842328

呪術廻戦の世界に飛んだ異世界人と分かったので帰ろうと思います。(仮)2

五条夢。続くか続かないか分からない。長らくお待たせしました。
名前変換機能をテストで使ってみたかった題材。
※名前変換なしだとデフォ名(藤森沙奈)になります。

今日はハロウィーンですね。
短くなったけど、元々長かったのを切りのいいところで止めました。
できる限り早めに続きを更新します。



 次の日、私は一人で高専に登校していた。
 教室には誰もおらず、私は席について鞄を置く。そして、新調したケータイを取り出す。

(五条先生はいないけど、これからはこのケータイを見るたび思い出せるんだね)

 ちょっと気恥ずかしい。今は誰もいなくてよかった。授業も確か今日一日私一人だった気がする。五条君と夏油君は遠出で朝早くから補助監督さんと一緒に出て行ったし、硝子ちゃんも別の案件で患者が出たということで、彼らほどの距離ではないが遠出に出ることになったらしい。

藤森、おはよう」
「夜蛾先生、おはようございます」

 しばらくして担任の夜蛾先生が来た。夜蛾先生も忙しいようで、担任としてやってくるのは久しぶりな気がする。

「そういえば家入と携帯を購入したと聞いたが?」
「あ、はい」
「なら任務のこともある。アドレスを教えてもらってもいいか?」
「はい」

 こうして私は夜蛾先生とも交換した。そして、「後ほど補助監督にも通達する」と私の代わりに言ってくれるらしかった。私と補助監督さんの関係はどちらかというとあまりよろしくないので、夜蛾先生が伝えてくれるのならありがたい。
 そして、座学の勉強が始まった。
 呪術についてあまりついていけないけど、漫画で読んだ知識のおかげか、分かるところもあれば分からないところもあるくらいまでの知識は脳内に叩き込めた。
 夜蛾先生がチョークで書いていくのを必死にノートに書き写していく。その時、ふと思ったのだった。

(そういえば、私の呪術って何なんだろう?)

 五条君や夏油君のように術式があるわけでもない。かと言って禪院真希ちゃんみたいなゴリゴリの体術特化や呪具使いというわけでもない。

(こういう時、いつも五条君が六眼で呪力とか視るんだったっけ)

 漫画ではスラスラ〜と見過ごすことが多い。それがスタンダードというか。それが当事者になったとなれば話は別だ。
 五条先生だったならすぐに視て指導してくれるのだろう。実際、虎杖君はそうやって強くなっていった。しかしこの時代は先生が学生時代。そんでもって、あの唯我独尊が似合う五条君だ。

(あの五条君に「私の呪術って何か調べて?」って聞くの? ――すごく嫌だ)

 教えてもらうことは嫌じゃない。なんというかその後のデメリットが尾を引く。
 まず、記憶喪失じゃないかと周囲が慌てるだろう。それがさらに加速して五条君が迷惑をかけてしまう。次に、世界線が変わってしまう危険性。小さな歪み程度ならばいいけど、大きく歪んでしまったらどうしたらいいか分からない。天罰でも受けるかもしれない。

……やっぱり言えない。あまり彼らに私のことを覚えていてほしくないし。将来に支障が出るかもしれない)

 影に隠れて、いつの間にか空気だった同級生がいなくなった――それでピリオド打って彼らには何も気にせず大人になっていってほしいと思う。

(まぁありえないけど、私が元の世界に帰るとして五条君たちが私を探す――なんてことになったら……

 勝手にこの世界に来てしまったのが悪いけど、そこまで責任は持てないぞ。
 まぁ、世界を飛んでいく――なんて夢のまた夢って最近まで思ってた。でも、私自身がそれを体験しているのだから、彼らが消えた私を探す――なんてこともあるかもしれない。

(いやいや! 彼らのようなエリート呪術師がアリンコのような激弱呪術師(仮)の私を探すなんて千年経ってもありえないことだけどね!)

 あの美貌と実力者だ。そんな途方に暮れる茨の道を選ぶよりもまだ高田ちゃんのようなアイドルとか政治家を目指したり宝くじで億万長者を狙う方がまだ可能性があるだろう。
 そんでもって、ああいうタイプは早々に結婚とか恋人作って身を固めるもんだ。

「で、あるから――藤森! 聞いてるのか?」
「え? あ、はい!」

 急に声をかけられたので、慌てて席から立ち上がった。勢いよく立ったので、椅子は後ろに倒れて、静かだった教室がガタンと大きい音が私たちの間に響き渡っていた。
 夜蛾先生は私の行動に驚いたようで、しばらく私を見ていた。

……どうした? 浮かない顔だな」
「え……あの」

 夜蛾先生が教科書を教卓に置いて私の席に近づく。
 怒っているわけじゃないのは分かる。先生として生徒を心配する表情、そのものだった。

「ご、ごめんなさい。授業聞いてませんでした……
「何か思い詰めているな。私でよければ話を聞こう」
「えっ?! 申し訳ないです」
「私も任務が立て続けに振り分けられて、生徒たちの世話があまりできていない。もちろん、悟たちのこともそうだが、藤森のこともちゃんと見てやれなくてすまない」
「いいえ! 忙しいのは知ってますので……!」

 夜蛾先生が申し訳ないと謝罪する。
 そういえば、覚醒してからは同級生たちに囲まれてあまり気づいていなかったけど、先生とちゃんと対面したのは今日が初めてかもしれない。

「悩みがあるなら聞こう。解決できるかどうかは分からないが、誰かに言うことでスッキリすることもある」
「夜蛾先生……

 あの五条悟でさえ信頼している夜蛾先生――学長は立派な人だった。
 だからこそ、元の世界での夜蛾先生の死去はとても悲しかった。最期にパンダ君がいてよかったと思う。

――何かあった時、夜蛾先生に何か協力してくれるかもしれない)

 例えば、急に元の世界に帰ることになった時、彼らに伝言を言い残す時に頼めるかもしれない。
 そして、ありえないけど! ありえないけど念のため私の正体を先生から言ってもらって、彼らには私のことを忘れて青春を過ごして、大人になって生きていってほしい。

(でもこれは、夜蛾先生に言って信用してもらえるのかな?)

