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ちこと
2023-08-16 22:04:46
23397文字
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イベント用サンプル
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【チャレ27発行】「Release」新刊サンプル
チャレ27発行の新刊サンプルです。めざポケ編後、サトピカフパで旅するお話。
前半はほのぼの旅、途中からフーパに異変が起きてほのぼのとシリアスのごった煮になります。
BOOTHでの通販受付中です→
https://momo-chicotto.booth.pm/items/5053224
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フーパがサトシとピカチュウの旅に同行し、数日が経った。フーパがまず驚いたのは、初めて見るようなポケモンを道中でたくさん目にすることだ。
サトシと一緒に道を歩いていると、サトシはすぐにポケモンを見つける。「あ、マメパトだ」「ミネズミだ、親子なのかな」と、次から次へと名前を呼んで指さしていく。フーパは、自分が思っていた以上にたくさんのポケモンがこの世にいるらしいことを知った。
「でもフーパって、すげー長生きなんだろ?」
「ながいき?」
「その姿は百年前からでも、フーパはもっとずっと昔からいるんだろ。おれたち人間と比べたらすごく長生きだよ。だから、おれが知らないポケモンとかも見たことあるんじゃないか?」
「んー、わかんない。おぼえてない」
百年以上前から健在であることは確かだ。その頃のフーパは真の姿で、自身のリングの力を使い、世界のあちこちに顔を出していた。だがその頃の記憶は、フーパのなかにはあまりない。
「フーパがわかるの、谷にいたやつ」
「そうなんだ」
「うん。もっと前のはわかんない」
そう言うと、サトシは「そっか」と微笑んだ。
「メアリさんやバルザさんとの思い出がたくさんあるんだもんな」
「うん!」
フーパにとって色鮮やかな記憶は、元の姿からちいさくいましめられた姿になり、アルケーの谷で過ごすようになった百年前からのものだ。
百年前に受けた戒めはすでに解け、フーパは元の姿を取り戻し、自身のリングで世界のどこにでも行けるようになった。それでもいまもなお、いましめられたちいさな姿のまま、こうして日々を過ごしている。そして、リングの力は使わずに、サトシとピカチュウと一歩一歩道を進んで、あちこちに住まうポケモンたちと出会うようになった。
「いま、しらないやついっぱい。フーパ、たのしい」
「そっか」
「うん。しらないやつ、もっとみたい!」
「オッケー。じゃあ今日は、どっちに行こうか」
折しも分かれ道にさしかかった。地図を見ず、その日の気の向くままに道を選ぶことにも、フーパはだんだんと慣れてきていた。
「うーん、こっち!」
右の道をぴこっと指さす。水色の花が綺麗に咲いていて、それがフーパの気に入ったのだ。
「よし、行こうぜ」
「ぴっか」
「うん!」
名前も知らない花に彩られた道を、三人で進んでいく。
選んだ道を進むうちに、周りに背の高い木が増えてきた。それとともに、サトシが見つけるポケモンの数も多くなる。
「サートン、あいつは?」
「ヨクバリスだ。木の実をいっぱい集めてるんだよ」
「あっちは?」
「あいつはオタマロ。進化するとガマガルっていうポケモンになる」
「へぇ~」
「あ、ほら。あそこの木の上にクルミルがいる。かわいいな」
「ぴーか!」
「ほ? ピーカン、しってる?」
「ぴかちゅ」
「おれたちの仲間にもいたんだよ、クルミル。いまは進化してハハコモリになってる」
「へぇ~!」
そんな会話をしながら進むうちに、日が中天を通りすぎ、フーパの腹がきゅるると鳴った。
