mochita_rj
2024-11-16 17:25:48
13974文字
Public TwitterのSS
 

SS2024年分

1Pに説明があります。今のとこ全部パロです。
年内に何かまた書いたら更新するかもしれない


「そういうことで仗助。僕行ってくるから」

ご主人はおれを一撫でし、名残惜しげに足を靴に収めて玄関のドアに手をかける。玄関マットの上でちょこんとお座りしてご主人を見上げると、露伴はどこか心苦しそうに、でも何かを決心したような顔でおれを見下ろしていた。

「おまえも大きくなったからなあ。初めてのお留守番、頑張ろうな」

露伴の言う通り、おれはすくすくと大きく育っていた。自慢の毛はふわふわモコモコの手触りはそのままに、ご主人のお手入れのおかげでツヤツヤと真っ黒に光っている。いつからかミルクも飲まなくなったし、トイレだってきちんと決められた場所でできる。今のおれはどこから見ても赤ちゃんじゃあない、立派なわんちゃんだ。そんなおれご主人が命じたのが、初めてのお留守番という訳だった。

「くう、くうん」
「いい子で待ってるんだよ?近所だから急いで帰ってくるからな」

ほんとう?用事済んだらすぐ帰ってきてくれよ。おれ、寂しがり屋だから泣いちまうもん。本当は連れてって欲しいけど、ご主人が今日行く画材店?とやらはペットが同伴禁止らしい。だから、おれは連れてけないんだと言われた。

「初めてのお留守番、寂しいかもしれないけどな

お出かけのときはいつもおれも一緒だったから、露伴と離れるのは今日が始めてなんだ。「お留守番」なんてカッコイイ響き、おれならヨユーっスよ!と張り切ってた。それなのに、ドアを開ける露伴との距離が少しずつ離れていく事に不安が押し寄せ、おれはやっぱり連れてってほしいと思っちまった。露伴、それ本当に必要?やっぱりやめるとか、

「じゃあ行ってくるよ、仗助」
「きゅ、」

おれの気持ちとはよそに、開けられたドアはピタリと閉じられてしまった。まるで、露伴とおれとを分ける境目みたいだ。露伴を呼ぶように鳴いてみるけど、このおおきい扉の先には聞こえてないのかな。

「くぅ、わおん、」

何にも反応がない。あれ、おかしいな。さっきまでここにいたのに。それならと、おれは立ち上がって廊下を歩き、お部屋の方に戻った。じゃーん、やっぱりリビングに隠れてたよ!なんて。トイレは?じゃあお風呂は?露伴、お部屋のどこかにいたりしねえかな?

………きゅううん……

おれがどこを探しても、だいすきなご主人はいなかった。何回も何回もお部屋を行き来してみたけど、どこにも。しょうがないから、ご主人が最後にいた玄関にとぼとぼと戻り、お座りして待つ。家中のどこにもいないなら、露伴はここから出てきてくれはずだから。それならおれはここで待っていよう。

「きゅ、んきゅ

ねー、まだ帰ってこねえの?露伴。おれ、スゲーさみしいよう。早く帰ってきてくれよう。喉からきゅるきゅると悲しげな鳴き声が勝手に鳴る。でも露伴もひとりぼっちだから、おれと同じでさみしいはずなんだ。ペットのおれがいちばんに出迎えてあげるんだ。笑顔でおかえり!って言ってあげなきゃあ!

……

フンフンっと鼻息荒く張り切ってみるけど、すぐに拍子抜けしちまうくらいにすげえ時間が長く感じる。不思議だ。いつもの一日なんて、露伴と遊んだり、お仕事の邪魔をしたりしてたらあっという間なのになあ。ああ露伴と早く遊びたい。でも今は遊んでくれるご主人もいないから、だいすきなご主人を思い浮かべながらおれは床に寝そべった。

「ぎゅるる

『あっこら!原稿を持ってくな!』なんて慌てふためく露伴の声、『お利口さんにはおやつをあげよう』とおれのとびきりお気に入りのさつまいもを手にニッコリ笑う露伴の姿。うう、どれもだいすきだ。そうしてご主人を思い浮かべたら浮かべたで、余計に寂しくなってきてしっぽと耳がだらんと垂れ下がった。なにやってんだろうおれ。露伴のために頑張るって決めたのに、見事に空振っちまってんじゃん。こんなんじゃあ、いつまで経ってもおれの憧れのかっぴょいいわんちゃんには程遠いよ。