 信用してもらえるかどうかじゃない。信用してもらうのだ。
 そして、本来なら五条君に呪力を視てもらうのがいいのかもしれないけど、今の何も分からないまま過ごすのはもっと嫌だ。

「や、夜蛾先生!」
「何だ?」
「あの、他の人には誰にも言わないでほしいんですけど……

 私は、夜蛾先生にこれまでのことを話した。
 以前五条君と鍛錬して怪我したことがきっかけで記憶が戻ったこと。
 私は別の世界線からやってきたこと。
 そのため、何のために高専に来ているのか、呪術師として何ができるのか分からないこと。
 元の世界に帰るために手掛かりを探していること。

 夜蛾先生は黙って最後まで聞いてくれた。
 全て話し終えると、しばらく沈黙が続いた。

……あの、悩みっていうのはですね? 記憶が戻ったというのはあくまで私が異世界人ってことだけで、高専に入学した理由とか何の呪力を持ってるのかは分からないんです。だから、夜蛾先生から見て、私の呪術師としての評価を教えてほしいんです」

 呪術師になるにしても、補助監督をするにしてもまずは自分が何ができるのか把握しなければ座学しても意味がない。鍛錬だってそうだ、何が長所で短所なのか分からない。

……異世界から来たという証拠は?」
(あー……やっぱりそうきますよね)

 こうなることも予測できたから、誰にも相談できなかったんだけど。

「証拠は出せません。でも、私は貴方をはじめ、この世界のことを知っています。元の世界ではここは漫画の世界だったから」
「?!」

 夜蛾先生も流石に冷静さを欠いてしまい、驚きを隠せないようだ。

「私自身も驚いてます。漫画の世界に飛ぶなんてできるのかって。でも実際、私がここにいるから私の存在が証拠としか言えません」
「では、お前のいた世界はどういう世界だ?」
「世界線は違いますが、この時代より数年先から。ケータイより次の機体が出てる時代。呪術とか呪霊とかは存在しません。あと、見た目は高校生ですが、中身はその……大人です。見た目は高校生、精神年齢は大人と思っていただければ」
……何ということだ」

 夜蛾先生は呆れながらそれ以上何も言わなくなった。そりゃそうだろう。
 こいつ何言ってんだと思いつつ、どんどん話が進んでいってるんだから。

「なるほど、そういうことか」
「というと?」
「最近、藤森のことについて雰囲気が変わったと聞いていてな。それは悟や傑からも聞いている。なるほど、実際は大人だから急に落ち着いた言動をしていたということか」
……というと?」
「怪我をする前は、無邪気で元気な子だったよ。それが急に落ち着いた雰囲気になったものだから、悟たちや補助監督たちも心配していた」
(え……そうだったの?! 覚醒前の私!)

 それもうばれてる奴じゃん。それならそれでなんでみんな何も言わないの?!
 それとも気を遣ってくれたのかな。

……何だったか。お前の呪術について知りたいという話だったな? 正直にいうと、私や悟にも分からない」
「え?」
「呪力はほぼなし。だが呪霊は視える。祓う術がなかったから、当時は私が引き取ったのだが……悟は一つ言い残していたことがあったな」
「五条君が?」
「その蒼いペンダントだ」

 夜蛾先生は首に下げている蒼いペンダントを指さした。

藤森自身には呪力はない。だが、そのペンダントから強い呪力が視えると悟は言っていた。確かに、私から見ても特級呪物級の品物だと見える」
「えっ!」

 このペンダント、特級呪物だったの? そんなものが何で私のところに?
 そう思った途端、脳裏に何かが走った。

 ――『それ使った感想聞かせてよ』

 姿は見えない。ただ、男性の声が脳内に響く。
 何かが思い出しそうで、思い出せない。
 その声は、どこかで聞いたことがあるような。
 ノイズのせいで誰の声なのか分からない。

藤森! 大丈夫か?」
「あ……

 気がつけば、夜蛾先生が血相を変えて肩を掴んでいた。
 すごい汗だぞ、と先生に指摘されおでこを拭うと確かに汗が滲み出ていた。

……その呪物、かすかに呪力が強くなった。具合はどうだ?」
「え? 私、何かあったんですか?」
「急に目が遠くなっていた。声をかけても返事をしない。まるで催眠術にでもかかったみたいに」

 深呼吸しろと言われ、私は深呼吸を何回かする。
 少しずつ息が整えていくのが分かる。

藤森、その呪物はどうやって手に入れた? 形見か何かか?」

 事の次第によっては回収しなくてはいけない、と先生は言う。

(蒼いペンダント――青空のような、蒼いペンダント。どこで手に入れて……

 誰かに渡された……そう、誰かに。
 その誰かが、例の人なのか……だめだ、情報がなさすぎて分からない。

「顔色が悪い。今日はもう寮に戻りなさい」
「先生、でも――
「また後日、連絡する。このことは誰にも言わない。約束しよう」
「あ、ありがとうございま、す……
藤森?!」

 私は安心したのか、力が抜けて倒れてしまう。
 夜蛾先生の声がどんどん小さくなっていくのが分かる。
 私は、意識を手放した。

【終】