「サートン、おなかすいた」
「おれも。ちょっと休憩しておやつにしようか」
「ぴっか」
サトシが周囲を見渡し、近くに小高い丘を見つけた。丘の上には大きな木があり、ピカチュウが率先して駆けていく。木陰が陽を遮り、休むにはちょうどよいところだった。三人で腰を落ち着ける。
「ほら、フーパ」
とサトシが取りだしたのは、箱に入った色とりどりのドーナツだった。フーパの目には輝いてすら見える。
「おー、ドーナツ!」
「今日、街を出る前に買っておいたんだ」
「サートン、ありがと!」
お礼を言うと同時にフーパは手を伸ばす。ひとつめのドーナツをまるごと口に運び、ひとくちで平らげた。サトシはそれを見て笑いながら、
「どういたしまして。腹いっぱい食べろよ」
と別の袋を取り出し、中に入っていたパンを半分に割ってピカチュウに差しだした。ピカチュウはサトシの隣にちょこんと座り、両手でパンを受けとる。ちいさな口でかぶりつき、「ちゃあ~」と嬉しそうに鳴いた。
「ピーカン、おいしい?」
「ぴか!」
「フーパもおいしい!」
ピカチュウの隣に座り、フーパはしししと笑う。ふと視線を感じ振り向くと、サトシがフーパとピカチュウを見つめて微笑んでいた。
「サートン?」
「ふたりともうまそうに食べるなぁって」
「んー」
フーパは手に持っていたふたつめのドーナツに視線を落とした。すこしだけ悩み、サトシを見上げる。
「
……
いる?」
すると、サトシの笑みが急に深くなった。
「おれはだいじょうぶだよ。それはフーパのだし」
「そっか?」
おいしそうに見えたから、サトシも食べたいのだろうと思った。そうでないなら、なぜいま笑ったのだろう。フーパは首を傾げるが、そこにサトシの手のひらが伸びる。
「うん。でも、ありがとな」
サトシの手のひらは心地よく、フーパは目を細めた。サトシに撫でられながらふたつめのドーナツをかじる。
おやつの時間が終わると、サトシは木の下で仰向けに寝ころんだ。ピカチュウも同じように仰向き、お腹を見せた体勢になる。フーパもふたりの真似をし、手を伸ばして草の上に寝転がった。
さわ、と風が吹き、フーパの頬を穏やかに撫でていく。
「きもちいいな~
……
」
「ぴぃか
……
」
「うん
……
」
体の力が自然と抜け、草の上にゆだねていく。すこし湿っぽくもある土と草のにおいがフーパには新鮮だった。やわらかな木漏れ日と穏やかな風に包まれる。
「おれ、こういう場所が好きでさ。自然いっぱいで気持ちいいし、いろんなところからポケモンたちの声がするし」
サトシにそう言われ、フーパも耳をすませてみる。空や原っぱ、奥の森などのあちこちから、風に乗ってさわさわとポケモンたちの鳴き声が聞こえてきた。
「ほんとだ」
「だろ? ここにもたくさんポケモンがいるんだな」
「サートン、みんなしってる?」
「どうかなぁ。見たことあるポケモンが多いみたいだけど、もしかしたらおれが知らないポケモンもいるかも。出会ってみなきゃわかんないな」
「そっかぁ」
さわさわ、さわさわ。葉のこすれる音、そよぐ風、ポケモンたちの声。さまざまに混ざりあってフーパのところまで届く。目を閉じてみると、耳だけでなく肌でも感じられる気がした。
――
きもちいい。
サトシとピカチュウの息づかい。自然が立てる音とにおい。いろんな心地よいものに包まれるうちに、フーパはうとうとと眠りに吸いこまれていった。
🍩
フーパの寝息を隣で聞きつつ、サトシもまたまどろんでいた。木漏れ日と草のにおいが心地よい。そばでピカチュウも丸くなり、こくりこくりと舟を漕いでいる。
――
と、そのピカチュウの両耳がぴんと立った。
「ぴか?」
「ピカチュウ?」
サトシもつられて体を起こす。ピカチュウが視線を向けた先は、先ほどまでサトシたちが歩いていた、木々に囲まれた道のほうだ。いくつも並ぶ木のなかのひとつ、その根元がなにやら騒がしい。
「ぴーか」
「なんだろ」
