【再録】老桜は眠る

2021年11月発行の楊普アンソロ『42 僕たちの恋模様』に掲載していただいた楊戩と普賢のお話です。
たくさんの楊普を集めたすばらしいご本でした。ありがとうございました。

あとしまつ後の教主楊戩と普賢の話。いつも誰かを助けているだろう普賢が、誰かに助けられる側になったらどうだろうと考えて書いたお話です。

「理由がなければ、いけないかな」


木の傍の岩場に、普賢は小さく火を焚いた。白い石をいくつも重ねた上に枯れ枝を集めて燃した跡があり、どうやら何日もこうやって雨風をしのいでいたらしい。
「彼は寿命なんだ。自力では動けない」
楊戩の隣で普賢は火に手をかざす。月はなく、満天の星も木々に隠れて見えない闇で、小さな焚火だけがあたりをぼんやりと照らした。
「帰っていらっしゃらないのは、そのせいですか」
「それもあるけれど」
こちらの意図は説明済、その上でどうすべきか思案していると普賢は話した。
「彼はもう長くない。だからほんとうはここに置いておくのが一番いいんだと思う」
「でも、今回は——
「うん、わかっているよ。例外なく、すべての仙道は人間界から去らなければならない。だから迷ってるんだ。難しいかもしれないけれど、どうにかして向こうに連れていけないかなって」
「彼が連れて行ってほしいと?」
「僕が勝手にそう思っているだけかも。彼に執着心はないみたい」
パチパチと火が爆ぜる。足元だけを照らすゆらゆらと心もとないあかりを、二人は黙って見つめた。
すでに花を咲かせる力はない。ゆえに、種を持ち帰ることも難しい。それならここで静かに余生を送ることを認めてもいいかもしれない。ただ、楊戩が気になったのは、
「それほどまでして、生き永らえさせたい理由がなにかおありですか」
答えのかわりに返ってきたのは小さな寝息だった。かるく岩によりかかったその人は、いつの間にかすっかり眠りに落ちてしまっていた。
(魂魄体でも眠るんだな)
規則正しく呼吸をくり返す人がこつんともたれかかった。肩を貸しながら、ひどく複雑な心持ちになった。
ここへ来るのはだれでもよかった。張奎にも「他の者を使いに出せばいいんじゃないか」と言われたのだ。それでもわざわざ自ら足を運んだのは、楊戩自身がそうしたい、行かなければと思ったからだった。(どうしてそこまで?)という問いはそのまま自分自身にもはね返る。答えは見つからないまま、安らかな寝顔に、楊戩も一日の疲れを思い出した。
消えかけた焚火のほの暗さに、体が沈み込んでいきそうだった。