴァー』
の四本立てです。


【誰が為に】

「おい」

主が執務室の障子戸を開けると、一向に片付かぬ仕事机に誂えられた椅子がくるりと回転した。
そこに勝手知ったる様子で埋もれる人影を見止めて、部屋の主は呆れた顔を形作る。

「何勝手に居座ってんだ。俺の代わりにそれ片付けてくれんのか?」
「助けてやりたい気持ちは山々だが、生憎こういう事は向いていないんだ僕は」

手にしたファイルを掲げて、部屋の主のような顔をした一文字則宗は平然と述べた。椅子から立ち上がる気配は微塵もない。
主の方も最早それを咎める気はない。ただ、彼が手にしているファイルに貼られたラベルに、少しだけ眉をひそめた。

「何であんたがそれを?」

「いや何、昨日共に遠征に出た坊主達が話していたから気になってな」

ラベルには、数年前の日付と場所が簡潔に記されている。主にとって、そこにファイリングされた記録の内容は、それで充分に解るからである。中身を読まずとも、主はその時の事をよく覚えていた。

「あまりいい思い出じゃねぇな。あいつらも、俺も」

それは、時間遡行軍の影響とそれに伴うアクシデントにより、刀剣男士が前の持ち主に存在を認識されてしまう事態が起きてしまった時の任務の記録であった。幸いそのような事態を想定して、任務に関わってしまった者達の記憶を消す為の対策はなされていた。刀剣男士や時間遡行軍の存在は歴史に反映される事はなく、歴史改変は食い止められた。
しかし、刀剣男士達の記憶は消える事などない。かつての主が人の身を得た愛刀との邂逅に喜ぶ姿も、たとえその先に待つものが死であろうと強く未来を見据える眼差しも、忘れられる者などいよう筈がないだろう。

「そうなんだろうな、うん。きっとそうだろう。だが僕は、そんな彼らが少し羨ましい」

一文字則宗は、慈しむような面差しでファイルの中の紙面に目を落とした。
金色の、毛足の長い睫毛が、硝子細工の如き瞳に影を刻む。

あんたとて、今じゃあいつらと同じだ。俺が死んで代替わり、なんて事があればな。ここの本丸が別の誰かに引き継がれて、この先も遡行軍との戦いに決着がつかなければ、もしかするとこの時代に任務で来る事もないとは言い切れない」

主はそんな未来を想像してか、薄く乾いた笑いを零した。
放棄された過去に、今この時が成り得ないとは絶対に言いきれない。が、それは主には酷く滑稽な展開に思えた。

「成程、そうなるな」

一文字則宗はぱたりとファイルを綴じ、雑然とした机の上にそっとそれを置いた。主が見咎めて小言を言おうと口を開きかけたが、ゆらりと立ち上がり主の肩口に額を乗せた一文字則宗の姿に、言葉は小さな溜息へと変わった。

「それは、好いものではないな」

吐息のような一文字則宗の呟きに、主は彼の背を抱く事で応えた。

「だから、こんな事は早く終わらせなきゃならねぇ」

主は、敢えてはっきりと言い切る。それが二人の別れの時だと解っていても、尚。
一文字則宗もまたそれを識りながら、その台詞を諾する。

共に、未知の行く末から少しだけ目を逸らして。