よく見ようとサトシは腰を浮かせた。と、フーパがむにゃむにゃと声を漏らす。両手で目もとをこすりながら、
「サートン、ピーカン、なに
……
?」
と、寝ぼけまなこで起き上がった。
「あ、ごめんフーパ。起こしちゃったか」
「んーん。なんかあった?」
「うん。向こうがちょっと騒がしいんだ。ここからじゃよく見えないんだけど」
「ほ?」
フーパはふわりと浮かびあがる。右手をかざしてよく見ようとしたが、やはりこの位置からではよくわからないようで、そのままくだんの木へ向かって飛んでいった。
「あ、フーパ!」
「ぴーか」
サトシとピカチュウも慌てて後を追う。途中でフーパに追いつくと、両手を伸ばして捕まえた。
「サートン、なにー?」
「しー。ちょっとこっちに隠れよう。気づかれないように」
フーパをそのまま腕に抱きこみ、サトシはすこし離れた木の後ろに身を潜める。そこから首をそっと伸ばし、騒動の起きている木のほうを覗きこんだ。
どうやら、同じポケモンが何体か集まっているようだ。桃色の頭に黒いくちばし、黒いとさかがぴょんと立つ。もっとも目を引くのは、お尻に穿いたおむつのような殻だ。
「バルチャイだ」
「ぴかちゅ」
イッシュ地方で見かけることが多いが、このあたりにも生息しているらしい。フーパとちょうど同じくらいの大きさのバルチャイが三体集まっていた。よく見ると、羽や足でお互いを攻撃しあっている。騒動の原因はこの諍いのようだ。
サトシの腕のなかで、フーパがむずむずと動く。飛び出したいらしい。
「あーっ。けんか、だめ!」
「ま、待てってフーパ」
「えー、なんで」
フーパを片腕で押さえたまま、サトシはポケットからスマホロトムを取りだした。バルチャイたちに向けてかざす。
「ロトム、教えてくれ」
《バルチャイ、おむつポケモン。あく、ひこうタイプ。はき心地のいい骸骨をめぐり、仲間同士で小競り合う》
スマホロトムが図鑑機能でなめらかに読みあげた。言われて見てみると、三体のうち一体のバルチャイが穿いているものを、ほか二体のバルチャイが求めて争っているようだ。求められた側のバルチャイも譲る気配はない。
「そういえばあれって骸骨なんだっけ
……
」
「がいこつ?」
「あー、えっと
……
。あのなフーパ。あいつら、ちょっと喧嘩してるみたいだけど、ああやってお尻に穿くやつを取り合ってるんだってさ。それもあいつらの習性なんだ」
「しゅうせい?」
「えっと、なんて言えばいいかな
……
いつもやってることっていうか。あいつらにとっては自然なことなんだ。だから、外から来たおれたちは入らないほうがいいんだよ」
「うーん
……
?」
「おれもつい飛び出したくなるんだけどさ。前に、人間が入らないほうがいいって注意されたこともあるんだ。あいつらは野生のポケモンだから、なるべく自然のままで、って」
「しぜん
……
」
フーパは呟きながらバルチャイたちのほうを見て、そのままじっと大人しくなった。
野生ポケモンの騒動にどこまで介入すべきかは、サトシもいまだ悩むところだ。困っているところを見ると力になりたいと思う。一方で、本来手を出すべきでなかったところにまで入り、本来自然であるべき流れを崩さないようにしたいとも思うようになった。
今回は、サトシの手助けは不要だろう。フーパにも見えるように、バルチャイたちのいる木の上を指す。
「ほら、見ろよフーパ」
「ほ?」
サトシが指さし、フーパの視線が動いた先では、黒い翼を持つポケモンが木に留まり、根元のバルチャイたちをじっと見つめていた。バルチャイよりも伸びた桃色の首、するどい目、なにかの骨で飾られた胴。バルチャイの進化形、バルジーナだ。
「あのバルジーナ、ああやってバルチャイたちを見守ってるみたいだ」
「ほんとだ」
「あいつら、家族なんじゃないかな。バルチャイたちが熱くなりすぎたら、きっとあいつが止めてくれるよ」
「
……
バルザみたい」
「ん?」
「フーパも、メアリといたずらしたら、バルザに止められる」
