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botanin5
2024-11-14 03:12:59
12399文字
Public
薬さに♀(小説)
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副作用には気をつけて
ハッピーエンド
恋心を薄めてくれる不思議な薬を手に入れた話です。
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「恋を殺す薬
…
?」
手に取った丸いビンに収まっているのは、ラベルに書かれた「殺す」という言葉にはとても似つかわしくない、可愛らしい赤い飴玉だ。
愛用していたペンのインクが切れたため、近侍である薬研藤四郎と買い物に来ている。どこの本丸から出発しても同じ距離で辿りつく万屋は、財布一つ持ってさえ来れば何でも揃ってしまうため、審神者だけでなく刀剣男士、さらには政府職員にも利用されていると聞く。しかし、万屋にいる間はなぜか他の客と遭遇することがないので、その真偽は定かではない。誰もが安心して買い物を楽しめるように、何かまじないが施されているのかもしれない。
弟たちから頼まれた品物を探してくると言う薬研に、店の外で落ち合おうと声をかけ時間潰しにふらふらと狭い通路を歩く。日用品のコーナーから外れると、様々なものが雑多に並べられている棚が目に入った。おもちゃやアクセサリー、怪しいオカルトグッズのようなものもある。万屋とはよく言ったものだと感心しながら、奥の奥にぽつんと置かれていた手のひらより少し大きいビンを手に取る。半透明な赤い飴だ。個々の大きさは一センチほどで、おはじきのように平べったく潰れている。中心は少し窪んでおり、すぐに噛み砕いてしまえそうだ。お菓子だろうか?食品は他に見当たらないので、手違いでここに置かれているのか、それとも食べると何か特別な効果でもあるのか。ケーキを食べて体が大きくなるように、不思議なことが起こるかもしれない。少し楽しい気分になって良く見ると、ラベルにはマジックで「恋を殺す薬」と書かれている。カラリと音を立てながら裏側を見ると、小さく説明が書かれているのが目に入った。
〈効能〉
♢ 恋情・情欲の緩和
〈用量・効果期間〉
♢ 服用回数
…
1日1粒 効果期間
…
24時間
〈注意〉
・恋情を薄める効果はありますが、完全に消えることはありません。
・一度の服用回数を増やしても効果が強くなることはありません。
・開封後は直射日光の当たらない涼しい所で密栓して保管してください。
・効果の切れた際、副作用が出る場合があります。
読み終えて、詰まっていた息を吐き出す。
この飴を舐めることで、一日恋心を薄めることが出来る。完全に消えることはないと書いてあるが、瞬間的に消すという便利な効果がないだけで、続けて飲んでいくうちにその思いを自ら消して忘れられるくらい、小さくしていく事は可能かもしれない。
今の私にぴったりじゃないか。
持っていたビンを握り直し、密かに思いを寄せている刀を思い浮かべる。絹のような黒髪はさらさらと風になびいて、大将と呼びかけてくる低音は耳を通って心臓を直接揺さぶられているようで落ち着かない。元々近侍として一番近くで働いてくれていた。次々と増える刀剣たちとの間を上手く取り持ってくれて、仕事で失敗しても見放さずに手伝ってくれる。名刀たちを従えるには力不足だろう私を、将として立てる振る舞いも忘れない。修行から帰ってきて、彼はますます強くなったうえに、自分にやれることはないかと今まで以上に世話を焼こうとする。しかし、大人のような言動の裏で、相変わらず馬には弱かったり、誉をとると褒めてくれと言わんばかりに「どうだい」なんて笑いかけたりしてくる。
薬研藤四郎が好きなのだ。
自分の愚かな恋心に、気づいてしまったのが不味かった。仕事中、部屋に薬研がいることが気になって集中できないし、仕事を振り分けすぎではないか、他の刀剣と扱いに差は出てないかと客観視するのが大変なのだ。特別扱いしてはいけないが、過度に避けてもいけない。薬研に対して自分が起こす行動が、恋心に影響されてないかと心配で、すっかり疲弊していた。薬研に朝の挨拶をひとつすれば、他の子にも挨拶しなくてはと本丸をぐるぐる回るはめになる。ばれてはいけない。これ以上思いを大きくしてはいけない。薬研が「大将」と呼びかけてくるたびに、愛だの恋だの微塵も感じさせない薬研の様子を目の当たりにするたびに、私は『戦の大将』でいなくてはならないと強く思うのだ。
会計を済ませて万屋の外に出ると、薬研は壁に身体を預け、街を行き交う人々を眺めて待ってくれていた。組んだ腕から下がっている紙袋は重そうで、色んなものを頼まれたんだなと微笑ましく思う。
「おまたせ、薬研」
「ん。持つか?」
「ありがとう。でも少しだから大丈夫」
薬研は、個人的に買ったものについては持つかどうか聞いてくれる。あまりに量が多いと無言で奪われるが、こうやって気を使ってくれるのを嬉しく思っていた。特に、今日の買い物は見られたくない。
並んで雑談しながら本丸へと帰る。薬研の隣を歩くのは少し緊張するけれど、薬研の話を聞いて、私のくだらない話も聞いてくれる、なんてことない時間が好きだ。薬研が楽しそうに笑っている。左手に提げる紙袋が酷く重くなっていくように感じる。今のこの時間を、特別に思うのは最後だ。
これから私は、自分の恋を殺すのだ。
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