たこてい
2023-05-11 01:37:00
4642文字
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そして、心底耳障りで不愉快な呼び出し音は止みました。

「赤い糸の解き方.exe」の光くん視点の話







「お前のハニーいるじゃん?メッセージの返信遅すぎねー?」
「ハニーはちょっとダサくない?」


 大学の食堂は昼間だからか混雑していて騒がしい。運良く取れた二席にオレは友人と並んで座っていた。
 机に肘をつきながら、彼は軽くため息をついてみせる。学科と、ゼミが一緒の友達。ということは当然彼女ともゼミが同じわけで。2人はわりと仲が良かったはずなんだけど、どうやらふざけているらしい。意味のない雑談だと判断して、視線を再び食べていたカレーに戻す。


「いやマジで。しかも未読無視多いし」
「文章打つの面倒くさがってるんだよ。急ぎの用なら電話してあげて」
「そういう話じゃないジャン。光くんったらもー」
「はいはい」


 既に空になった紙コップを弄りながら、彼はもう一度ため息をついた。確かにあの子はメッセージの返信が遅い。返してくれないこともある。けれど決して連絡が取れないわけではないし、日常生活には支障がない。だから、面倒くさがっているだけ。なに、用事があれば電話すればいいんだ。少なくともオレはあの子との交友関係において不便を感じたことはない。そう、何もおかしなことなど。


「この前飲み誘ったんだけどさー」
え」
「睨むな睨むな!いつものゼミ面子でだよ!つかお前はバイトだって断ってきたろーが!」
「あ、あの時のか。ごめん」
「うん。でまあ、当然返信はなかったんだけど」
「行きたくなかったんでしょ」
あの子さあ。携帯誰かに勝手に見られてんだろ」


 スプーンが、手元から滑り落ちた。鈍い金属音がするけれど、彼は話を止めてくれない。


「誰かが勝手に消してんだろメッセージ。男から送られたやつだけ」


 鼓動が早い。息ができない。気付きたくない。雑音が何もかも消えてしまったような気がした。


……何言ってるの」
「女子メンバーからも連絡してたんだけどさ。そっちには返事来てたぜ?それはおかしいじゃんか」
それは」
「同じ時間に送られたのに、俺のことは嫌いだから無視?お前の幼馴染は、そんな陰湿なことする子なの?」
「そんなわけないだろ!」
「じゃあ、嫉妬深い誰かさんがこっそりやってるとしか考えらんねえじゃん」
……


 「嫉妬深い誰かさん」に身体が反応した。いつかの冷たい目が、フラッシュバックして気持ちが悪くなる。

 あり得ない。あり得るはずがない。そう思うのに、嫌なことばかり浮かんでくる。そういえば、あの子、よくわからないから電子機器の設定は全部弟に頼んでるとか言ってなかったっけ。言われてみれば、あの子と上手く連絡が取れないの、男子ばっかりじゃないっけ。ぐるぐるぐるぐる、パズルの様に違和感と証拠が組み合わさる。

 友人はオレとしっかり目を合わせて、深く鋭く息を吸った。


「だからさあ……その、光。自首しな?」
「へ?」

え?何その顔。お前じゃねーの?」
「えっ!?!?なんでオレ!?」
「なーんだよ俺はてっきり!彼氏ヅラ激ヤバ幼馴染くんが罪を犯しているのかと!友達だから止めてやらねえとって心配してたってのに!」
「あっオレが疑われてたの!?」
「お前以外いねーよ!」
「嘘ぉ


 ほっ、と軽く息を吐いた。疑われていたのは不服だがそんなことあり得る訳ないんだ。何もかも勘違いで、オレのこれはただの妄想で、あの子は誰にも傷つけられてなんか、「じゃあなんで心当たりありそうなわけ?」……


「教えてくんねーの?」
「何もないよ」
「相談してもくれねーの?」
……何にも、ないから」
「まあお前やってるわけじゃないなら、俺は無関係だし知らねーけど」
うん」
「でも、そうやって都合の悪いこと見て見ぬ振りすんの、お前の悪いとこだかんな。光」


 そんなの、オレが一番わかってるよ。