「あははっ、そっかぁ」
サトシは頬をほころばせた。腕のなかで、フーパも「ししし」と笑う。
ふたりでにこにこと笑っていると、サトシのかたわらでピカチュウが「ぴっ」と声を上げた。
「どうしたピカチュウ?」
「ぴかぴ」
両耳をぴんと立てたまま、ピカチュウは上を指さしている。その先に視線を向けると、サトシとフーパが先ほど見つけたバルジーナがいて、彼女と目が合った。
ばちん。バルジーナのするどい目が、間違いなくサトシとフーパを見ている。
「あ」
「ほ?」
近づきすぎた、騒ぎすぎた? いずれにせよ、こっそり見ているつもりが保護者にばれてしまった。バルジーナの目に、闖入者であるサトシたちはどう映るだろう。
その疑問に応えるように、バルジーナの目は一気に険しくなった。
「やばっ」
「ばる!」
バルジーナは木の上から飛び立ち、まっしぐらにサトシたちへと迫る。家族に害をなす存在だと見なされたのだ。サトシはフーパを抱えたまま慌てて立ちあがり、きびすを返して走り出した。すぐ隣をピカチュウが併走する。
「ご、ごめん! じゃまするつもりじゃなかったんだ!」
「ぴーか!」
サトシの言い訳は当然ながら届かず、バルジーナは黒い翼を大きく羽ばたかせた。
「ばるっ!」
バルジーナの翼から、空気の刃がいくつも放たれる。
〝エアスラッシュ〟だ。振り返って技を見定めると同時に、サトシの足もとで空気の刃が弾けた。
追撃が放たれた気配を察し、サトシはフーパを抱く腕に力をこめた。上半身を丸めて包みこむ。
「ピカチュウ、〝エレキネット〟!」
「ぴかぴか
……
ちゅっ!」
ピカチュウの尻尾から放たれた電気の網が、いくつもの空気の刃を包んで弾ける。
だが、その網をくぐり抜けたものもあった。
「いっ
……
!」
右腕にするどい痛みが走り、サトシは思わず顔をしかめた。〝エアスラッシュ〟が掠ったのだ。
「サートン!?」
腕のなかで動揺するフーパを、サトシはさらに力をこめて抱きこんだ。フーパの顔を見て笑いかける。
「だ、だいじょぶだいじょぶ。かすり傷だから」
「サートン
……
」
「ぴかぴ!」
ふたたび〝エレキネット〟を放ってから、ピカチュウが足もとまで駆けてきた。サトシを心配そうに見上げてくるので、サトシはピカチュウに向けても笑う。
「だいじょうぶだ。ピカチュウ、ありがとな。追撃が来るようならもう一発頼む」
「ぴか!」
こくりと頷き、ピカチュウはバルジーナの警戒に戻る。サトシはフーパを抱いたままさらに駆けた。背後でエレキネットが弾ける。
ひたすらに走るうち、木の群れが途切れて川が見えてきた。その頃になってやっとバルジーナの追撃も止む。サトシたちを追い払えたと考え、バルチャイたちの元に戻ったようだ。
「はー、あぶなかった
……
」
「ぴーか
……
」
バルジーナから逃げに逃げて、サトシはすっかりくたびれていた。川のそばに腰を降ろし、脚を投げ出して座る。ピカチュウもその隣でぐでりとうつ伏せに寝そべった。
「サートン
……
」
フーパはサトシのかたわらに浮かび、様子をうかがうように覗きこむ。
「ああ、フーパ。ピカチュウも。ふたりとも、けがなかったか?」
「うん。でも
……
」
「ぴかぴ」
ピカチュウの視線は、サトシの右腕に向けられている。バルジーナの〝エアスラッシュ〟が掠めたところだった。
「だいじょうぶだって。かすり傷かすり傷」
そう笑って二の腕を持ちあげてみせたが、直後に痛みがはしって「いてて」と声をあげてしまった。半端に上がった腕もこわばり、ピカチュウの視線が険しくなる。
「ぴかぴぃ」
「う
……
ごめん。ちゃんと手当てします
……
」
リュックは先ほどの丘に置いてきてしまっていたが、フーパがリングで呼び寄せてくれた。人間用の傷薬は切らしていたが、傷跡に当てる包帯は残っている。
「これ巻いておけばいいか」
「サートン、おくすりは?」
「ちょうど切らしちゃってた。でも大した傷じゃないし、だいじょうぶだよ」