「わん、わうんっ……!」

いつもおれがこうやって甘えるように鳴けば、露伴はおれを抱き上げ「どうしたの」とちゅーをしてくれる。当然ながら、今はそれをしてくれるご主人もいない。諦めておれは自分を抱きしめるようにお座りし直した。それにしても露伴遅くねえか?……ひょっとしてこのままどこか行っちまう、なんて事ねえよな?イヤな想像が頭に浮かんだ瞬間、おれの目の前が真っ暗になる。いやだ、露伴、おれそんなの無理だよ。1人にしないでよ。

わう……きゅ、ッきゅうぅうっ!」

もう!もう〜〜っ!露伴のバカバカ!なんでおれのこと置いてくんスか〜〜!赤ちゃんみてえに、脇目も振らずおれは玄関の扉に向かって鳴いて喚く。いつもはおれもお外に連れてってくれる露伴が、今日は置いていくのにも事情がある事はわかってる。露伴はおれを「お留守番」に慣れさせようとしてるんだろうなってのもわかってる。おれはお利口さんだから、露伴の考えてる事もなんとなくわかるし、しつけは全部守ってきた。それでも、トイレ、爪切り、芸。露伴に今まで教えられてきたことの中で、この瞬間が1番つらい。

「きゅ〜〜っ!!うぅううッ!」
「ッ仗助!ただいま!……仗助?」
「〜〜〜ッ!?わう!?わう!わう!」

おれってばダセェと自覚しつつ泣き喚いていると、やたらと慌ただしい足音が扉の向こうで聞こえた。次の瞬間には、ご主人がつんのめる勢いで家の中へと入り込んできた。おれが玄関にいると思わなかったんだろう、気付かずおれのしっぽを踏みつけそうになった露伴が「うおっ!?」なんて飛び上がった。

「きゅい!わう!わふふ!」
「仗助!踏みそうになっただろうわっ」

えへへ!ほんとに露伴だ!おれのだいすきなご主人が!帰ってきた!目の前の足に飛びつき、興奮冷めやらぬって感じでぐるぐると足の間を駆け回る。おれのしっぽも耳も、フワフワぴこぴこと喜びを表すように激しく揺れていた。

……まさか、ここでずっと待ってたのか?」
「わう!わんわん!」

しゃがんでおれを抱き上げる露伴にしがみついてそう鳴く。そうッス!おれ、ご主人の帰りをずっと待ってたんス!さっきまでの悲しみも忘れ、おれは露伴のほっぺたに顔を擦り寄せる。匂いを嗅ぐと、間違いなくおれのだいすきな優しい匂いがしておれはますますしっぽを振り乱す。興奮するおれを受け止めた露伴はうるっと涙目になっておれを抱きしめ、ふわふわの毛の中に顔を埋めた。

「うんうん。がんばったなあ仗助。えらいなあ」
「っきゅう!わう!わうっ!」

そうだよ!おれってばえらいわんちゃんなんだから!ひとりぼっち嫌だったけどがんばったんスよ?ぺろぺろとおれを撫でくり回す指を舐め、くるくると回ってアピールする。露伴はわかっているよ、という表情でにっこりと笑い、おれの頭をたくさん撫でて言った。

「ああ!おまえは本当にお利口さんだ!初めてのお留守番のご褒美、後でさつまいもあげるからな」
「!」

ほんと!?褒めて貰えた喜び、おれのだいすきなおいもを貰える喜びで、もうぴょんぴょん飛び跳ねちまうよ。露伴は腕の中で跳ねまくるおれをケラケラと笑いながら床に放ち、靴を脱いで廊下へと歩き出す。なあ露伴、今日を乗り越えたおれなら、もう何でもできる気がするよ。お留守番なんかさみしいから、ほんとうは二度とやりたくねえ。でも露伴がお仕事で忙しいのも知ってる。だから、おれがついていけないときは1人でおもちゃで遊んで寝て、あんたの帰りを待ってあげる。おれは露伴の自慢の、名犬仗助くんだからよ!

「仗助、一人ぼっちでさみしかっただろう。おもちゃ投げてやるから取っておいで」
「わうん!」

さっきまでおれしかいなかったリビングは、露伴の笑い声とおれのトテトテという足音で賑やかだ。露伴は必ずここに帰ってきてくれるから、さみしいなんて心配はもういらねえ。本音を言えば、今日みたいにおれをほっぽって外出〜なんてことはできれば控えてほしいけど。

「仗助〜?」
「わふ!わふうっ!」

ああそうだ!今口にくわえてるお気に入りのぬいぐるみをご主人に持ってかないと。急いでご主人が座るソファの方へとよちよち足を進める。おれはまだまだ子犬だけど、昨日より少しだけ大きくなった歩幅はきっと気のせいじゃあない。もっと大きくなって、イカしたかっぴょいいワンコになるんだ!おれはうきうき気分のまま、スキップでもする勢いでご主人の元へと駆けていった。