ちこと
2023-11-28 23:28:20
10928文字
Public イベント用サンプル
 

【チャレ28発行】「あおいろのともだち」サンプル

チャレ28発行の新刊サンプルです。
もしもサトシがオーガポンと出会ったら、というお話。冒頭の注意事項をご確認ください。

(2025.1.15更新)完売しました!ありがとうございました。




  3

 楽土の荒地のオトシドリは、あれからしばらく大人しくなった。岩を電撃とアイアンテールで破壊したピカチュウの迫力が効いたらしい。しかし念のため、騒動の場所からはすこし距離をとって、サトシはピクニックセットを広げた。今朝スイリョクタウンで一式揃えたものだ。
「みんなで食べるのがおすすめって言ってたもんな」
 ポケモンたちをモンスターボールから出し、テーブルの上にはパンや具材をたくさん広げる。ひとつ目のパンにマヨネーズを塗りはじめると、ゲンガーやウオノラゴンが興味深そうに覗きこんできた。
「うまいやつたくさん作るからな。どれがいい?」
 ポケモンたちが指さす具材をパンに片っ端から挟んでいく。と、ルカリオが隣に立って別のパンを手に取った。どうやら手伝ってくれるようだ。
「サンキュー」
「がう」
「ぴか、ぴかちゅ!」
 ピカチュウがケチャップを手に熱心に訴えるので、ルカリオはサトシの真似をしながらパンにケチャップを塗りはじめた。その後もピカチュウの指示で具材を挟んでいく。サトシもポケモンたちに具材を選んでもらいながら、あまいもの、すっぱいもの……といくつもサンドイッチをつくっていった。
 そうして完成したサンドイッチに、みんなでかぶりつく。
「いただきまーす!」
「ぴかぴかちゅ」
 サトシがひとくちかぶりつく間に、ウオノラゴンとゲンガーはその大きな口でひといきにぺろりと食べてしまった。カイリューは両手で抱えて三口ほどで食べきる。ネギガナイトはネギの剣を使って食べようと苦戦していたので、サトシが半分にわけたサンドイッチを渡してやると、観念したようにネギを置いて受けとった。そうしている間に、ピカチュウはケチャップたっぷりのサンドイッチにちいさな口でかぶりつき、満面の笑みを浮かべている。ルカリオも満足げに食べすすめており、自分で挟んだサンドイッチの味はまんざらではないようだ。
「みんな、うまいか?」
 そう聞くと、一斉に笑顔の声が返ってくる。これは確かに、皆で食べるのがいちばん美味しい。


