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mishiadd
2025-01-04 09:51:31
16945文字
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タケルくんはガチャ運が悪い
とあるゲームの主人公『宮本伊織』にドハマリしたタケルくんが日々ソシャゲガチャやらブラインドやらリアルガシャポンやらにどったんばったん振り回され続けるゆるい現パロ。
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Round 3. リアルガシャポン
『あのゲーム』にいくつか存在するモチーフのうち、『令呪』というものがある。
作中に登場する七人のみが持つ固有の刻印みたいなもので、要するにそのキャラクターを象徴するトレードマークのようなものだ。
――
タケルがドハマリしている『宮本伊織』は、この『令呪』を持つ七人に含まれており
――
本人そのものの姿ではないものの、彼の『令呪』の刻まれたグッズであれば、是が非でも入手したい
――
というのが、タケルの正直な心情である。
――
などと言っている中で、この『令呪』をモチーフにしたガシャポンが出るという話になった。
令呪がひとつずつ刻まれた小さなメタルチャームで、当然ながら全7種。これが、いわゆるリアルガシャポン
――
硬貨を投入してノブを回してコロンと出てくる
アレ
、で入手できる、らしい。
タケルが大人であれば
――
タケルにもっと財力があったならば、きっと『箱買い』でもして確実に『宮本伊織』の令呪チャームを入手できていたのだろう。大人買い、とはよく言ったものである。
――
が、タケルは一介の高校生であり、富豪のパトロンがいるわけでもなかった。兄には金銭面で不自由をさせられたことはついぞないが、それも兄が端々でいろいろと工面してくれているからであることを、タケルは知っている。
……
その兄に、「『宮本伊織』のためにメタルチャームを箱買いしてほしい」
――
とは、さすがのタケルでも言えないのであった。
ネットで検索し、『令呪チャーム』ガシャポンの設置場所を調べる。電車などの交通手段を含めたタケルの移動可能範囲内には、およそ三ヶ所に設置されていることがわかる。そもそも物理的にガシャポンを引くこと自体が不可能
――
という事態は回避できたが、ガシャポンである以上、タケル自身の資金も限られている。この三ヶ所を巡り、回す。
――
資金
いのち
尽きるまで。
ガシャポンが出る、という情報を入手してから、こつこつと硬貨を溜めていた。空になった蜂蜜の瓶に貯めた100円硬貨は瓶の半分くらいまで来ていた。タケルが100円玉を集めていることを知った兄は、日々の買い物で出た釣銭でちょくちょく両替をしてくれるようになった。相変わらずタケルがなんのためにそんなことをしているかはよくわかっていないようだったが、元来お人好しなところのある兄は「おまえがそうしたいなら」と硬貨集めに協力してくれた。
◆
厚手のダウンを着込み、「では行ってくる」と玄関から大声で呼ばわる。奥で洗濯をしていたらしい兄が廊下まで出て来て、「ああ、出掛けるのか」とのんびり言った。
「夕飯までには
――
」
「わかっている。戻ってくるよ。
……
どのみち、二時間もあれば勝負は決まるのだ」
「うん?」と小首を傾げた兄の、長めの癖毛の前髪が揺れる。「よくわからんが、頑張れ」とだけ言って、洗濯かごを抱えたまま奥へと引っ込む。
肩を竦めて、玄関のドアノブに手を掛ける。
――
ひゅうう、と真冬の冷たい風が、マフラーを顎まで巻いた顔に吹きつけてきた。
最寄りの駅から電車に乗って三駅。まずは駅直結のショッピングモールにあるガシャポンコーナーに足を運んだ。居並ぶ透明な箱のひとつひとつを注意深く見ていき、やがて
――
目当てのものを見つける。
『あのゲーム』のロゴと共に大写しになっている七種の『令呪』。
――
そのうちの、もっとも見慣れた、お目当ての『令呪』に、ふう、と大きく深呼吸する。
背負ってきたリュックサックからあの蜂蜜の空瓶をそのまま取り出す。半分まで貯まった100円硬貨をじゃらじゃらと揺らして鳴らし、おもむろに蓋を開ける。硬貨を指でいくつか摑み取り
――
ガシャポンに投入し、今一度大きく深呼吸をして、心を無にし
――
かちり、とノブを回した。
コロン、と軽い音を立てて出てきた球体を取り出す。セロハンテープが一巡捲かれたそれを、指で剥がして開封しようとしたとき
――
。
「確か、貴殿は隣のクラスの」
――
と、柔和な声を掛けられる。振り向けば、どこかで見覚えのある顔が立っていた。
……
確か、周瑜とかいう名前だったような、とタケルは頭の片隅で思う。中国からの留学生、だったような。
すたすたと近づいてきた彼は、タケルとタケルの前にあるガシャポンを見比べて言った。「奇遇だな、貴殿もこのゲームを?」と意外そうに片眉を上げた。
重大な『開封の儀』を中断させられた苛立ちが一瞬あったものの、すぐにタケルが周瑜を振り向く。「
――
『も』? きみ、『も』、と言ったか!?」と素っ頓狂な声を上げた。
「ああ。
――
プレイしたのは
こちらへ留学してくる前
あちらにいたころ
だったのだが、
日本
ここ
だとコラボカフェやらグッズやらが充実していていいな。
――
先日コラボイベントで実装になった『ヤマトタケル』も、あちらでは実装まで一年は待たねばならん」
「その代わり実装の暁には盛大に祝われるだろうが」、と付け足しながら、今しがたタケルが回したばかりのガシャポンに手を伸ばす。ちゃりちゃりと硬貨を入れて回し、中から球体を取り出す。あっさりと開封し、「
……
うん」と頷いた。
「まあ、そう簡単にはいかないな」
周瑜にもお目当ての『令呪』があるのだろうか、と思いながら、そういえば自分の手の中にも球体があったことを思い出し
――
先程の随分あっさりとした周瑜の開封の儀を見てしまった以上、タケルの方もいくらか気の抜けた状態で
――
球体を左右に捻って開封する。
――
『ドロテア・コイエット』の令呪だった。
「あ、なあ」と、おずおずとタケルが周瑜に声を掛ける。
「私のは、『ドロテア・コイエット』だった。
――
もしきみが、『ドロテア・コイエット』が好きなのだったら、これを」
その申し出に、周瑜は一瞬目を丸くし、それから「フフ」と笑った。
「その気遣いはありがたい。だが、遠慮しよう。
――
それもまた恐らくはなにかの縁。取っておくといい」
それだけ言ってから、じっとタケルを見る。タケルが一瞬気まずそうに目を逸らし、そして結局何も言い出さないことに、また「フフ」と笑った。
「貴殿は訊かないのか?
