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ちこと
2023-11-28 23:28:20
10928文字
Public
イベント用サンプル
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【チャレ28発行】「あおいろのともだち」サンプル
チャレ28発行の新刊サンプルです。
もしもサトシがオーガポンと出会ったら、というお話。冒頭の注意事項をご確認ください。
(2025.1.15更新)完売しました!ありがとうございました。
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キタカミの里、スイリョクタウンの向こうには山がそびえている。標高こそさほど高くはないが、緑は少なく岩肌の目立つ山だ。その山をぐるりと囲むようにして、裾野には草原がひろがり森が茂っている。
サトシは山の周辺を回るようにして里の探索をはじめた。村に寄ってサンドイッチの材料を追加することも忘れない。道端でピクニックをしていた男性が、サンドイッチはポケモンと一緒に食べるのもおすすめだと教えてくれたのだ。
「お昼にみんなで食べような」
「ぴっか!」
具材をリュックに詰めこみ、昨日とは反対側の道へ向かう。甘い香りのするりんご園を抜けると、やがて池が見えてきた。周囲には藤色の花が美しく咲き、そのなかでオドリドリが踊っている。アローラのポニ島で見たことがある、花々とおなじ藤色の姿だ。
「キタカミの里にもオドリドリがいるんだ」
「ぴーかちゅう」
オドリドリたちは花の蜜に触れ、美しく舞っている。サトシもしばし寄り道をし、かぐわしい花の香りをピカチュウとともに楽しんだ。
花畑を発ち歩いてゆくと、やがて白く乾いた地面が見えてくる。緑あふれる風景ががらりと変わり、サトシはすこし驚いた。
途中に立つ看板には「楽土の荒地」とある。
「荒地って言うけど、ここにもポケモンはいっぱいいるなぁ」
サトシの見たところ、いわタイプやじめんタイプのポケモンが多いようだ。なかでもノズパスがたくさんいて目立っており、あちらこちらで同じ方角を向いている。鼻が北を指すという習性によるものなのだろうが、端から見ているとほのぼのとしていて微笑ましかった。
ほかにもイシツブテやウソハチ、ドロバンコなども多く見かける。やはり土や岩を好むポケモンが多いのだろう。
そう思っていたサトシの耳に、ふと羽ばたきの音が聞こえた。ひこうタイプもいるのかと顔を上げようとして、不意に地面がどしんと揺れた。
「うわっ!?」
「ぴかぁ」
ピカチュウも驚いたようにサトシの肩に飛びのる。ふたりで頬を寄せあったが、揺れは続かない。地震ではなかったのかと思ったところに、またどしんと音がした。
「なんだぁ?」
今度こそ顔を上げると、初めて見るポケモンが白い翼を羽ばたかせていた。お腹にある長い袋を、同じく長いくちばしでくわえている。袋は丸くたわみ、まるで大きなポケットのようだ。サトシはスマホロトムをかざした。
『オトシドリ。おとしものポケモン。ひこう・あくタイプ。胸の羽毛と抜け落ちた羽で作った袋に物を入れて、高いところから落として遊ぶ』
図鑑の解説に倣うかのように、オトシドリはくちばしにくわえていた袋をぱっと離した。中に入っていた岩が落下し、またどしんと音を立てる。
「あいつが落としてるのか」
「ぴぃか」
「こりゃけっこう危ないなぁ」
荒地のポケモンたちは慣れているようで、オトシドリが遊びを始めたと気づきさぁっと遠ざかっていく。あっという間に、オトシドリの周囲にはサトシとピカチュウだけが取り残された。
「やばっ」
「ぴかぴ!」
「うん、おれたちも逃げよう」
オトシドリに背を向けて、一目散に走り出す。どしん、どしんと、オトシドリの遊びに合わせて岩の落下音ばかりが荒地に響く。
――
からん。
「え?」
耳が捉えた音に、サトシは振り返った。
逃げ遅れたのはサトシたちだけではなかったのか。音が聞こえた先で、ポケモンがひとり転んでいた。前につんのめったためか、サトシからは背中側しか見えない。大きな葉っぱで覆われたような体から、黒い木のような脚が二本生えている。
ポケモンはその脚を慌てたようにばたつかせた。だがうまく起き上がれないようだ。そうしている間にもオトシドリが羽ばたき、また岩を落とそうとする。オトシドリは気づいていないが、転んだポケモンの上に落ちてもおかしくないほどの距離だった。
「危ない!」
サトシはきびすを返し駆け出した。肩口でピカチュウの頬袋が電気を貯める。オトシドリの袋から岩が落ちるのと同時、サトシは腕を突き出した。
「ピカチュウ、10まんボルト!」
「ぴぃ〜か、ちゅう〜〜!」
伸ばした腕を駆け、飛び上がったピカチュウから電気が放たれる。
あの電気は確実に岩を貫く。サトシはピカチュウと岩に背を向け、転んだままのポケモンに向かって駆けた。
「大丈夫か?」
突如かけられた声に、ポケモンの肩がびくりと揺れる。心配ないと伝えようとしたとき、背後で大きな音が響いた。
ピカチュウの電撃が岩を破壊したのだ。サトシは目の前のポケモンに覆いかぶさった。
ある程度の痛みを覚悟したが、僅かな破片が当たったのみで、ほかにサトシにぶつかるものはなかった。
「ちゅぴ!」
力強い声と、鋼の刃がきらめく音がする。体を起こして振り返ると、ちょうどピカチュウの尾が元に戻ろうとするところだった。
「サンキュー、ピカチュウ!」
「ぴかちゅ!」
危険な破片を〝アイアンテール〟で捌いてくれたのだ。着地したピカチュウは、そのままサトシのもとへと駆け寄る。
「ぴーかーちゅ?」
「大丈夫、ありがとな」
「ぴか」
ふたりで目の前のポケモンに向き直る。ポケモンは体を起こそうとしていたが、やはり慌てているのかうまくいかないようだ。「大丈夫か?」と声をかけ、サトシは手を伸ばす。ポケモンの体の下に腕を入れ、助け起こそうとした。
からり。ポケモンの顔から、何かが外れて落ちる。
「
……
お面?」
「ぽに
……
!」
ポケモンは初めて声を上げた。体の一部を手のように動かし、お面を拾い上げて顔につける。そうして立ち上がったポケモンは、顔のお面から手を離そうとしない。お面はポケモンの体と同じ、森の木々に似たあざやかな緑色をしていた。
「けがはないか?」
「ぴか、ぴーかーちゅう」
だいじょうぶだよ、と言うように、ピカチュウが声をかける。だが、近づこうとピカチュウが一歩踏み出すと、ポケモンは逆に後ずさってしまった。
「ぽ、ぽに
……
」
身長は、サトシよりも頭ひとつ低いくらいだろうか。被っているお面は眼光がするどく見えて迫力があるのだが、戸惑うように漏れた声はちいさくかわいらしい。お面の下が気になったが、ポケモンはお面を外したくはないようだ。頭に生えた二本の黒い角は、お面ではなく本人から生えているものだろうか。
こいつのこと、もっと知りたい。サトシの胸にこみあがるものがある。
「
……
ねぇ、きみ」
体を乗り出し、手を伸ばす。だが、
「
――
ぽに!」
「あ、待って!」
ポケモンはきびすを返し駆けていく。その背中は荒地の岩に隠れ、やがて見えなくなってしまった。
サトシはしばらくのあいだ、ポケモンが去って行った方向
――
キタカミの中央にそびえる山を、じっと見つめていた。
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