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ちよど
2024-12-27 00:00:00
20578文字
Public
アシュヨダ
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世界の終わりにアシュくんがヨダナさんを召喚する話
終わる世界と終わらないアシュヨダの話。pixivより再掲
アシュくんが酷いことをして可哀想な目にあいます。カルジナも少しある。
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◆
自室に籠もって何日経っただろう。血で汚れた鎧もそのままに俺は床に転がって暗い天井を見上げていた。
考えてしまうのは、昔のことばかり。
三千年の間、くり返しくり返し思い出し、英霊になってからも抱えていた旦那との思い出が泡のように浮かんでは消えていく。
修行中に行方をくらませた旦那を探し回った事。王宮で着飾った旦那を初めて見た時の事。戦をしないでくれと嘆願する俺に首を振り続けた旦那の事。そして、最期、俺の腕の中で息を引き取った旦那の事を。
──誰だ、お前は?
召喚された旦那の言葉が、何度も何度も思い出を切り裂く。
俺は旦那に誰何された事なんて無かった。
父の息子として紹介された俺は、旦那にとって最初から興味を引く存在だったのだろう。あんな道端の石を見るような目で──。
思い返すだけで喉は呼吸を止め、乾いた目は痛みを訴える。
──あ、ああああ。ドゥリーヨダナ。ドゥリーヨダナ。ドゥリーヨダナ!!!
叫びたい。身を捩ってのたうち回り、どうして俺を覚えていないのかとその足元にすがりたい。
──だが、これは俺の犯した罪に相応しい罰なのだ。
血で汚れたままの手を虚空に伸ばしても何も掴めず、俺は両手で顔を覆った。
乾いた血液がパリパリとひび割れる。
不意に、気配がした。
跳ね起きる。
視線を巡らせるとそこには
「ねずみ?」
どこかで見たような帽子を被ったねずみが、俺しかいなかったはずの部屋に入り込んでいた。
俺を恐れる様子もなくチョロチョロと側に来たねずみは顔を上げる。咥えていたのは小さなメモ用紙だった。
「俺にか?」
ねずみが頷く。
明らかに知性がある様子だ。どこかの神の眷属だろうか。
俺は正体を見極めようと体を屈める。
毛艶のいいねずみは、片方の牙が折れたピンク色の象の帽子を被っていた。
俺はそれと同じ帽子を被っていた少女を知っている。
「ガネーシャ神からか?」
ねずみは再度頷く。
俺はその口からメモ用紙を受け取った。
くるりと背を向けてねずみが去っていく。その小さな姿が壁をすり抜けたのを見て、俺は息を吐いた。
手の中のメモ用紙を開く。そこに書かれた文字は故郷のものでは無かった。
ひと目で女が書いたと分かる丸い文字を聖杯の力を借りて読み解く。
そこには。
『ありがとう。 今日は図書館』
とだけ書かれていた。
礼が書かれているという事はカルナの召喚に成功したのだろうか。
だが、図書館。
それを俺に知らせる意味は──。
その答えを思いついて俺は立ち上がった。
霊基を編み直す。念の為に顔まで甲冑に覆われた二臨の姿にした。
愚かな期待にひかれて俺は部屋から出る。血の匂いは消えていた。
◆
プトレマイオスの図書館は荘厳な光で編まれている。俺の背丈より高い数えきれない書架には溢れんばかりの本が並べられ、四角い森を作っていた。
静寂の合間に人々の囁き声が聞こえる。その中に聞き覚えのある響きを見つけて俺は足を止めた。
書架に隠れてそっと顔を出すと、案の定、そこには。────旦那が居た。
閲覧スペースなのだろう、大きな机に何冊かの厚い本を積んで、しかめっ面でページをめくっている。
長い髪をうるさそうにかき上げて。時折、隣に座っているカルナに何かを言っては首を小さく振っていた。
カルナを挟んで反対側の席にはガネーシャ神がいる。
少女の大きな目が俺を見つけて、カルナを突っついた。
カルナがこちらに視線を巡らせる。それにつられて旦那もこちらに顔を向けようとしたので俺はさっと書架の影に隠れた。
──今の俺は旦那にとって知らない男だ。
それが胸が潰れるよりも苦しい。
だけど、旦那の姿をこのカルデアで見られた事に、──この上もなく幸福を感じるのだ。
小さく聞こえた声。
好んで伸ばしていた髪。
つまらなさそうにテーブルに肘をついていた姿。
カルナに話しかける横顔。
こちらを向きかけた表情。
──サポートではない、ドゥリーヨダナ。
戦場ではなくカルデアでその姿を見られることを俺はこんなにも望んでいたのだ。
