mochita_rj
2024-11-16 17:25:48
13974文字
Public TwitterのSS
 

SS2024年分

1Pに説明があります。今のとこ全部パロです。
年内に何かまた書いたら更新するかもしれない


ソファに凭れてビデオを眺めるぼくの隣で、ソワソワとスカートの布地が擦れる音がする。さっきから仗助が落ち着きなく膝の上で握りこぶしを作っては開いて、を繰り返しているのが音の正体だ。こんな謎の行動を取る理由が透けて見えているぼくは、ちょっかいをかけるべく彼女の名前を呼んだ。

「仗助」
「っ!?な、なんスか!?」

映像が流れてから初めて口を開いたぼくに、仗助は大袈裟な程に肩を跳ねさせた。仗助がこんなに挙動不審な理由、それは今現在テレビで流しているロマンス映画で、恋人同士のキスシーンが始まったからである。

「カハハ!ナアナアきみ〜?さっきから様子が変だぜ?どうした?」
「う、うぅ……

からかうように指摘してやると、仗助は赤い顔を覆って気まずそうに指の間からテレビを見つめる。まあ、そうなる気持ちはわからんでもない。映像の中の恋人同士は、ちょうど今のぼくらと全く同じ状況で、ソファに隣合って座りテレビを観ているのだ。
それから2人は次第に静かで甘やかな恋人特有の雰囲気に変わり、ハグをして軽いキスが始まり、夢中で唇を求め合っていた。ラブシーンに長尺を取っているようで、こうして仗助にちょっかいをかけている間も、映像は恐らくその先へと移行している。

「こ、こんなやらしいシーンあるなんて聞いてねえっスよっ!」
「そうか?洋画なんてこんなもんだろ」
「わ!!!?ひ、ひぇ……!」

チラッと指の隙間から画面を視界に入れた仗助は、情けない声を上げてジタバタと足を振った。大体きみが観たいと言い出したんだろ、と返すも聞こえていない様子である。恥ずかしそうにしつつも目だけは食い入るように映画を見つめる仗助に、ぼくは先週の出来事を思い出していた。

『おれね、ずっと露伴先生とラブストーリーの映画観たかったんス』

そう嬉しそうな笑顔で告げてきたのは、仗助が高校卒業して数年経ち、長いすれ違いの末やっと付き合う事になった先週の話。高校の頃からぼくが好きだった、付き合ったら何がしたいかずっと考えていたのだ、と。それで最初に挙げられた「付き合ってやりたいこと」というのが映画を観ることだったのである。だからぼくは恋人のお望み通りこうして映画を隣で観ているワケだが、当の本人は最早それどころじゃあないらしい。

「というかこんなので照れてるのかい?きみ、案外可愛いじゃあないか」
「か、かわ……!?」

ボッ!と火が吹きそうな程にさらに顔を真っ赤にした仗助に、(まだ赤くなるのか)なんて笑いが込み上げる。しかし、こう可愛らしい反応を返されると、ついいじめてしまいたくなるというものだ。ぼくは慌てたように距離を取る仗助をソファの隅まで追い詰め、顔を覆っていた手を外させた。

なあ、ぼくは結構待ったつもりなんだけど。まだ待たせるつもり?」
「せ、せんせい?」
「それと名前も。先生、じゃあないだろ」
「あ、あ、」
「ちゃんと呼んで」

背後のテレビからは、未だに男女がキスを交わしながら息を漏らしている音がする。ぼくは固まって動けないでいる仗助に構わず、映画で見たのと同じように彼女の顎を指先で上げた。顔を傾けながら近づけるぼくの意図を察したのか、仗助は突然立ち上がって悲鳴じみた叫び声を上げた。

「わ〜〜〜〜ッ!!ろ、露伴っ!!おれそういうのは!手繋いでからじゃないと、ダメなんス……!」
ハア?」

何を言っているんだ?恥ずかしさからか涙目になっている仗助の言動についていけないでいると、仗助は最早捲し立てるように続けた。

「ちゅ、チューはまだなんスっ!先に手繋いでからなの!デート中に隣歩きながら繋ぐって決めてんの!!」

どうやら「付き合ってやりたいこと」の在庫はまだまだ残っているらしい。しかしまいったな、そんな順番なんか無視して、今すぐに硬く握りしめた手を解いて繋ぎたくなってしまった。それからキスも、その先だって。何年も待たせたのだ、それくらい強行突破しても構わないんじゃあないか?

「せんせい、おれのお願い聞いてくれる?」

だが、大して興味のないロマンス映画を一緒に観ているのも、欲を抑えてウブな仗助のペースに素直に従っているのも。ぼくの答えは最初から行動に全て表れているのだ。ぼくが嫌ならやらない、と遠慮を含んだ表情と声色で請われれば、到底断る気にはなれないのだ。
嫌なわけないだろ、きみがしたい事ならなんでも──と言いかけたあたりでようやく気付いた。ああなるほど、ぼくは人を振り回す側の人間だと思っていたのだが、どうやら彼女に対してだけは例外らしい。

「なあ、今週の土曜どこか出かけようか」
「へっ?いきなり何の約束?」
…………手。繋ぎたいんだろうが

「あ、そ、そっか。あわ、」なんて自分で言い出しておきながら顔を真っ赤に染め上げる少女から、ぼくは思わず目を逸らした。ウブにも程がある仗助の反応に、なんだかこちらまで熱が移っちまってる気さえするのだ。手を繋ぐ、ハグをする、キスをする。そんな恋人な当たり前の行為なんか、本来のぼくならば流れるようにエスコートできるはずなのだ。それなのに、

「やっぱりきみには叶わないな……うぐっ!?」
「せん……露伴!おれ、土曜いっぱい手繋ぐからな!覚悟しといてよッ!」

タックルする勢いでぼくに抱きついてきた仗助は、今度は得意げにふふんと鼻を鳴らした。ああ本当、この子といると調子が狂う。「ハグはいいのかよ」なんて冷静であれば口に出している言葉。それすらも、嬉しさを体現したかのように抱きついてくる体を受け止めていると、なんとなく引っ込んでしまっていた。
それに、今度はぼくの方が顔が火照っている気がする。最初に仕掛けたのはぼくなのに、いつもこうやって思いもしない手でかき乱されるのだ。ああ腹立つ!しかしこのぼくを舐めてるんじゃあないぜ。そういえば、きみはぼくの顔が好きだって言ってたっけ。そして手繋ぎはまだ駄目だがハグは許可が出ている。それならば、

「仗助」
「なに?ろは──」

ニヤリと口角を上げたぼくは、油断している体を回転させて仗助をソファの背に凭れさせた。抱いたまま真正面から向き合う体勢になり、半分覆い被さる勢いで仗助の顔を引き寄せる。

「名前、今度はきちんと呼べてるな。いい子じゃあないか」

互いの吐息が当たりそうな程の距離の近さに、次第に目の前の白い頬が再び桃色に染め上げられていく。やはりこの光景はいつ見ても愉快で、心躍るものだ。このままキスができないのは残念だが。
しかし、こうしてなんとかリードを奪い返したぼくの次の手は、既に決まっていた。すっかり最初の赤さを取り戻した耳たぶを指先で撫で、逃がさないように腰を引き寄せて、「大好きな恋人に見とれたかい?」とでも言ってやるのだと。