ちよど
2024-12-27 00:00:00
20578文字
Public アシュヨダ
 

世界の終わりにアシュくんがヨダナさんを召喚する話

終わる世界と終わらないアシュヨダの話。pixivより再掲

アシュくんが酷いことをして可哀想な目にあいます。カルジナも少しある。




 プトレマイオスの図書館から旦那の部屋までは結構距離がある。
 本を片手に、ここしばらく葬儀のような雰囲気が立ち込めるようになったカルデア内を通り過ぎると、途中でケイローンとすれ違った。
「大丈夫か?」
 憔悴した顔に思わず声をかけると、賢者は足を止めて力なく笑う。
「みな、暴れる気力も尽きましたからね。静かなものですよ」
「わりぃ、愚問だったな」
 ケイローンは謝る俺が持っている本に目を留めて微笑んだ。
「ドゥリーヨダナにですか?」
「ああ」
 穏やかな眼差しが俺を包む。
「──後悔は、していませんか?」
「それだけはねぇよ」
 答えながらも、俺の手は持っている本の表紙を撫でる。それに目を細めてケイローンは軽く会釈した。
「それならよかった。──では、また」
「ああ、また」
 祈るように再会の言葉を口にし、俺たちは別れた。

 そうして廊下を進めばちょうど旦那の部屋からカルナとガネーシャ神が出てきたところだった。
 足元がおぼつかないカルナを少女が支えている。身長差のせいで少女がカルナにしがみついているように見えるその滑稽さを俺は笑う気にはとてもなれなかった。
 カルナが俺の持っている本に目を留める。
「今は何巻だ?」
「8巻まで来たぜ」
「俺が死ぬところだな」
 カルナが笑いをこぼす。それを見上げて少女が唇を尖らせた。
「そこは笑うところじゃないッスよ。──なんで自分が死ぬ話で笑えるんスか
 少女の声が濁る。潤んだ目を見られないようにか下を向いた少女の頭に、カルナはそっと手を置いた。
 ふるふると少女が首を振る。
「カルナさん、ごめんなさい
「無用だ」
 カルナの制止を振り切って、少女は謝罪を続ける。
「ローカルだって永遠じゃないって分かってたのに。召喚してしま
「無用だ。無用なことだ。■■■・■■■■」
 カルナが聞き取れない言葉を発する。
 弾かれたように少女が顔を上げた。
「お前にも、友にも会えた。これ以上は望むべくもない」
 そう断言するカルナの顔色は悪い。常日頃から白い顔が今では死人のようだった。

 ──マスターが目覚めなくなってもうどのくらい経っただろうか。
 いつものレムレムだと笑っていたシールダーが表情を曇らせるようになったのはいつからだろうか。
 カルデアの総力をあげてマスターを起こそうとして果たせたなったのは?
 徐々にカルデアの施設が使えなくなり、魔力不足が広がっていったのは?
 プトレマイオスの図書館ですら、当初の十分の一程の規模に縮小されてしまった。
 現界に魔力を多く必要とするサーヴァント達から倒れ始め、そのまま消滅してしまう者も現れた。
 カルナもそのひとりになりかけている。
 鎧を消し、魔力炎を消し、槍を消し、それでもひとりでは歩くことすらおぼつかない。
 
 それでもカルナは毎日のように少女を伴って旦那の部屋に訪問する。
 
 ──その意味は俺と同じだった。

「ドゥリーヨダナは寝ている」
「ああ、起きるまで待ってるさ」
「頼む」
 少女に支えられてカルナが自室に戻っていく。それを見送って俺は旦那の部屋に入った。
 慣れた間取りを抜けて、寝室へと向かう。
 ベッドでは旦那が横になっていた。
 カルナの言葉通り眠っている旦那の、その横にふたつ置かれた椅子のひとつに座る。

 旦那はバーサーカーだ。
 バーサーカーは魔力の燃費が悪い。カルデアが魔力不足になって真っ先に人数が減ったクラスはバーサーカーだった。
 当初、倒れた旦那に俺たちは自分の魔力を注いだり、魔力のリソースがあるアイテムをもらってきたりしたのだが。
 目を覚ました当の本人がそれを拒否したのだ。

 ──枕元で騒ぐな。我がカウラヴァが略奪したとあれば、あの世でユディシュティラの阿呆に笑われるではないか。

 このカルデアに未来などないことはみんな分かっていた。
 魔力のリソースもすぐに尽きることも。
 旦那のためにリソースを集めようとすれば、すぐに他者から奪うしかなくなるだろう。
 それを拒んで、旦那は緩やかな消滅に身を任せている。

 ──相変わらず、カッコつけの大馬鹿野郎だ。 

 生前、旦那のこの見栄っ張りにどれほど苦労させられただろうか。
 俺の記憶が無くても旦那は旦那のままだった。
 思ってしまう。俺はアーチャーだ。単独行動のスキルがある。カルデアの魔力が尽きてもしばらくは保つだろう。
 きっと旦那が消滅した後も俺は長く現世に残る。
 それならばいっそ。

「なにかろくでもないことを考えておるだろう?」

 気がつけば紫水晶の瞳が俺を見ていた。
 俺は笑みを作る。それに旦那は疑わしそうに目を細めたが、すぐに言葉を続けた。
「──あの小娘」
「ガネーシャ神のことか?」
「そうだ。あやつのカルナに対する献身にはカウラヴァ頭首として報いねばならん」
 旦那はそれだけを言って枕に頭を預けてしまう。
 その言いたいことを理解して、俺は持っていた本を握りしめた。
 答えない俺に、旦那はため息をつく。
「おまえはわし様におまえの全てを献上しただろう?」
 促されて、俺は頷くしかなかった。
「──分かった。俺があいつの面倒をみる」
「頼んだぞ」
 神霊サーヴァントのガネーシャ神は魔力不足の影響を受けにくい。
 そんな彼女が消えるまで俺に生きろと告げて、旦那は首を巡らせた。
「それにしても暇過ぎる。何かわし様を楽しませることはないのか?」
 旦那のわがままに俺はいつものように本を開いた。
 この本のタイトルは『マハーバーラタ』
 俺達の生き様が描かれた叙事詩だ。
 旦那に俺の記憶を語れと言われたが、俺の独力では上手く語る事など出来はしない。
 困っていた時にガネーシャ神がこの本を持ってくれたのだ。
 俺の記憶とそう違わない内容と、バラモンの口誦をそのまま書き写した文章は語りやすく。俺はこの本に補足を入れながら旦那に語り聞かせている。
「この前の、カルナの話の続きでいいか?」
「うむ。わし様のカルナの活躍はどれほど聞いてもいいものだ」
 満足そうに旦那は目を閉じる。
 その枕元で俺は詠み上げる。俺達の物語を、カウラヴァの敗北を、──ドゥリーヨダナの死への道筋を。
 もぞもぞと何気なさを装って旦那の手が投げ出される。
 俺は何も気づかない振りをしてその手を握った。

 ──俺はここにいる。最期まであなたの傍にいる。

 そう誓う俺を、柔らかい温もりがそっと握り返してきた。
 世界が終わっても、俺はこの手を離さない。
 静かな部屋に俺が謡うマハーバーラタがいつまでもいつまでも続いていた。


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読んでくださってありがとうございます。
少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。

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