「だめ! ちゃんとする!」
フーパは急に目をつり上げ、サトシに迫った。両手を腰に当てて叱るポーズまでつけている。
「けがしたら、おくすり! メアリたちもいってた!」
「は、はい
……
」
「フーパ出す!」
そう言ってリングをひろげる。
「おくすり、おでまし!」
フーパのかけ声に応じて現れたのは、市販の薬ではなく、何かの植物の葉のようだった。細長く肉厚で、周囲にちいさなトゲが生えている。
「薬草かな」
「フーパ、これしってる。けがしたらこれ塗る」
「そうなのか?」
「うん。メアリとバルザにおしえてもらった」
「そっか。
……
じゃあ、頼んでいいか?」
サトシはフーパの顔を覗きこむ。フーパはぱっと顔を上げて、
「まかせろ!」
と、拳で胸をぽんと叩いた。さっそく葉を手に取り、半分に折る。折り口からとろりと垂れてきた液をすくいとり、サトシの患部にそっと当てた。
「しみる?」
「だいじょうぶだよ」
やせ我慢ではなく、ちゃんと笑ってみせる。フーパの表情も安堵したように和らいだ。つづいてガーゼを当て、上から包帯で巻こうとしたものの、フーパのミトンのような手ではやりにくいようだった。
「それはおれがやるよ。フーパはここ押さえてて」
「こう?」
「サンキュ。ピカチュウ、テープ取ってくれるか?」
「ぴか」
ピカチュウがリュックからすぐに目当てのものを取りだし、サトシに渡してくれる。「ありがとな」と受け取り、包帯の端を固定させた。
「うん、これでだいじょうぶ」
「ほんと? いたくない?」
「ほんとほんと。さっきより痛くないよ」
嘘ではなく、先ほどよりも痛みが和らいでいた。薬草の効果が出ているようだ。
「助かったよ、フーパ。ありがとうな。ピカチュウもサンキュー」
「ぴか!」
尻尾をぴんと立て、ピカチュウが笑顔になった。やっと安心させてあげられたようだ。
フーパはというと、やはり安堵の表情ではあるものの、目もとがしょんぼりと下がっている。サトシは左手を伸ばし、フーパの頭をそっと撫でた。
「手当てしてくれてありがとうな。フーパが無事でよかったよ」
フーパの目もとが、ほろりと和らぐ。
「
……
うん。サートン」
「ん?」
「まもってくれて、ありがとう」
サトシの胸がぐっと熱くなった。フーパと目と目を合わせて微笑む。
「へへっ。どういたしまして」
川のそばにはひらけた場所があり、サトシたちはこのまま野宿することにした。日が傾く頃、採ってきたきのみで夕飯を済ませる。
焚き火の前でしばらく過ごしているうちに、フーパがこくりこくりと舟を漕ぎはじめた。
「フーパ、もう寝るか?」
「んー、まだ
……
」
そうぼやきながらも、目はしょぼしょぼと細められ、眠たそうに手でこすっている。「おいで」と両手を伸ばすと、フーパはおとなしくサトシの腕のなかにおさまった。
ぱちぱちと焚き火が爆ぜる音に混じって、ときおり鳴き声が聞こえてくる。おそらくは、夜行性のむしポケモンのものだろう。
「おと、いっぱいする」
「そうだな。夜に活動するポケモンもいるから」
「ひるまと、こえ、ちがう」
「うん。よくわかったなぁ」
「えへへ
……
」
ふにゃふにゃと言葉尻をとろけさせ、やがてフーパは寝息を立てはじめた。
「おれたちも寝ようか」
「ぴかちゅ」
腕のなかのフーパを起こさないよう、サトシは近くの木の幹にそっと寄りかかった。ピカチュウがサトシの膝上に飛びのる。顔をすこし上げると、夜空に満天の星がまたたいていた。
「今夜は星がきれいだなぁ」
「ぴーか
……
」
「明日はフーパにもよく見せてやりたいな。今日は疲れただろうし」
「ぴかぴか」
ふたりでひっそりと微笑み、すやすやと眠るフーパを見やる。
「おやすみ、フーパ」
フーパはすっかり夢のなかのようで、「うーん
……
どーなつ
……
」とつぶやいた。
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