私が誰を引いたのか
」
「き、聞かない」
タケルが上擦った声で言う。やがて、苦渋の選択を強いられるかのように顔中をしわくちゃにしながら、思いの外力強い声で断言する。
「聞いたところで、
まだ
きみからは貰えない。まずは『自引き』
――
『宮本伊織』を、この私自身の実力で引きたいのだ!」
「なるほど」
感慨深げに
――
「非常によくわかる」とでも言いたげに何度も深く頷いたのち、周瑜が言った。
「ちなみに私が引いたのは『宮本伊織』ではなかったよ。
――
だが、貴殿とは別の話ならばできるかもしれん」
意味深長な言葉に、タケルが「うん?」と小首を傾げる。まるで重大な外交でも行うかのような口ぶりで、周瑜が持ちかける。
「先日行ったコラボカフェで引いた、
私の
『
コースター
』
は
――
」
◆
「ただいま!」と玄関を開けると、食卓から味噌汁の匂いが漂ってくるようだった。「おかえり」と兄の返事があったので、脱ぎ捨てたスニーカーもそのままにとたとたと居間まで駆けていく。
食卓の上にサラダを並べていた兄が、「随分機嫌がいいな」と穏やかに言った。
「なにかいいことでもあったか?」
「あった!
――
同じ学校に『あのゲーム』が好きなやつがいることがわかったのだ! そして、この間のカフェで我らが引けなかった『宮本伊織』のコースターを持っていると言っていた!
――
私は『鄭成功』を持っているから、交換してくれると言ったのだ!」
まさか
トレーディング
・グッズを本当に
交換
できる日が来るとは思ってもみなかったが
――
思わぬこともあるものだ、と弾んだ声でタケルが報告すると、わかっているのかいないのか、「そうか」と満足げに兄が頷いた。
結局あのあと周瑜と別れて他の二ヶ所のガシャポン設置場所も巡って回したが、『宮本伊織』の『令呪』が出てくることはついぞなかった。
――
とはいえ、心はそう重くない。『宮本伊織』のコースターだけでも確実に手に入ることがわかっているし
――
新しい友人も増えた。
ほく、と頬を綻ばせたまま食卓につくと、ことん、と目の前に何かが置かれた。
――
今日一日だけでも散々目にした、ガシャポンの球体だった。
「これは
……
?」とタケルが兄を見ると、穏やかな顔をした兄が、「今日、近所のモールに買い出しに行ったときにたまたま見つけてな。ひとつだけ回しておいた」と言った。
「え? だ、だが、近所のモールって
――
」と慌ててタケルがiPhoneを開いて設置場所を再検索する。
――
すると、先日確認した三ヶ所以外に、もう一ヶ所増えているのを発見した。普段、兄とふたりで連れ立ってよく買い物に行くモールだった。なんだったら、『あのゲーム』を買った家電量販店は、このモールに入っている。
「なぁんだ、」と今日一日の移動距離を思ってずるずると椅子の上で脱力すると、「こら、ちゃんと座れ」と兄に叱咤される。それから兄が言った。
「中は見ていないからおまえが欲しいものが入っているかはわからないが。
……
当たっているといいな」
「
……
うむ」
ぽつりと返事をして、球体を捻る。
――
正直、これが『宮本伊織』の令呪じゃなくても、あまりがっかりしないかもしれないな、と思う。
自分のために、この兄が回してきてくれたのだから、もう、それでいいような気がする。
穏やかな気持ちのままで、『開封の儀式』を行い
――
ちゃりん、と中から転がり出てきたのは、美しい剣の切っ先のようなかたちの、『宮本伊織』の『令呪』のチャームだった。
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