botanin5
2024-11-14 03:12:59
12399文字
Public 薬さに♀(小説)
 

副作用には気をつけて

ハッピーエンド
恋心を薄めてくれる不思議な薬を手に入れた話です。



晩御飯になっておかずに箸を伸ばしていると、なんとなく視線を感じた。くるりと視線を巡らせば、こちらを見ていたらしい薬研と目が合う。どうかしたのかと首を傾げると、ふいと視線を逸らされてしまった。何かしただろうかと考えてみるが思い出せない。ここでも薬に感謝することになるとは。きっと、今までの自分だったら、ショックを受けてぐるぐる悩んでしまったに違いない。やはりすごい薬だなぁと思いながら、一番大きな唐揚げめがけて箸を伸ばした。

お風呂から出て、ドライヤーで髪を乾かし首にタオルをかけて部屋へと急ぐ。昨日薬が切れたのは何時だっただろうか。早く舐めなくては、また薬研への気持ちを思い出して胸が苦しくなってしまう。
ぱたぱたとスリッパを鳴らして障子をがらりと開ければ、部屋にはなぜか、薬研がいた。

「え
「あぁ、大将。戻ったのか」
「薬研、どうしてここにいるの?」
「ちっと、聞きたいことがあってな」
「聞きたいこと?」

今でないといけないのだろうか。このまま薬が切れたらまずいと焦りが募る。とりあえず自分も部屋へと入って薬研が座っている正面に正座する。

「聞きたいことって何?急ぐ?」
「急ぎってわけじゃねぇが大将、これ、なんだ」

ずいと差し出されたのは件の薬であった。しまった、普段自分の部屋に刀剣が入ることはないので、机に置きっぱなしにしていた。昼間、本を借りると言った時に見つけられてしまったようだ。

「それは、その
「大将、好いているやつがいるのか。この本丸に」
「え」
「ここで使ってるってことは、刀剣の中に好いてるやつがいるんだろう。いや、あんたが誰を想ってようが俺には関係ねぇんだ。俺は、近侍だからそれでそれであんたの隣に居られれば。そうだ、俺には別に大将が、誰を好きでも
「や、薬研?どうしたの?」

段々とひとり言のように変わっていく薬研の言葉に動揺する。肩に手をかけようと伸ばしたところで、自分の心臓がどくんと脈打つのを感じとる。まずい、まずい。目の前に薬研がいるのに、薬の効果が切れてしまう。

「薬研、その薬返して」
「なんでだよ。俺は、大将を応援する。こんなもの飲んで気持ちを隠す必要なんてねぇよ」
「や、薬研、お願い」
「で、あんたは誰が好きなんだ?いち兄か、歌仙か?あとは乱か?」
「違う、ねぇ、違うからお願い、薬飲ませて」
「だめだ」

どくどくと全身の血液が活発に巡りだす。もう間に合わない。目の前にいる薬研の姿に、心臓がぎゅうぎゅうと締め付けられる。好きだ。薬研が好きだ。早くこの気持ちを隠さないと、消さないと、薬研に迷惑をかけてしまう。

「お願いだから!!!」

ビンを奪わなくてはと気持ちが先走って、薬研にしがみついて私から薬を離そうとする手に向かって必死に自分の手を伸ばす。半分押し倒す格好になったところで、薬研の手に握られていたビンはがちゃり!!と音を立てて、割れた。薬研がビンを握りこんだのだ。そのまま放り投げられた飴玉の薬は、ばらばらと部屋の隅へと転がってゆく。あれでは届かない。呆然としていると、畳の上にぽたりと血が落ちて、はっとして薬研の手を掴む。手袋の下すぐの手首に破片が当たったようで、一筋の傷ができて血がするりと垂れている。薬を舐めないとなんて考えはどこかへ飛んでしまった。

「やげ、血が手入れ、早く手入れし、うひゃ」

勢いよく肩を押され、座布団の上に倒れ込む。驚いて閉じた目をそろそろと開けると、檻のように顔の横にそびえ立った薬研の腕に、押し倒されたのだと気が付いた。ゆっくりと薬研の顔を見上げる。あの廊下で見たように、ひどく苦しそうな顔の薬研が、こちらをぎらぎらとした目で睨んでいる。

「なぁ、早く、言えよ。大将。あんたは誰に惚れてんだ。大丈夫、大丈夫だ。俺はあんたの背中を押してやれる」

目の前の薬研に心臓がばくばくと暴れている。どうしたらいいのか分からなくなって、自分の目に涙が溜まってきた。怖い。怒っているような薬研も、効果が切れて思いに飲みこまれそうになっている自分も、なにもかもが怖い。

「やげ、ん。こわい」

震える声でようやく絞り出した声を合図に、溢れた涙がぽろぽろと零れていく。ぐずりだした私を目にして、はっと薬研が息を飲んだのが分かった。そっと私の頬へ伸ばそうをした手を止めて握りこむと、重そうな身体を起こして少し距離をとる。

