ちこと
2024-08-13 20:38:52
17525文字
Public イベント用サンプル
 

【チャレ29発行】「冒険のはじまり」サンプル

チャレ29発行の新刊サンプルです。本文全体の4割ほど。
サトシとピカチュウがエリアゼロでコライドンと出会うIFのお話です。冒頭の注意事項をご確認ください。

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4

 自然と目が覚めて、スマホロトムで時間を確かめると、ちょうど十時間ほど経っていた。
「ううん」と体を伸ばす。その動きにつられるように、ピカチュウの耳がぴくんと揺れた。
「おはよう、ピカチュウ。よく眠れたか?」
「ぴぃか……
 ちいさな手で、眠そうに目をこすっている。やっぱり寝つきにくかったらしい。
「コライドンは?」
 きょろきょろと周囲を探す。ピカチュウが何かに気づいたように顔を向けると、その先には紅い背中があった。サトシが眠る前に見た姿とほとんど同じだ。
「コライドン!」
 起き上がって呼びかけると、コライドンは振り向いた。ぱちくりと瞳を瞬かせる。
「おはよう、コライドン。……っていうか、寝たのかな?」
 ピカチュウを見ると、首をかしげてからふるふると横に振った。やはり眠ったところは見ていないようだ。
「ちゃんと休まないと……疲れてないといいんだけどな」
「ぴかぴかっちゅ」
 相づちを打ちながら、ピカチュウは四つ足でぐうっと伸びをした。寝つきは悪かったようだが、朝の調子は悪くなさそうだ。サトシはたっぷり眠れたので、疲れを引きずっていない。
「ぴかぴ、ぴか?」そう言ってピカチュウが指さしたのは、サトシの右肩だ。
「ああ、うん。もう痛くないよ」
「ぴかぴかちゅ」
「わかってるって」
 言われるがままに包帯を取り替える。巻き直すのを手伝ってもらうときに、ピカチュウが傷口をチェックするように見ていた。
 ほんとにもう痛くないのにな。そう思いつつも、ありがたく手助けを受ける。包帯以外の身支度も調えて、リュックを背負い立ちあがった。
「おまたせ、コライドン」
「ぴかちゅ、ぴーか」
 ピカチュウは声をかけながら、コライドンの頭にぴょんと乗った。コライドンもそれに応えるように喉を鳴らす。
「なんだよおまえたち、いつのまに仲良くなったんだ?」
「ぴーかぴかちゅ」「あぎゃっす」
 ひみつ、と言われた――ような気がする。