 その日は、そのまま楽土の荒地の近くで夜を明かした。
 朝日とともに起き出して、朝食にとまたサンドイッチを用意する。と、サトシのそばでピカチュウの耳がぴんと立った。
「ピカチュウ?」
「ぴかぴ」
 相棒が指さした先には、ひときわ大きな岩がある。その岩の端から、黒い角と緑の体がわずかに覗いていた。
「あ」
 ――あいつだ。
 声をかけようか一瞬迷い、やめた。昨日と同じように怖がらせてしまうかもしれない。
 岩からはみ出ている緑色をちらちらと気にしながら、サトシはポケモンたちと一緒にサンドイッチづくりを進めた。できあがったものをポケモンたちに渡していくと、サトシの分を除いてもサンドイッチがひとつ余った。
 サトシはサンドイッチを皿に乗せ、テーブルからすこし離れた位置にそっと置いた。あの岩からでも、すこし足を伸ばせば手が届く距離だ。テーブルに戻り、自分のサンドイッチを抱えてから、なるべくやわらかい声で話しかける。
……なぁ、いっしょに食べないか?」
 覗く角がぴくりと動いた。しかし、岩の陰から出てくる様子はない。
「そのサンドイッチ、よかったら食べてくれよ。おれたちでつくったんだ」
 そう笑いかけてから、自分のサンドイッチにかぶりつく。今朝は肉厚のベーコンを挟んでみた。塩気が効いて、あまずっぱいケチャップとも合う。
「うまい!」
「ぴーかちゅ!」
 口もとをケチャップだらけにしながらピカチュウも笑った。カイリューもゲンガーもルカリオも、ネギガナイトもウオノラゴンも、皆食べながら笑顔になっている。つられて笑みが深まっていくサトシの腕を、ピカチュウの指がつんと突いた。
「ピカチュウ?」
「ぴかぴ、ぴか」
 振り向いて、サトシは「あ」と声を出しかけた。ぐっと呑みこむ。
 岩の陰から顔を覗かせて、あのポケモンが、そっとサンドイッチに手を伸ばしていた。
 気づかれないように見守っていると、ポケモンはお面の下の部分をほんのすこしだけずらした。できた隙間からサンドイッチを入れている。外してしまったほうが食べやすいだろうに。
 お面の下の素顔は、サトシからは見えない。
「あのお面、あいつの大事なものなのかな」
「ぴか……
 ちいさな声で、ピカチュウとささやき合う。
「ぽに!」
 ポケモンが声をあげた。これまで聞いたなかでいちばん明るい。ひとくち食べたサンドイッチをしげしげと眺めている。
「うまいか?」
 そう声をかけると、ポケモンはぱっとサトシを見た。
――ぽにっ」
 頷くように頭を動かす。サトシの目には、あのお面がはじめて笑ったように見えた。
「そっかぁ。よかった。腹いっぱい食べろよ」
「ぽに」
 ポケモンはまた頷いた。お皿の前に、正座するようにちょこんと膝をつけ、サンドイッチを両手で掴んでもぐもぐと食べていく。
 サトシはピカチュウと微笑み合った。空は晴れ、朝の澄みきった空気も心地よい。慣れ親しんだ友だちも、出会ったばかりの相手も、皆おいしそうにサンドイッチを食べて笑っている。
 すごく元気が湧いてくる。いい朝だなぁ、と思った。


 サンドイッチを食べ終える頃には、あのポケモンもいくらか落ちついて見えた。
「おまえ、このあたりに棲んでるのか?」
 サトシがそう問うと、ポケモンは首をかしげ、それから山のほうを見やる。昨日も帰っていった方向だ。
「やっぱり、あの山に棲んでるのか」
 スマホロトムでマップを見ると、「鬼が山」と示されていた。目に見える多くは白い岩肌で、緑色に見える部分は少ない。標高はさほど高くはないものの、ごつごつとした迫力のある山だ。
 あそこに仲間がいるのだろうか。それともひとりで暮らしているのだろうか。
 ポケモンの被るお面はサトシの目から見ても細かな造形が見事で、特に目の辺りには、白く輝く宝石がきれいな形で埋め込まれていた。人間の文化から生まれたもののようにも感じられる。このようなお面を被ったポケモンが、そう多くいるとは思いがたい。
 食事を終えたサトシのポケモンたちは、すこし距離をとってお面のポケモンを眺めていた。好奇心から駆け出しそうなウオノラゴンは、相手を驚かさないようにと、ネギガナイトがそっと抑えてくれている。
 ピカチュウが代表して歩みより、「ぴか、ぴかちゅう」と声をかけた。「ぽに……」と、ポケモンがちいさく頷く。すこし距離が縮まっただろうか。
 と、ポケモンは立ちあがり、「ぽに」とちいさくお辞儀した。くるりと振り返り、山に向かってぽてぽてと駆けていく。サトシはあわてて声をかけた。
「おれたち、もうすこしここにいるんだ。また会えるかな」
 ポケモンは足を止め、一度振り向いた。わずかに首を傾げてから、また山へと走っていく。


 広げたままだった食材やテーブルを片づけ、サトシは身支度を整えた。ポケモンたちをモンスターボールに戻す。リュックを背負い、鬼が山を見上げた。
「なぁ、ピカチュウ。今日行くところなんだけど」
「ぴか」
 ピカチュウは頷いた。サトシがやりたいと思うことを、この相棒はとうにお見通しなのだ。
「サンキュー」
 相棒に礼を言い、サトシは山へと足を向けた。