英霊の座が消滅するらしいという事に関係なく、旦那がこのカルデアにいる。それだけで俺は罪を犯した事を後悔はしない。
俺はそっと図書室を後にした。
それからもガネーシャ神からの手紙は何度も届いた。『昼食は食堂』『午前中はミーティング』『夕方にシミュレーターの見学』
…
その度に俺はこっそりと旦那を眺めに行った。二臨の甲冑姿なら、召喚の時に旦那の前にいた俺とは結びつかないはずだと言い訳をしながら。
旦那はカルデアでの生活を楽しんでいるようだった。
食堂で提供された食事に顔を綻ばせ、カルナと一口交換していた。
ミーティングでは途中で飽きたのかガネーシャ神の帽子の象耳を軽く引っ張っていた。
シミュレーターではカルナの戦いに子どものように興奮して応援していた。
──当然だが、そこには俺はいない。
見つめるだけで、言葉も交わすこともなく。──でも、俺は幸福だ。幸福なのだ。
でも思ってしまう。生前、旦那に心酔していた男にカルナが斬りかかられた事があったが、昔はどうしてそんな事をしたのか分からなかった。今は、少し、分かる。
今日の手紙は『午後は周回』だ。
俺が知る限り、これが旦那の初陣のはず。俺は管制室に入り込んで、戦場を映すモニターを眺めた。
ドゥリーヨダナが召喚されてから外に出る時はいつも二臨の甲冑姿の俺に、誰も何も言わない。
ただ少し遠巻きにするぐらいだ。弾劾されて霊基を破棄されてもおかしくない事をした俺に、彼らはいつも優しかった。
今日の編成は、アーラシュ。キャストリア、ドゥリーヨダナ、三蔵法師の剣騎種火周回だ。
アーラシュが1waveを一掃し、2waveで旦那のNPがチャージされる。
マスターの指示に旦那が楽しそうに含み笑いをした。
「見せ場というやつだ」
棍棒がくるりとまわされる。旦那が朗々と宝具を開帳する。
「此処に在るは我等が勝利。百の王子が集いて地を駆け吠える。蹂躙せよ!我が最強の軍団よ!『ジャイ!カウラヴァ』!!!」
カウラヴァの名の元に百王子が召喚される。騎馬の群れは数に任せてエネミーを蹂躙し、──その上空に影が飛び込んできた。
それは巨大なチャクラムを持ったシャドウサーヴァント。
そいつはどこかで見たような動きでチャクラムを投擲すると、当然のように百王子に混じってチャクラムごとエネミーを殴り飛ばした。
カツン、と足元で音がする。
それは俺がよろめいた音だった。
──旦那の宝具に現れたのは、紛れもなく『アシュヴァッターマン』だった。
シャドウサーヴァントだったが、あの動きとあのチャクラムは間違えようもない。
俺の事を忘れたはずの旦那の霊基に、俺が残っていた。
喉が震える。眼球が熱を持つ。
その目がモニターの中で呆然としている旦那の姿を捕らえた。
ざっと血の気が引く。
俺は慌てて管制室から飛び出した。廊下を走り抜け、自室に飛び込む。
──もう外には出られない。
旦那は小心者で疑り深い。
それがよりによって自分の宝具に、愛する弟たちの中に、異物が混じっている事を気にしないはずがないのだ。
絶対にその正体を突き止めようとするだろう。
俺はまだ旦那の前で目立つチャクラムを出していない。だが、宝具の中の俺と旦那が召喚された時の俺は同じ再臨姿だった。
目ざとい旦那がそれ気づけば、俺を探そうとするだろう。
甲冑に覆われた二臨姿でも安心は出来なかった。
──そうだ俺は旦那に見つかりたくない。
だって、そうだろう。
何を説明すればいいのか。生前の事も、今の事も。旦那のためと言いながら命じられてもいない血を流した事を、どんな顔をして旦那に告げられるというのだろうか。
部屋に閉じこもった俺に、ねずみは毎日のように手紙を運んできていた。
『今日はずっとカルナさんの部屋』『午前中はカルデアの中を散歩』『霊基保管室』『マイルーム』『探してる』
俺は手紙を握りしめた。
霊基保管室にはカルデアに召喚されたサーヴァントの一覧がある。
マイルームでマスターに何を聞いたのか。
この部屋も突き止められるかもしれない。いっそ霊体化して──。
考え込んでいると、また足元で気配がした。
「1日に2回来るなんて珍しいな」
すっかり見慣れたねずみから手紙を受け取る。
慌てたように戻っていくねずみを見送ってから、俺は手紙を開いた。
『シミュレーター』
その文章の末尾には二本の横線が引かれていた。
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読んでくださってありがとうございます。
少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。
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