「わるい、悪かった、大将。すまんが、一人にしてくれねぇか。……まずい、薬が、はやく飲まねぇと」

薬。
そう呟いて、ずるずると先ほどぶちまけた薬を拾いに行こうとする薬研の服を掴んで引き留める。

「大将、はなせ、」
「薬研も好きな人がいるの?」

ぴたりと空気が止まった。
薬研も、同じ薬を飲んでいる。薬の切れた私にとって、好きで好きで仕方ない薬研に思い人がいるという事実は深く心臓に突き刺さった。ぎゅうと薬研の服を握りしめる。相変わらず、落ちる涙は止まらない。

「たいしょ」
「やだ。やだよ。わたし、こんなに薬研が好きなのに、ひっく、薬研に、すきなひといるなんて、き、聞いてない、やだ、やだぁ!!!」

頭が燃えるように熱い。飛び出す言葉を止めることができなくて、子どものように泣き叫ぶ。薬研に好きな人がいるなんて嫌だ。薬研が誰かの事を好いているなんて嫌だ。いやだ、いやだいやだ!!!

「大将」
「ひっく、やだぁ」
「大将!」
「ん、や!」

再び肩を強く掴まれてどさりと組み敷かれる。目をまんまるに開いた薬研は、今度こそ私の頬に手を伸ばして視線を合わせる。もう片方の手は、逃がさないとでもいうように腕を掴んでいる。まっすぐ向けられた灰紫の瞳に、背筋が震える。

「あんたは俺が好きなのか」

「言え」
「わ、わたし……えっと
「俺は、大将が好きだ」

薬研の言葉に、こちらが目を丸くする番だった。零れていた涙が引っ込む。
薬研が、私を

「すき?」
「あぁ、あんたに惚れてる」
「うそ、だ」
「嘘じゃない」
「だって、そんな感じ全然しなかった」
薬の飴、舐めてたたからな。ずっと」
「ずっと?」
「あぁ、ずっとだ。舐めて薬が切れるたびに、あんたが欲しくなる思いが、どんどん強くなって、ちゃんと隠さねぇとって、」

止めるわけにはいかなくなってた。
そう言って、歯を食いしばる薬研の背中にそっと手を回して、抱きしめた。ゆっくりと力が抜けて体が落ちてくる。心地よい重さを感じながら、私の肩に顔を埋めた薬研の頭をゆっくりと撫でた。

「薬研、ずっと好きでいてくれたの?」
あぁ」
「なんで隠そうと思ったの?」
……
「薬研?」
あんたは、大将だからな。俺の身勝手な想いをぶつけようなんて考えなかった」
そっか」

落ち着いた薬研の声を聞いていたら、こちらも落ち着いてきた。とくんとくんと小さな振動を伝えてくる鼓動が心地いい。すぅと小さく息を吸い込んだ。

「薬研、あの、私も」
「待ってくれ」

好き、と言おうとしたのに、身体を少し起こした薬研に止められる。どうかしたのかと顔を覗き込めば、薬研はふー、ふーと何かを耐えるように歯を食いしばっていた。

「え、薬研どうしたの」
「今は、言わないでくれたのむ」
「えええ!なんで、さっきは」
「この状態で、っはぁ、手荒く抱きたくねぇ
「だっ!?!?」

抱きたくないと言いながらも、薬研の手がするすると腰をたどって下がる。足で太ももをがっちりと固定されてしまって、逃げるに逃げられない。

「ちょちょちょ、薬研、止まって、すとっぷ!」
「んん、は、大将、いい匂いする
「ひっ、薬研ってば!」

ちゅと首に口づけが落ちて体が震える。そのまま鎖骨に向かって柔らかい唇が落ちていくと、今度は耳にふぅと息がかかる。あああ、どうしよう!こんな妙なタイミングで抱かれてしまう!!私はまだちゃんと好きって言ってないのに!!ばしばしと背中を叩くと、手を握りこまれてしまう。まずい、どんどん身動きがとれなくなっていく!恥ずかしくて怖くて、顔が熱い。じわりと涙が溜まっていく。ついにTシャツの隙間からずぼっと薬研の手が入り込んで、するすると滑って裾がたくし上げられていく。
も、もう無理!!

「止まってーーー!!!」
「ぐっ!?」

思い切って膝で身体を蹴り上げると、柔らかいような硬いような、当ってはいけないものに勢いよく当ってしまった。

……おい、大将
「ごごごごめんなさいまさかその、当たるとは思わなかったって言うか、まさか薬研が私なんかで勃っ」
「もう何も言わないでくれ

低い声でそう言って、薬研はぽすりと私の胸元に頭を落とした。薬研!?と焦って身体を起こすと、すーと寝息が聞こえてくる。

「え、うそ、寝てる?」

くたりと身体を傾けた薬研は起きる気配はない。なんで突然!?もしかして薬の副作用というやつだろうか。ゆっくりと立ち上がると、自分の布団を取り出し畳に敷いて、薬研を寝かせる。部屋の隅に散らばった薬とビンの破片を拾ってゴミ箱に捨てる。もうこの薬を使う必要はなくなったのだ。これ割るなんて握力すごかったなぁと思い出しながら、薬研が眠る布団にいそいそと潜り込んだ。