Romom🍙
2024-12-03 02:53:02
8793文字
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鋒に情景を

☣️
RE軸クラレオ 
RE:4から少し後、レオン単体。クラレオ要素は後半のみです。



 あの日の晩は、レオンにとっても、そしてクラウザーにとっても一つの転換点だった。
 新兵はクラウザーのもつ無言の慈悲を知り、少佐はレオンの抱く正体不明の裂傷を知った。元から目をかけていた相手ではあったが、クラウザーからすると、より放っておけない存在に昇華されたのは間違いなかった──別に、彼の口から聞いたわけでもないし、終ぞ語られることはなかったが。
 それでも、言葉無くレオンは感じ取っていた。自分は少佐の特別だと。それは、心の内側に宿る幼い自分を擽り、満足させるには十分過ぎた。

 そこまで思い出したレオンは、ナイフを戻すと、カウチに深く腰掛けて天井を見上げた。可笑しかった。レオンはクラウザーの一挙一動を覚えているし、継承した唯一の生き残りだ。戦闘技法なら、満点を叩き出せる。それくらいよく知っている。人間としての誇らしさも、厳かな碧眼に宿した暖かさも、一等近くで享受したつもりでいた。
「なのに、俺は、あんたの好きな銘柄すら知らないんだ……笑えるよな、少佐」
 落とした視線の先に揺らぐ飴色の湖面を一気に呷る、味わった方がいい気がしたが、やめておいた。
 嚥下する音だけが骨を伝う。酒気の匂いが鼻を擽る、夜に呑まれた部屋がその内側を凍えさせていく。特殊スコープを覗き込めば丸わかりだ。唯一の熱源が自分一人であることなど──ここには誰もいない、人だった物たちも、寄り添う者も、物言わぬ慈悲をくれる者も。ただ、レオンが存在するだけだ。彼ら全ての記憶を抱え込んだ自分がいるだけ。
 ……それで充分じゃないか。レオン・S・ケネディ、お前は、彼らを忘れない。それで充分だ。
 レオンは立ち上がり、少しふらつく足取りを懸命に堪え、部屋の明かりを点けた。
 もう、己に闇は必要ない。それに、物がきちんと見えた方が良いに決まっている。六年前に得た教訓だ。闇に身を任せてよかったことなど一つもないだろう。
 持ち上げた酒瓶の底は、殆ど露呈していた。相当飲んだ、なのに全く味を覚えていない。
「もっと味わうべきだったか?」レオンは苦笑した。生き急いでるつもりはない。あの頃は否定できないが……。今は急ぐつもりはなかった。
 それに、また仕事が始まれば強制的に断酒生活になる。それでも、年不相応に老い疲れていくのは目に見えている。仕事は仕事だ、仕方がない。レオンは望んでエージェントになったわけではないが、それでも、幼い頃からの夢であった『人を助ける』ことは叶っている。有無を言わさず植え付けられたコンドルの羽は、存外レオンに馴染みつつあるようだった。
 感傷に浸るのも今日で一旦おしまいにしよう。前だけを見つめ、一方通行の生を止めず、決して振り返らない。
 広げたままだった装備の一式を片し、二本のナイフを磨くのは──結局明日にした。酒が入った状態で刃物を研ぐのはやめた方がいい。当然だ。
 手にし、覗き込めば、当然ファイティングナイフに映り込む自分と目があった。名残惜しそうに、別れを惜しむように、こちらを見据えている。
「やり遂げる、必ず。俺は、俺にやれるだけのことをする──貴方の教えを無駄にはしない」
 遠い遠い情景の声は、もうどこからも聴こえない。