 朝食を摂り、探索を再開した。昨日と同じように、辺りをきょろきょろ見回しながらゆるやかに下っていく。しばらく進むうちに、周囲には岩が目立ちはじめた。
「あ、ルガルガンだ」
「ぴかぴか」
「ほんとだ、ドンファンもいる」
 サトシもよく知るが、野生で見かける機会はあまり多くないポケモンたちだ。やはり人間がめずらしいのか視線を感じるものの、気配は落ちついている。道行きが平和で、たくさんポケモンが見られるとなれば、サトシはただ楽しくなってくるのだった。
 通りすがりながらポケモンを呼んでいくサトシを、コライドンはじいっと見つめている。それがなんだか嬉しくて、サトシの気持ちはさらに上がっていく。
「ウォーグルだ! あっちにダイオウドウもいる。でっかいなぁ」
「ぴーかちゅ。――ぴ?」
 相づちを打っていたピカチュウの両耳が、ぴくんと立った。視線が動く。「どうした?」と訊くと「ぴかぴ」と囁かれる。
 何かがいるのだ――ピカチュウが示した先を見て、
「へ?」
 サトシは一瞬固まった。長い脚の、――レアコイル?
 みっつの金属質の頭が集まっている。両端にU字磁石のような突起部がくっついている。そこまではたしかにサトシが知るレアコイルなのだ。いちばん上の頭に黒い何かがもさもさとくっついて見えるし、目の周りには模様もついているし、後ろを向けばネジと黒いもさもさが尻尾のように連なっているが、そのくらいなら大したことはない。
 問題は、下にくっついている一対のU字磁石だ。にょきっと長く伸びて、脚のように地面に付けている。電磁の力で浮かぶのではなく、地面に直接立っているのだ。その先っぽにも、頭や尻尾の先と同様に黒いもさもさしたものが付いている。
 にょん、とそのU字の脚が動いた。歩いている。レアコイルが、長い脚で、一歩一歩地面を歩いている。
「なんだ、あれ……
「ぴかぴ!」
 ささやき声で制され、サトシは我に返った。呆けている場合ではない。辺りを見回し、手頃な岩に身を隠す。一拍おいてそうっと窺ってみると、ピカチュウもコライドンも一緒になって岩から顔を覗かせた。向こうに気づかれた様子はない。
「ふう……さんきゅー、ピカチュウ」
「ぴかぴか」
 あのレアコイル……のようなポケモンは、明らかにほかのポケモンと違っていた。リージョンフォームなのかもしれないが、一言で言い表せないような異様な気配がしたのだ。ちょうど、昨日一戦を交えた、あのプリンに似たポケモンのように。
「もし見つかったら、また襲われちゃうかもしれないからな。気づかれないように、しばらく隠れておこう」
 小声で指を立て、「しー」とコライドンにもジェスチャーする。意図が伝わったのか、コライドンも口を閉じたままこくりと頷いた。
 見つからないように、だがどんなポケモンなのかは知りたい。サトシはふたたびそっと顔を覗かせる。
「あのもさもさしたやつ、砂鉄……ってやつなのかな」
「ぴかちゅ?」
「うん。ほら、アローラのイシツブテやゴローンみたいなさ」
 磁力を帯びた砂鉄が微弱な電波に引き寄せられ、まるで黒い髪や眉毛のように見える。アローラのイシツブテたちはでんきタイプを持っているのだ。レアコイルに黒い毛が生えたようなあのポケモンも、それに近いものがあるのかもしれない。
「もともとレアコイルってでんきタイプだし。あいつもおんなじようにくっついてるのかも」
 それにしても、にょきんと伸びる脚には度肝を抜かれる。磁石のように固そうに見えて、思いのほか軟らかく動くのだ。ある程度伸縮自在のようで、長い脚をたくみに動かし、体を上下に揺らしながら歩いていく。
「行っちゃった」
「ぴーか」
「とりあえず、気づかれずに――
 済んだな。そう言おうとして、サトシとピカチュウはぎくりと止まる。
 何かいる、背後に――ほとんど同時に振り向いて、
「おわあっ!」「ぴーか!?」
 ほとんど同時に飛び退いた。
 脚の長いレアコイル――サトシは知るよしもないが、とある冒険書のなかでは「スナノケガワ」と呼ばれている。
 その二体目が、サトシたちの真後ろに迫っていたのだった。
「い、いつのまに」
「ぴぃかっ」
 ああびっくりした。サトシが胸を押さえている間に、ピカチュウはさっと四つ足で構える。頬の電気袋が帯電をはじめた。
 サトシも体勢を立て直そうとし、――ぐい、と服の裾を引っぱられる。
「コライドン?」
 サトシを見上げながら、裾をくわえて引っぱっている。「あぎゃ……」と、昨日と同じ仕草で、サトシの目を見て訴えている。
 コライドンの言うように、逃げた方がいいだろうか。こうして対峙するとわかる。やはりこの相手も、昨日と同じように、普段サトシが接しているポケモンとは何かが違う。
 そうして観察し、ふと気づいた。今回は観察をする余裕があるのだ。
 相手もこちらの様子を窺っているのか、すぐに飛びかかってはこない。
 こいつは、おれたちを――相手をよく見ようとしてる。
 それなら。
「大丈夫だ、コライドン」
 頭をぽんと撫でる。服の裾から口を離し、コライドンがサトシを見上げた。
「逃げるのはあとだ。おれたち、こいつのこともっと知れるかもしれない」
 ピカチュウが目線だけで振り返り、サトシの言葉に頷く。――だよな。
「やるぞ、ピカチュウ」
「ぴっか!」
 ふたりで構えると、相手もまた体勢を正した。ぴんと空気が張り詰める。
――バトルしようぜ!」
 そのかけ声と同時にピカチュウが飛び出す。