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紫輝
2024-08-03 13:28:58
19176文字
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リオヌヴィ
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【リオヌヴィ】最高審判官の家にはご飯の精霊がいる【原神】
合鍵を渡したらふらっとやってきたセスリ殿がご飯作って帰ってくれたヌ様の話です。全3話+番外編。
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2.なめらかコーヒーババロア
「妻問い婚みたいですねぇ」
私の話を聞いてくれていた神里殿がはんなりと笑う。最近リオセスリ殿が自宅を訪れてくれるようになったこと。時間が合わず実際に逢えた事はないが夕食を作って置いていってくれること。汁物が中心の彼の夕食の中でも、先日口にした稲妻の定番料理たるおにぎりと味噌汁の組み合わせが絶品であったことを話したところだった。
「稲妻料理は良き水を使い、手順ひとつひとつに丁寧に手を掛けることであの慎ましく深みのある味を生み出しています。ヌヴィレット様は繊細な味覚をお持ちですから、稲妻料理と相性が良かったのかもしれませんね。我が国の味を気に入っていただけて嬉しいです」
米を研ぐ、炊く、出汁をとる
――
神里殿が語ってくれる稲妻料理の手順を聞いているだけでも水との関わりが多いことがわかる。なるほどそれで、と納得した。水との関わりが多いということは、それだけリオセスリ殿の心が料理へ溶ける機会が多いことに他ならない。彼のことだから稲妻料理に質の良い水が必要不可欠なことも心得ているのだろうから
――
旅人風に言うなら「美味しくなきゃ嘘」というものだったのだろう。
そして、冒頭。
『妻問い婚』とは、稲妻の旧家でとられていた婚姻の方式らしい。夫となった男性が、妻となった女性の家へ通う結婚生活のことを言うそうだ。時代にそぐわぬという理由で昨今は物語の中にしか出てこないらしいが、なるほど確かに、現在の状況を見れば
――
「
……
神里殿」
「なんでしょう?」
「であるならば、私は在宅していなくてはならないのでは?」
そう表せなくもないな、と納得しようとして首を傾げる。役柄としては「妻」にあたる自分が家に居らぬでは『妻問い』が成立しないのでは。私の問いに鏡写しのように首を傾げた神里殿は、その瞳を一度瞬いて。
「確かにそうですねぇ」
何故かおかしくて堪らぬとでも言いたげに、上品に肩を振るわせる。
「ねえ空、あれはツッコミ待ちかな」
「って思うでしょ? なんとヌヴィレットは素だよ」
「素
……
」
神里殿の従者と旅人によって背後で為されていた会話は聞こえていたが、私にはいまいち意味を
解
かい
せなかった。なおこの話を定期報告にやってきたリオセスリ殿にしたところ珍しくも大笑いしていたが、結局理由は教えてもらえず終いだ。彼の反応を見るにあれもウィットに富んだ会話、だったのだろう。まだまだ学ぶことは多い。
かさりと、指の間でメモ用紙が鳴く。本日も逢うことの叶わなかった
――
これでも意識はしているのだ。少なくとも最近は時計が真夜中を告げる前に帰宅している
――
『夫』殿は、今回も律儀にメッセージを残してくれていた。
“おかえり、ヌヴィレットさん”。一文目はいつも同じだ。その四文字が無性に嬉しくて、温かくて、けれど彼の声でそれを聞けないことを寂しくも思う。やはりもう少し早く帰れるように努力しなくてはと、文字をなぞりながら決意を新たにする。
『今日は掃除に来ていたメリュジーヌのお嬢さんたちと会ったよ。出直そうかと思ったんだが熱烈に引き留められちまったんで、いつも通り過ごさせてもらった』
ちらとテーブルに落とした視線の先には同じメモ用紙が並べられている。件のメリュジーヌたちが、ひとりひとり残してくれたものだった。
『ここで公爵様に会ったのは初めてです。とっても嬉しかった!』
『お茶を入れてもらいました! 苦いのは苦手ってお話したらジャムで甘くしてくれました!』
『公爵様とこんなにお話したのは初めて! ヌヴィレット様のこと、たくさん聞いてもらえて嬉しかった!』
「
…
ふふ」
愛らしい筆跡と、合間に描かれた可愛らしい絵。彼女たちはリオセスリ殿を鮫に見立てることが多い。今回もリオセスリ殿と思しき力強い眼差しの鮫がそこここに散りばめられていて、我知らず笑ってしまった。
『色々考えては来たんだが、ちょうどゲストもいたんでな。今日はデザートにした』
デザート。綴られた文字を音にする。彼がデザートを置いていってくれるのは、そういえば初めてだ。フォンテーヌで一般的な菓子類は難易度の高いものが多いのと
――
かの旅人もフォンテーヌ菓子は難しいと口にしている
――
「少しだけ」作るのが難しいものがほとんどなのがその理由と思われた。なるほど彼女たちがその場にいたのなら、一般的な分量で作られた菓子を問題なく消費できる。彼女たちは甘いものが好きだ。きっととても喜んだだろう。今からそれを口にできるのだと思えば心は躍る。
帰宅が数日後なら破棄するように、という、こちらもお決まりの文言にちゃんと帰ってきた、と反論して、冷蔵用マシナリーをぱかりと開けた。
つやと輝く二つの菓子。ひとつは見慣れたコーヒーババロアだ。隣に並んでいるものは色が違うようだが、はて。
『それらしく見えてると嬉しいがコーヒーババロアだ。味は悪くなかった。初心者の作にしてはな。紅茶のババロアも作ってみたんだがお嬢さん方にはこっちの方が好評だった。今度あんたの好みはどっちだったか教えてくれ』
並ぶ文字に「もうひとつ」の正体を知る。紅茶のババロアを見るのは初めてだ。どんな味がするのだろう。
“またパレ・メルモニアで”
――
結びの言葉までを丁寧に読み終えて、小さな硝子の器の中で大人しくスプーンを待つババロアを見つめる。さて、どちらから口にしたものか。メリュジーヌたちに好評だったということは、紅茶のそれの方が甘いのだろうか。コーヒーババロアも極端に苦い菓子ではなかったはずだから、甘さの質が違うのだろうか? 考え考えスプーンを手にする。
結論から言えばどちらも甲乙つけ難く、うんうん唸っていて気づいた時には空の器が二つ、目の前に並んでいて驚いた。以前口にしたそれよりも幾分か舌に残るもったり感が少なかったのもあるのかもしれない。きっとリオセスリ殿が何かアレンジをしているのだろう。フリーナが以前口にした「スイーツは飲み物」なる訳のわからない主張をこんな形で実感することになるとは。
まだ入るな、と、行儀がなっていないのを知りつつ空の器の底をかつんとスプーンで突く。こうして人は甘味に魅せられていくのだろう。良き学びを得た。
加点方式で比べてみたがどちらも好ましい。私には選べなかった
――
比較時の資料(単なるメモ用紙ではあるのだが)を差し出しつつ素直にそう伝えれば、リオセスリ殿は真面目だなあと頬を掻き、それなら今後は気分で日替わりにしようと笑ってくれた。
ーーーーー
綾人お兄様とのやりとりが思ったより愉快に書けたので満足です
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