ちこと
2025-01-01 23:08:30
14717文字
Public イベント用サンプル
 

【チャレ30新刊】「終着点のつづき」サンプル

1/13 チャレ30発行予定の新刊サンプルです。本文全体の4割ほどを載せています。
(1/2追記 本文の3割ほどと書いていましたが、正しくは4割ほどです!申し訳ありません)
サトシとピカチュウとルカリオが「世界のはじまりの樹」を訪れるお話です。冒頭の注意事項をご確認ください。

▼当日スペース:5階N-27 Momo!
▼仕様:文庫サイズ(A6)/本文104P/オンデマンド
▼価格:¥900
▼BOOTHでの通販受付中です→https://momo-chicotto.booth.pm/items/6491119






 湖にそびえる大きな橋をわたる。石造りで、歴史を感じさせるような古いものだ。石畳の道はそのまま、湖の上にそびえ立つ城の入り口へと続いていた。きっと、あの城が建ったころからずっと共にあるのだろう。その城を見上げ、サトシは呟く。
「ひさしぶりだな。オルドラン城」
「ぴかちゅう」
 以前訪れたときは祭りのさなかで、橋には装飾がほどこされ、華やかな衣装に身を包んだ人びとが大勢歩いていた。だが今日は、あの賑やかさが嘘のようにしずかだ。大きな橋を渡るのは、サトシとピカチュウ、そして傍らを歩くルカリオのほかにはいない。
 サトシとピカチュウの言葉に耳を立て、ルカリオが顔を上げた。眼前には、立派な塔を持つ城が佇んでいる。
「ここだよ、ルカリオ」
 おれが、はじめて〝ルカリオ〟ってポケモンに会った場所。
 ここへ向かう道すがら、サトシはルカリオに話して聞かせていた。
 かつてこの地を訪れ、出会い、友だちになったポケモンがいること。すべてを語りきれてはいないものの、大事な思い出の場所だということは伝わっていると思う。


 今回この地を訪れることになったのは、偶然だった。
 一度カントー地方に戻り、故郷に顔を出し、サクラギ研究所の面々にも顔を見せてから、またどこへとも決めずに出立した。気の向くまま、地図もろくに見ずに何日か歩きつづけていると、やがてどこか見覚えのある街並みに至ったのだ。そこでやっとスマホロトムに訊ね、オルドラン城の城下町、ロータの町のすぐ近くまで来ていることを知った。
 なつかしい名前を目にし、サトシの胸はどきりとした。かの地を再訪したことは、そういえば、いままでなかった。
……いってみるか、ピカチュウ」
「ぴっか」
 相棒が頷いてくれたので、サトシは足を目的地へと向けた。ルカリオをモンスターボールから出し、道中、ともに歩きながら。


 オルドラン城に着いて、それから何をしようか、どこへ行こうかと決めていたわけではない。ただ、もし会えるならば、当時世話になった人びとに挨拶をしたいと思っていた。
 その希望は容易に叶った。城の門で名乗り、取り次ぎを頼んでみると、あっという間にひとつの部屋へと通された。
 高い天井から大きなシャンデリアが下がる。光沢のある床を歩けば、広い空間に足音が大きく響く。部屋の奥、高い段上にぽつんと設えられた玉座に、なつかしい顔、この城の主が座っている。
「お久しぶりです、女王さま」
「ええ。よく来てくれましたね、サトシ、ピカチュウ」
 柔和な微笑みを浮かべ、アイリーン女王は、まるで友人のようにサトシたちを迎えた。
……それから……
 切れ長の美しい瞳が、サトシのとなりに視線を移す。はっと気づいて、サトシは口をひらいた。
「ルカリオです。おれのポケモン。すごくがんばりやで、頼りになるやつです」
「そうでしたか。あなたも、よく来てくれました」
 そう言って、女王はまたやわらかく微笑んだ。


 アイリーン女王はたしかに「女王さま」なのだが、サトシはもうすこし身近なひとのように感じられてしまう。この城でピカチュウと離ればなれになったとき、出会ったばかりのサトシの力になってくれた。サトシがピカチュウとともに無事に帰ってきたときには、駆け寄って抱きしめてくれた。そんな思い出があるから、サトシはつい気楽に話をしてしまうのだった。
 かたわらに控える乳母のジェニーにたしなめられてしまいそうだが、アイリーン女王は気が咎めた様子もなく、むしろサトシに話を振ってくれる。ポケモンワールドチャンピオンシップスに優勝したことも、サトシから言うまでもなく承知だった。
「試合は観られなかったのですが、あとからニュースを耳にしました。ルカリオも活躍していたのですね。わたくしも目にしたかった」
 オルドラン城にテレビがあるとは想像できなかったので、女王が観ていなくても無理はないと思った。知っていてくれただけでも十分だ。
「みんなのおかげで勝てました」
「そうですか」と、女王は目をほそめる。かたちのよい唇がやわらかく弧を描いた。
「あなたたちは以前からとても強かったと思いますが、さらに成長したのですね。次回のバトル大会にも出場してもらいたいくらいです」
 サトシが以前参加した大会のことだろう。優勝者はその年の〝波導の勇者〟の肩書きを得る。そのときピカチュウとともに優勝したサトシは、本当の〝波導の勇者〟が使っていたという杖を手にした。思えば、それが冒険のはじまりだった。
 あのときは大変だったけれど、大会はとても楽しかった。勇者の格好をしてバトルするのも新鮮だった。女王の提案に、「おれでよければ」と応じようとする。
 だがサトシが口をひらくより前に、
……ですが」かたちの綺麗な女王の眉が、わずかにゆがむ。ジェニーも息を詰まらせるかのように顔を引き締めた。
「次の大会は、しばらく開催できないかもしれません」
……なにか、あったんですか?」
 サトシが問うと、女王はまぶたを伏せた。睫毛をふるわせ、やがて、何かを決めたようにサトシを見つめる。
「せっかく訪ねてきてくれたあなたがたに、こんなことを話すのは、……とても、心苦しいのですが」
 女王の瞳が揺れる。それを目にしたとき、サトシの心の背筋が不意に伸びた。無意識に悟ったのだ。このあと、女王の口から語られることを。
 果たして、唇をわずかにゆがませながら、女王は言った。

「世界のはじまりの樹に、――異変が起きているようなのです」