mishiadd
2025-01-04 09:51:31
16945文字
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タケルくんはガチャ運が悪い

とあるゲームの主人公『宮本伊織』にドハマリしたタケルくんが日々ソシャゲガチャやらブラインドやらリアルガシャポンやらにどったんばったん振り回され続けるゆるい現パロ。


Final Round = Round. 0

タケルは、つくづくガチャ運がないと思う。

『ガチャ運』などというものを初めて認識したのも、そもそも『宮本伊織』にドハマリして以降のことなのだが、とにかく『宮本伊織』が来ない。引き当てられない。全然当たらない。
避けられているのではないか――という考えがふと脳裏をよぎることもあったが、慌てて頭を左右に振って打ち消す。自分は『宮本伊織』に嫌われている――という発想は、冗談でもしたくないものだった。なんだかわからないが、ひどく胸にクる。

「まあ、物欲センサーというやつなのだろう」

と、学校の屋上に繋がる廊下でコースターを交換したついでに周瑜に言う。周瑜が几帳面に専用のフィルムで覆ってきてくれた『宮本伊織』のコースターには傷ひとつなく、タケルは思わずほくほくと頬を綻ばせながら大切に鞄の中にしまった。

「コラボカフェにはわざわざよくわかっていない兄まで動員していったのに、全然来なかったのだ。わからぬ、あそこで諦めずもうひと踏ん張りしていればあるいは――
「あるいは、こうして互いに交換した上に得難い交友もできたのだ。そのように運命さだめられていたのかもしれん。人生万事塞翁が馬――

目を閉じて言いながら、ふと周瑜がタケルを見た。

「貴殿、兄――とカフェに行ったのか?」
「ああ! そのときの写真もあるぞ、たまたまだが」

店内の内装を撮っていたときにたまたま隣の席の客と互いの写真を撮り合うことになったのだった。兄と自分のツーショットが映っているカメラロールを繰り、周瑜に見せる。
……ほう」と感心したように言ったあと、周瑜がいたずらっぽい笑みを浮かべてタケルを見た。

「似ているな?」
「ふん?」
「貴殿の兄上は。――『宮本伊織』に似ているな?」

思わぬ指摘に、がたたん、とタケルの体が大きく揺れる。思わず階段を踏み外しそうになったので、「おっとと」と周瑜が引っ張ってくれた。
湯気の出るほどに顔を真っ赤にしたままのタケルが「に、に、に、にて」とどもり続けていると、周瑜がゆったりと続ける。

「あるいは貴殿にとっては、『宮本伊織』が――貴殿の兄上に似ているのかもしれない」
「に、似て、似てるか!? そうか!?」

「ンンーー!?」と珍妙な声を上げながら、まじまじと写真を見る。その隣で一緒にiPhoneの画面を覗き込みながら、「ああ――しかし、貴殿と兄上はあまり似ていないな……」とぽつりと言った周瑜に、「ああ、それは」といくらか平静さを取り戻したタケルが言う。

「血は繋がっておらぬのだ。私は――いろいろあって天涯孤独ひとりになってしまってな。それを、あの『兄』が――私と出逢ってから拾ってくれたのだ。兄みたいなものだから人に紹介するときは兄だと言っているが正確には兄ではないし――私も兄とは呼んでいない。イオリ、と名前で呼んでいる。だから、イオリの義妹はイオリの義妹だが、私の義妹でも義姉でもない」
「ほう」

「それはそれは」、とやけに感慨深く言い――「『ガチャ運が随分良いようでなによりだ」と周瑜が笑った。







放課後、通学路を帰りながら、タケルは考える。――そういえば、そもそもどうして『あのゲーム』が気になったのだったか。

確か、『アクションの動作もなかなかよくて』――主人公の見た目が気に入った』。そう、そうだった。あの『宮本伊織』の見た目が、とても気に入ったのだ。鋭い眼つきと優しげな表情の間で揺れ動くような、あの顔がとても気に入ったのだ。

『宮本伊織』にドハマリして以来、自分はなんてガチャ運がないのだろうと、タケルは散々思い知らされてきた。人間、こんなに運がないことがあるだろうか――。あの、タケルの苦手な『ヤマトタケル』だって『幸運A』を自称している。あいつが幸運を感じているなら自分にだってそれくらいはあると思う。



――思うに――



「ただいま」と玄関の扉を開ける。靴を脱いで居間へと行くと、ガラス張りの大きな窓から明るい午後の光の射し込む中、兄が絨毯の上に座り込んで本を読んでいる。
居間の端と端、その対角に――兄は座り込んでいて、自分は立っていて――溢れるような白く眩い光の中、タケルは兄を――イオリを、見下ろしている。



ああ、なんだっけこれ、とタケルは思う。――確か。



「イオリ」とタケルが呼ぶ。本から目線を上げたイオリが、澄んだ月夜の瞳の双眸で、タケルを見上げた。



――『運命構図』、とかいうんじゃなかったっけ。



「私は、きみとこうして暮らせている時点で――きみとこうして出逢えた時点で、私は私の『ガチャ運』を使い果たしてしまった。――ような気がする」



イオリがタケルを見上げている。ややあって、「うん?」と問い返した後、本を閉じ――「おかえり、セイバー」と、笑った。






タケルくんはガチャ運が悪い・了